イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アイカツスターズ!:第10話『ゆめのスタートライン』感想

花は嵐に耐えて咲き、雨の後には虹がかかる。
普通の女の子の普通の努力と根性のアイドル物語、10話分の集大成がドカンとやってくるファーストステージでした。
実力、精神力、人脈に仲間との絆、そして才能。
小さいながらもこれまで積み上げてきた全てをステージにぶつけ、観客の数ではない『何か』を主人公が手に入れ、第1話では振り回されていた特殊な力を乗りこなす。
ただ『見るもの』だったアイドルの一番星というゆめの夢が『叶えるもの』となった瞬間を印象的に切り取った、見事なスタートラインでした。


今回の物語はゆめのファーストステージであり、アイドルという夢へのスタートラインに立つお話なんですが、同時に10話分の蓄積がなければ成し得ないお話でもありました。
それは『虹野ゆめはどのような少女なのか』という人格的描写の積み重ねでもあるし、ローラや先生、仲間たちや大人、スバルといった他人との人間関係の描写でもある。
お調子者でアイドルという夢に対しどこかうわっ付いたところのあるゆめが、厳しい現実に直面し、誰のために誰が歌うのかというアイデンティティに迷い、様々な人の支えを受けて自分を取り戻し、自分なりのステージを成功させるという今回のお話は、これまで色々ありつつも歩んできたスターズの物語がなければ、成立しないわけです。

ゆめが元々そこまで賢くない子供で、自分の実力を勘違いして浮かれ、周囲の状況を把握できないキャラクターだというのは、第1話からしっかり描かれていました。
『S4になる!』というゆめの夢があくまでファン目線であり、そこには自分の実力や現状を冷静に見据える視点も、ファンやクライアントから求められる実力も伴わない、アイドルのスタートラインにすらまだ立っていないうわっ付いた存在。
四ツ星学園に入学しアイドル候補生としての教育を受けてなお、ステージの重圧を実感することなくひめの代理を引き受けるゆめに対し、ローラは物語が始まった段階で現実の辛さを理解している。
『夢をかなえる』というアニメ全体のテーマに対し、才能も現状認識も空中浮遊しているゆめの姿は、しっかり地面に足をつけてやれることをやり切るローラとの対比で際立たされているわけです。

ローラが予感していた現実の厳しさは、全然売れないチケットという形でゆめを現実に引き寄せ、浮かれてきた気分におもいっきり水をぶっかけます。
『今のお前はこの程度だ』という現状認識を叩き付けられ、うわっ付いたセルフ・イメージとのギャップを強調されたゆめは、当然道に迷い、自分に迷い、アイドルに迷う。
しかしそれは今の自分を初めて客観視し、ちっぽけなアイドル未満としての自分を見つめ、それでも何かをなさなければいけない現状を把握する、まさにスタートラインでもある。
他人事として『見るもの』ではなく、自分が『叶えるもの』としてアイドルを目指すためには、まず正しい自己認識が必要であり、そのためには苛烈な試練によって幻想を削ぎ落とされることが必要なわけです。

ここの圧のかけ方は非常に現実的かつシビアで、チケットは誰も勝ってくれないし、仕事で袖すりあった大人たちも自分のことに忙しく、簡単には手助けしてくれない。
急にスタートして選ばれたことへのやっかみも当然あるし、魔法のようにいきなり才能が開花して全てを押し流すわけでもない。
ゴロッとした手触りの試練が次々立ち塞がるさまは、非常にスターズらしい『フツーさ』であり、無印が非常に丁寧に避けていた『現実的な都合の悪さ』が正面から襲いかかってくる展開だといえます。
後半これらの試練は一つ一つ、完璧にではないにせよ今のゆめらしいやり方で乗り越えられ、より望ましい成長へと彼女を導いていくわけですが、その試練と成長の『フツーさ』は、僕達を取り巻く世界との地続きの存在感に繋がっています。
『フツー』であることが凡庸さではなく、広範な普遍性に繋がっている理想的な流れが、今回のエピソードにはしっかりあったように思います。


