イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

機動戦士ガンダムUC RE:0096:第5話『激突・赤い彗星』感想

誰も彼もが仮面を被り己を演じる、宇宙世紀の哀しいオペラ、今週は交渉と戦闘と交渉。
ミネバを人質にした交渉は決裂し、シャアもどきとバナージ君のすげー作画の戦闘は、マリーダさんが乱入腹パンしてKO。
ヒロインみたいに拉致されるバナージくんを尻目に、悪落ちオーラが半端ないことになってるリディ少尉とミネバが交流シーンを演出し、今回は終了。
バナージくんが拉致られたことで、ミネバが『袖付き』にいた物語開始前とは立場が入れ替わった形になるか。

今回もいろいろ印象的でしたが、まずぐっと存在感を増したダグザさんについて。
この人思いの外理性的、かつ手段の正当性を重視する人のようで、ミネバを利用して窮地を乗り切る時も目配せで合図送ってくるし、いきなり乱入してきた『オードリーが好きすぎて頭がおかしい人』バナージくんの寝言も一応聞くし、『箱渡すのは良いけど、やばかったらどうすんねん』という至極真っ当なツッコミもするし、ガンダムの軍人とは思えないほど真っ当です。
富野ガンダムだったら確実にワンパン入れてんもんな、バナージ乱入。

バナージとユニコーンを時間稼ぎに使って窮地を脱するというアルベルトの策にしても、思いつかなかったというよりは民間人の子供を生け贄に捧げる行為に後ろめたさがあったみたいだし。
ここら辺は『僕が子供ならオードリーだってそうですよ!』と言われた時、目線を逸らしたブリッジクルーもそうだし、ユニコーンに載ってるのがバナージ君だと気付いたマリーダさんもそう。
結構な数の大人が『子供を生け贄にする』ことへの嫌悪感という、ガンダムシリーズではいくども繰り返され気づけば『お約束』として鈍麻してしまった感覚に、鋭いものを持っているようです。
子供のピュアネスに対して感受性を閉じない希望みたいのが、作品全体に漂ってる印象。

ここら辺の空気から異質で不気味なのがフル・フロンタルで、一生シャアのコピペしかしねーポーザーっぷり(シャアザクのキックを最新の作画で再現するオタクっぷりはナイスだ)なのに、強さは本物という描き方がなんだか怖い。
ミネバの交渉論の捌き方も理性的かつ合理的なんだけど、どうにも感情の色が薄いというか、ダグザさんが見せていた葛藤の温度を感じ取れなかったです。
『袖付き』の旗印足りえるミネバごとの撃沈を決意するにも、すげーサラッと処理してたしな……なんかこええよアイツ……。
色々あって捻じくれてしまった大人たちの心を、まつげ長い系男子であるバナージくんがノックしてもしもしするのが基本ストーリーになるなら、心を開かない最後の壁がフル・フロンタルになる、つうことかな。
少なくともダグザさんはチョロリそうなオーラムンムンなんだよなぁ……色々切り分けて考えつつ、理想も失ってない感じだし、第一攻略対象やな。(UCをバナージ主人公のギャルゲーとして見る遊び)


もう一人目立っていたのはリディ少尉で、隊長を生け贄に捧げてラスボスと因縁を深めたり、バナージ君のラブコールをミネバに伝えたり、そのミネバと話し合って器量に飲み込まれかけたり、色々見せ場がありました。
バナージへのアシスト具合や戦闘機動を見るだに、パイロットとしての腕は優れている感じだなぁ……NTっぽい描写もあったし。
しかし性格面ではまだまだ若々しいというか、バナージみたいに吹っ切れた真っ直ぐさを持っているわけでもなし、ミネバの圧倒的な覚悟を受け止める器量があるわけでもなし、結構ふらふらした感じだ。
ここら辺の『視線を受け止めきれない』『視線で分かり合う』演出は、今回多用されてましたね。

『俺にとってはオードリーだよ!』と、私人オードリー・バーンを無条件で肯定するバナージくんに比べ、『アンタがジオンのお姫様だって納得させてくれ!』とせがむリディ少尉は、公人としてのミネバと私人としてのオードリー、どちらとして目の前の少女を扱えば良いのか決めかねている感じです。
対峙するミネバ=オードリーが、バナージ君以外の前で公人ミネバの仮面を絶対外さないのも厄介なのですが、的確に認識を切り分けて状況を良くしていこうとするダグザさんに比べると、未熟さが目立つ。
一度公人として振る舞うことを決めると全くぶれないミネバの強さは、腹の決まった視線の強さと、藤村さんの演技の切り替えでしっかり表現されてて、彼女の器量の大きさ、それに飲まれてしまうリディの人間らしさをしっかり演出していたと思います。

