イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない:第12話『レッド・ホット・チリ・ペッパー その2』感想

弓と矢を巡る奇妙な因縁も、ついに決着ゥゥゥウッ!!
たっぷり時間を使って濃厚にお送りする知略とパワーの殴りあい、ジョジョ四部第12話でございます。
強敵"レッド・ホット・チリ・ペッパーズ"を相手に、二転三転する戦況がたまらない戦闘あり、アニメになって火力を増したギターギャグあり、満足感の高いお話でした。
承太郎はパーフェクト人間なのに、未熟な青年たちに見せ場をしっかり譲り、状況を整える程度に動きを抑えているのが本当に巧いなぁ……。

元々そういう側面が強いアニメですが、今回は特に『未熟』と『成長』がお話の軸にあったと思います。
小指を折られて本気になり、高速モグラ叩きを破られて本気になり、最後の最後で維持を見せた音石。
先週は失敗した『選ぶ』という課題を乗り越えて、自分なりに己のバカさと付き合う答えを出した億泰。
戦闘面ではクールにドララーしてた仗助も、顔も知らない父親とどう触れ合うべきか、自分なりの答えを出して前に進む。
高校生たちを主役に据えた第四部は、ジュブナイルとしての側面も強く持っており、戦いの中で成長し、戦いの外でも成長してく頼れる青年たちの姿が、キラキラ眩しかったですね。

敵が調子に乗ってぶっ倒されるだけでは終わらず、油断を引き締めて再び立ち向かってくる構成は、バトルの後にバトルがやってくる重厚な展開に繋がっています。
音石は仗助と同年代なので色々隙が多く、弱みを晒しては気を引き締め直し、成長したと思ったら慢心してそこを付かれるという、『成長する敵役』です。
油断を捨て去り、精神面で新しい力をつけて立ち向かってくる強敵とのバトルは、見ている側も気の緩みを許されない緊張感があるし、新局面を活かすバトルアイデアも、モグラ叩きにコールタール、パンパンのタイヤと非常に豊富。
"クレイジー・ダイヤモンド"の『治す』能力の応用性も含めて、まさにスタンドバトルの醍醐味という濃厚な戦いでした。

今回の話は緩急の使い方が見事で、億泰に完勝して調子こき、本体を晒してしまう音石の傲慢を文字通り叩き折る仗助の一撃とか、そこから何故かギターソロに持っていく可笑しみとか、脳みそをギュンギュン左右に揺さぶられる感覚がたまらなかったです。
動きがついて音が出ると、殴り合いから一気にギターソロに飛び込んでいくシーンの落差がほんとすごくて、そのくせ演奏シーンの作画は気合い入りまくりで、『レフトハンド奏法』が無言で出てくる所とか最高に面白かった。
スポットライトとステージを、スタンド能力に頼らず幻視させてしまう辺り、音石のギタリストとしての才能は圧倒的に本物なんだろうなぁ……腐れスタンド犯罪者としては、何の役にも立たないけど。
これがただのギャグシーンではなく、油断のならない強敵が気を引き締めたシーンとして、バトルを支える描写になってしまうのがジョジョの凄いところだと思います……系譜としては二部のエシディシやね。


あまりに狼狽えた結果、スピードワゴンバリの解説役を担当している康一くんに比べ、仗助は常にスーパークールで冷静な頭脳派です。
今回も戦い自体ではあまり成長した様子を見せず、地力で勝る"レッド・ホット・チリ・ペッパーズ"の特性を見抜き、罠にハメて完勝する凄みを見せました。
そんな彼も『一度もあったことがない父親』を前にしては等身大の高校生で、康一にグチたれたりする可愛い側面もある。
それは狡猾とも言える戰場の知恵(歴代主人公でこれが一番冴えてるのが、実の親父であるジョセフってのが面白いけど)では解決できない、ナイーブでシリアスな人生問題なわけです。

結局仗助は自分の悩みに真正面から向かい合い、照れつつもジョセフの手を取って一緒に歩くことにする。
康一くんが言うように、それはスタンドという『非日常』の力では解消しきれない、小さくて当たり前で大切な、人生の決断なわけです。
誰の人生にも訪れるこういう決断を、選ばれた証であるスタンドに頼って『非日常』に引き寄せるのではなく、生身の東方仗助一人に悩ませ、選ばせ、成長させるのは、キャラクターがなにか特別な問題を解決しているのではなく、あくまで視聴者と同じ『日常』の悩みを生きているのだと思わせる上で、凄く大事なことだと思います。

