イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

クロムクロ:第8話『黒鷲の城』感想

宇宙人が攻めてきてても富山の高校生活は続く系ロボアニメ、今週はすれ違う人々の肖像画
剣ちゃんも由希奈も宙ぶらりんな気持ちを抱えたまま、お互いうまく迎えず心を彷徨わせる回でした。
ここで一気に話を回さず、かなり現代に馴染んできた(そしてどうしても馴染みきれない)剣之助と、本気で逃げる気にもなれない由希奈の現在をどっしり描くのは、非常にこのアニメらしいと思う。
急ぎすぎず、飽きるほどゆったりでもないこのアニメのテンポ、僕はやっぱ好きだなぁ。

前回感情を爆発させて家を出て行った由希奈ですが、美夏ちゃんがいみじくも見切っているように、基本的には一時的な気の迷いでちょっと逃げ出してみただけでした。
ここら辺の図太さは救いでもあって、親父はトンチキなこと言って失踪、母親は仕事に逃げつつ妙に上から目線、妹には自分と同じ寂しさを味あわせまいと母親代わりを背負うという、ハードな境遇に押し潰されないタフさがありがたい。
ここら辺の心情を「アホの子で助かった……」と由希奈自身に代弁させるユーモア、俺好きですよ。

しかしやっぱり『戦場』というもう一つの日常が、自分の世界に滑り込んできた衝撃は大きくて、由希奈は学校にも家にも帰れないまま趣味の地質見学に赴く。(ガッツリ動きやすい服装に着換える本気っぷり、俺好きですよ)
この状況で気分転換しちゃおうと思える辺りやっぱ彼女はタフな女で、『弱い』ように見えて『強い』部分がある二面性が、今回は強調されていたように思います。
自分勝手に家を出ても、乱れた剣之介の布団を見ると思わず直しちゃう面倒見の良さとかも描かれてましたね。
居候したての時はきっちり直してたことを考えると、剣之介もあの『家』をホームと感じてきてるんかね。

今週のエピソードは巻き込まれた『弱い』存在である由希奈のタフな『強さ』と、戦士として『強い』存在であるはずの剣之介の『弱さ』を、両方うまく切り取っていたように思います。
勇ましい言動を繰り返す剣之介なんだけど、表面的な荒々しさと同時に、汗をかいたり表情を歪めたり、鬼を殺した後の人生の虚無に苦しんでいたり、時の流れに置いていかれた寂しさに涙したり、いろんな形で『弱い』部分を見せてくれてます。
ソフィーの『由希奈の自由意志奪って、鬼ぶっ殺すマシーンに仕立て上げりゃいいじゃん』というエクストリームな主張に反発するのも、自分の復讐に協力しない由希奈をほしいままにしたいという欲望が、自分の中にあればこそでしょう。
そういう『弱さ』を持った男が歯を食いしばり、自分の身勝手さや痛みを乗り越えて他人を思いやる姿は、ただただ『強い』タフガイのお話より面白いし、より身近に感じます。
こういう描写を細かく細かく積み上げているからこそ、剣之介が作中感じることがよく伝わるし、自分のお話として受け止められるんだろうなぁ。

そんな二人がすれ違うのは、かつては剣之介が『日常』を過ごしていた城址
由希奈にとっては息抜きの対象である山は同時に、剣之介にとっては喪ってしまった過去そのものであって、気楽に楽しく気分転換してる由希奈と、本編初めて涙を流した剣之助との対比は、彼らの立場をよく表しているシーンだと思いました。
立場が異なる存在を接近させつつ、ちゃんと差異を描くのを忘れない冷静な筆は、やっぱこのアニメの大きなパワーソースだと思います。

母への態度を「どうしてあんな事言っちゃったんだろう」と後悔する由希奈にしても、自分も余裕ないのに由希奈を探して回る剣之助にしても、このアニメの主人公たちは他人を慮り歩み寄る気持ちを持っている、気持ちのいい連中です。
だからこそ、剣之介は教室に入っても最早さほど騒がれないし、近所のおばちゃんにも『ケンちゃん』呼ばわりされ、YAHOO知恵袋も使いこなすくらい現代に馴染んできている。
しかしそれでも乗り越えられない違いとか、感情とか、色々な差異はちゃんとあって、むしろそれを乗り越えるからこそ生まれてくる、より良い何かがある。
今回二人の主人公が一度も顔を突き合わせない流れには、製作者のそういう確信を勝手に感じ取ってしまいました。


