イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

クロムクロ:第5話『学び舎に来た男』感想

最高速度に仕上げた『ベタ』で視聴者のドタマをぶちぬくアニメ、今週は気になるアイツが転校生!? なお話。
『タイムスリップしたサムライにやって欲しいことはだいたいやってくれる男』『信頼できる男』こと剣之介が、由希奈にとっての『日常』である学校にやってきて右往左往するエピソードでした。
これまでのお話で見せた日常描写のきめ細かさを活かして、異物ながらあっという間に学校に馴染む剣之介の可愛らしさと、異物を積極的に受け入れる日常の度量が気持ちよく描かれていました。
そしてもう一つの『日常』になってしまった、オービタル鬼ヶ島からの襲撃に対応する組織的な動きもワンダバ感満載で描かれ、来週の戦闘に向けてテンションマックス。
ゆったりとしたお話かと思いきや、『由希奈はなぜ戦うのか』という大きな疑問もしっかり突き付け、このアニメらしい毛並みの良さを痛感できました。

このアニメのリッチな筆運びは出だしから全開で、丁寧に朝食を準備し『日常』を共有する擬似家族の様子が、妙に下方向から攻めるカメラでじっくり切り取られていました。
包丁を使ってじっくり食事の準備をする余裕はつまり、鬼たちの襲撃がまだ『日常』を破壊していないというバロメーターでもあり、それを共有する剣之介と家族の余裕の表れでもある。
今後もし鬼の襲撃が激しさを増し、『日常』が壊された時はまず食事シーンが殺風景になるんじゃないかなぁなどと思わせる、気合の入ったメシ描写でした。
キッチリとたたまれた布団を映すことで、時々荒ぶりつつも基本は落ち着いて優しい剣之介の気性が描写されてたり、このアニメの『衣食住』を大事にする演出は好きだなぁ、僕は。


その後は回想したり、サムライIN学園だったり。
これまでのお話で十分以上に活躍しているので、パイロットの皆さんとの面通しが五話目になっても、急な感じも遅い感じもないってのが良い。
ボーデンさんの『口は悪ぶっているが相当に良い奴』オーラとか、セバスチャンさんの強者っぷりとか、短い時間なのにキャラの粒が立って見えるのは、描写が伴っているからかなぁ。
剣之介をセバスチャンに抑えこませることで、人間による白兵戦でも剣之介を無敵にさせず、能力の上限を見せるカットがちゃんとあったのは、結構好きだな。

学校ではドサドサっとクラスメイトが紹介されつつ、剣之介の悪戦苦闘が描写されていました。
剣之介は異邦人として一人流されつつ、必死に現代を学習し歩み寄る姿勢を見せてくれるのが魅力なんですが、今回は『電子辞書』というフェティッシュで彼の心根が具体化されていて、その魅力が伝わりやすかったと思います。
色々ズレた所はありつつも、過去の時代にこだわり過ぎるのではなく、今周囲を取り巻く時代と人を受け入れ生きていこうとするバイタリティ。
450年の断絶はどうしても齟齬を生むわけですが、小気味良いコメディとして仕上げることで過剰にシリアスに染め過ぎることなく、むしろ『そういう笑いが欲しかった……』としみじみ思える作りになってました。
『ケンちゃん』に興味津々ながらも、異物として排除せず異邦人として楽しく受け入れてくれる学校の暖かさが、剣之介が好きな僕としては極めてありがたい。
……この流れをスムーズにするために、回想で『あだ名=社会的に承認された証』つけるシーンを済ませる手際の良さは、やっぱ凄いな。


学園パートでは『由希奈>剣之介』というパワーバランスが色濃く出ていて、辞書の使い方を教えたり、電撃首輪で文字通り手綱を握ったり、小気味良い笑いといっしょに剣之介が受け入れられる様子を描いていました。
一話の中に鬼の襲撃と戦闘準備を入れこむことで、このパワーバランスが反転し『剣之介>由希奈』となる瞬間をちゃんと描写できているのは、二人の主人公が主役となる二つの『日常』がこのアニメにはあるのだと気付かされる思いで、とても良かったです。
学校のシーンでは不慣れなコメディアンを演じていた剣之介が、戦の気配が漂ってきた瞬間、『なぜ戦うのか』に迷う由希奈に『お前が必要だ』とまっすぐ宣言する。
日常で戸惑う剣之介を由希奈が導き、戦いに惑う由希奈は剣之介が支えるという相補的な関係を描くことで、二人の相棒としての繋がりも強く認識できるし、主人公が二人いる意味もより濃く見える気がします。
お互い得手不得手はあれど、どちらが上ということもなく相補う関係をしっかり描けているのは、キャラクターの公平感が強く出ていて素晴らしい。