リディ少尉がどういう家柄なのかはわからないけど、公人としてある程度『政治から逃げることが出来ない』立場であり、そういう意味ではビスト家から遠く生きてきたバナージよりもミネバに近い位置にいそう。
しかし生まれた時から政治の道具として存在し、個人の意志が沢山の悲劇を生みかねない立場に追い込まれていたミネバとは、根本的な鍛え方と覚悟が違う印象も受けます。
そういう公人の辛さを少しでも分かってくれると思ったのか、『あなたの家は?』と聞いてくるミネバの答えをはぐらかし、視線をそらしてしまう逃げの姿勢も、しっかり描かれてたなぁ。

その上で、私人としてのオードリーにも強く惹かれ、自分の個人的な感情を吐露したり、バナージから受け取った真心を伝えてしまったりもしている。
ややこしい政治的事情を全て無視し、『大好きなオードリーを守る』という気持ち一本でその目的は達成したバナージくんに比べると、やっぱリディ少尉はフラフラしてるなぁ。
ここら辺の心情は部屋のライティングとリディ少尉の動きで凄く巧く表現されていて、ベッドに腰掛けて微動だにしないミネバの周りを、出口に行きかけたりミネバに近づいたり、リディは不安定にさまよいながら話しているわけです。
そして、リディを気圧すミネバ・ザビの強気な仮面、命令することになれた政治的な言葉遣いは、おそらくミネバ・ザビ本人にとっては(バナージくんが『そんな話し方をしちゃダメだよ。人も自分も追い詰める』と、早速真実に辿り着いているように)あまり良くないのでしょうね。

兵士としての顔。
私人としての顔。
『家』のプレッシャーに押し潰される子供の顔。
色んな顔をするリディの背後に写っているものとか、基本的にミネバ・ザビの仮面を外さないオードリーとか、シーンに込められているものを映像で描写し、意味の圧縮率を上げる優れた会話シーンだったと思います。
『袖付き』の不自然な元気さの理由とか、カーディアスの行動の理由とか、上手く台詞の合間に説明もしてたなぁ。


ブレッブレなリディ少尉や真実から目を背ける大人に対し、あくまでまっすぐゴー! なバナージ君。
まっすぐ踏み込みすぎてマリーダさんに腹パン食らって拉致られてましたが、まぁ敵の内情を早めに知っておかなきゃいけないから、ある程度はね?
実際、フル・フロンタルの空疎さの奥になにかがあるのか、それともなにもないのかは視聴者としても確認しておきたいところで、バナージくんが聞き役になってくれるのはありがたいところだ。

『都合よく子供って言葉を使い分けるな』『箱で戦争起きるならそんなの渡しちまえ』というバナージ君の意見は正論なんですが、その正論が通らない極限状況を叩きつけ、強圧的な暴力で寝言を封じてくるのが富野ガンダムの伝統でもあります。
正しいことや心からの願いがどうしても叶わない、二律背反を常に強要される戦場という場所はUCでも共通ですが、しかしジオンVS連邦という公にはほぼ決着がついてしまっている。
バナージ君の正論から大人が目を逸らしつつも、グーパンで黙らせに来ないというUC独特の対応は、富野ではないスタッフが作りたい物語の違いであると同時に、もはや戦争が遠い時代に置かれたUCの空気も関係してるのかなぁ、と思った。
お話始まったこの段階ですでに、大人が理性的で優しいよね……まぁクソみたいな沸騰ジジイにボコボコ粛清される展開も、ストレス溜ってしょうがないと思うけど。

ダグザさんやオードリーといった、聞く気があるキャラクターたちにバナージ君の真っ直ぐさはよく効く毒ですが、話が通じない相手ってのもいるもんで。
現状敵対組織である『袖付き』の連中に対し、長いまつげから発射される純情ビームがどれだけ刺さるかってのは今後の見どころでしょうね……なんとなく、フル・フロンタルはカァンて弾きそうな気がする。
そしてコロニー潜入の時に人命気にしてて、姫様が好きすぎて頭がおかしいオーラが出てて、バナージくんをMS腹パンキャンセル姫抱っこしたマリーダさんには、確実に刺さるんだろうな……あの人苦労人と実はいい人オーラが出過ぎてて、すんごい哀しい死に方しそうで今からヤダ……強化人間だし。


そんなわけで、いろんな人のいろんな表情が見えてくる第5話でした。
MS戦こんだけやりつつ、キャラクターの交流を沢山埋め込み、その心情や背景を台詞ではなく絵で見せてくれるドラマの面白さは、やっぱスゲェな。
掌中の鳥となったバナージくんが、持ち前の真っ直ぐ力で『袖付き』の拗らせた大人をどんだけチョロらせてくれるのか。
ミネバとオードリーの間で揺れる少女と、なんかトンデモナイことやらかしそうなリディ少尉の関係はどうなるのか。
これから先、沢山の人にとっては既知の物語であり、僕にとっては未だ知らぬストーリーがどう展開するのか。
とても楽しみであります。