イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ジョーカー・ゲーム:第8話『ダブル・ジョーカー』

歴史は光の中だけではなく暗がりの奥でも作られているアニメーション、風機関推参な前編。
金で絡めて終われば殺す、スマートなD機関とは全く違う『殺せ、殺される』を是とする風機関の陰惨な泥臭ささが、じわりと匂うお話でした。
こうして対比物を置かれると、D機関が超常的能力で可能にしていたミスのない仕事って、すげーストレス軽減してたんだなって分かるね。

他人の懐を覗きこみ、時には必要のない不幸を捏造して情報を集めるスパイってのは、そもそも褒められた仕事ではありません。
そんなアウトサイダーを主役に据え、視聴者のある程度の共感を集めるに辺り、例えば『正義のスパイ』にしたり『意にそぐわぬスパイ』にしたりいろいろ手管はあるわけですが、このアニメは『かっこいいスパイ』にして毒を抜いています。
人間の倫理判断で一番根本的な『殺す/殺さない』という選択において、常に『殺さない』という困難な方を選び、時には都合よくすら見える圧倒的技量で無理筋を可能にするスマートさは、D機関員から薄暗さを巧く剥ぎ取り、プロフェッショナルの軽味を付け加えている。

そのライバルとなる風機関は『殺す/殺さない』の選択において積極的に『殺す』を選び、殺人が異常事態である僕らの判断基準からすれば、あまり好感が持てない存在として産み落とされている。
仕事の仕方もスマートとはとても言えず、薄汚い謀略と金で縛り上げ、用済みになったら殺してしまう手段の選ばなさ、安直さが目立つように描かれています。
物語的な立場が主役であるD機関の敵対者なので、ある程度のヘイトを集め失敗を予感させるのは大事なので、ヤダ味を強調した今回の演出はなかなか良かったです。
雷鳴轟く中での殺しは中々ショッキングで、血の匂いがけぶって来るようでした。


しかし考えてみれば、第4話で一切手を汚さず上海憲兵隊を切り崩したD機関の、遠隔操作で不幸を積み上げる手腕と、今回の風機関は一体何が違うというのか。
スタイリッシュで格好良く、目の前の殺しを回避すればOKで、泥臭く死体を直接積み上げればNGなのか。
印象としては確かにそうなんだけど、ちょっと足を止めて考えるとそういう疑問も浮かんできます。

スパイアクションというジャンルそのものを揺るがせにする疑問かもしれませんが、このアニメは情報組織としてのD機関がその設立段階から機能不全に陥っているという矛盾、スタイリッシュな超人スパイの活躍も目的を達成し得ない茶番であると折にふれて強調しています。
快刀乱麻を断つ大活躍の裏に皮肉な視点を隠した、このお話しの作り方を考えると、『悪役』の悪辣さと下手筋を強調する今回の感想として、そういう疑念を抱くのもありかなぁと思いました。

『良いスパイ』『悪いスパイ』というシンプルな二分法を強調するように見えて、これまでの皮肉で知的な描き方を考えるとそうも単純に使われそうもないお話でした。
今回じっくりとその肖像画を掘り下げた『悪役』である風機関を、どう使って何を見せるかってのは、来週の後編を待つことになります。
第1エピソードである『ジョーカー・ゲーム』が前編での印象を綺麗にひっくり返して鮮烈さを出していたので、その形式を受け継ぐ今エピソードにも、何か心地よいどんでん返しを期待してしまいます。

風機関のダサさは『あ、こりゃ負けるわ、スーパースタイリッシュスパイたるD機関と伍するにはスタイリッシュが足らないわ』と直感するには十分。
単純にクソダサ陸軍のダメダメスパイをボッコボコにしていい気になるだけではなく、それを踏み台にしてなにか広い景色を見せるような展開を、後半に期待したいところです。
……しかし『地方人』『天保銭』の用語説明、一切なかったな……さすがジョーカー・ゲームだ。