『なぜ戦うのか』という問いはソフィー経由で剣之介にも投げかけられているんですが、前にも言ったとおり『私怨』という剣之介の軸は揺るがない。
このアニメは楽しいシーンと同時に、姫を奪われ時間を漂流した悲惨さもちゃんと描いているので、この健之介のモティベーションには一定の納得がいきます。
逆に何の目的もなく巻き込まれ、ナノマシン適応による唯一性を押し付けられた由希奈にとって、『なぜ戦うのか』という問いは非常に大きな悩みです。
自分が何者であるのかはっきりしたビジョンを持たず、『火星に行きたい』などというフワッとした進路を抱えていた彼女は、切羽詰まった戦いに身をおいてもまだ、戦う理由が見えない。
だからこそ、『お前が必要だ』という剣之介の言葉と、剣之介と一緒にクロムクロで戦うことは、由希奈にとって大事なんだろうな。

このアニメが巨大ロボットによる戦争を描く以上『なぜ戦うのか』という問いはテーマそのものへの大事な質問だし、既にある程度の答えを出し戦いに備えている侍ではなく、現代(に似た)社会でふわっと生きている女子高生にそれを悩ませるのは自然な流れです。
ここら辺は、ジャンルや設定が必然的に要求する問いを、主人公二人で分割している感じがしますね。
『戦場』に適応している主人公が剣之介で、『学校』に適応している主人公が由希奈であり、お互い相手の苦手な部分を補い合うことで交流が生まれているというか。
『戦場』を一方的に『非日常』にはせず、剣之介にとってはそれこそ『日常』なのだという捻れた描き方が出来ているのも、お話に奥行きが生まれて好きなところです。
今後由希奈は『戦場』という剣之介の『日常』を、剣之介は『学校』という由希奈の『日常』を、それぞれより知り、解っていくのかなぁと思うと、期待がメリメリ高まるな。


僕がこのアニメを好きな理由はたっぷりあるんですが、選ばれた主人公以外の存在を大事にして、けして無能に描かないというものがあります。
今回で言えばセバスチャンの組手上手もそうですし、世界を揺るがせた襲撃に対し国連がしっかり準備し、敵の初動を見逃さず対応を間に合わせている描写がそうです。
主人公たちの特別性を描くには周りを間抜けにするのが楽だとは思うのですが、それは同時に選ばれなかった存在を貶め、物語全体に泥を跳ねる危険な作劇でもあります。
人類に手の届く精一杯で足掻きつつ、主人公の乗機たるクロムクロ以外には、鬼に有効な手立てがないというバランスは、主人公の唯一性と他者の尊厳を上手く両立させています。

今回もとにかく重たいクロムクロ移送に手間取りつつ、二度目の襲来を仕掛けてきた鬼になんとか対応し、状況を良くしていこうとする凡人たちの苦闘に尺が取られていました。
『全長20Mの重量物体を動かすときは、一体どうなるのか』という思考実験が絵になるスペクタクルも良いのですが、異常な状況でも一つづつ手順を積み重ね、やれる範囲で必死にやれる人々の顔を画面外に追いやらず描いてくれるのは、色んな物を大事にしてくれているようで嬉しい。
その視点は剣之介や由希奈を取り巻く、守るべき『日常』に繋がっている視点でもあって、なんでもない人達を大事にすればこそ、顔があり対話できる周囲の『日常』を守る意志にも説得力が出てくると思うわけです。
こういう部分でも、この話の『戦場』は『日常』と繋げっていて、二つの『日常』の間を世界と主人公が行ったり来たりするお話なんだな、と思います。

その運動は何に繋がっているかといえば、やはり非常にベーシックな成長の物語でして、『火星に行きたい』と思うほどに自分が何者であるか把握していない由希奈の不安は、程度の差はあれ視聴者も抱える感覚です。
『戦う意味』を問われ、『お前が必要だ』と示された彼女が、実際に剣を交える戦場でどういう発見をして、どこにたどり着くのか、もしくは何に迷うのか。
そこにあるのはおそらくいい塩梅のロボット剣戟であると同時に、とても普遍的な魂の旅路であり、オーソドックスな成長の物語なんじゃないかな、と思います。
そしてその成長は、由希奈だけではなく彼女の隣で『450年後の日常』に戸惑う剣之介にも、必ず良い影響をおよぼすはずです。
そういう期待と確信を抱けるくらい、このアニメは画面に映すものの意味を考えて作ってくれてるし、埋め込んだものを視聴者が発掘することに成功もしていると、僕は現状思います。
良いアニメだなぁホント。


というわけで、『学校』という『日常』をコメディタッチに描きつつ、突如やってきた『戦場』という『もう一つの日常』への準備を切り取るエピソードでした。
対立するように思える二つに実はちゃんと接点があって、お互い影響を及ぼし合いながらより良い形に変わっていくという、物語的止揚
非常に根本的でベーシックな、それ故とても大事な運動がこのアニメに息づいていることを、しっかり確認できる回だったと思います。

次回は第2話以来のロボット戦闘っぽいですが、前回見せた殺陣の組み立ての巧みさがまた見れるかと思うと、心拍数マジアガるわね。
黄色い鬼も腕をもぎ取られ、リベンジに燃えているとは思いますが……交流なったGAUSパイロット達との連携も含めて、来週マジ楽しみ。
『日常』の描写が巧いからこそ、『もう一つの日常』の特異性と類似点がより目立つからなぁ……バランスが良いだけではなく、それぞれの強みを理解し最大限発揮してるのが素晴らしい。
富山決戦、期待大であります。