イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

うしおととら:第37話『最強の悪態』感想

槍も記憶も戻ってきたけど、アイツがいなきゃ勝てやしねぇ!! つーわけで、今週のうしとらはとら復活とさらばHAMMER。
真由子がヒロイン力の全てを使い、主人公が何故戦うかの確認をして『もう負けねぇ! マジ負けぇね!!』というダメ押しに説得力を積み上げる回でした。
うしとらコンビが復活するのと合わせて、妖怪/人間の垣根を超えた協力を描き、画面外で必死こいて戦ってたHAMMERのオジサン達のフラグ回収をさせるシンクロのさせ方が良かったですね。
二人の主人公両方が負けて水に沈み、潮はシャガクシャ=とらの過去によって、とらは真由子の真心によって立ち上がるって重ね合わせも良いですね。

潮と対になるバケモノとして荒ぶりつつ、ツンデレアーツ黒帯の技を思う存分発揮してきたとらちゃんですが、彼があくまで『人食いの怪物』としての自分を大事にしていたのは、作劇上すごく大事な意味があったと思います。
人を喰い、害するバケモノの習性がなかなか乗り越えられないからこそ、それを超えて協力する姿や最終決戦の意味合いも深まるわけで、主人公の一番側で『人食いの怪物』を主張してたとらの役割は、とても大きい。
まぁ元々守るために戦いたかった人なんで、体が怪物になって悪ぶっていても、根っこの部分は正義と愛のヒーローなわけだけどさ……普段のツンデレは、怪物になった現在と英雄を目指した過去との相剋だったのかもしれんね。

物語が終幕に近づくに連れ、人間と怪物の矛盾は強調されるものではなく、みんなが乗り越えるものに変わりつつあります。
なのでとらちゃんも『人食いの怪物』という自画像を本格的に外して、潮が代表してきた『誰かを守り、光を連れてくる人間』が自分の中に眠っていることを、真正面から認めるシーンをやるわけです。
これを序盤にやっちゃうと、成長が完成しすぎてお話が停滞するしね。


そのためにはとらの真心を受け止めるための壁役が必要になるわけですが、麻子は潮専用ヒロインとして炎の中で改修されたんで、とらちゃんの相手は真由子がやります。
元々怪物の外見に惑わされず、とらの性根をしっかり把握していた真由子ですが、今回は次代のお役目様としての指名と能力に目覚め、ヒロインとして助けられていた次代とはまた違う共感を、とらに抱くことが出来ます。
戦うモノ達の絆って意味では、『胸に風が吹き抜けていた』流と『胸に穴が空いちまった』とらに、むしろ近いかもしんないな今回の真由子。
胸に空いた穴を精神的なものであると描くことで、『価値観が変わり、守るものを手に入れた』という精神的変化が肉体の傷を治す無茶も、スムーズに飲み込めるしな……相変わらずピンチとチャンスの作り方死ぬほどうめーな。

とらがさんざん脅かし文句として使っていた『食っちまうぞ!』も、シャガクシャの悲しい過去を見た後だと全く意味が変わっていて、つまりそれは『大事だから守りたいぞ!』という願い、『大事だけど守れなかったぞ!』という哀しみでもあるわけです。
真由子は優しい子なのでその哀しみを櫛で漉き上げて、とらの過去を取り戻そうとしてくれるんだけど、それ自体はもう戻らない。
でもここで勝つことで新しい未来を引っ掴むことは可能なわけで、過去よりも未来を、哀しみよりも願いを二人が選ぶという意味でも、あのシーンは優れた奮起のシーンなわけです。
白面の強さ描写が上手すぎて、視聴者も後ろ向きな勝ち方を想定しかねない中で、とらが堂々と『アイツぶっ倒して超ハッピーエンドにしてやる! 犠牲が必要な勝利なんざぁもうまっぴらごめんだ!!』と宣言するのは、気持ちが良いよなぁ……『とらは諦めてねぇぞ!』って感じになる。

