イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

甲鉄城のカバネリ:第8話『黙す狩人』感想

◇はじめに
潤い満載の小休止は終ッ了! こっからは人間のカルマ満載修羅ロードで行くぜッ!! とばかりに始まった、カバネリ第三部・偽りの救世主(メシア)編(コバヤシ勝手に命名)
無名ちゃんが人生唯一の縁としてきた美馬さまを掘り下げていく回でした、わりーアイツやっぱ悪い宮野だったわ!!
厳しいサヴァイブを強いられるカバネ世界のルールを体現しているだけあって、ところどころ頷ける所はあるんだけども、無名ちゃんは良いように使うわ暴力を楽しみすぎるわで、不穏な空気がもりもり漂うお話でした。
そんな美馬さまに引きずられるように、甲鉄城で手に入れた人としての幸せに背中を向け、荒野のルールに再び接近していく無名ちゃん。
生駒にーちゃんも気が気じゃねぇぜ全く……。


◇美馬の姿は生駒に似ている(See-Sawっぽい節回しで)
今回のエピソードでは、前回颯爽登場を果たした美馬がぐっと掘り下げられ、その人格と物語的役割が見えてきました。
英雄の仮面を被りつつ、10年前の事件に強く執着し、強者以外が存在を許されない修羅の道を肯定する彼は、見事に生駒と正反対のキャラクターです。
人間が人間でいることを許されないシビアなカバネ世界のルールに対し、敢然とNOを唱え弱者とともに強くなる道を選んだ主人公・生駒が彼を疑うのも、かなり納得がいく所。
技術系に強かったり、無名のお兄ちゃんだったり、共通点もしっかりある所が逆に差異点を際立たせている感じがします。

生駒と美馬が最も異なるのは、『嘘』を良しとするか否かだと思います。
常に嘘が付けず、世界の真理を声高に叫んできたからこそ差別もされた生駒に対し、美馬は己にとって得になる嘘をためらいません。
民衆が己を救世主と崇めるのならそれを後押しするように振る舞い、カバネ研究を隠して行い、美辞麗句で逃げ隠れしながら生駒の真っ直ぐな言葉を受け流す。
その姿勢は、彼が行動の拠り所にしている強者生存主義すら表面的なものであり、それを利用して別の何かを果たそうとしていると確信するのに、十分なものでした。

彼の行動には常に嘘が付きまとい、それは無名への対応にも現れています。
己の居場所を求めて剣を抜いた『耳』に対し、彼は壊れた道具でも見るような視線を送り、笑いながら殺す。
そういう行動を見れば、彼が求めているのはあくまで実利であり、妹扱いをしている無名も使えなくなれば、脚を怪我した犬のように打ち捨てるつもりなのは明白でしょう。
しかし彼はそういう行動理念を巧く覆い隠しいて、幼い無名の価値観を一色に塗りつぶして、一途で便利な幼年兵として取り扱っている。
『兵隊であることをやめ、穂積の名前のとおりお米をいっぱい食べてほしい』と願い、その思いを真っ直ぐ無名ちゃんに叩きつけた生駒にーちゃんとは、まさに対極に位置する生き方です。

カバネ世界のハードコア加減を見ていると、『強者必生』という美馬の哲学には頷けるものがあり、カバネリ軍団のスタイリッシュな戦闘を見ると一定の成果を出していることも納得できます。
美馬と出会って刀を握ったからこそ無名は生き延び、戦闘の機械としてでも十二歳まで成長できたという事実は、けして否定できるものではない。
しかし彼は『孤独に慣れ、名前を捨てろ』と口では言いつつも、甲鉄城と縁を結んだ無名の立場を利用し、マスターキーを略奪(というか菖蒲を暗殺)するための道具として命令を出している。
彼への不信感が募るのはその行動理念(とされているもの)よりも、生駒にはけして見られない言動の不一致であり、己のエゴを通すために他者を利用し殺すことを躊躇わない凶猛さなわけです。

