イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アイカツスターズ!:第9話『ミラクルガールズ☆』感想

知力! 体力! 時の運!! 深く考えると突っ込みどころしか無いがパワーで押し切る、アイカツ名物アスレチック回~!!!
と言うわけで、体力勝負のオーディション回であり、ゆめロラコンビが協力して事にあたる回でもありました。
『高所恐怖症』というローラの弱さをゆめが補いつつ、最終的には競い合って勝者を決める展開は、二人の現在の実力差もよく見えてなかなか良かったです。
これでローラはアイスに続きたい焼きの仕事ゲットか……甘味アイドルへの道まっしぐらだな。

一つの目標に向かって進んでいく今回は、仲間でもありライバルでもあるゆめとローラの関係が良く見える回となりました。
学校の外からライバルを呼んできて、勝負に囚われないゆめのキャラクターを見せる展開もグッドだった。
『知力であるはずのクイズ、実質運じゃね?』とか、『最終的に"アイドルの資質"で勝敗が決まるなら、決勝に残ったおほほコンビも勝負させてよかったんじゃね?』とか細かい瑕疵は気になるけどね。
オーディションに集まった人数見ても、スターズはそこまで常識をぶっ飛ばしたスケールで勝負するつもりはなく、勢いで押し切るパワー勝負のコメディとは相性が悪いってことなのかも知れん。
細かいツッコミがバカらしくなるほどの勢いを生むためには、『ああ、この世界はそういうルールで動いてんだな』と視聴者を飲み込んでしまうパワーが要るわけで、トンチキながら妙なところで常識的な今回の話しには、正直そういう勢いは足らなかった気がする。

可愛い女の子が元気に楽しくやってる姿は、見てるだけで楽しい気分になるので凄く良かったけどね。
おしとやかに自分を殺してお姫様してるだけじゃない、自分らしさを思い切り発露させるガールパワーはアイカツ!シリーズ最大の魅力だと思うし、それを表現するのに『飛んで走って汗を流して、おもいっきり体を使う』というのはとても分かりやすい。
今後もいい塩梅でスポ根要素を使いこなし、悪しき『女らしさ』の軛にとらわれることなく、大股で走り抜ける女の子たちのパワーを感じさせてほしいものだ。


個人的には細かいツッコミどころよりも、今回のオーディションを通じて敗者であるゆめが、そして勝者でありたい焼き宣伝の仕事を手に入れたローラが、そこを踏み出して何を手にしたかが見えにくいのが気になった。
勝った負けたの具体的な何かを一歩超えて、より抽象的で、それ故広い価値観にアクセスできるような結論が出るのであれば、ゆめの敗北にも、ローラの小さなキャリアメイクにも、より大きな意味と価値が生まれていた気がする。
のだが、今回はあくまで具象的な身体的振る舞いの描写に終止し、○×クイズやジムナスティックを通じて、桜庭ローラと虹野ゆめという少女の魂がどういう階段を登ったのか、かなり伝わりにくい描写になっていた。
平たく言うと、あまり良くない意味で僕にとって『フツー』だったのだ、今回のお話は。

無論校外の友人との絆だったり、勝負を超えたところでフェアに前向きに振る舞うゆめの鷹揚さだったり、高所に震える真っ向勝負で勝つローラの弱さと強さだったり、支え合い競いあう二人の心地よい関係だったり、要所要所で良い描写は沢山有る。
のだが、それをまとめ上げ、一つのエピソード・テーマを視聴者に届ける分かりやすいシーン(演出、セリフその他、とにかく具体化されたアニメーション)が足らなかったように感じた。
今回のオーディションを通じて二人はどんな抽象的価値(倫理と言っても良いだろう)にアクセスしたのか、単語をつなぎあわせて文脈を読み取るという読者依存の読解ではなく、分かりやすくインパクトを持って視聴者に届く断言をしてしまっても、お話が始まったばかりのこの段階では良いのではないかと思う。
僕個人の考えでは、キャラクター個別の人生のイベントを追いかけつつも、それがより広くより高い価値観にアクセスしていく物語だからこそ、他人の絵空事が視聴者である僕の物語として身近に立ち上がってくる部分があるので、身近な部分と遠大な部分の難しい両立を、スターズには果たしてほしいなぁと感じている。
身近な部分を現状、特徴的な『フツーさ』としてよく表現できているだけに、それを巧く乗りこなしてほしい(厳しい言い方をすれば、今回のお話はそれをコントロールしきれていない)と身勝手にも願ってしまうわけだ。

スターズの特色である『フツーさ』はお話に安定性と親近感を与え、スターズ独特の味を出す武器でもあるが、ともすれば『凡庸さ』に繋がってしまい、類型をなぞっているだけでエピソード個別、作品個別のフレッシュなメッセージを曇らせる迷霧にもなりかねない。
『主人公がいる世界は極端にルールが変更された、スペシャルでそれ故心躍る舞台ではない』と第1話から宣言し、今回もまばらなオーディション会場の描写でそれを補強したスターズは、自ら選び取った『フツーさ』を活かし、魅力に変えていかなければいけないだろう。
僕もまた『フツー』に生きていれば、個別の事象の奥にある普遍的な価値にはアクセス出来ないからこそ、ゆめ達が『フツー』の奥にある『フツー』ではない何かに気付き(悟り、と言っても良いかもしれない)、それを僕らに教えてくれることを、このアニメを見ながら心のどっかで期待しているのだ。
そして『フツー』の霧を抜けて真実にたどり着ける知性や真摯さをキャラクターたちが持っていると証明することで、彼女たちをより好きになれるとも思う。
それは過大な期待かもしれないし的外れかもしれないが、やっぱり僕の本心である。