イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

コンクリート・レボルティオ ~超人幻想~ THE LAST SONG:第15話『宇宙を臨むもの』感想


正義と自由と平和について仮想的思弁を巡らせるヒーローアクションアニメ、今週は壊れた歌と消えた愛のお話。
第一期では度々里見顧問の手先として超人課に立ちふさがったエンジェルスターズも、時代の流れの中で生き方を変え、爾郎と同じように故郷に背中を向けた。
愛した女を失った女はかつての友に追われつつ、遥かな天使の星を掴む力を求め、爾郎に襲いかかる。
手渡された天弓ナイトの仮面は、空疎な正義の象徴なのか、はたまた迷いの果てに見える一筋の光明なのか。
伏線も沢山解消され、超人課女子コンビの『今』もよく見える、面白いエピソードでした。

何度目家の繰り言になりますが、このアニメは登場人物と大事な何かをを共有しつつ、立場を違えた『シャドウ』の扱いに意識的、かつ効果的なアニメーションです。
今回メインを担当したアラクネは、己が信じたものを失って彷徨い、かつての仲間と対峙する立場が、爾郎にとても良く似ています。
しかし爾郎の行動理念が『正義』であるのに対し、アラクネは『自由』を求めて異星人連続殺人を敢行し、『正義なんてナンセンス』と言い放ちます。
シビアでニヒルな態度が目立つだけに、『天使の星』という頑是ない言葉が出てきた時の切なさが半端ないよね、アラクネさん。

そんな彼女の行動理念はおそらく『自由』ではなく、『愛』とその喪失なのでしょう。
これはクロードの超人論が取りこぼした大事なポイントであり、誰よりも大切な誰かの贖いのために超人で居続けるという個人的な選択は、彼の三択では語られなかった領域です。
女の子二人に追い掛け回されつつ、子供っぽいヒーロー幻想に人生を捧げている爾郎先輩と、職業的立場としても、社会通念としても認められなかった愛に殉じて、無軌道な殺戮を繰り返すアラクネは、かなり背中合わせのキャラクターだといえます。
むしろ恋心メインで動いている輝子&笑美のほうがその行動理念は近しいと言え、今回彼女たちが目立っていたのも、そこら辺に共通点が強くあるからでしょう。
勿論、爾郎無き超人課で時間を共有する内に、気づけばなかなか良いコンビになってる女達を描いておこう、という狙いもあるでしょうが。


似た者同士でありながら背中合わせのアラクネと爾郎は、しかしなかなか良い感じの別れ方をします。
自分の行動理念を『正義』と定めつつ、クロード(あれだけのことがあった後でも爾郎が『友達』と呼んでいるのが切ない)に問われた『正義/自由/平和』の三択に悩み続ける先輩は、自分に襲いかかるアラクネをけして否定しません。
フューマーの行き方を変える代償として死んでいった課長に『超人とは何であるか』という解いを託されたのもあって、二期の爾郎は一つの答えにしがみつかず、常に悩み続けながら行動する、バランスの良い人格を手に入れています。

悩むことで智慧を手に入れた爾郎の目からすれば、恋を失い、その空白を『フューマーの力を奪えば、恋人が待っている天使の星に戻れるから』というお伽話に託すしかないアラクネは、鋼鉄探偵と同じく『自分が守らなければならない超人』なのでしょう。
『会社に言われるままにやっていた』エンジェルスターズという偶像に、やり場のない喪失をぶつけるしかないアラクネの姿を見れば、彼女が『正義』をナンセンスと切り捨て、『自由』を求める気持ちが、けして真実のものでないことは見て取れます。
己を一つの形に確定させてしまったクロードよりも、おそらく心の底では何処にも行けないと知りつつ『天使の星』を求めるアラクネは、今の爾郎先輩に近い存在といえます。

里見の横槍(これに唯一事務所に残ったボーカルのジャッキーを使っている所が、最高に悪辣ですが)で水が入った時、爾郎は天弓ナイトの仮面を餞別として託します。
爾郎にとって天弓ナイトがどれだけ大きな存在かは、これまでの物語で幾度も語られています。
少年・人吉爾郎が正義に憧れるきっかけとなり、それに疑問を抱く原因ともなった仮面をアラクネに預けたのも、もはやバケツ代わりにしかならない空っぽの仮面が、迷える彼女が『内なる正義』を見つける助けになってくれればという、祈りに似た行為だったのではないか。
これまで爾郎先輩が見せてきたナイーブで優しい心根を考えると、そんな推測をしたくなります。

それは同時に、わざわざ万博会場に乗り込んでまで手に入れた『天弓ナイトの仮面』という偶像がなくても、爾郎はある程度『内なる正義』を既に獲得している、ということでもあります。
終盤で明かされた『超人・天弓ナイトは只の人間であった』という事実に動じていないところを見ても、爾郎の中には『超人とは何か』という問いに、答えらしきものが確立されつつあると感じます。
破壊的な能力でもなく、社会的に認められることでもなく、為すべきことを為す一つのあり方。
信じるものを失った爾郎が、迷いの果てに辿り着いた一つの答えが、今回アラクネに託されたのではないか。
そしてそれを受け取って、愛の喪失に苦しみ、偽りの『自由』を求めて迷う彼女の生き様に何か変化が起こるのではないか。
未来への希望を残した今回の別れ方は、己の『シャドウ』と戦うばかりだったこれまでの物語とはまた違う、希望に満ちた離別だったと思うわけです。

