イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

甲鉄城のカバネリ:第4話『流る血潮』感想

親方! 空からクソみたいな鋼鉄ゾンビが!! なアニメーション、今週は血みどろ大戦争。
武術をラーニングした強力なカバネ『ワザトリ』を筆頭に、列車に乗り込んだカバネ共がやりたい放題し放題する中、菖蒲様は弓で奮戦し来栖は剣術の冴えを見せ、社会的追放を食らったカバネリ達もなんとか追いつこうともがく。
極限状態ゆえの恐慌と、それを乗り越えて立場を作っていく者達の足掻きが同時に描かれた、第一部完ッ! ッて感じのエピソードでした。
……いやー、イカす止め絵で綺麗に終わった感じだけど、結構死んだなぁ……。

このアニメが血みどろの肉体的闘争と並列して、社会的承認を巡る戦いなんじゃないかというのは以前感想に書きましたが、閉鎖された最後尾車両から『みんな』のところに合流しようとする今回は、その動きがより分かりやすくなったかのように思います。
カバネリとその同調者を押し込めたボイラー車両はいわば一つの社会的階層であり、隔離された非差別集団として連結を切り離され、『みんな』に置いていかれようとする。
ワザトリの襲来という火急の危機を前にして、二人のカバネリは壁をぶち壊し、命の危険があるトンネルを抜けて『みんな』が戦っている場所に合流し、危機の中で有用性を発揮することで社会的に承認される。
この過程は最高にイカす作画で描かれたアクションであると同時に、鉄と暴力で隔てられた社会的階層を被差別者が乗り越えていく、社会的闘争でもあったのかなぁと今回思いました。

ボイラー車両という『疾走する社会構造』の最下層は同時に、カバネリという被差別民に心を寄せる仲間の共同体でもあります。
それが社会のはみ出し同士の連帯でも、生駒と無名、生駒と友人たちにはしっかり繋がりがあり、彼らは孤独ではない。
まだ色々問題はありそうですが、今回の試練をくぐり抜けたことでカバネリが立場を得たことを考えると、今回はボイラー車両での繋がりが甲鉄城全体にで伝播した(もしくは、伝播する契機があることを確認した)回だったのでしょう。
それは死の恐怖とパニックを乗り越えた先にある希望であり、生駒が何度も求めている『ただ生きるだけの震える死人』を超えた、人間への可能性なんでしょうね。

今回も逞生が生駒にメガネを掛けるシーンがありましたが、リフレインされるこの仕草はやっぱ、眼鏡という理性の象徴を生駒に取り戻させ、個人的な承認を与える儀礼として大事なんだろうなぁと思います。
今回は鰍ちゃんと無名ちゃんの間にもなんかいい感じの交流が起きてて、やっぱゼロから関係が作られていくのはええな! という気持ちになった。
ここら辺は、前回妊婦さんと掛け合いをして、鰍ちゃんのキャラを深めていればこその楽しみだね。
……でも鰍ちゃん、無名ちゃんに迫られた時なんでエロい表情してたの……『吸血は性行為のメタファー』っていうヴィクトリアン・ヴァンパイア・ノベルの基本文法をしっかり抑えた反応ってことなの……?

生駒は人間時代からずっと社会的承認を求めていたので、血みどろになって『みんな』のもとにたどり着くモチベーションが分かりやすいですが、超然とした無名ちゃんの戦う意味とは何なのか。
それは未だに明言されていませんが、実地で有用性を示したことと、トップに返り咲いた菖蒲様が血を用いた社会契約によって二人の立場を定義したことで、カバネリを受け入れる素地は出来てきたと思います。
零れた血を拭いながら死者に一礼を尽くす無名を見て、子供が言葉を失うシーンは、動物的恐怖をなんとか乗り越え、カバネリという新しい存在を社会の中に定位する瞬間なわけです。
ジト目になったり他人を頼ったり、段々と社会的動物らしい弱さが見えてきた無名ちゃんが、一体甲鉄城という社会をどう捉えているかは、来週見えるのかなぁ……。

