イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない:第11話『レッド・ホット・チリ・ペッパー その1』感想

友だちと美味しいご飯を食べもすれば、兄の復讐のためにドス黒い意思に身を任せたりもするアニメーション、今週はVSレッチリ前半戦。
森久保さんの軽い声質が最高にハマっている煽り魔相手に、主に億泰が奮戦する話でした。
人間的にまだまだ未熟な億泰をぶっ叩くことで、クールなジョジョ一族の異様さとか康一くんのアツい人情とかよく見えてきて、本番の前のジャブなのに良い掘り下げになってるなぁ……。

先週はおバカ高校生として思う存分イタメシかっ食らってた億泰ですが、今回は宿敵が相手ということもあり、ボケ一切なしのマジモード。
おかげで康一くんがノンキ担当にもなってましたが、普段の気のいい高校生がナリを潜めるほど形兆の死は億泰にとってシリアスであり、だからこそ判断力を失う展開にも納得がいきます。
戦いとしては億泰の負けなんだけど、感情のままに敵をぶっ殺して『日常』からはみ出すか、強い意志で『日常』にとどまりより良い生活を目指すかという疑問自体は、億泰のみならず作品全体にとって大事な問い。
クールすぎるジョジョ一族はここに正面から踏み込むには強すぎる存在なわけで、若者であり弟でもある、未熟で弱い億泰だからこそ展開できる話だったと思います。

散々バカ扱いされている億泰ですが、彼もジョジョ世界の住人であり、能力を使いこなすクレバーな戦い方、何が問題なのかしっかり把握している頭脳は冴えていました。
けしてバカではないし、"ザ・ハンド"という破壊の力を制御しようという倫理的な意思もちゃんとあるんだけど、同時に人格的な未熟さと、兄貴の死を受け止めきれない脆さも同居している。
今回の戦いの流れはそのまま、一線を越えて殺人者になってしまうか、困難だけど殺さない決断をして自分を成長させるかという、億泰の内面的な葛藤でもあるわけです。

レッチリがペラペラ軽口叩きまくるトラッシュトーカーなのは、そこら辺を煽って強調する意味でも、肉弾戦に舌戦を組み込んでスパイスを利かす意味でも、いい仕事をしていました。
敵を利して裏をかきあう戦闘の妙味も味わえるし、戦闘をただの殴り合い殺し合いでは終わらせず、より後半な倫理を問う場所として機能させるためにも、音石の軽口は大事なわけです。
音石が億泰(が代表する、『日常』と『非日常』の境界線上で悩む作品それ自体)を煽り倒すおかげで、今の億泰にとって何が大事で、どの選択をすることが望ましいのか視聴者にも分かりやすくなる。
戦いが終わったあと駆け寄る康一くんの言葉で、逆の側面からそこら辺を補強していたのはとても巧かったですね。

『学ばせてもらったッ……!』という億泰の言葉通り、今回の敗北は彼を人間的に成長させる良い経験だったと思います。
もちろんそういう言葉は生きているからこそ言えるんだけど、頼れる仲間がいればこういうピンチもなんとか乗り越え、成長の糧に出来る。
クールで完成された仗助とはまた違う、無様で人間味溢れる億泰だからこそ描ける敗北であり、その一歩先に繋がる広い風景だったと思います。


ジョジョのバトルは倫理的な戦いであると同時に、肉体的な圧力を兼ね備えたド迫力バトルとして機能しているから面白いわけですが、今回の戦いも油断がなくて良かったです。
『電気』というレッチリの特性を封じるべく、荒野を舞台にセットする知恵。
それでも排除しきれないバイクや地下ケーブルといった『文明』を利用し、敵の裏をかこうとする音石の策略。
後のバトルの伏線となるバイクやケーブルを、それとなく画面に収めて強調する演出の妙味。
敵も味方も油断なく全力を尽くし、知力も体力も絞り上げるように見える戦闘は、やはり緊張感があって楽しいものです。
……億泰のところに近寄ってくるシーンは、アニメだと間がありすぎて少し間抜けだったかも知れんけど。