より広く普遍的な部分に話をつなげているというのは、ゆめが現状を認識し立ち上がる契機の作り方にも見えます。
じっとゆめを見守っていたスバルが、ゆめが一人でステージに立ち向かうのではなく、ローラや小春が彼女のために必死に動き回る姿を見せ、自分自身のアイドルとしてのオリジンを語るという描写は、他人を無条件に引き寄せる天才を持たない『フツー』のゆめ(そして僕達の大半)にとって一番頼れるものが何か、良く見据えたシーンでした。
アイカツスターズ! が夢について語る物語である以上、現実の厳しさに押し潰されニヒルになるのではなく、それを乗り越えるための活力がどこから生まれるのか、しっかり描いたことには大きな意味があると思います。

ステージに立つのはゆめ一人でも、ゆめ一人ではチケットは売れないし、レッスンも出来ない。
しかし男性トップアイドルとして先を行くスバルですら、誰にも求められない、誰も惹きつけられない状態から周囲の助けを受け、たった一人のファンに誠実に向かい合うことで夢の階段を登っていったという事実。
今まさに、ローラや小春が他ならぬゆめのために、必死になってチケットを売ってくれている事実。
オーディションには落ちたけれども、そのために努力したゆめの姿を見つめて、ファンに成ってくれた少女がいる事実。
ゆめは前半浮かれた自意識に踊らされ、現実を叩き付けられて自意識に閉じこもりますが、すばるの一言で現状を正しく認識して、背筋を伸ばしてまっすぐに歩き始めます。
すばるが自分の経験を元に、孤独(だと思い込んでいる)ゆめに近づくように気づきの契機を与える動きが、非常に柔らかでよかったです。

すばると同じようにローラもまた、これまで見せた面倒見の良さを全開にして、チケットを売りクラスメイトを説得する。
夢のうわっ付いた妄想すら肯定する小春とはまた違う、クールで冷静な現状認識故の支え方が非常に彼女らしかったですが、その支えを恩着せがましく押し付けるのではなく、ゆめのプライドを尊重して影で動くところがも、ローラらしさが冴えている描写だと思いました。
彼女は夢のステージが非常に厳しいと早い段階から把握していて、しかし親友が望むのであれば全力で支え、それが負担にならないよう自然さを装いすらする。
アイドルとして一歩先をゆく自覚があればこそ、哀れみではなく尊敬を込めてゆめに見えないところで彼女を守る距離のとり方は、凄くクレバーで優しいと思うのです。
そういう彼女の魅力もこれまでの10話の中で描写されてきたものであり、今回急に芽生えたものではありません。
そういう意味でも、このお話はこれまでの蓄積がなければ描けないのです。
いや実際、あまりにもローラがゆめのお母ちゃん過ぎて、両親に『仲良くさせてもらってます!』と言い切った瞬間に『ああ……仲良くってそういう……』って感じだった……しっかり挨拶も出来て、ローラちゃんは気持ちの良い青年すぎる……。

いろいろな事情を匂わせつつも、これまで夢が世界に働きかけてきた努力を無駄にはせず、チケットを握りしめた大人たちが集まってくる描写も、定番ながら最高でした。
それが結果に結びつこうと上手く行かなかろうと、やはり何がしかの努力を誠実に積み重ねている存在は報われてほしいわけで、アイドル未満の未熟者なりに必死に頑張ってきたゆめの『これまで』が人を引き付ける展開は、やっぱ胸が熱くなった。
最初は都合を盾にチケットを買ってもらえない展開も、スターズ世界が必要とするシビアさの塩加減を巧く表現しているし、その後の逆転を巧く引き立てているし、良い演出でした。