元々ゾンビものは文明批判や社会考察と相性のいいジャンルですが、甲鉄城という閉鎖空間を舞台にすることで、そこら辺の構図はより見えやすくなっているように思います。
まぁあんまり大きいことを狙いすぎると、キャラクター一人の人生からテーマがはみ出して上滑りしたりもしますが、そこら辺はカバネという暴力的圧力をしっかり描写することで状況の圧力を高め、切迫感を出す作りが現状効いている気がします。
このアニメの舞台に『疾走する社会構造』を読み取るのはあくまで僕個人の嗜好なんで、製作者サイドの狙いは別にあるのかもしれませんけどね。
ただまぁ、個人的にはただのゾンビパニック・ロードムービーを超えた大きなものが、巧く覆い焼きされているアニメだと現状感じていますし、それは中々に面白い、読むだけの意味合いを持つ構造だとも思う。
今回ワザトリ殺しという成果を持って、カバネリたちはいわば社会と『休戦』したわけですが、そこから先の風景がどういうものなのか、目が離せないところですね。


アバンで己の特権を約束するレガリアを手渡した菖蒲様ですが、彼女も全血みどろの現場で実力を証明し、支配者としての証を打ち立てていました。
超イカす蒸気弓で戦えるところをしっかり見せたり、覚悟決めまくりのリストカットで主人公の窮地を救ったり、側女には歳相応の弱さを見せたり、今回の菖蒲様描写は全体的にリキ入っていて、ただ状況に流されるヒロインではない魅力に満ちていた。
紫頭巾の一党が今回だけで大人しくなるとも思えませんが、少なくとも欲望まみれの陰謀劇に立ち向かい、生存のために有効な手段を示す能力は、ちゃんと証明できたと思います。

前回その実力の片鱗を見せていた来栖も、サムライソードを片手に大暴れし、やるだけやったら『やっぱ蒸気筒じゃなきゃ、カバネの心臓抜けねぇわ!』と身を持って示して、生駒の出番を作るナイスムーブ。
長引かないと、生駒と菖蒲様両方の成長を促す『血の契約』イベントも発生しないから、あそこで殴りつけるのはいい動きだ。
しかし今回の来栖は虚実交えた良い殺陣してまして、『鍛え上げた侍って、ああいう動きできんのね……』って感じだ。
普通の刀のもろさを確認したのも、OPで持っているカバネ刀でパワーアップする前振なんでしょうか。
前回のヒキからどうすんのか気になってましたが、来栖の横殴りで水入りでしたね……失血状態が
話のわかる赤いサムライさんと違って、来栖はまだまだ気を許していない感じがあるので、今後ドラマが発展しそうなキャラです。

菖蒲様の頼れるシューターっぷりや、来栖のデキる男っぷりを見せるだけではなく、生駒と無名の関係も今回は戦闘を通じて描写されていました。
無名ちゃんのスパルタ特訓で戦闘力を上げた生駒くんと、活動限界を迎え無力な自分を生駒に預ける無名ちゃんの関係は、中々良い師弟関係だと思います。
強敵ワザトリを仕留めるのが、自分が実験台になって学び取った無名の技術だってのも、前回から引き継いだ描写を上手く活かしていて、中々好きな決着だった。
カバネ襲来というハード・コアな圧力を跳ね返すことで、キャラクターたちの生き方がギラギラと輝き、視聴者が彼らを好きになる大事な手がかりとして機能してるのは、良いアクションの使い方だと思います。
単純にハッタリ効いててすげーしな……やっぱ無名ちゃんのスタイリッシュアクションが、僕は好きだな。

他に気になった描写は、『模倣(ミメーシス)』という、コミュニケーションと文化の基礎になる行動を、カバネが取っていたシーンですね。
『猿真似』という言葉がネガティブな意味合いを持つことから考えても、模倣さえすれば即座に対等に付き合えるってわけじゃないし、ゾンビや吸血鬼がおぞましく見難いのはどこか人間に似た要素を持っているからでもあるんですが、何かの伏線のようにも感じる。
第2話で首を投げ捨てた無名ちゃんに怒る(ように見える)反応をしてたところといい、カバネにはカバネなりの価値観や知性があんのかなぁ……あってもあいつらのコミュニケーション手段、現状血みどろしかないから、関係も殺すか殺されるかしかないけどさ。
カバネが見せる模倣の描写が『歪んだ人間の似姿を強調することで、セイリテキケンオカンと恐怖を増幅するというホラー的スパイスなのか、ストーリー上意味を持ってくるかは、まだまだわかりませんけども。


と言うわけで、半死人も人間も一丸となって、狂い咲く人間の証明を鋼で打ち立てるお話でした。
増幅されてた社会不安も荒療治で一応落ち着いたけど、今後またぶり返すのか、はたまた今回で根治したのか。
甲鉄城の厳しく長い旅路はまだまだ続くわけで、キャラクターたちがどう交流し、変化するかも含めて、色々楽しみに来週を待ちましょう。