もちろん"レッド・ホット・チリ・ペッパーズ"という『非日常』の脅威の前には、スタンドという『非日常』の力以外では立ち向かえないし、そのバトルが血沸き肉踊る楽しいものだということも、前のシーンで見せている。
しかしその特別性は、キャラクターが為すべき一番大事な決断、『日常』の決断を左右することは出来ない。
むかっ腹が立った時暴力を行使してしまうかとか、困っている人を助けられるかとか、自分の気持に素直になれるかとか。
誰しもが突きつけられる『日常』の決断には、超常的な『非日常』の力を手に入れたスタンド使いたちも、己の魂と向き合った誠実な答えを出さなければいけないわけです。

逆に言うと『日常』の決断の重さに耐え切れず、それを『非日常』的パワーで押しつぶそうとしたことこそが、音石やアンジェロといったスタンド犯罪者が『悪』の一線を越えてしまった大きな理由なのでしょう。
レッチリとのバトルで見せたように、『非日常』のパワーを適切に行使し、『悪』を止める戦いをすること。
ジョセフとの対峙で見せたように、『日常』の普遍的な決断をキャラクターに突きつけ、誠実さで答えを出すこと。
一見対立する『非日常』と『日常』のバトルがしっかり両立され、一つのエピソードの中で出てくる構造の堅牢さは、ジョジョがエンタテインメントとして必要な『特別さ(bizarre)』と『普遍性』を兼ね備えた、優れた『活劇(Adventure)』であるとよく証明しているように思います。


自分の問題をスタンドを使わずに解決したのは、悩めるおバカ・虹村億泰も同じです。
前回"ザ・ハンド"の力で『悪』の一線を越えかかった億泰ですが、今回はバカなりに悩み、生身で音石を殴り飛ばす活躍に至ります。
『殺す』か『殺さないか』という選択に悩んで敗北した億泰が、今回は『殺さない』まま音石を殴り、ジョセフを『守る』という結末を掴み取れたのは、彼の人格的成長を表していてグッドです。

億泰はこれまで、形兆というあまりに大きな人格の影に隠れ、自分の『決断』を避けてきました。
そんな彼が仗助と出会い、初めて『殺さない』という決断をしたことで彼の運命は大きく別れ、今生き残って康一くんとキャイキャイバカバカ言い合うこともできています。
しかし未だに兄貴の影響は大きく、死してなお(もしくは死んだからこそ)偉大なる形兆兄貴に頼ってしまう弱さが残っている。
形兆を殺した憎き仇を『素手で殴り飛ばした』今回の結末は、彼が自分の中の憎悪に決着をつけただけではなく、『殺す』ことを選んでしまった兄とは違う道を選び、その影から胸を張って飛び出していく覚悟を、行動で示したものだと思います。

支援型スタンドの康一くんは、優秀なスペックを誇るレッチリ相手にはあまり役に立っていませんでしたが、超早口かつ的確な実況が面白すぎたのでオッケーです。
コールタール作戦を無言で伝え合う信頼とか、遠慮無く『バカ』と言い合える億泰の距離とか、三人組の心の距離がだんだん近づいていってる描写がイキイキしてんのも、四部で好きなところよね。
お互いピンチを乗り越えるたび強く近くなる絆の描写は、危機を前にしてへし折れないバトルの足場にもなるし、日常を楽しむ土台にもなるし、主役側を応援したくなる共感の素地にもなってるからなぁ……。
やっぱ『あ、なんか良いな』と思える自然な関係性、ありふれた日々の素晴らしさを切り取る描写力は、バトル描写に勝るとも劣らないジョジョの強さだと思う。


と言うわけで、『奇妙』なんだけど心躍る『冒険』でもあるという、ジョジョの強みがギュッと詰まったエピソードとなりました。
敵の油断ってのは力関係を切り崩す大事な突破口なんだけど、それを活かして流れを作るだけではなく、味方と同じように成長させてバトルを進化させていく土台に使うっていうのは、本当に良い。
当たり前なんだけど、戦闘シーンの緊張感やワクワクってのはお話見る上で大事で、それを造るために色んなアイデアや手管を盛り込んでいるジョジョはいい作品だなぁと思います。

アンジェロから始まった弓矢を巡る冒険も、音石を確保して一段落……と思いきや、不穏な空気で映しだされた謎の男ッ!! 女の手首から迸る赤い血ッ!!!!(いや、規制で黒いけどさ)
まだまだ終わらない『日常』と『非日常』宿命の対決が、今後どこに走っていくのか。
きっちりやりきってくれるアニメスタッフへの信頼感を増しつつ、2クール目が非常に楽しみです。