アラクネが潜伏宇宙人を殺していたのは、宇宙生命体フューマーを求めてのことでした。
『天使の星』に辿り着き、幸せだった時間を取り戻す『自由』をくれるはずのフューマーですが、爾郎の口から語られたのは『他者を殺し寄生することでしか存在できず、より安定した宿主を養殖するために超人行政を操る』卑近な神の姿でした。
アラクネは『自由』を求めると同時に、神の視点から下される絶対不可侵の『正義』もフューマーに求めていたようですが、人間をゾンビにして生き延びるしかない卑劣漢の『正義』が万能の処方箋になるわけありません。

それでもフューマーに縋りたかったアラクネの姿は、逆説的に彼女が失ってしまった恋の大きさをよく伝えてきます。
どんなに望んでも帰ってこない『天使の星』を、それが欺瞞だと分かっていても求めずにはいられないほどの、半身をもぎ取られた痛み。
その個人的で切実な動機は、やはりこれまで爾郎が対峙してきた超人たちとは、別の角度から物語を照らしているように思います。
そんな敵としてでも出会った新しい可能性を、これまでのようにどうしようもなく暴力的衝突で終わるのではなく、分かり合えないままに『天弓ナイトの仮面』というメッセージを託して別れることが出来たのは、僕には何かとても良いことのように思えたわけです。


ファニーが真実どんな死に様だったのかは、このエピソードでは細密には語られていません。
だからアラクネの喪失はあくまで周辺的な描写なのですが、ローズとクラウディアという仲間がグループを離れ彼女を守っている姿を見ても、色んな人に悲しまれる死だったのは間違いないところでしょう。
袂を分かちつつ愛憎の糸で繋がっている爾郎と超人課のように、これまで25話見てきたようなドラマが、エンジェルスターズにもまたあって、その結果としてお互いをかばい守る絆があるのではないか。
語られないが故に、彼女たちを取り巻く物語は想像力をかき立てます。

アラクネとファニーの恋は『現役アイドル』であり『女性同士』であるという、二重のタブーを侵すものでした。
彼女たちがホモ・セクシュアリティを背負っている理由は何なのかなぁと少し考えましたが、一つは超鈍感ながら一応ヘテロセクシュアリティの持ち主である爾郎と、恋中に発展させないためのストッパーではなかろうか。
仮面を託されたアラクネは恋仲になり得るヒロインというよりも、例えばクロードや鋼鉄探偵と言った『人吉爾郎のもう一つの可能性』であり、あくまで正義と愛の価値観で渡り合う立場に置いておきたかったのかなぁ、とか思います。

もう一つは、自分自身ももはやアウトサイダーである二期の爾郎にとって、恋のあり方は人間を区別する条件足り得ないところを見せたかったのかもしれません。
『超人とは何か』と考えることはつまり『人間とは何か』と考えることであり、安易な答えに飛びつかず悩みの中にいる爾郎は、結構広い視野と価値観を手に入れているように思うわけです。
そこら辺の器量を、ホモ・セクシュアリティに対し『まぁそんなこともあるよね。俺はそうじゃないけど、そうであるお前を尊重するよ』という態度を見せる爾郎を描くことで、はっきり見せたかったのかなぁと。
あとま、社会的な圧力をより強めることで、エンジェルスターズを襲った悲劇に説得力を出す意味もあるかな。
どっちにせよ、彼女たちのセクシュアリティをあんま玩具として飾り立てることなく、一つのあり方として切実に書いてくれたのは、個人的には有り難いことでした。

唯一芸能の現場に残り、里見の影響下にいつづけたジャッキーは、今でも現役でアイドルをし続けているようでした。
しかし能力を使ってアラクネを抹消する姿には生気がなく、『まーた里見顧問がなんか悪い子としてんのか』と疑わざるをえない。
『仮面』を託されたアラクネの行く末とともに、エンジェルスターズがどんな結末に辿り着くのかも気になるお話でした。
つーかよー、ローズとクラウディアがまじいい奴過ぎて、彼女らがどうなるのかちゃんと描いてくれんとワシは納得せんよ!


何かを失った男と女のお話しはこんな所ですが、そんな男に惚れちゃった女二人も今回は出番が多かったです。
『いつか輝子殺す!』と息巻いていた鬼笑美ですけども、気付かない内に爾郎ボーイは立派な青年になり、超人課は設立当初の姿ではなくなり、一期の『万能にして邪悪なる母』としての威光はだいぶ衰えている感じです。
ある意味で人間味が出て可愛くなったとも言えますが、今週も卑しく可愛い輝子ちゃんとの凸凹コンビはとても魅力的で、見てて楽しいです。
嫉妬を隠そうともしなくなった輝子も、キャラクター性に艶が出てきて、どんどん面白くなってる気がする。

あと久々の登場となったジュダスですが、超人闇医者として登場した時は『医療従事者か。立派だな』とか思ったのに、爾郎細胞でマッドな実験を繰り広げる怪しい側面を剥き出しにしてきやがった……。
ジュダスが何考えて人体実験やってるのかは今回では分からなかったので、今後のエピソードで明らかになるのが待ち遠しいです。
フューマーの狙いとか、爾郎の能力封印の謎とか、一気に解けたと思ったらまた謎増えるんだもんなぁ……面白いなぁこのアニメ。


と言うわけで、迷いつつ『正義』を求める青年と、痛みに耐えかねて『自由』を望んだ女とが、対立と希望を込めて交錯するお話でした。
爾郎が辿り着いた場所を見せる満足感と、アラクネの今後が見たくなる期待感、両方がブンブン唸りまくる、いい話だったなぁ……。
一期では導かれる立場が多かった爾郎先輩が、二期では導き守る側になってるという、役割変化の気持ちよさもあるよね。

託された『仮面』は、アラクネさんに何を与えるのか。
アラクネさんは『天使の星』を見つけて、愛する人を失った痛みに決着を付けられるのか。
今後が益々楽しみになる、前向きないいお話でした。
いやーおもしれぇなマジ。