イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

甲鉄城のカバネリ:第6話『集う光』感想

血と鋼と蒸気の煙で描く狂い咲く人間の証明、今週は決戦黒けぶり。
ハード・コアな日常をサヴァイブするために強くならなければならなかった無名ちゃんが、生駒にーちゃんを筆頭にした他者との交流を経て己の弱さを受け入れる回でした。
甲鉄城全ての人たちが持てる力全て結集し、一つごとを成し遂げるの気持ちよさもゲージを振りきっており、早くも第二部完ッ!! という満足感。
最終話を迎えるまでに一体何回クライマックスを迎えるのか、震えつつ期待してしまう展開でした。

前回十二歳の繊細な魂を震わせ、一人で奈落の底に落ちていってしまった、我らがヒロイン無名ちゃん。
カバネを殺し、カバネになる恐怖と戦い続けなければ生存を許されなかった過去が『逃げられぬ闇』ならば、今回は甲鉄城という運命共同体に『集う光』に受け入れられ、光が指さない場所から立ち上がる展開でした。
強敵・黒けぶりとの決戦でアクションの緊張感を維持しつつ、無名ちゃんの内面的な変化をドラマの主軸に据える構成は、手堅くてよかったですね。

両親を奪われ、仲間を奪われ、殺し殺される『牙』として強さだけを求められていた無名ちゃんですが、今回足を挟まれ強さ≒存在意義を発揮できない状態に追い込まれます。
無名ちゃんの価値観ではそうなってしまえば脚を怪我した犬のように殺されるしかないわけですが、そんな哀しい考えに断固としてNOを叩きつけるのが俺らの生駒。
弱さを肯定し、弱さゆえに集い力を集めて生き残る意味を強く求める生駒の生き方は、強者としてしか生きることを許されなかった無名ちゃんには、中々辿りつけない場所なのでしょう。
ゾンビを殺しまくる展開で無名ちゃんの強さを強調しておいて、ここで職人・生駒の弱さが強さに変わる展開を持ってくるのは、気持ちの良い逆転でしたね。


生駒と無名、ふたりきりのカバネリはそれぞれ家族を殺され、共同体から爪弾きにされることを恐れつつ生きています。
『俺のことを認めさせてやる!』が口癖の生駒は顔のない匿名の社会に、無名ちゃんは生殺与奪の権利を持つ"兄様"個人にと、それぞれ依存の対象は違えど、奪われたものの埋め合わせをするように『』誰かの役に立ちたい』『無為なまま死にたくない』と思っているのは共通なのです。
カバネという社会の敵と、人間が創りだす社会の間に立っている存在が、強く社会的承認を求めるキャラクターなのは動機という意味でも面白いところです。
守るべき共同体のことをどうでもいいと思っているなら、そこにしがみつかなくなっちゃうからね。

打算も計算もなく、無名が『強さ』を失ったからこそ助けに行った生駒は、その行動を以って無名が囚われていた乾いた世界を否定します。(『仁』という言葉の一番基本的な意味合いに忠実な行動かもしれん)
それは無名のためであると同時に、人間が人間足りえる条件を失ってしまったカバネの世界を、その圧力に負けて妹を殺してしまった自分を否定したい、生駒自身の生存証明だったのでしょう。
結局人は己のために血を流すのですが、しかしそれは同時に他者を助け、魂を救い上げることにも繋がる。
憑き物が落ちた無名ちゃんが、甲鉄城という共同体を救うクリティカルな一撃を担当することと合わせて、孤立とエゴイズムが危機を招いた前回と綺麗に対照をなす回でした。

無名ちゃん12歳は歳相応の拗ねっぷりが可愛くも納得できて、坑道でのツンツンっぷりは愛されずに死んでしまうという痛みから、自分を守る防衛本能なわけです。
そこから無名ちゃんを救い出す決め手になったのが、『血』という食料であり命であり乳でもあるフェティッシュなのは、とても面白い演出だった。
少し知恵をつけて拗ねることを覚えた無名ちゃんは、あの瞬間無心で乳を吸う子供に戻っているのであり、そういう姿を見せられる生駒は失われた母と同じ存在になったわけです。
加えて言うと、あの『血』は菖蒲との契約の証でもあり、生駒を介して社会との繋がりを作ってくれたという意味でも、ドラマが凝縮された良いアイテムだと思います。

『アタシつえーし! 一人でも生きるし! 脚挟まれて動けねーけどよゆーだし! 優しくすんなし!!』と吠える無名ちゃんを穏やかに諭しつつ、メガバイオレンスの渦中で体を張り、『弱くても生きればいい。俺を頼ればいい!』と無言で証明してくれる今回の生駒にーちゃんの姿は、ひねくれ無名ちゃんを素直にさせる圧倒的説得力に満ちていました。
そら、勝利を決める一撃の後ヒロイン力満載でキャッチされるわ……イコむめキテルわ……。
生駒にとって妹の喪失はあまりに大きく、OPよろしく無名ちゃんも妹と重ねて認識されてるんでしょうけども、その垣根を乗り越えて恋愛関係でも可愛い無名ちゃん大勝利!!! となるのか、否か。
恋だけが人生の価値ではないけど、せっかく『牙』としての乾いた人生以外に踏み出した無名ちゃんに、ほのかな恋の花が咲いてもいいんじゃねぇかなぁとオッサンは思ってます。
つーかね、生駒も無名ちゃんも大好きなんで、仲良く仲良く……して……欲しい……。(感情高まりすぎて心停止)


