イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

くまみこ:第8話『ON THE FLOOR』感想

愛と束縛の狭い境界線を綱渡りするアニメーション、今週は水ごはんとニラ玉炒めなめこ入り。
Aパートでまちの内弁慶っぷり、ナツとの歪んだ保護関係を思う存分描いた後、Bパートでリアルにお腹痛い感じのコミュニケーション不全を滔々と語るという、落差の効いた展開でした。
アバンで魚も取れないくらい退化したナツを見せておいて、空想の世界に逃げた証明としてワイルドベアーを映す演出とか、性格最悪で素晴らしかったね。

ナツまちの関係が微笑ましく心地よいものでありながら、危険な歪みを孕んでいるという事実からこのアニメは逃げていなくて、むしろそのギャップをシニカルに笑い飛ばす知性と皮肉を武器に変えている。
視聴者もいい加減二人のいびつな関係と、生々しいダメっぷりには慣れてきて、故に家を一歩出た途端機能不全に陥るポンコツ……っていう言葉じゃ表せられないくらい、脆くて弱いまちの姿も半分ギャグ、半分痛みを伴う生々しい描写として受け止められるのだ。
『閉鎖的な場所で、閉鎖的な関係を育むクマと巫女』という、ジャンル内欲求によって尖ったいびつさを欲望のまま肯定しつつも、同時にその無様さを笑い飛ばすえげつなさが僕は好きだ。

そこら辺を強調する前振りとして、Aパートは極力朗らかに、『家』という場所の自由さと暖かさを強調しながら演出される。
ちょっと料理番組っぽいカチッと据えたレイアウトなんかも使いつつ、自我が出っ張ってきたまちと、娘を手のひらの上で自在に遊ばせるナツとの微笑ましい日常が、心地よく展開するわけだ。
それはそれとして非常に完成度が高く、『ローティーン巫女さんの笑顔見たいんじゃあ! 10代前半特有のワガママさと甘えを両立させた活力満載の動き楽しみたいんじゃぁ!』という欲望も強く感じる。

しかしそれは、まちの不安を映して『ベクシンスキーの絵画かよ……』と突っ込みたくなるような色彩に世界が移り変わるBパートへの前フリでもあって、笑顔は『極限まで追い詰められたローティーン巫女さんの曇り顔見たいんじゃあ! 逃げ出すにも理由つけないとダメなダメダメっぷりと、言葉が喉に張り付く絶望的コミュ障っぷり描きたいんじゃあ!!』という欲望の背面でもある。
不安を感じさせなかったレイアウトは傾ぎ、歪み、見てるだけでお腹痛くなってくる絵に変化する。
甘く楽しい『家』の嘘と、辛く厳しくダメダメな『外』の世知辛さ、それが同居することにより生まれる作品のオリジナリティをちゃんと理解し、落差を付けて演出できる知性は、やっぱこのアニメの強みだなぁと思った。


『家』を追い出されて辛い目にあってるまちに、救援は中々届かない。
響ちゃんの素人芝居はヤンキーのイジメにしか見えないし、よしおは一見救世主のように見えて自分のやりたいことを押し付けているだけだし、ていうかそもそもまちが追い込まれるのはよしおが嘘ついた上に現場から逃げたのが原因だし……やっぱアイツ人間の血液流れてないよ……。
『家』に片足突っ込んでいる仲間だろうがまちの世知辛さを軽減してはくれないし、それをしてくれる優しいパパはまちを『家』に縛り付けようとする邪悪さをいつでも振り回す。

そして、まちも別に無垢なる犠牲者ってわけではなく、結構良い性格してるし、ピンチも内弁慶な性格と育ちが生み出したものだしで、このポップで残酷な世界に単純なビクティムは一人もいないのだ。
無理くり優しい世界を捏造するのではなく、捏造された優しい世界が普通の世界と触れ合うことで生まれる摩擦それ自体を笑いの材料に変えて、毒を隠しもせず笑い飛ばすスタンス。
文脈の中で求められるものと、それにどう対応するかを客観視出来なければシニカルさは成立しないわけで、やっぱこのお話はかなりクールな作品なんだな。
その冷たさと、氷の中の熾火のようにじっとり薫るリビドーが同居してる所が、個人的な感性にビシっと来てんだろう多分。

今週は特にBパートが原作より盛り気味に演出されて、まちが受けたショックを強調すると同時にその大げささでギャグになるよう気が配られていた。
まー淡々と描くとあまりにも辛いからね……スーパーのオッサンの血の通わない対応とか、勇気を振り絞っても好転しない状況とかね。
こういう細かい調整が入ればこそ、漫画とアニメにメディアを移しつつ原作の持っているテイストを損なうことなく楽しむことが出来るわけで、非常にありがたい。


と言うわけで、『家』の歪んだ暖かさと『外』の耐え切れない世知辛さがダブルで襲いかかる、くまみこらしいギャップに満ちた回でした。
生々しいダメっぷりを披露したまちですが、よしおはサイコらしい冷酷さで今回の大惨事の『先』を見据えているようで、怖いやら楽しみやら。
アニメは結構構成を変化させているので、原作で先を知っててもどう見せてくれるか、すごく楽しみですね。