イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アイカツスターズ!:第11話『密着! 白鳥ひめの一日』感想

輝きたい衝動が胸のエンジンに火をつけるアニメ、一つの山を超えて次の山へ。
主人公ゆめの目指す具体的な目標、トップアイドルにして学校の先輩たる白鳥ひめを掘り下げるエピソードでした。
高潔で、落ち着きがあり、他人を思いやり、血を流す弱さと頼れる仲間を持ち、倒れそうになってもプライドを支えに起き上がる。
スターズの『アイカツの天井』はスターズらしく『普通』で、この話がどのくらいのスケールなのかも、ゆめが何処を目指していくのかも、くっきりと見えるお話でした。

ひめは明確に『アイカツスターズの天井』として設定されているキャラクターで、彼女の場所まで伸びていくことがすなわち、ゆめの成長物語になります。
逆に言えば彼女の書き方次第でスターズ世界は狭くも広くもなるわけで、彼女がどのような人間なのかしっかり定義することは、主人公がどこまで歩いて良いのか、物語の限度を定義することと同じです。
前回これまでの10話を総括しつつ、夢が積み上げていく成長とはどんなものなのかしっかりと示したタイミングで、成長を積んで目指す『天井』を具体的に描く話を持ってくる。
なかなか隙のない構成だと思います。

今回掘り下げられた白鳥ひめは、トップアイドルとして君臨するのに十分な説得力を持った、プライドと実力と優しさを持った女王でした。
頂点にいながらおごらない姿勢、他者に対する心くばり、全てを完璧に運ぶスマートさ……。
様々な美点を強調しつつ、『低気圧が来るとダウンする』という明確な弱点も描写し、それをS4の仲間に預けられる懐の広さも見せて、なかなか隙がない。
『白鳥ひめは、トップアイドル白鳥ひめである』というプライドが全ての源泉なのも、高潔さとハングリーさを両立する、良い描き方だったと思います。
綺麗な部分とギラギラした部分両方が描かれてて、ゆめが憧れ、目指したくなるキャラクターを自然と描けていた印象です。

今回のエピソードで見えてきたのは、ひめの優秀さと同時に、二面性のない自然さだった気がします。
完璧な仕事ぶりも、他人を気遣う姿勢も、何も考えないで発揮される才能だけではなく、不断の努力と強い意志で維持されている、彼女の第二の天性でした。
ゆめが今回の話の中で思い違い思い直すように、白鳥ひめは天才であると同時に努力の人であり、血を流さない偶像を必死に演じる、等身大の人間でもある。
ともすれば綺麗すぎると受け取られかねない、穢れのないプリンセスのようなひめのキャラクターが彼女の『自然』なのだと、しっかり示せたエピソードだったと思います。

『一日マネージャーとしてトップアイドルに密着する』という話の構造自体は、無印第3話『あなたをもっと知りたくて』以来の伝統ともいえますが、今回書かれたのは神崎美月とは大きく異る、スターズらしい『アイカツの天井』でした。
白鳥ひめは苛烈なストイックさを持ちつつ、それを他者に強要してお話を牽引することもないし、まだ序盤のこの段階で弱った姿を見せ、彼女もまた傷つき血を見せる人間であることを強調していました。
アイカツの天井』が四人に分割され、努力と事故鍛錬のファンタジーとしてお話を成立させる縛りを解いたスターズは、当然の事ながらアイカツとは別の牽引役が必要とされます。
強さも弱さもあり、独孤ではあっても孤高ではないひめの姿は、彼女がこの『普通』の話をどこに引っ張っていくのか、視聴者によくわからせた気がします。

明確な弱点を見せることで、『ここを突っつけば倒せて、トップアイドルになれる』という物語の終わりを示唆できていたのも、なかなか面白いところです。
成長物語において『憧れのあの人』は、苦しい努力坂を追い上げるためのモチベーションであり、いつか追いつき倒すことでその成長を描写する、一種のトロフィーです。
『低気圧が来るとダウンする』という描写はひめの『完璧すぎるアイドル』という鎧を壊し、共感が滑りこむ隙間を開ける人間味の描写であると同時に、『ゆめはひめをこれで倒す』という伏線でもあるのでしょう。
ラストライブは雨かなぁ……終わった後は虹がかかるのかなぁ……。(手早い妄想)


ひめの掘り下げをメインにしつつ、ほかキャラクターにも目配せした展開はなかなか良かったです。
マネジとして間近にトップアイドルの現実を見て、己の道を確認するゆめの姿は、前回夢のスタートラインに着いた彼女がどこに、どのように向かえば良いのか、しっかり示唆を与えていました。
彼女が主役である以上スターズは彼女の走る道に沿って語られるわけで、彼女のロードマップが明確になることは、視聴者が何を見ているのか、迷わなくて良いことに繋がります。
そういう意味でも、スターズがどんな話であるかしっかり示せたと思う。

