イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ジョーカー・ゲーム:第3話『誤算』感想

D機関員の奇妙な日常を追いかけるスパイアクションアニメ、今週は占領下フランスを舞台にした情報限定知略戦。
……という割には、みんな大好き粉塵爆発が出てきたり、超スゴイ級の暗示がサラッと使いこなされたり、外傷による記憶喪失にも対応できるD機関式意識操作法が唸ったり、トンチキ要素も目白押しだった。
こんくらいハッタリ効いてる方が見てて楽しくはあるので、むしろ作品のリアリティラインが解って助かりますな。
荒唐無稽差のさじ加減を間違って本題をぶっ壊しているわけでもないし、面白い嘘の付き方だなぁと思いましたね。

今回の話しのコアは『誤算すらも計算に入れる超スパイすらも、負けると解っている戦争に突き進む時代の流れに対し何も出来ない』という皮肉です。
記憶喪失という不自由な状況を乗りこなし、裏をかいたりかかれたりというスパイアクションの興奮は実は前座であり、あんなに頑張って達成した任務がD機関設立の目的に何ら寄与しないという『誤算』と、それでもスパイ稼業を続けなければならないD機関員のニヒルな生き方自体が、今回見せたかったものかなぁ、と感じました。
D機関が冷静かつ的確に日本の敗北を予言していても、僕らが知っているように歴史は戦争に向かって突き進んでしまうわけで、超かっこいいスーパースパイ集団のように描かれつつ、D機関は実はその設立目的を達成できないことが約束されています。
今回の『目標は達成したけど、目的自体が消滅した』というニガめの終わり方は、ここら辺の立場を踏まえて選ばれた結末なのかなぁとか思いましたね。

今回のエピソードで『島野』は何かを得るわけでも、何かを失うわけでもなく、『誤算』も引っくるめて任務を完遂し、それが無駄になることも引っくるめて、情報戦の優秀な歯車というスタイルを貫く。
アラン達との出会いで彼が何らかの変化(もしくは成長)を果たしていれば、D機関を抜けスパイをやめるという選択肢もあるんでしょうが、彼にとってこれは日常の一幕であり、生き方を切り崩すほどショッキングな出来事でもない。
いろいろショッキングな事件は起きているのだけれども、全てを冷静に乗りこなして時代の潮目に流されていくスタイルそれ自体を描くのが、今回のお話のコアかなぁとも思いました。
第1エピソードはD機関紹介の意味もあって、あえて部外者である佐久間さんを主人公に選んでいたので、『スパイというスタイル』はあくまで外部的なものでした。
『スパイというスタイル』それ自体が主人公とも言えるこの話、気の利いた捻りを加えつつ『主役』の顔をしっかり見せたのは、なかなか上手い構成じゃないでしょうか。

時代の『誤算』に押し流されたまま己の生き様を変えないD機関員は、己が選びとった生き様に忠節を尽くす清々しさと、狂気的ともいえる愚直さを兼ね備えた、なかなか難しい存在です。
今回は『誤算』と心中するプロフェッショナルのお話だったわけですが、組織の設立目的(個人の自我を抹消し組織それ自体となった機関員にとって、それは自分自身の人生の目的でもある)を達成できない『誤算』に反逆するお話が、あるのかないのか。
もしくは、『人間の幸せ』とされるものに背中を向けた彼らが、しかし人間である以上どうしても付きまとう情とか、しがらみとか、過去とか、そういうものに背中を押されて生き様を変えるドラマがあるのか。
第2エピソードとして作品のオーソドックスを示したことで、変化球に対する期待も高まったと思います。
ここら辺は今後のエピソードに期待という感じですね……オムニバス形式だと、こういう変奏曲をスマートに見せられるのは強みだなぁ。


前景である記憶喪失状況の扱い方、そっから裏切り者をあぶり出すシーケンスも、いい具合に抑圧が効いていて、只のジャブではない魅力がありました。
第2エピソードでいきなり叙述トリックを仕掛けてくる辺り、IG作品らしい弄れ方であり、そのスクリューがとても気持ちいい。
ここら辺はディテールに凝りに凝ることで生まれるリアリティが大きく寄与していて、アランの道義の立て方がレジスタンスの背後組織である共産党のやり方そのまんまだったりとか、暗いことが予測される教会内部に備えプロのスパイが目慣らしをしている所とか、非常に細かった。
リベレーターの内部構造とか、腕力ではなく体重移動で投げる柔法とか、アクション面も地味で細かったなぁ。
台詞で説明しないので万人が気づくわけではない描写ですが、そこも怠けずちゃんとやってくれるのは安心できる描写ですね。

工作員のハードでソリッドなアイデンティティを見せることが目的な以上、感情的な起伏はなかなか生まれないわけですが、それではお話の熱が少し足りない。
記憶喪失とその回復という状況を話しの最初に置くことで、歯車のように変化のない心を持った『島野』に、擬似的に人間らしい感情とそれに伴うドラマを捏造しているのも、なかなか上手いところだと思いました。
鉄面皮のスーパースパイが表に立って、全ての状況をコントロールしながら冷静に進む話も面白いとは思いますが、こういう形で擬似的に熱を作り、それとの対比で『島野』本来の冷徹さを強調する見せ方も、また良いものだと感じます。


というわけで、外部視点でスパイ組織の形を浮かび上がらせる第1エピソードに続き、失った記憶と格闘する過程でスパイという生き方を内側から描く第2エピソードでした。
お話がどんなもので、何を視聴者に見せ、どんなことが普通で何が価値なのか。
フィクションがおしなべて造り物である以上、それらのサインは明確かつ的確に計画され、エピソードとしての面白さと熱を保って提示される方が、より良いと僕は考えます。
今回のお話しはエピソード単体としてみても面白かったし、二転三転する気持ちよさもあったし、見せたいものがハッキリしたお話でしたが、作品を構成する一ピースとして、必要な場所に必要なやり方でしっかりハマった気持ちよさが、非常に強い感じがします。

お話を楽しむことで、その物語がどんなものなのか、しっかり腑に落ちる。
一見当然で簡単なことのように見えて、その実労力と細やかな気配り、情熱と手練手管が必要とされる難事を、しっかりと果たしたいいエピソードだったと思います。
んーむ、よく出来てるし好きなアニメだなぁ、ジョーカー・ゲーム