イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ふらいんぐうぃっち:第8話『常連の鳴き声』感想

東経140度のエブリデイ・マジック、今週は天道虫と夜の帳と狐。
先週に引き続きの不思議な喫茶店回でしたが、これまではあまり強調されなかった魔女のストレンジな世界がググっと全面に出てきて、非常に俺好みの展開でした。
不思議を当然とスルーする流れも好きだけど、やっぱこの世界観にはエブリデイ・マジックとしての地力がみっしりとある。
淡々と不思議を捉えていく綺麗な絵作りも良かったし、『狐かと思ったら犬』という脱力系のオチもふらいんぐうぃっちらしくて素敵だったなぁ。

今回の話はこれまでとちょっと違っていて、ふらいんぐうぃっち世界の不思議な部分にググッとクローズアップをかけるエピソードでした。
弘前×魔女という美味しい組み合わせをあえてスルーし、魔女術や異形の存在をさらっと受け流す自然さがこの作品のスタイルではあるんですが、これだけ魅力的な題材である以上、真正面からのアプローチも見たくなる。
今回のお話は欲しかったところに欲しい球が来た感じで、自分的に大ストライクという感じでした。

とは言うものの、焦りを一切見せない穏やかな世界の切り取り方は、これまでも使い込んできたこのアニメ最大の武器でして、演出のトーン自体は『らしさ』を活かしたこのあに目のオーソドックス。
やや青みがかった店内の色彩、情感に合わせて跳ねるBGMの使い方、元気にワキャワキャ騒ぐ主役陣とモノ言わぬ異形の客の対比。
ストイックで静かで、しかし存在感があるこの作品独特のテイストは、世界を切り取る画角が変わったとしてもやっぱり有効で、むしろそこが変わらないからこそ変則的なアプローチで世界に切り込んだとしても、これまでと同じふらいんぐうぃっちなのだと安心できる。
変えるべき部分と変えない部分を的確に見切り、『統一感のある変化球』という難しいところに着地させていたのは、さすがって感じでした。


今回は色んなキャラが場面に出てくるお話で、喫茶店主人の魔女親子に天道虫、妖怪、そしてホウズキを食べる狐と、中々賑やかな絵面でした。
春の弘前にふさわしい飄々とした魔女親子も良かったけど、やっぱり心にズバッと刺さるのは異形の客達。
『せっかく不思議な世界なので、春の運び屋みたいなトンチキな見た目の生き物もっとでねーかなぁ』と常々思っていたわけで、今回のトンチキ三連星はホント待ってましたって感じでした。

けーくんや千夏ちゃんみたいに、毎日喋って同じ飯食って仲良くなるという、普通の家族みたいな繋がりも大事で気持ちが良いし、このアニメはそういうコミュニケーションの貴重さを映像に埋め込む行為を怠けていない。
だからこそ、今回モノ言わぬ異形の客と一瞬触れ合って、その体験を大切に持ち帰るシーンもしっかり描ける気がします。
このアニメにおいて、魔女が代表する不可思議はあくまで日常の内部に取り込まれていて、日常の延長線上にあるわけではない。
畑作りや祭りの出店と全く同じ感覚で、人間とかけ離れた存在と触れ合っていく彼らの姿は、作品全体が世界をどう捉え、何を大事にしているかをがっちり強化した印象を受けました。

三人の客の描き方で一番好きなのは天道虫で、あくまで天道虫的な動きをしているのに奇妙に意思が通じている錯覚を覚える、不思議な酩酊感がとても好きです。
店主との手慣れた交流とか、報酬の代わりにアブラムシ退治を任せているとか、てんとう虫のスケールと魔女のスケールが上手くすり合わせられていて、見てて心が穏やかになった。
物おじしない千夏ちゃんと張さんの不思議なふれあいとか、『そんなに狐を触りたいなら"蔵王きつね村"行って来なさい!』って感じのモフリっぷりとかもいいけどね。
なんつーかな、『アザミの上にてんとう虫』という取り合わせ自体が、凄く妖精譚的でファンシーでグッドナイスなの、解って。(分かりにくい共感を強要する面倒くさいガイ)

そんな喫茶店の風景とはほぼ無関係に、相変わらず我が道を行くおねーちゃん。
あの人は自分の世界をしっかり持ってて、しかし妹達の世界も大切に思っているバランスが良い人だね。
世界が水墨画に変わる魔法の魔法っぷりと、それで大騒ぎが起こるわけではないいつもの塩梅も非常にグッドでした。
淡々と受け流しつつ、面白いポイントをしっかり用意しておくっていう作り方は徹底してるよなぁこのアニメ。
そのストイックさが好きよ。


つうわけで、この世界のワンダーに充填したエピソードでした。
魔法を淡々と受け流すアプローチに魅力を感じつつも、『可能であればトンチキさを正面に据えて掘り下げて欲しい……トンチキな世界の住人とのトンチキな掛け合いもっと見たい……』と願っていた身としては、非常にありがたいお話でした。
その上で作品全体を貫く静謐でストイックなトーン自体は崩れていなくて、欲しい変化球が来たのにシリーズの統一性が維持されてるという……。

このバランスを維持するのは相当大変なはずで、見ている側はサラッと楽しんでしまう事が多いけど、マジ頭上がらねぇって感じよ。
お話しのトーンからしても意識せず楽しんでもらうのが大事で、そのために水面下の足掻きを消す努力をしているつうのも感じますが、やっぱアレだ、アニメが世の中に出て楽しめるのは週替りの奇跡だ。(唐突に主語がデカくなるマン)
制作会社や録音スタジオや、その他たくさんの場所に頭を下げつつ、来週のふらいんぐうぃっちを楽しみに待つこととします。