そしてそういう物語全体のことだけではなく、ひめとゆめの優しい交流がしっかりあったのは、とても良かった。
ようやくアイドルのスタートラインに着いたばかりのゆめには、当然ひめの代わりは務まらないし、ハンドマッサージで緊張をほぐす程度のことしか出来ない。
でも、たとえ小さなことでもゆめには出来ることがあって、そういう小さな真心をひめはけして見落とさない。
ああ言う血の通ったシーンが、今回のように狙いがハッキリしているエピソードにあるのは、なかなか強いことだと思うのね。
トップアイドルと一日マネージャー、後輩と先輩、憧れと未熟という立場が生んでた距離が、あの瞬間体温を感じる間合いに縮まるダイナミズムが良いのだ。

カレー屋さんでファンと交流するシーンは、第10話で彼女が踏んだスタートラインが、同時にアイドルとしての第一歩でもあるという力強い描写でした。
こうやって一つづつ努力を積み上げ、説得力を出してこそ、ゆめが叶えるべき夢には感動が伴ってくるし、第10話の出来が良かったからこそ、ゆめが小さく報われるあのシーンは視聴者的にもありがたい。
主役の決断が社会にどういう反響を産んだのか、話数をまたいで描写する目の良さは、長尺のお話ではやっぱ大事ですね。


ゆめとひめを繋いでいるのは憧れだけではなく、学園長が『あの力』と呼ぶトランス状態もそうです。
実力不足の鈍亀をトップアイドルのレベルに引っ張りあげている、一種のチートにゆめが疑問を感じているアバンは、巧く視聴者の気持ちを主役に重ね合わせるシーンでした。
『あの力』故にゆめは主人公として必要な贔屓を得られるんだけど、そこにゆめの努力と意志が介在していない以上、視聴者にはどうしても釈然としないものが残る。
そういう感覚を話しの都合で置き去りにするのではなく、しっかりとキャラクターに感じさせ、言語化させ、今後の展開の足場に使っていたのは良かったですね。
今回のエピソードで間接的に、『持って生まれた無意識の才能ではなく、努力と意志がアイドルを造るのだ』と語ったことで、『あの力』周辺も上手く立体感が出てきた気がします。

理事長の横車も、お話を展開させるために必要な要素でありつつ、視聴者的には首をひねるポイント。
今回ひめの脆さを描写したことで、理事長が過剰なプレッシャーをかけてくる理由が何となく推察できるようになったのは、とても良かったです。
単純に学園経営の問題としてひめの脆さを問題視しているのか、はたまたひめの脆さを人として気にかけ、それを補う(もしくは成り代わらせる)ために焦っているのか。
そこら辺はまだまだ分かりませんが、後者だと良いなぁ。
視聴者の感じるヤダ味をひめが代弁しつつ、ゆめにコンタクトする足場として使っていたのも巧い捌き方でしたね。

メンター役としては山口さんが非常にいい味を出してきていて、プロとして自分の仕事を徹底しつつ、アイドル一年生として現場に不慣れなゆめをそれとなく導く動きは、スムースでクールでした。
ゆめに構い過ぎるでもなく、仕事に徹しすぎて無視するでもない、良い距離感を保っていたと思います。
S4に教師にとメンター役が多いアニメなんですが、今回個別のキャラクターが見えたのと、『学園外部での仕事』という領域は山口さんの独壇場なんで、グッと存在感が出てきました。
最初にゆめに興味が無い描写をしておいたおかげで、アイドル虹野ゆめがどうやって人の心を掴むのか、身近なテストケースとして機能もしてるしね。


と言うわけで、アイドル姫様ひめパイセンの一日を追いかけ、彼女の強さと弱さ、優しさとプライドをしっかり見せる回でした。
ひめにしっかりフォーカスを合わせることで結果的に、スターズ世界全体とか、スタートラインに立ったゆめとか、仕事人山口とか、いろんな事を多角的に切り取れる。
商店がハッキリした話はこういう効果が出てくるので、やっぱり良いですね。

何より単純に、これまでふわっと可愛い姫様だったひめの色んな顔を見たことで、彼女を好きになれたのが良かった。
痛みを感じ血を流しつつも、『トップアイドル白鳥ひめ』にプライドを持って凛と立つ姿は、非常にスターズらしい『アイドルの天井』でした。
やっぱ潔くて格好良い女の子はいいなぁ……ガーリーなんだけどハンサムなのが良いのよ、ウン。