イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

甲鉄城のカバネリ:第5話『逃げられぬ闇』感想

気持ちの良い第一部完ッ!! を決めたスチームパンク・ゾンビアクション、第2部ド頭は可愛い可愛い12歳。の揺れる気持ち。
ずっとカバネ殺しのカバネリとして生きてきて優しくされることに慣れていない無名ちゃんが、ツンツンしたりムスムスしたり、ゾンビの中で無双したりエネルギー切れでピンチになったり、ヒロイン力を荒稼ぎする回でした。
社会の中に足場を見出した生駒の活躍も気持ちよく、チームとしてミッションをこなして行く楽しみ、次から次へとやってくるピンチの見せ方と、なかなか血圧の上がる回でした。

今回は『全自動化スタイリッシュカバネ殺戮マシーン』だった無名ちゃんが、血を流し心の痛みを吐露して、人間であることを証明する回です。
ある種の泥臭さが共感を連れてくる、ってのは生駒がよく示してくれてる所でして、よく似た師弟だなぁと思います。
自分の強さを過信し、思うがまま突っ走る無名ちゃんは相当な無茶苦茶をしているんですが、今回のお話を通しで見るとそこまでイライラしない。

なんでかなーと考えてみたんですが、色んな手管を組み合わせることで、無名ちゃんの暴走を視聴者に受け入れさせてるんだなぁと見えてきました。
一つには、無名ちゃんは口だけギャーギャーやかましい傍観者ではなく、カバネに取り囲まれた地獄を身一つで切り開いてくれる戦士だったこと。
12歳らしい不器用さで社会と衝突はするけど、無名ちゃんは『戦う』というシンドイ使命から背中を向けることはないし、その結果救われる命が確かに存在している。
無名ちゃんが自分の体を削って、『いいこと』をしているのは事実なわけです。
あんだけ人付き合いが下手くそなメガ・バイオレンス小娘を、甲鉄城の一般人が受け入れていたのも、体を張って自分たちを守ってくれたという実績があってのことでしょう。

安全圏にいる視聴者としては、無明ちゃんは活かすスタイリッシュアクションで毎回楽しませてくれるキャラクターでもあって、基本押されがちなカバネ戦闘において、圧倒的パワーで優位に戦闘を進める無名ちゃんは、見てて安心できる『聖域』でもありました。
今回も環境利用闘法とカバネリブーストを組み合わせた全く新しいスタイリッシュアクションで楽しませてくれましたが、同時にこれまで流さなかった血を流し、痛みのある泥臭い戦闘に飛び込んでもいました。
これは無名ちゃんが不可侵の『聖域』から、傷も受ければ血も流す『人間』に変わったことを分かりやすく示していて、ドラマの流れとアクションが上手くリンクした演出だと思いました。
『余裕を剥奪することで、逆に行動の真実味が出てくる』という演出プランは、生駒の血まみれコンバットとか、今回で言えば震えを飲み込んでダチを助ける逞生とかもそうですね。


戦いの中で示された無名ちゃんの必死さにはちゃんと伏線があって、昔なじみの榎久と合流することで、それとなく過去設定を開示するシーンがそれです。
『兄様』は情報組織である『耳』と実力組織である『爪』を持ち、どうやらカバネリを意識的に作り出していて、不要となれば即座に切り捨てる価値観の持ち主であると、榎久との会話の中で見えてきました。
ずっと『兄様』の『爪』として生きてきた無名ちゃんは、これまでスタイリッシュな殺陣でいやってほど魅せてくれた『戦いしか知らないが故の強さ』と同時に、『戦いしか知らないが故の脆さ』も持っていたわけです。

戦闘機械としての価値しか与えられず、戦わない自分を不要と断ずる世界で生きてきた無名ちゃんにとって、戦わなくても人に愛される甲鉄城の暮らしは、結構居心地が悪かったんでしょう。
同時に『自分を認めて欲しい』『誰かに必要とされたい』という、他のキャラクターのみならず視聴者にも共通する、人間らしい望みもしっかり持っている。
無名ちゃんはほぼあらゆる人間と同じように、戦いたいわけではなく、誰かの役に立って、愛されたいわけです。
『カバネ』と『人間』の狭間で生きる『カバネリ』とはまた違う、『爪』と『人間』の矛盾が無名ちゃんを苦しめている様子は、今回丁寧に描写されていたと思います。
無名ちゃんを『爪』たらしめているカバネリの能力が、色々限界っぽいと匂わされていたのも、無名ちゃんの焦りを受け入れる上で、いい仕事してたな。

12歳という年齢設定がまた絶妙で、ただただ純粋な暴力装置として生きて死ぬ『爪』のあり方を榎久のように受け入れるには幼すぎ、社会の中で役割を果たす『人間』らしい生き方に飛び移るにはカバネを殺しすぎた、良い経験の総量だと思います。
超越的技量でカバネをぶっ殺しまくっていても、無名ちゃんに幼くて傷つきやすい心が存在しないわけではなく、むしろそれを押し殺さなければ生存を許されない『爪』という立場故に、人とふれあう方法を学んでこなかったのでしょう。
カバネ殺しのカバネリとして、おそらく子供らしい愛情を受けずに成長した無名ちゃんにとって、甲鉄上で普通の人たちから受けた共感と尊敬は、光であると同時に毒でもあったんだろうなぁとか、色々想像できる。