思いやりつつすれ違う二人の周辺で、学生たちも各々の人生を生きていました。
健全なドライさを持つ美夏ちゃんとか、思春期真っ只中な赤城ボーイとか、ウザさ爆発ヘイトアーツ青帯くらいはある茅原とか、ノブレス・オブリージュ全開の正論ガールソフィーちゃんとか。
感情を暴走させた相手へのサラっとした対応が、美夏とグラハム司令で共通してたのは面白かったなぁ……『カクタス探索に回していた隊員を、白羽由希奈探索に回せッ』って司令、あんたオカンの言葉全受け流しやな……。

由希奈と同じように図太く帰ってきた高校生二人ですが、彼らにとって『戦場』というもう一つの日常は、文字通り砂かぶりの距離で体験しても想像力の埒外にある、遠い場所なんだと思います。
クロムクロの奮戦で富山市街はボーボー燃えてないし、『学校』生活はいつもの様に維持できているし、描くまで使っているロシアやアメリカの戦場は常にモニターの向こうです。
赤城の場合は整備兵として『戦場』に隣接してる親父さんが、本気で怒ってくれるのでまだバランスを取る足場があるけど、おんなじ言葉を浴びられて『スクープ取れよ!』と受け取ってしまう茅原は、本当に危うい位置にいると思う。
洋海ママンにしても赤城パパンにしても、子供のために奔走してる大人が目立つ分、茅原に親の影が一切見えないのは気になるところです。

剣之介や由希奈、研究所の面々が『戦場』でどういう思いをしているのかよく伝わる分、アホ高校生男子の色ボケ自信過剰っぷり、勘違いYouTuberっぷりは正直見ててイライラします。
しかし感情導線の操作が非常に巧妙なお話なので、あの二人へのヘイト集積は意図的なんだろうなぁ、とも感じる。
剣之介に正しく『自意識過剰だ』と見切られてる赤城にしても、ヘイトが学生服着て歩いているような茅原にしても、何らかの物語的役割を気持ちよく果たす瞬間が、そのうち来るんでしょうかね。
パパンが言っていた『なにかやり遂げてみせろ!』って言う言葉が、一つのキーになるんかなぁ。

唯一の適格者として否応なく『戦場』に放り込まれた由希奈と、『戦場』に隣接しつつも『学校』に通えている学友たちとは、やはり大きな認識の差があるように思えます。
こののんきな状況を由希奈が『戦う理由』として選びとるか否かは今後の展開次第ですが、個人的には『戦場』生まれなのに『学校』に頑張って適応している剣之介のように、クラスメイトたちも迫り来る『戦場』を理解しようと歩み寄り、そこで踏ん張るしか無い主人公たちに少しでも手を差し伸べてあげてほしいなぁ、とか考えたりします。
美夏の必要以上に背負おうとしない、親友のパーソナリティをよく理解した距離の作り方は好きなんだけどね。


と言うわけで、惹かれ合いながらすれ違う、人間関係の不思議な引力をじっくり見せる回でした。
イベントを進行させることに汲々とせず、仮想のキャラクターがどのような人間なのか、しっかり地金を見せる作りはやっぱり良いですね。
冷や汗垂らしながらも由希奈を追いかけ、苔生した過去の残滓を見て思わず号泣しちゃう剣之介、やっぱ俺は好きだなぁ……億泰と言い、食い物に細かい好みがある系男子があざとくて好きなのかな俺。

そして『はい、そろそろ掘り下げシーンも十分だと思いますんで、アクション行きますよ』とばかりにメカを落下させてきたエフィドルグの皆さん。
由希奈を助けた父の時計の持ち主が一体誰なのかは気になるところだけど、今はクソ鬼どもをぶっ倒して守るべき人を守らなければいけない状況でございます。
敵の強さとクロムクロの唯一性をこれまでの展開でしっかり見せたんで、由希奈の居場所がつかめていない状況がピンチだとしっかり理解出来るのは、巧い作りやね。
待ったなしで迫る危機に由希奈はどのような答えを出すのか、緊迫の次回がとても楽しみです。