イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

甲鉄城のカバネリ:第7話『天に願う』感想

いつもは鉄と血とゾンビばっかり描いてるカバネリ、今週はぜーんぶお休みな日常回。
これまでの長く苦しい旅で失われた人間性を補給するような、静かで楽しい幸せな回でした。
僕は甲鉄城に載ってる連中がすでに好きになっているので、今回手際よく彼らが大事にしている希望を見ることが出来たのは、凄く嬉しかったな。
前半横幅広く色んなキャラを描き、後半は無名ちゃんと生駒の絆に重点して描く作りもメリハリ効いててよかった。
こういう穏やかな幸せで腹筋緩ませておいて、思いっきりぶん殴りに来るのがサバイバルものの基本だから一切安心はできんがな!!
ほんとなー、みんな生き残って、お米腹いっぱい食べれる終わり方なら良いのになぁ……。(手に入らないからこそ星を願う、七夕の心持ち)

多彩な食材を買う、服を買う、趣味の話をする、着飾る、節句を祝う。
カバネリによって極限的状況に追い込まれ、逞生最初の願いのように『唯生きる』ことを余儀なくされている甲鉄城の人々にとって、今回活写されていた潤いは贅沢ごとです。
しかしどんな極限的状況であろうと人間は生活にうるおいを、未来に希望を抱いてしまうものであり、それが完全に奪われれば精神的にも物理的にも死んでしまう生命でしょう。
この余裕を取り戻すという生駒の願いは今回急に生まれたものではなく、妹を失って以来ずっと願っていたことであるし、甲鉄城が動き出してからも、どれだけ差別されても声高に主張していた大事なテーマでもある。
無名ちゃんを前に力強く野望を宣言した姿も、笹の葉に(おそらくその殆どが叶わぬ)希望を堂々と託した姿も、今回の生駒がやっていたのはあくまで再確認であります。

再確認という意味では今回の話それ自体が、キャラクターや状況に埋め込まれていた要素を掘り出し再確認するエピソードとも言えます。
サムライと平民が同じ車両に乗り込み、剣術の手ほどきを介して気さくに触れ合う姿は、これまでの物語で苦労をともにし、偏見を乗り越えた結果獲得した甲鉄城の現在です。
鰍のタフな生活力も、来栖のあざとさも、菖蒲様のおまんじゅう食べたいっぷりと姫たる将器も、今回魅力的に輝いてきたキャラクターの『らしさ』は、ゾンビと戦う異常事態の中でチラホラと見えていた彼らの人格、その別の側面です。

一時の平和によって別側面に光を当てられつつ、これまでの話の中で見せた『らしさ』と乖離するのではなく、それもまたもう一つの魅力なのだと受け止められれるのは、厳しい非日常の中を必死に生き延びるキャラクターの姿を、真摯に描いてきた証拠だと感じました。
ここら辺を表現するために、無名ちゃんの体捌きや来栖の刀、食料を引き寄せてくる新型銃など、これまで戦いの道具としてしか描かれなかった要素に別の意味が持たされていました。
こういう演出は対比が鮮烈に見えるので、とても心に刺さります。

このアニメが極限状況を主戦場として選び、人間性を振り捨てなければ生存できない荒野の物語である以上、今回の幸せな日常はかそけき希望に過ぎません。
今回名前のあるものもないものも、皆平等に騒ぎ浮かれ楽しんだ希望は、おそらくこの先の物語で残忍に踏みにじられるでしょう。
しかしだからといって、今回彼らが見せたもう一つの『らしさ』が嘘になるというわけではないし、穏やかな幸せや希望が偽物というわけではない。
希望の大切さを描けばこそ世界の残忍さが目立つという、作劇の手管を当然想定しつつも、自分たちの創りだした世界を思う存分楽しんで欲しいという願いが、みんな幸せそうな今回のエピソードにはちゃんと篭っていたように感じました。
やっぱね、日常は非日常のスパイスではないし、平穏は残酷によって踏み潰されるために存在しているわけ/べきではないのよ。


甲鉄城クルーの様々な表情を切り取りつつも、しっかり主役二人にライトを当てることも忘れない作りがカバネリ。
皆から離れた無名ちゃんを気にかけて、神社の境内で語り合うシーンはお互いの距離を確認し、これから先の目標を設定する、大事なシーンでした。
色々厳しいこともあるだろうけども、このお話とその主人公である生駒は、無名ちゃんがただの12歳としてお米が食べられる世界を目指す。
その願いが叶うにしろ叶わないにしろ、作品のゴールがしっかり形になったのは、とても良いと思います。