真由子が対話役として出てきた意味はもう一つあって、憎悪から白面を生み出し、白面への憎悪で字伏になったとらを、憎悪の輪廻から抜け出させるという仕事をしています。
『真由子をお役目様にさせない』という目的を手に入れることで、とらは『一人で戦って、一人で死ぬ』というこれまでの虚しい戦闘を捨て去り、価値観を別次元にシフトさせることに成功するわけです。
真由子は透明感のある美少女だし、自分のやれることを精一杯やりきっている魅力的なヒロインなので、彼女を想うことでとらがカルマの泥から抜け出す説得力も、しっかりあるしね。
『この輪廻から抜け出せなければ、白面には勝てない』というロジックはさんざん説明冴えてきたので、とらがそこをぬけ出すことで『勝てるッ!』って感じが強くなるしさ。
安野さんの演技も良かったし、良い復活劇だったなぁ……。

 

しかし白面との戦いは激しすぎるので、先週のヒョウさんに引き続き潮と約束したオジサンたちが散っていくのであった……。
まぁあのボクシングの約束は『良いシーンだな……でもゼッテー守られないな』と二秒で判るシーンではあるんだけども、それにしたって『叶えられなかった約束』というモチーフは定番ながらよく刺さる。
大学生たちをカットしたことで、麻子を届ける仕事がHAMMER担当になったりして、オジサン達は原作より存在感強かった気がする……構成の都合上、とらちゃん復活っていう大ネタを前座にしてたしな。

厚沢さんが不信を乗り切り、かまいたち兄妹を信じるシーンもなかなか良かった。
このお話は『心の強さが、人間の強さ』という倫理的テーマを真ん中に据えていて、強い力を正しい目的で使いこなせなかったり、逆に弱々しいけど正しい勇気を持ったものの活躍を、しっかり描いていました。
これまで人間を拒絶してきた妖怪側から使者をだし、ためらいつつもその手を取った今回の描写は、物理的な危機を乗り越えると同時に精神的・倫理的な強さを強調するものでもあり、そこら辺は主役たちと強く響きあう部分です。
もちろん物理的にド派手なピンチの描き方も怠けているわけではなく、というかそういう物質的で具体的な恐怖や破壊が描けていればこそ、抽象的で精神的な勝利の価値も説得力が出んだけどさ。

そういう意味ではおはなしの最初と最後に『結界のリングに白面を引きずり込めば、とにかく戦闘的には中間チェックポイント通過だ!』と強調してくれる今回の演出、凄く分かりやすくてよかった。
今回のようなキャラクター総出演の総力戦は、戦いの規模がデカくなりすぎて焦点がぼやけることがあるんだけど、『結界のリング』という具体的な目標に向かって押し引きする構図を作ることで、キャラクターの努力や生き死にの値段を図りやすくなっているのは、とても良い。
物理的に距離が離れていても参加できるってのがミソで、大型キルリアン振動機を守り切った博士たちの行動も、紅蓮を倒して余計な横槍を入れさせなかったヒョウさんも、全て『結界のリングに白面を押し込む』というミッションのための大事な犠牲としてまとめられているのだ。
無論この一本化は話を平板にしてしまう危険もあるんだけど、個々のキャラクターが背負ったドラマを真正面から受け止め、熱い血潮を通して描き切ることで、大きな目標に奉仕しつつ個人の人生を走り切るという、難しいバランスを取っているのだ。

そんな感じで大盛り上がりのクライマックス、尻尾とかもぶっ壊しつつ最終決戦・最終ラウンド突入であります。
色々すっ飛ばした部分の補完も無理なくやってくれていて、あと二話一体どう進めてくれるのか、期待が山盛り爆発寸前であります。
……うしおととらのクソダサアーマーだけは、何度見てもどうにかなんねぇかなと思わなくも無いけどね。