イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

少年メイド:第9話『情けは人の為ならず』感想

様々なイベントを用意してくる世界に対しあくまで自然体で向き合う賢い少年の物語、今週は幼女と老女。
可愛い可愛い花子ちゃんを懐に迎い入れお世話をして、美魔女とデートをするというお客様回でした。
年の離れた、家族ではない(と千尋は思っている)相手を鏡にすることで、円と一緒にいる時は見えないちーちゃんの公平さや素直さ、実直さがより目立つ、まさに『情けは人の為ならず』なお話でした。
花子ちゃんをさばく円の手慣れた仕草が、普段は隠している大人っぽさ全開でとても良かったなぁ。

普段は鷹取家の最年少として、色んな人に見守られながら大きくなっている千尋。
別荘でケアされた前回はまさにそんな彼の幼さと、そこに秘めた人格の確かさが強調される回だったんですが、今回は逆に小さい子の面倒を見ることで彼の優しさと幼さが見えてくる、対比的な回だった気がします。
常に花子の目線で話しかけ、幼い彼女に優しく接するちーちゃんは相変わらず賢く優秀なんだけど、時間だけが状況を穏やかにすることもあるとか、好きだからこそ反発しちゃう裏腹な感情といった、人生の複雑な機微を感じ取るには経験が足らない。
今回円がそこら辺をしっかりケアして、より良い方向に導く動きを徹底していたことで、ちーちゃんに足らない部分も、普段は見えにくい円の頼れる部分もしっかり見えて、凄く良い気分になりました。
物語を『少年メイド』の完璧なファンタジーではなく、優秀なんだけど当然年相応な部分もある少年として描く視点を喪わないのは、ホント信頼できる。

ここら辺を発揮させるためにも、花ちゃんは徹底的に可憐で健気で、思わず手助けしてあげたくなる可愛い存在に描かなければいけないわけですが、まったくもってその通りに演出できていて控えめに言って完璧でした。
キャラクターから受ける印象を狙い通りのところに落とすのって、定形踏めば良いように見えて繊細な気配りがいる部分だと思うんですが、今週の花ちゃんは狙いすまして可愛くて素晴らしかった。
彼女が可憐だからこそ、常に気を配って優しく対応する千尋の気配りとか、ショック受ける日野とかがしっかり機能するのだ。

今回は人生の先達としての円も良かったけど、デザイナーとしての職能を存分に発揮し、花ちゃんの頑なな心をドレスでほぐしていく円も見れて素晴らしかった。
思い返せば、最初のフックになったデザート山盛りもちーちゃんではなく円の作であり、円が持っている子供の部分が花子との架け橋になる描写顔、とても多い回だった。
キャラクターの持つ色んな側面を、万華鏡よろしくエピソードごとに多面的に切り取れるのは、色んな角度からお話を見られる魅力にも通じて興味深い。


そんな感じで花ちゃんとキャイキャイしたあとは、老女と千尋がデートするお話。
血縁を一切意識せず、受けた恩義を忘れずに礼儀正しく振る舞う千尋にお婆さんが感じ入る姿は、まさに『情けは人の為ならず』という趣だった。
この無意識の礼節がどういう結果に繋がるかってのは今後次第なんだけど、お婆さんと千尋が近くなる=円との距離を生むことでこれまで積み上げてきたものを総決算する、まとめにふさわしい展開に繋がりそうな気配はあった。

Bパートは尺の都合か演出意図があってか、かなりゆったりと背景を映すシーンが多かった。
もともと美麗な美術がいい仕事をしているアニメではあるんだけど、円と千尋が出会い物語が始まってから作中の時間も行き過ぎ、お話が切り替わる転換点で季節の移り変わりをじっくり見せたのは、思いの外感慨深い演出だった。
千尋一人が歩いていくことで、彼が手に入れた世界の広さを見せる意味合いもより強まり、いい時間の使い方だったと思う。

千尋が気づいていない血縁に日野が感づいていることも、彼の賢さを考えると納得がいく部分であり、今後話を転がす上で転がり過ぎないストッパーとして、大事な伏線描写でもあった。
誰かが事の真相に気づいていないと、お婆さんが話を回した時に回りすぎて、リカバリーに余計な手間がかかるわけで、本筋に入る前段階で既に予防線を埋め込んでいく手際の良さは、非常にこのアニメらしい。
お婆さんとのふれあいをどう使うにしろ、なかなか丁寧にした準備をしていたので期待が膨らむところですね。


つうわけで、他人が家に入ったり、家から出て行ったり、世界の広がりとちーちゃんの成長を静かに見せるエピソードでした。
閉じた世界の安心感と心地よさを大事にしつつ、健やかに伸びていく成長の軌跡を丁寧に見せてくれる両面勝負は、やっぱこのアニメの良い所よなぁ。
そろそろ一度のお別れも近づいてきていますが、繊細でセンスのある強さを忘れず走りきってくれそうで、安心と期待がさらに高まります。
んー、素晴らしい。