今回言語化された『コメを取り戻す』『カバネを倒す』という大きな夢もやはり、元々生駒の中にあったものが無名との交流の中で形を手に入れた、一種の再確認であるように思います。
生駒がずっとこだわってきた『ただ生存するのではなく、より善く生きる』という目標は、無名ちゃんという具体的な対話相手と、戦闘の心配がない『非日常になってしまった日常』を手に入れて初めて、より大きく具体的な夢に繋がっていく。
あの会話は人と場所、時間が巧く咬み合って運命が転がっていく不思議な感覚にみちていて、不思議な迫力がありました。
生駒が手に入れた夢が誰かの借り物ではなく、自分の中から、そして無名ちゃんと話すことで発掘された確かなものであるってのも、あのシーンが良いシーンである理由の一つだろうな。
世界のハード・コア加減を知ってるとあまりに大きすぎる夢に現実感を与えるために、『コメ』という身近で味わいがあるものをフェティッシュとして使いこなしているのは、すげー良いね。

いつ怪物になるかわからない不安に、笑顔を作り戯けることでしか対処できない無名の痛ましさに、生駒は怒ります。
それは無名への怒りを超え、穂積という名前を奪った兄様への怒りをも超えて、理不尽な世界それ自体への怒りであり、そこに立ち向かう活力にもなる。
戯ける以外に自己防衛の手段を持たない無名を哀れむのではなく怒るのは、彼女の哀しみがカバネリという異形の存在故のもので、そこに哀れみを持ってしまえば同じカバネリである自分もまた、憐憫の対象になってしまうからでしょう。
彼は妹を救えなかった自分を怒り、人間であることを許してくれない世界に怒り続けてきたわけで、ここで怒りを力に変えて決意を新たにするのは、自分の起源に帰って更に先に帰ってきた印象を受け、とても良いと思います。
『オメー作り笑いやめろ、俺の前では悲しい時は悲しい顔していい』って発言、"12歳。"で檜山もやってたなぁ……無名ちゃんも結衣ちゃんと同じ12歳なのに、世界の違いは残酷だなぁ……。

これまでは希望を諦め戦闘機械になることでしか生きられなかった無名ちゃんですが、生駒にーちゃんがいい事ばっかり言うし、素直になったら周りの人は優しいしで、どんどん新しい希望を見出してます。
生駒のでっかい夢を叩き付けられて最初は戸惑いつつ、しかしその光に引き寄せられる表情が細かく描写されていて、そういう所も凄く良いなぁと思いました。
希望を手に入れれば、失われれば自分のことのように痛む仲間がいればこそ、厳しい現実が耐えられなくなる瞬間も絶対来るとは思うけど、無名ちゃんが今回新しい夢を手に入れたことを後悔する未来は来てほしくないなぁと、ナイーブに思ったりします……僕無名ちゃん相当好きね、いまさらだけど。
おしゃれ無名ちゃん、鰍と楽しく笑う無名ちゃん、戦の技をふざけるために使う無名ちゃん、にーちゃんがおしゃれアイテムに気付いてくれなくてむくれる無名ちゃん。
今週も無名ちゃんは可愛かった……無名ちゃんかわいい神輿を引っ担ぎ、次元の壁をぶっ壊して練り歩くくらい可愛かったなぁ……。

あといなくなったのに真っ先に気づくわ、食事の作法は指導するわ、友だちと仲良くしてると思わずほっこりするわの生駒が無名ちゃんのにーちゃんかーちゃん過ぎて良かった。
生駒は妹を、無名は母を、それぞれ失ったものをお互いに見出してる描写がありつつ、瑞々しくお互いを大事に思っている二人の関係は暖かすぎて、見てて心がオーバーヒートしちまうぜ。
カバネリは戦闘や何かが失われるシーンの描写も衝撃的だけど、こうやって小さく積み上げていく描写がとても丁寧で、それは実はお互い相補いあう丁寧さなんだろうなぁなどとも思ったりする。
奪うためには与えなければいけないし、大切さに気づくためには一度失わなければいけないわけだ。


眩いばかりの光満載だった今回ですが、チラホラと影の描写も挟まれていました。
将軍家と狩方衆の対立、『10年前の事件』とやら、遂に顔を見せた『兄様』。
事態は人間同士が殺しあう悲惨を暗示しているので、菖蒲様が売りつけた新型銃は何に使われるのか、少し不安になりますね。
まぁ甲鉄城の内部対立は紫頭巾含めて平になっちゃったんで、話転がすためには外部に揉め事作らんと話が持たないよね。

『オメーらFF世界に帰れ!!』と言いたくなるような、スーパースタイリッシュな外見をした狩方衆が一体どんな存在なのか、分かるのは来週です。
声が宮野って時点で油断できない『兄様』にも、我らがにーちゃん生駒がお兄ちゃんチェッカーをフル稼働させて警戒しており、予断を許さないところです。
インテリという背景もあってか、生駒はあまり迂闊な行動は取らず、作中人物として最大限慎重に動いてくれる所が見てて安心できるポイントやな。

美馬様は生駒の厳しいお眼鏡にかない、無名ちゃんの『兄様』足りえる器なのか。
今回見せた綺麗な夢が、どれだけ残忍に踏みにじられ、どれだけ報われるのか。
状況としては小休止なんだけど、彼らの今と未来をしっかり描くいいエピソードだったと思います。
来週も楽しみですね。