彼の不実さがどこから着て、それを何に叩きつけようとしているかは、確実なアンサーはなかったけど何となく感じ取れる展開でした。
将軍の息子として生まれつつその将軍に見捨てられた美馬は、妹を見捨ててしまった生駒や、母を失った無名と同じように、世界の厳しさに己の存在を試された経験を持つキャラクターなのでしょう。
喪失を燃え上がる闘士に変えた生駒や、彼に支えられて人らしさを学習してる最中の無名ちゃんに比べ、彼は世界の厳しさに膝を屈し、それと同化することを選んでしまったのだと思います。
なので、世界の厳しさの象徴であるカバネを己の城の中に取り込み、復讐のための武器に変える事もできるわけです。

『己を取り込もうとするカバネの力を、カバネに立ち向かう武器として使う』という行動自体は、生駒と美馬はとても良く似ている。
なんだけど、それを独占して自分の神話を捏造するのに使った美馬と、甲鉄城という共同体全員で共有し、全員で生き残るために公開した生駒では、やっぱり根本的な行動理念が正反対なわけです。
怪物的な力を利用して己を捨てた社会に復讐を誓う男と、人とカバネの中間に立って弱者と強くなろうとする男。
ここまで魂の色が違うと、そら最初から突っかかるし、我慢できずに暴走もするよなぁと思いました。


◇迷いの中の無名
これまでのお話しの中で甲鉄城に馴染み、『牙』としての乾いた生き方以外の暖かさに引き寄せられていた無名ちゃん12歳。
しかし今回美馬と再開し、『牙』としての立場や価値観に戻ってきてしまった感じがあります。
母が死に自分も死にかけた、強烈な喪失を埋めてくれた大きな存在だからこそ、無名ちゃんは美馬を『兄様』と呼んで、家族という掛け替えのない存在なのだと思い込もうとして(そして美馬も、その欺瞞性を指摘することなく利用して)いるわけで、そうそう簡単に生駒の価値観に引きずり込めはしない、ということなのでしょう。

ではこれまで積み上げてきた甲鉄城の物語は全部無駄で、無名ちゃんはミステリアスな皆殺しマシーンに戻ってしまったのかといえば、そういうことはありません。
『殺してでも鍵を奪ってこい』という美馬の指示に対し、無名ちゃんは当然のように請け負いつつも、菖蒲を殺すことを強くためらっていた。
あそこで見せた葛藤は、生駒が必死に証明しようとしている『弱者とともに強くなる生き方』と、美馬が象徴する『世界の厳しさに食い殺されてしまった生き方』、穂積として生き直す未来と、無名という名前に縛られた過去どちらに動くべきかという、無名の迷いをそのまま反映しているのでしょう。
(露骨に不自然な動きを見せる無名に対し、極力刺激しないよう穏やかに諭す菖蒲様は、やっぱ大器だと思いました)

無名ちゃんが『けして涙を流さない、クールな戦闘機械』というこれまでの自己イメージを維持しつつ、新しく出会った生き方をどうにか守っていきたいと感じているのは、色んな場所から感じ取れます。
『無名ー! 俺だー!! 生駒兄ちゃんだぞー!!! あの美馬ってやつお兄ちゃんセンサーに悪い反応出まくりでマジ信用できねー!! 一緒に甲鉄城に帰ろーー!!!!』(意訳)と叫んだ生駒を、美馬は『殺せ』とすげなく命令しているのに対し、無名ちゃんは『追い払ってくる』と返しています。
『殺さず、見捨てず、みんなで生きる』という、『牙』には許されなかった生き方を無名ちゃんはちゃんと学んでいるし、不器用ながら荒野の中で実行しようと藻掻いているわけです。
そういう不器用な必死さが僕は好きだし、応援したいなぁとも感じています。

