イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

コンクリート・レボルティオ ~超人幻想~ THE LAST SONG:第19話『推参なり鐵仮面』感想

羅針盤無き相対性の時代を生きる、泥まみれのヒロイック・エピック、今週は勧善懲悪神話批判。
室町時代からやってきたチョロい怪傑狛犬丸が、悪い総理にたぶらかされて右往左往……ってところから始まって、展開がいろいろ転がるお話でした。
物語ジャンルを超えて賑やかにドンパチするクロスオーバー感といい、相対的な正義と正義のぶつかり合いといい、ノスタルジアを真ん中に据えたテーマ運びといい、一期っぽいお話だったなあ。
時間軸的に第2話を追い越して最新話なので、各キャラクターの状況整理も兼ねていて、たっぷり見の詰まったお話でした。

今回のヒロインでありゲスト、影胡摩ちゃんは『己の身を犠牲にして力を手に入れ、世を乱す悪の組織を倒す』自分の物語を終えてしまったヒーローです。

今まさに自分の物語を走り続けている超人たちの先輩といえる立場であり、同時にコールドスリープによって時間を飛び越えた、過去の倫理の体現者でもある。
過去に取り残された彼女を鏡にすることで、今を生きる超人の姿がはっきりと見えてくる構図は、なかなか良く効いていたと思います。

正義がシンプルだった(とされる)時代に生きた彼女は、人を疑わず正義の為に猪突猛進、吉田茂っ面の永遠総理にそそのかされるまま、爾郎に襲いかかってきます。
しかし勧善懲悪の時代でも悪と善は相対的なものであり、一見不合理な影胡摩の行動は、善悪を超えて惹かれ合ったライバルへの愛惜に突き動かされています。
過去との繋がりも善悪の基準も失ってしまった影胡摩は、盗まれた過去を取り戻すために悪を復活させようとしますが、彼女は根本的に善人(何しろアースちゃんのお墨付き!)なので、罪もない花に指弾され、少年の心を残した爾郎先輩に止められれば止まることも出来る。


今まさに善悪の境に立つ爾郎先輩が、過去己のみをとして封じた愛しい男と同じように『手首』に傷を受けて影胡摩を止める演出は、中々に切れ味鋭かったです。
石版とお花のレイアウトが墓石と弔花に見えて、かつて悪から善へと変わった先輩への敬意ある弔いのように感じられるのはとても良かった。
シンプルな勧善懲悪物語と、善悪役割のダイナミズムを素直に『かっこいいじゃないか!』と言い切れる先輩の子供らしさが、今回はいい方向に働いたと思います。

輝子が暴走する影胡摩に「あなたは『敵』を探しているんじゃないの?」と聞くのは、一見シンプル故に危険な『正義』の暴走に見えて、第15話のアラクネと同じように『愛』故に走る影胡摩の理念をよく表していて、面白い問いかけです。
総理にチョロっと騙されて探偵事務所を襲いに来る影胡摩は、勧善懲悪時代のシンプルな『正義』の体現のように見えますし、新聞を見てからの行動も勧善懲悪物語が必要とする『悪』の復活により、自分の物語を取り戻そうという活動に感じられる。
しかし彼女にとって一番大事だったのは、正義を装うためには手を結ぶわけにはいかなかった男への『愛』であり、その喪失だったわけです。
『愛』と『正義』の両天秤で『愛』を選ぶキャラクターに女が多いのは、會川昇性役割認識が透けて見えて、個人的には面白いところだ。
メガッシンを求めたライトは、『愛』を拒絶された結果暴力に訴えるわけだしな。

『今』として描かれている神化があまりにも複雑なので、『昔はよかった。正義は正義で、悪は悪だった。全てがシンプルで迷いがなかった』という郷愁をジャガーさんが代表したくなる気持ちは、良く分かります。
しかしかつて『今』だった『昔』の当事者として、影胡摩はそんなノスタルジーを力強く跳ね除ける。
『昔』の善悪の区別は曖昧で、正義の味方には哀しみがあり、悪の手先にも迷いがあった。
『昔はよかった』という言葉は、過去の物語が持つ馥郁たる多様性を単純化し、枝葉を切り捨て殺してしまうことにも繋がる、危険な言葉である。
どんな時代も超人はあまりに人間的で、その迷いと決断は常に現代的なのだという影胡摩の姿勢は、エピソードを超えこのアニメそれ自体の主張である気もします。

ノスタルジーを現代的に再話する大きなうねりを背負って、影胡摩は『敵』を必要としない新しい生き方を見つけ、『今』を生きる自分の物語を手に入れます。
全てが終わった後、確かに願ったはずの『世界の果てを見たい』という望みに立ち戻り、ノスタルジーを拒絶して前に進む彼女の姿は、迷いを切り抜けた潔さにあふれて格好いい。
己の物語を先に終えた先達として、エンドマークの先にあるの虚無を見せ、それを乗り越えて逞しく生きる潔さも示してくれた影胡摩は、とても立派で可愛く、魅力的で好きになれる超人でした。


魅力的なエピソードゲストの助けを受け、メインキャラクターたちもよく動いていました。
爾郎とライトの奇妙なバディ感だったり、相変わらず卑しさ全開の輝子だったり、黒幕として暗躍する里見だったり、色んなキャラの『今』を楽しむことが出来た。
室町時代なのにビーム? ロケット? ゼス・サタン??』というメタなツッコミが中々楽しくて、正義の喪失と暴走という重たい空気が、良く抜けてもいました。
爾郎が抜けてから超人課の手伝いをしているメイドさんの出番が多くて、ザクザクメタいことを突っ込んでくる彼女のキャラが良く見えたなぁ。
面白いキャラなんで、今後も出番多くして欲しいね。