億泰も"ハンド"の特性をうまく利用して、単純な削り屋ではなくトリッキーな動きを可能にしていました。
混乱するに従って動きが単純化していって、序盤見せていたようなクレバーな動きがなくなっていくのも、面白い表現でした。
キレてる状況でも"ザ・ハンド"で削り殺さないよう、能力を加減しながら使っているのは億泰らしくて好きだなぁ、やっぱ。
邪悪な状況や破壊的な個性を巧く乗りこなそうと努力し、時々振り落とされるけどなんとかしがみついて、形兆が達成できなかった『日常』を維持しようと頑張る億泰が俺は好き。

憎い敵役たるレッチリも、スタンド使いの軍団を向こうに回す大立ち回りを堂々とこなしていて、良い動きでした。
(電気さえあれば)圧倒的なスピードとパワーを持つスペックの高さが、アクション演出の中に切れ味鋭く生きていて、正統派に気持ちのいいバトルでしたね。
完全に油断のない高度知能犯ってわけではなくて、それなりにキレるんだけど隙もあるキャラクター性が随所に見えて、ピンチとチャンスが行ったり来たりする展開に納得できるのが良いよね。
お話はまだ中盤なわけで、『コイツどう倒すんだ……』という絶望を与える大BOSSが出てくるには少々早い。
お調子者でトラッシュトーカーで、しかし油断のできないワルではある音石のキャラクターは、時期を掴んだ魅力的なものだと思います。

今回のお話は億泰とレッチリの因縁を深め、整理する役割が多いので、ジョジョ一族は常にクールな傍観者でした。
『人死を前にしてすらクール』というのは少々不人情な印象も与えるけど、その分康一くんが泣いたり激高してくれたりするんで、役割分担がしっかり出来ているキャラクター配置だね。
あそこで仗助まで取り乱していれば、億泰は形兆と同じ無残な電撃惨殺体になっていたわけで、適材適所というか、異なった個性がお互いを照らし合うというか、とにかく良いハーモニーが生まれている物語だ。

アバンの序盤戦も面白い対比で、あそこで仗助に一発カマされているからこそ、お調子者のレッチリから油断が消えてる後のバトルに納得も行く。
お母さんと仗助の微笑ましいキャイキャイも、兄貴が死んでいる億泰の寂しさと描写されない対比をなしていて、なかなか面白かったです。
形兆が生きていた時代は、ああ言う家族の風景が一瞬でもあの兄弟にあったんだろうかねぇ……。(億泰が好きすぎて、お話に切り取られない隙間まで妄想し始めるオジサン)


と言うわけで、虹村億泰に挑みかかるハードなディシプリンは、復讐者の完敗という形で一応の決着を見ました。
億泰が兄貴をぶっ殺されても気にしない鈍感野郎ではなく、激情と怒りをバカっ面の奥に隠している男だということを確認する意味でも、今回レッチリと一戦交えるのは大事だと思います。
スタンド知力バトルを全力で描きつつ、その奥にどういうテーマを秘めているのかも、良く見える戦いでした。

来週は港に場所を移しての後半戦となりそうですが、今回はケンに徹していた仗助&承太郎が目立つ回となりそうです。
今回戦いの中で億泰が自分の乗り越えるべき弱さ、目指すべき強さをしっかり示していたように、ジョジョの戦いはキャラクターの地金をクッキリと打ち出す試練場になります。
レッチリとの戦いの中で仗助がどのような男であり、何を大切にしているか見えてくるのが、今から楽しみです。
承太郎は三部でさんざんそういう所出した『完成された男』なので、必要なタイミングで必要なことを言うだけで、でしゃばり過ぎはしないというバランスが良いのよねぇ……。