イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

クロムクロ:第3話『城跡に時は還らず』感想

450年の時を越えたボーイミーツガールロボットアクションアニメ、今週は青馬剣之介魂の放浪。
携帯電話を『喋る箱』と言ってビビるコミカルなアクションをしつつも、生きる意味も戦う理由も奪われ、知るものとて一人もいない剣之介のシビアな状況を、一話かけて飲み込ませる回でした。
テンポよく状況を転がす中で、剣之介と触れ合う人たちの人柄もよく見えて来て、剣戟アクションも良し、見知らぬモノたちが繋がっていくドラマも良し。
相変わらずの安定感とテクニック、そしてキャラクターたちの織りなす感情の熱が同居している、良いアニメでした。

世界設定とキャラクターの大体の形を、『巨大ロボット富山に襲来』というアクションをゴロゴロ転がしながら見せたこれまでの話に比べて、今回のエピソードはややペースを落とした印象です。
その分剣之介の内面がよく掘り下げられ、彼の人間が見えてくるお話でもあります。
かつては戦争の機械であり権力の象徴でもあった富山城も、今は観光資源。
帰ってくることのない誰何の声を高らかに吠えるシーンは、コメディとして面白く、しかし同時に剣之介の孤独と混乱をしっかり見せる『面白くて、やがて哀しい』シーンだと言えます。
そういう気配をちゃんと感じ取って、由希奈がどうしたら良いのかわからない表情しているのは凄く良いですね。

脱走という派手な行動に繋がる剣之介の内面を、印象的に見せているおかげで、幾度も脱走を繰り返す剣之介を僕は『ワガママを振り回す身勝手な輩』とは感じない。
むしろ『状況の変化に戸惑い、自分の目で真実に納得したい可哀想な人』として、『コイツの抱えている厄介事を、俺に変わってどうにかしてやってくれ』と思える存在として、僕は受け取りました。
彼は現代という状況に放り出された一種の蛮人であり(そのギャップが、たまらない可笑しみにもなっているのですが)同時に守るべき者のために戦う、尊敬できる人物でもあるのだという認識が、画面からぐっと迫ってくるわけです。。
富山城前では一瞬で制圧されたのに、小春をいじめる(と勘違いした)兵士を倒すときは無双の力が出るところとかは、剣之介の根本を描写で説明しているシーンでした。
戦う理由があるととたんに強くなるのは、良いヒーローだ。

そんな英雄を迎い入れた現代人は、無人機相手には結構戦えるけど、鬼クラスの機体は剣之介とクロムクロに頼らないと勝てない、なかなか難しい状況に置かれています。
つまり時代のギャップを乗り越え、既に戦う理由を失ってしまった剣之介と心を通わせ、どうにかしてこの襲撃を自分の戦いとして受け止めてもらわなければいけない都合が、既に用意されています。
そんな物語的な理由だけではなく、『コイツと友達になりたいな』と視聴者に思わせるに足りる、真っ直ぐな描写が剣之介に多数あるのは、凄くいい事だと思います。
謝るべき時にはちゃんと謝るし、ちょっと強引だけど他人の話は聞くし、戦うべき時には誰かの為に立ち上がるし、俺この人好きだなぁホント……。

剣之介はすべての事情を一瞬で理解する天才でも、自分に関わり合いのない戦いに首を突っ込む聖人でもなく、只の人間です。
そんな彼の人間臭さが感情を持て余して暴走する今回はよく見えてくるわけですが、二回繰り返された『腹の虫が鳴る』という描写で、そこら辺を強調するのも良かった。
人質を取り立てこもっている時も、すべてを失ってしまった重たい状況でも、人間である以上腹は減るし、誰かと一緒にメシは食わないといけない。
そんな視聴者にも共通するシンプルな真理をコミカルに入れこむことで、剣之介を『楽しい隣人』として受け入れる素地をしっかり作る努力が、あのシーンからは感じられました。

このアニメのメシ描写は結構多めで、今回も由希奈達がパフェを食ったり、ドリンク飲んだりするシーンが随時挿入されてます。(むちむちガールな由希奈のくいもんが、他よりちょっとカロリー多めなのが細かい)
それは既に出来上がった温かい親愛の描写であり、『腹の虫が鳴』っている剣之介がそこに入っていくという前振りでもあります。
次回以降、和尚の元一つ屋根の下状態になるようですが、『同じ釜の飯を食う』中で剣之介と由希奈(に代表される現代社会)がじわじわと仲良くなっていく姿が想像できて、期待が高まります。
このアニメに出てくる人たち、みんな良い奴らだからな……早く仲良くなる姿が見たいね。

親しさのバロメーターとしてはハグもよく出てきて、抱きつき人間小春を筆頭に、由希奈と美夏ちゃんとか、ママンと小春とか、ギューギュー抱き合っていました。
お姉ちゃんにしてたハグを、剣之介が家に来た時に同じようにやることで、小春の中の好意が可視化されてるのはなかなか良かったですね。
剣之介と由希奈がハグする時が来るのかは分かりませんが、また別の形で親愛を示すことになんのかなぁ。
どっちにしても好感が抱ける主人公二人なので、小春を潤滑剤にして仲良くなっていってほしいものです。


高貴な蛮人・剣之介を迎い入れ得る現代人サイドは、色んな人が暴走する剣之介と触れ合い、少しだけ分かり合ったり、歩み寄ったりしてました。
前回までは交流の窓口がほぼ由希奈だけだったので、色んな連中とコミュニケーションする中で、色んな表情が見えるのがまず面白い。
そしてかなり荒ぶった行動を取る剣之介を自分たちの都合に押し込めるのではなく、なんとか対話が可能にならないか考える落ち着きと知恵が見えるのは、ありがたい限りです。
視聴者が『良い奴』と感じるキャラクターが蔑ろにされると、相当きついからな……ちゃんと話し聞いてくれるのは大事。

