イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

うしおととら:第32話『母』感想

太陽のごとく苛烈で温かい少年の激情が全てを変えていく物語、今週は母子の対面と白面開放。
これまで健気に戦い続けてきた潮少年が、万感の思いを込めて母・須磨子と顔を合わせ、その外側では事態がどんどん激しい方向に走っていくお話でした。
須磨子の上に降り積もり、潮の恨み言を押さえつける孤独な年月が、埃という形でしっかり視覚化されていたのはなかなか良かったなぁ……。

潮の『母恋し』の気持ちはこれまでも描写されてきたので、今回優しいオジサンたちの助けを借りて無事合流できたのはとても良いことと……と、単純に処理できないのがうしとら。
潮が温かい安らぎを求める気持ちはあまりにも大きくて、彼は母と対面した驚愕に、白面の脅威と戦うよすがである獣の槍を取り落とし、迫ってくる自衛隊のことも忘れてしまいます。
今回潮は戦士の証を打ち捨てて、母に出会いたかった健気な中学生に戻ってしまっており、それはこの危機的状況では致命的な油断ではある。
しかし同時に、彼は体に傷を受ける生身の人間(噛み締めた唇から血を流した須磨子と、同等の身体性を親子が共有しているのは面白いところだ)であり、思い出を奪われ辛い戦いを繰り返して、ようやくここまで辿り着いたただの中学生でもある。

これまで潮は『人間』と『超人』のバランスを上手く取ってきたのですが、今回任務を忘れ母との時間を選択したことで、かなり『人間』に傾いているわけです。
それは無理らしからぬことではあるのだけれども、彼が人間を超える存在として与えた影響は、当然のことながらあまりにも大きい。
今まさに、東西妖怪の内ゲバとか、白面の陰謀に踊らされた自衛隊の攻撃という、『超人の不在』が引き起こした惨事が連発する中で、潮が『人間』に戻ってしまうのは、ただただ温かい光景と受け入れるにはあまりにも危うい。

この危うさは母親である須磨子にも共通していて、降り積もる埃を気にも留めない居姿は、彼女が墨跡と同じように感情を封じ込めた存在で在り続けた事実を、視覚的に示しています。
押しとどめていた情は『体を清める』という、潮の身体的接触で取り戻され、彼女もまた親子の温かい時間に為すべきことを忘れてしまう。
家庭的エゴイズムの発露と切り捨てるには、あまりにも温かいその光景を苦々しく思わなければいけない、幾重にも捻れた複雑な意味合いが、今回の親子邂逅には巧く漂っていたと思います。
願わくば、あの誇り高く優しい親子が人間の情に包まれて生きる瞬間が来て欲しいわけだけど、それは今ではないわけです。
これまで一致していた『やりたいこと』と『為すべきこと』が乖離し、白面は復活してしまったわけですが、矛盾する『超人』と『人間』をこのアニメはどう表現するのか。
来週ホント楽しみだなぁ……どういう決断しようが、潮はこれまでもこれからも頑張ってきたので、応援したいけど。


結界に守られた親子の対面の外側では、なかなか激しい状況が展開されており、妖怪たちは内ゲバ自衛隊は魚雷を撃っていた。
東西妖怪の主張が漫画と真逆になっているのは、常に尺の都合と戦っているこのアニメらしい改変でしたね……たしかに、直接会話するシーンが描写されてた東サイドが説得を試みたほうが、アニメの構成だと収まりは良いな。
自衛隊も軍人らしい正義感と庇護の誇りで行動した結果なんだけど、土台に白面の謀略があるので最悪の結果になってしまうというね。
彼らの行動すべてが潮の記憶があれば押しとどめられたというのは、主人公が主人公である理由をしっかり積み上げ、それを最大の効果で奪い去る作劇の見事な成果であり、良い展開だなぁと思う。

アニメうしとら名物の『藤田顔完全再現』が良く効いて、白面復活はなかなか恐ろしいシーンに仕上がっていました。
潜水艦が宙を舞い、巨大な怪物が雀刺しにされる異常事態が、いい塩梅に白面の巨大さを強調していて、スペクタクルと絶望感があった……やっぱBOSSはデカイほうが良いな、ハッタリ効くから。
踊りに踊らされた結果最悪の結論に至ったわけだけど、こっから更に追い込み追い込み、逆転のカタルシスを高めていくからなぁ……その助走になる今回に勢いがあったのは、とても良い予兆だと思う。

絶望の中にも光はあって、ウンディーネを操縦する縁もゆかりもないオジサンたちは、人間として『為すべきこと』を直感的に把握し、それに背中を向けない誇りも持っていました。
『理由もなく真実を見抜き、信じて行動する』という美徳は、実は主人公潮がこれまでやってきたことでもあって、善因善果がこの状況下でも生きているのは、嫌な絶望感だけを感じなくてすむのでありがたい。
母に傷を説明する時、バケモノとか変わってからの傷もそれ以前の傷も一緒くたに説明する潮を見ると、彼は槍と出会ってからの『非日常』での出会いも、自分の人生の一部として真っ直ぐ受け止めているのだと再確認させられる。
そしてそのような裏表のない態度こそが、見ず知らずのオジサンたちの心に突き刺さり、献身的な行動へと導いているのだろう。
その先にある結末に危うさがしっかりあるのも含めて、やっぱうしとらのモノの見方はポジティブでありながら現実的だなぁ……。

そんなわけで、潮が大きな目的を一つ達成しつつ、防ぎたかった最悪の事態が実現してしまう回でした。
母と出会ったことで戦士から少年へと表情を変えてしまった潮は、この異常事態にどう立ち向かうのか。
遂にEDテロップにCVが乗った白面の大暴れは、どんな感じに映像されるのか。
クライマックスが途切れず加速し続けるうしとら三期、来週も目が離せませんね。