これだけ濃い絆を結びつつ、無名と生駒だけで事態を乗り越えさせない横幅の広さも、今回面白かった理由でしょう(カバネリ式再起動)
生駒がどれだけ頑張っても岩はどかせなかったし、心臓を露出させた大砲は侍ではない逞生と巣刈が動かしてるし、主人公二人だけが特別なのではない世界を気持ちよく描いていました。
前回あれだけ知的な活躍をしてた生駒がいなくても、独自に逆転の秘策を思いつき実行する甲鉄城のタフさが、頼もしくもありありがたくもあり。
世界がハード・コアであればあるほど、そこを乗り越えるために力を結集させる意味は高まるし、実際一丸となった時のカタルシスも跳ね上がるしで、無名ちゃんを社会復帰させる以上の意味が今回の総力戦にはあったなぁ。

各々が能力を発揮する時、かなり気を配って『出来ること/出来ないこと』『そのキャラクターらしさ』を行動で表現しようと気配りされていたのが、とても良かったです。
生駒が無名ちゃんを助けようとするのは自分の専門分野である機械操作だし、菖蒲様は遂に獅子の本性をむき出しにした指揮能力を、来栖はカバネリソードで大立ち回りを、それぞれ見せ場にしていました。
ビビリがキャラの逞生の初段をしっかり外させて、黒けぶりが押し寄せる緊張感を高めつつ、二発目を成功させる気持ちよさを跳ね上げて成長を作っていたのも良かった。
ここら辺は、無名ちゃんが前回コミュニケーションに失敗した人達と交流し、『用心棒』という立場を受け入れ、自分の戦闘能力を前向きに捉えるシーンでも、巧く発揮されてたなぁ。
戦うやつは戦う場所で、作る奴は作る場所でそれぞれ頑張りつつ、自分の領分でないことにも挑戦し何かを成し遂げるというお話しの作り方は、キャラの個性と甘やかさない成長が両立出来ていて素晴らしい。

演出の話をすると、良く考えるとあんま意味はないけど、とにかくテンションは上がるしお話が伝えたい事がドカンと押し寄せてくるケレンの使い方が今回良かったです。
侑那さんが諸肌脱いでナイスバルクを披露しなくてもレバーは引けるし、重心ずらすのに全力で壁を押す必要はない。
でもそうしたほうが、アニメの中で生きている存在と視聴者の間にある壁は崩れて、彼らの信条を自分のものとして感じやすくなる。
理屈を色々積み重ねて『蒸気とゾンビが溢れかえる世界』を構築しつつも、時にはロジックを投げ捨てて感情をもり立てるドラマを優先できる目の良さは、やっぱ優秀だと思います。

黒けぶりの一撃で最後列車両がぶっ飛んでいたのも、中々印象強い絵でした。
あそこは生駒や無名、カバネリに同調した逞生や鰍が追放された『社会の最下層』なんですが、甲鉄城の全員が力を合わせ一丸となる戦いを経て、彼らに対する差別と隔離はもはや無用になりました。
今回物質化された『社会の最下層』がぶっ飛ぶのは甲鉄城がカバネリを受け入れる準備が整ったこと、厳しい人生に傷つけられてきた無名ちゃんがようやく自分を受け入れ、社会に対して心を開く段階にやってきたことを、巧く象徴していたように感じます。
不安を煽る紫頭巾の人達も、おもいっきり壁押してたしね……いやでも、まだ安心できないかなぁ……。


つーわけで、ツンツン12歳無名ちゃんがトラウマを乗り越え、生駒にーちゃんと甲鉄城に自分を預けられるようになったお話でした。
良かった……可愛い無名ちゃんが生き残って前向きになったのも、生駒が優しく強い男だったのも素晴らしかった……あと各々が各々の場所で必死に踏ん張って戦っているのも、最高にグッドナイスだった。
主役が最高にイケてるのも、主役以外も最高にイケてるのも、やっぱ最高よね。

窮地を脱し団結を強めた甲鉄城は、ようやく人間らしい生息圏にたどり着き、無名ちゃんは久々にツインテ無名ちゃんになるようです。
無論ゾンビ地獄の世の中では、ただただ温かい日常ってわけにはいかず、今度は菖蒲様が大変なことになりそうだけど……。
第三部は一体どのように俺たちを楽しませてくれるのか、たまらなく楽しみなアニメ、甲鉄城のカバネリであります。
いっやー、面白いねぇ。