子供らしい素直さで剣之介と現代人サイドを繋いでいた小春は、今回のメインヒロインと言っていいでしょう。
ややこしい事情を背負わない『子供』という立場を最大限に利用して、視聴者が望むように『剣之介大好き人間一号』になってくれる小春は、いい具合に見ている側の欲望を映像にしてくれています。
同時に『子供』は守らなければいけない存在でもあって、彼女がピンチになることで剣之介の信念が見え、同じ志を持つ他のキャラクターも事件に首を突っ込める。
別々の立場にいるキャラクターたちを繋ぐジョイントして、凄く良い仕事をしていると思います。
細かい仕草がいちいちガチ子供っぽいのも素晴らしい……確実にメーターに『本物』がいる二の腕の描き方だな、ありゃ。

小春が潤滑剤だとすると、宗教者としての落ち着きで剣之介の混乱を受け止める和尚は、クッションといえます。
和尚が人物であるというだけではなく、450年前にも仏教は存在していたわけで、未知の世界の中での数少ない既知に対し、剣之介が警戒を解くロジックがしっかりあるのは巧いですね。
和尚が聞き役になることで剣之介の不安や混乱が視聴者(や他のキャラクター)に共有されるし、何より『状況の変化に戸惑い、自分の目で真実に納得したい可哀想な人』である剣之介に真摯に向かい合ってくれるのは、見ていて一番やってほしい行動でもあるわけです。
構えたミットにきっちりストライクを投げてくれるアニメ栄、見てて気持ちいいやな、やっぱ。

由希奈の保護者でもある和尚が剣之介を受け止めることで、素直に一つ屋根の下シチュエーションに持ち込めるのも大きいですね。
今回見せた混乱の大きさを見るだに、剣之介にはまだまだ保護者/理解者が必要だし、それには和尚が最適なので、結果として由希奈と同居になるわけです。
異文化コミュニケーションを面白くするためには、物理的距離を近くしてイベントの発生確率を上げ、キャラクターが絡む状況を整えるのが大事なわけですが、そこに持ち込む流れに無理がないのは非常に良いですね。

GAUS乗りの愉快な面々も、自分たちの責務故に剣之介と衝突しつつ、息のあったコンビネーションと想像以上の話のわかるっぷりを見せてくれました。
超口が悪いトムさんが思いの外良い人であり、かつ有能なパイロットでもある描写が多くて俺は嬉しい。
特殊部隊の描写もそうなんだけど、特別な存在である主人公を盛り上げるために一般人を下げるのではなく、当然あって然るべき有能さを描いた上で、主人公の唯一性をしっかり維持しているのは良いよなぁ、このアニメ。
今後も地球規模の危機を乗り越える仲間として、じわじわ仲良くなっていただきたいものだ。


異邦人である剣之介を向かい入れるのは、人格のあるキャラクターだけではなく、モノ言わぬはずの無生物もそうです。
さらわれた小春の居場所を突き止める鍵が、『携帯電話』という文明の利器であること。(富山城のシーンでは『訳のわからない箱』だった携帯が、ここでは問題を解決するキーアイテムになってる転換がすげー巧い)
現地民絶対攫う袋に押し込められた小春を脱出させる手助けが、折れた刀であること。
古代のアイテムと現代のアイテムは、ドラマの中で上手く相互に行き来して、今まさにキャラクターたちが成し遂げている交流を的確に演出していました。
『ウマ』と東北新幹線が並列して走るシーンは、古代のオーパーツと現代の技術の粋が並び立つ面白さがあると同時に、『ウマ』のスペックを無言で見せるいい演出だった。

剣之介が最終的に現在の状況を飲み込む理由になった岩の描写も、頭おかしいレベルの書き込みで表現された苔生す表面と、異常な鋭利さの切断面との対比が、良い説得力を生んでいました。
剣之介が何度も脱出した理由も『自分の目で真実を確かめ、納得したい』というものであり、あの大岩の異常な情景は、彼の混乱を鎮め状況を飲み込ませるパワーが、しっかりあったなぁ。
450年分の風説を経てなお、鏡みたいに綺麗な断面見せてたけど、クロムクロブレードはなんか特殊な攻撃手段なのかね。


と言うわけで、好青年を襲った過酷な運命が混乱をもたらし、優しい人々の助けでそれが少し収まるお話でした。
小春を目にした時の優しい表情とか、川を走る時の濡れ透け表現とか、剣之介に回す作画カロリー高いなぁ……。
主人公がどんなやつなのかしっかり見せることで、視聴者がそいつを好きになる心の動きが生まれ、それこそが作品に前のめりになる理由にもなるわけで、表現が細かいのはありがたいことだ。

あれよあれよというまに主人公とヒロインが同居することになりましたが、キャラクターの感情の流れがスムーズなのと、状況を無言で説明する描写の強さが相まって、不自然さはほぼありませんでした。
状況を丁寧に、手早く進めつつ、お話の中で生きる奴らがどんな価値観を持ち、何をどう感じるのかしっかり届ける手腕は、さすがとしか言いようがねぇ。
『コイツと友達になりたいな』と思える主人公が、現代社会にどう溶けこみ、人々とどう触れ合っていくのか。
さらに期待が高まる第3話でした。
んーむ、面白いッ!!