『地獄の中でも、子供は子供である』という描写はこのアニメ結構多くて、モブの子供を描く筆致は繊細かつ丁寧です。
これは日常をケアする立場にある鰍の価値を高めるための描写なんだけど、同時に普通の子供を描写することで、それを通して普通ではない無名ちゃんの子供らしさが際立ってくる描写でもある。
運命が一つ間違っていればそうなっていた存在として、残忍に無名に重ね合わされる名も無き子供たちの姿は、実は失われてしまった生駒の妹とも重なってきて、生駒が無名ちゃんを気にかける理由を納得する材料にもなってます。
ここら辺のモチーフの重ね合わせは非常に貪欲で、見てて面白いところですね。

あとま、超単純に無名ちゃんは表情豊かで可愛いので、ぶーたれて身勝手なことしても許しちゃうってのは、確実にある。
ほんとなー、どの瞬間とっても無名ちゃん超絶可愛い美少女だからなぁ……作画力というのは偉大だし、それを適切に活かす演出というのはもっと偉大だ。
これまでカバネぶっ殺してる時の殺戮マシーンの顔と、平時の等身大の12歳の表情とのギャップを上手く見せていたことが、今回メインをもらって輝いてる感じもありますね。


そんな感じで、過去と現在のギャップに悩み、戦い傷つくことでしか己を表現できない無名ちゃんは、『イラつく勝手なガキ』ではなく『助けるべきヒロイン』として描かれています。
無名ちゃんは無名ちゃんなりに頑張っているんだけど、彼女の経験や人格、置かれた状況が独力で問題を解決させてくれないっていう描き方は、ヒロイン力上がるし主人公が助けなきゃいけない当事者性も高まるしで、素直に受け入れられるわよね。
そしてそういうヒロインをしっかり救えばこそ主人公というわけで、俺達の生駒がしっかり立ち上がってくれるわけよ。
戦い方を教えてくれた師匠であるとか、世界で唯一のカバネリ仲間だとか、色々理由はあるんだろうけど、生駒が無名ちゃんを助けるのはおそらく『生駒が生駒だから』だろうなぁ……。
そういう信頼感があるやつが主人公なの、俺最高だと思うぜ……。

先週までのゴタゴタを経て、すっかり甲鉄城に受け入れられた生駒。
ここに至るまでの非差別の苦しみを見ている分、新武器開発に作戦立案にボイラー技術と、戦闘以外の部分で社会参画を果たす生駒を見ていると、凄く心が暖かくなります。
手順を踏み、仲間と協力しながら試練を乗り越えていくミッションの盛り上げ方も良くて、生駒周辺は見ていて達成感のある回でした。
あの子元々社会と繋がる意欲が高い技師なので、敵を殺す方向ではなく、何かを作ったり誰かの役に立つことで己を証明する場がしっかりあるのは、見ててありがたい。
ここら辺は殺すことでしか自己証明を許されない『爪』としての無名ちゃんと、意図的に対比されている部分だろうなぁ。

対比という意味では、『妹を見殺しにする』という大きな挫折から立ち上がって戦う生駒と、ミスなく可憐に殺し続ける無名ちゃんは、清濁わかりやすい対比だった。
しかし今回、無名ちゃんに価値を与えていた戦闘技術を剥奪されることで、無名ちゃんは初めて大きな挫折を経験した。
挫折と泥臭さの先輩として、これまで無名ちゃんに引っ張られてきた生駒が無名ちゃんを助けることになる展開は、とても良い構図だし、理屈を超えたところでアガる展開だ。
やっぱ役割逆転のドラマは良い、凄く良い。

『爪』としてしか生きられなかった無名ちゃんは今回、暴走の結果戦闘能力を失い、愛される理由(と、これまでの無名ちゃんの経験では判断してしまうもの)を奪われました。
しかし戦う力を奪われること、無意味なはずの無名を助けなければいけない必要が生まれたことでで、敵を殺す能力だけが人間の尊厳ではないと証明する機会もやってきたように思います。
『カバネを殺さなければ、愛される資格が無い』と思いつめてしまっている12歳に、俺達の生駒がドカンと分厚い人間の証明を叩き付けてくれることを、僕は強く期待しています。
こういうオーソドックスな人間の物語を、しっかり背負ってくれる主人公を生み出せたのは、ホントこのアニメの強いところだと思う。
『こいつは良い奴だからよぉ、お前らの期待通り可愛い無名ちゃんは見捨てないし、血みどろになってもかならず助けるぜ!! 期待しろよ!!』っていうサインが、アクションに入る前の細かいやり取りに散りばめられてるのが良いのよね。


と言うわけで、可愛い無名ちゃんの揺れる心と、それを受け止める準備バッチコイな生駒を描いたエピソードでした。
話数をかけて無名ちゃんの過去や心情を丁寧に描写することで、彼女の行動も受け止めやすくなるし、それを解決する生駒へのありがたさや信頼感も高まるっていう、いい時間の使い方していると思います。
とは言うものの、簡単に乗り越えられちゃあ試練としての真剣味が薄れるわけで、飛び出したのはJUMBOなカバネ集合体・クロケムリ。
『どーやって勝つんだコイツ、あとカバネリコンビ死にそう』という大ピンチを前に、甲鉄城の面々がどのように人間の証明を打ち立てるのか。
来週がとても楽しみです。