熱量のあるメインストーリーを展開させつつ、複雑な状況を整理するためのヒントがそこかしこに散りばめられているのも、今回面白いところでした。
爾郎に恋して『大人』になってしまった星の子が、もはや魔界の後継者たる資格を失っていたり。(そら、魔法少女が少女でいられなくなったら、人間か悪魔かどっちかしかなれんわな)
第2話で『俺も大人になりてぇよ!』と絶叫した風郎太は、かつての爾郎のように超人課を離れていたり。
二期になって一気にヒロイン力を高めたライトが、先輩と仲良く事務所で暮らしていたり。
アースちゃんにTP能力を奪われたジャガーさんが、時空移動者という特権を失ったがゆえに『今』の超人について深く考えることになったのかなぁとか、色々考察が深まる足場があるお話でした。
実用はされなかったけど、アースちゃんのアトム・タイムマシン化は今後どっかで使うのかなぁ……あとゼス・サタン(『神・悪魔』ってすげぇネーミングだな)の復活も。

状況の整理という意味では、ジャガーさんが握りこむ『時間移動者』という秘密をうっかりを演じて爾郎とライトに公開し、情報格差を埋める輝子の動きが凄く良かったです。
ジャガーさんの持つ時間移動能力は影胡摩の物語を完成させる大事なピースで、これを握りこまれると話が停滞するわけで、『粗忽者』というキャラを活かして情報の滑りを良くする動きは、TPRGゲーマーとして見ると巧すぎるプレイングだった。
実際の所は影胡摩は時間移動に頼らない終わり方を選んでいるんだけど、それを受け入れるにせよしないにせよ、『時間』という影胡摩のテーマ性をまとめる上で、それを弄ぶことが出来るジャガーさんが『昔はよかった。昔に帰ろう』と口にするのは大事なのだ。
そしてそれはジャガーさんの時間移動能力が秘密のままでは公開できんわけで、お話を綺麗にまとめ上げるいいトス上げでした。。

ゲーマー目線でもう一つ言うと、『時間移動者』というキャラを活かしてシナリオゲストとの間に関係を取りに行ったジャガーさんの動きも、最高に巧い。
爾郎のように『アイツも俺達と同じテーマを持っている、守るべき超人なんだ!』という拾い方も良いけど、タイムワープという飛び道具設定を上手く使って、直接面識がある形でモチベーションを上げる動きはとっても良い。
影胡摩が好感度高くなる良いゲストだったんで、参加PCみんな彼女に関係を取りに行ったのは、全員が話しに深く絡める形になって凄く良かったですね。
ライトも先輩と並ぶヒーローヲタの側面を出して、『おお、本物の鐵仮面剣士だ!』とか温度上げてたし……やっぱあざといなぁアイツ。
「当時僕は『ジャガー之助』って名乗ってたんですよ、室町時代だから」と一ネタ入れて場を温める所とか、マジ熟練だよなぁ……真似してぇ。


発掘された影胡摩を買い取り、総理との会談をセッティングして爾郎たちを襲わせた里見ですが、嘘がバレて襲いかかる影胡摩をダシに一大スキャンダルを演出していました。
日本の超人行政はあの総理が(里見の影響を受けつつ)運営してたんだろうし、自分で追い詰めた超人の仲間入りをすることで権力の座から滑り落ちるのは、中々皮肉だ。
勧善懲悪の刃で総理に怒鳴りこんだ影胡摩が、国防・国益のために超人を使いこなそうという総理の『一部の理』にほだされて刃を収めちゃうシーンとかも、今回の話しで描かれた正義と悪の境界線の危うさをよく表してました。

このスキャンダルでトップを失い、国家に制御不能な超人を弾圧する方向で一本化していた行政側にどういう動きがあるのか。
今後の展開を大きく左右しそうなところですが、それを仕組んだ里見の狙いはまだ見えません。
どうも単純な権勢欲や支配欲とは違う理念で動いてる印象なんですが……やっぱ気になるなぁ。
理念に『一部の理』があれば行動を肯定できるわけではないですが、『悪』と思っていたキャラクターの複雑な内面を理解することで、作品もキャラクターも好きになれる豊かさが生まれてくるってのは、例えば課長や笑美なんかで経験してきたわけで。
この両面的な描き方はコンレボの強みだと思うので、里見に関しても気持ちよく開示して欲しいですね。


と言うわけで、失われた正義と悪、そして愛に悩む狛犬美少女の旅路でした。
善と悪の危うい境界線を確かめる上でも、その先にある豊かな生き方を予言する意味でも、複雑な神化世界を生きる超人たちの『今』を活写する意味でも、とてもよいエピソードだったと思います。
『昔はよかった』というノスタルジアをちゃんと取り上げつつ、その奥にある複雑な表情を活き活きと描いたのは、シリーズ全体に通じる奥行きを感じて素晴らしかった。
あと影胡摩ちゃん可愛かった……。(鎧モードは"牙狼"つーより"天空戦記シュラト"を思い出したオッサン)

マウンテンホースにしてもそうなんだが、迷いつつ自分の道を見つけ、潔く格好良く人生のバランスを取ろうとする超人が、僕は好きなんだろうなぁ。
無論、悩んだり迷ったり暴走したりする主役たちも、とっても好きだけどね。
今回整備した複雑な状況を、今後主役たちはどう歩いて、どんな結末にたどり着くのか。
更に楽しみが膨らむ、楽しいお話でした。