スーパークールな戦闘機械に見えても、無名ちゃんが悲しい経験を経て己を鋼に変えることにした子供だっていうことは、これまでのお話を見ていれば分かります。
子供だから『兄様』という家族のことは純粋に信じるし、嘘をつかれたと感じれば傷ついて怒り、あんまり思慮深くもない。
甲鉄城に騙されたと思い込んだ無名ちゃんは凄くプンプンしてましたが、純朴な12歳。だから嘘が嫌いなんだね……そんな無名ちゃんが信じる兄様は、手首切ったら血の代わりに嘘が飛び出しそうなくらい嘘まみれだね……。
そういう純粋さを己の良いように利用している美馬の真実を、無名ちゃんが知った時、彼女は子供ではなくなるのかもしれません。
妹の死という後悔を決意に変えた生駒のように、親から見捨てられた過去で歪んだ美馬のように、無名ちゃんのイニシエーションもまた、この厳しい世界では痛みを伴うんだろうなぁ……。
生駒、支えてやってくれよ……。


◇生駒が背負うもの
今回美馬という対極軸が出てきたことで、生駒が背負うものもより鮮明になった気がします。
厳しいカバネ世界では切り捨てられる理想を信じ、世界がより良くなると願って行動し続ける、己のエゴと痛みを前に立ちすくまない男。
彼の行動は新武装を開発するだけではなく、カバネリという差別階級が大きな役割を担う社会構造の変化が、武士/平民という旧弊な身分制をも変化させつつあります。
修羅場を共に乗り切ることで、頑なだった来栖は逞生と肩を並べるようになっているし、巣刈や逞生にも武器と防具(サムライの象徴!)が配給されるようになっています。
理想主義に見える生駒の生き方は実際に影響を及ぼし、世界を変えているわけです。

社会改革者という顔も持つ生駒にとって、カバネ世界の厳しさに膝を屈し、己の憎悪を世界に撒き散らそうと企む美馬は、どうあっても認める訳にはいかないキャラクターです。
その二人が影響力を行使し合い、不安定に揺れている無名がどちらの男に身を寄せるかというのは、キャラの心情を強く反映すると同時に、世界にどちらの生き方が是認されるかという試しの場でもあります。
生駒がその生き様を無名に届け、美馬の悪しき影響を跳ね除けさせることは、『他者・優しさ・開放・未来・平時』といった生駒が背負っている価値観が、『自己・厳しさ・閉鎖と抑圧・過去・戦時』という美馬が象徴する価値観に対し優越している証明にもなるでしょう。

無論、生駒がトゥルーお兄ちゃんとして穂積を引っ張りあげても、即座にカバネが皆殺しになるわけではありません。
しかし物質的な勝利は得られないにしても、いつかそこにたどり着くだろう行動を下支えする、魂の土台が確かなものであるとは、しっかり証明できると思います。
一人の女の子を迷い路から救うことで、生駒が象徴する(そして僕達が比較的受け入れやすいだろう)価値を立証し、それが世界を変えていく未来を信じられるというのは、あまり無理のある筋書きだとは思えません。
これまでタフでクレバーで優しい主人公として、頼れるところをたっぷり魅せてくれた生駒なら、必ずそれを達成してくれるとも、僕は信じているわけです。


◇まとめ
というわけで、強力な敵対者とその影響下にあるヒロインを重点的に描くことで、それに立ち向かう主人公の立脚点を確認するお話でした。
良いように利用されてる無名ちゃんのおバカ加減が楽しくもあり、賢くなることを許されなかった結果だと思えば哀しくもあり、そういういたいけな子供を踏みにじり利用する美馬マジ許さねぇ……と思いもしたり。
冷静で理性的な俺が頭の上で『コバヤシくんはホント無名ちゃん好きだなー。キモいなー』言ってくるけども、オレは健気で自分に出来ることを必死にやりつつ、どううまく生きればいいかわからない迷い子が三度の飯より好物でね……。(唐突に煮えてキモさを回避しようという策)

生駒の真っ直ぐな思いは今回は無名にうまく届きませんでしたが、まぁ多分大丈夫だお前いいやつだから!!
この話胸きゅんラブストーリーではないので、生駒が己の正しさを立証し、『兄様』の影から無名を光の側に引っ張りだそうとすれば、蒸気筒で血みどろコンバットをするしか無いわけですけどね。
来週早速、美馬様が溜まりに溜まったエゴを幕府に叩きつけるっぽいのですが、生駒は混乱の中己の生き様をどう証明するのか。
迷える無名ちゃんは、確かな何かを見つけられるのか。
非常に楽しみです。