今回のお話が良いのは、他者の存在の大きさを描きつつも、ステージに一人立つゆめの尊さもしっかり切り取ったことです。
アイドルが表現者である以上、もちろん様々な人の力を借りなければステージには立てないとしても、観客と向かい合う重責は演者一人が背負うしかありません。
そのためには『誰のために歌うのか』というモチベーションを明確にし、『アイドルである自分はどんな存在なのか』という自己認識を確かにしなければいけない。
すばるに切っ掛けを与えられつつも、ゆめは厳しいレッスンを通して自分を鍛え、一人ステージに立つ孤独に耐えうる自我を、自分自身の力で確立させます。
第1話では記憶を奪われた特別な力を、今回は乗りこなして演じきった成長は、あくまでゆめ個人が成し遂げたものなわけです。

結局アイドルは一人でステージに経つけど、そこへの道は一人では見つけられず、走りきれもしない。
相容れないように思える他者性と自己が実は排他的関係にはなく、相補いあうかけがいのないものだという実感を、今回ファーストステージを全力で走り切ることで、ゆめは手に入れました。
今回ゆめが悩んだ『誰のために歌うのか』という外部への問いかけは同時に、『歌う私はどんな人間なのか』という内部への問いかけでもあり、『フツー』の迷い路をしっかりくぐり抜け、他者に導かれつつ己も鍛え上げたゆめは、ホールを満員にはしない、大成功ではけしてない小さな成長を、しっかりと走りきりました。
その認識がただアイドルを『夢見る』少女の精神を変化させ、アイドルという夢を『叶える』物語のスタートラインに立たせる今回のエピソードは、10話に及んだスターズの序章、『アイカツスターズってこういう話だよ』という紹介をまとめるのに相応しい、爽快な読後感を持っていました。

虹野ゆめという少女が試練に立ち向かうことで確固たる自我を形作り、それが他者を惹きつけつなぎあわせ、掛け替えのないその結びつきが夢を支え導いていくという、非常にポジティブな自己と他者の相補的関係。
ありふれていればこそ見落としてしまう、人生の一つの真実をしっかりエピソードとして際立たせた今回のお話は、非常にありきたりで『フツー』で、だからこそ高い価値を持っていると思います。
そういう普遍的な価値だけではなく、キャラクターの個性の描写、それが結びつきぶつかり合う描写もきめ細かく、爽やかで熱い個別のドラマもしっかり展開されていました。
非常に良かったです。

今回のお話は学園長の横車が大きな圧力となり、それにゆめが弛められ跳ね返すことで成立しています。
ゆめが時折見せる異質で無意識な才能に学園長は期待し、同時に危ぶむからこそ、一見意地悪とも取れる試練をゆめに用意するのでしょう。
あのひと回りだけ『覚醒』とか『あの力』とかが飛び交い、少年バトル漫画みたいな雰囲気が出ていて面白いですが、その真意は今後明らかになってくところなんでしょう。
学園長のフェティッシュとしてよく描かれている青い薔薇の花言葉は『不可能』『夢叶う』『神の祝福』『一目惚れ』であり、彼のキャラクター性が隠されてるアイテムなんじゃないかなぁと、今回の描写を見ながら思ったりもしました。


足元が覚束ない夢、厳しい現実の蹉跌、自己と他者の肯定、そこから始まるスタートライン。
虹野ゆめというアイドルが夢への第一歩を踏み出す話として、普遍的な成長の物語として、とても優れたお話だったと思います。
成長に必要な圧のかけ方が非常にスターズ的で、そこからの小さく確実な一歩の描き方含めて、上手く自分らしさをまとめ上げたエピソードでした。

今回の物語は一つの到達点であり、同時に今回の話しを足場にして、少女たちの物語は発展し、未来に向かって伸びていきます。
さしあたってはゆめにとって『叶えるもの』となったS4という夢、その体現者である白鳥パイセンの現状を見するお話が次回来るようですが……白鳥パイセン潰れるの早いな!
ひめの強キャラっぷりはゆめがこれから走る夢の道が、どれだけ高く魅力的になるかの大事な要素でもあるので、人間味を見せつつも、上手く超人的スーパーアイドルの凄みも出して欲しいところですね。