イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

12歳。:第12話『ハナビ』感想

リアルスタイルなガチンコ胸キュン体験を提供してきたアニメも今週が最終話……と言いつつ、タカトミの情け容赦ない販促がブッ込まれるエピソード。
ファンシーで胸キュンな作品展開と、キッチリ立てられた業務計画が融合した女児アニ特有の地獄を最終話で実装するという、ある意味作品の成功を感じさせる展開でした。
再放送と二期が世間にガッツリ刺されば、奴隷が足につけてるアレを世界中の12歳。がありがたがる未来が……やってくんのかなぁ?
タカトミがどんだけ絞る気かってのは、

12歳。 |商品情報|タカラトミー

とか見るとよく分かる。

とは言うものの、お話の展開としてはいつもの12歳。というか、高尾先生は相変わらず余裕で、花日は幼く、男子はウザく、心愛ちゃんはよりウザく、胸きゅんでスロモでワウワウでキラキラでした。
僕は最終回だからと云って特別なことをせず、これまで積んできたシリーズを信頼して『いつもの』をやるお話が好きなので、今回の落ち着いた展開はとってもグッド。
『イケメン道を極めると、自然発光すら可能になる』というシャイニング高尾みたいに、尖った演出もあったしな。
基本的にこのアニメの演出はオーソドックスでオールド・スクールなんだけど、回数重ねるごとに"味っ子"の食リアクションめいた過激化が加速していて、二期最終回辺りでは『高尾がイケメン過ぎて、花日が心停止する』位のことはやりそう。

メインは幼い花日と大人な高尾の恋愛模様でござんして、アホどもの妨害にご立腹なベイビーちゃんを手玉に取りつつ、浴衣から覗くうなじにDOKIッ☆ミみてーな展開でした。
高尾と花日の関係は真ん中のブランコのシーンでよく象徴されてて、あくまで高尾が後ろで見守って、横に並んでブランコ漕いだり、一緒の場所に立ったりはしないんだよね。
『基本的には行動の権限を男に預けつつ、イノセンスな爆弾で時々ハートをぶっ飛ばしてみてぇ。自分がラブ天使で特別な存在だって、ピュアな恋で証明してー』という乙女のめんどくさい欲望を完全に叶える構図であり、花日はズリーなーとか思った。
高尾がスーパースペシャル小学生であればあるほど、被保護者である花日の行動は失敗しなくなるし、イケメンマシーンに唯一胸キュンを感じさせられる花日の価値も高くなってくしな。
こういうあざとい欲望充足装置としての完成度を誇りつつ、キャラクターの柔らかい心情はちゃんと描写して、完全な物語装置にはしないバランス感覚がね、12歳。は良い。

体重を預ける恋愛は花日に任せて、隣り合って成長しあう恋は結衣&桧山が担当。
リアル系主人公らしく、彼氏の生活空間を共有して距離をさらに縮めるという、ファンタジー色の薄い恋愛ムーブをしておりました。
母を失った結衣が誰よりも早く彼氏の家族と接触し、母に認められる展開が手早く進むってのも、なかなか面白いね。
まー結衣ちゃんは色々しんどい立場なので、家族ぐるみで彼氏に支えてもらえる状況が育っていくのは、見ていて楽しい。
スーパーイケメンに手綱を握ってもらって楽しいコトいっぱいなスーパー系恋愛と、等身大の12歳。として苦くて硬い人生をパートナーと乗り越えていくリアル系恋愛が両立してんのは、12歳の強みだな。
多様な主人公を用意して視聴者のニーズに応えるってだけではなく、『恋』の色んな側面を二人の主人公によって別角度から切り込んで、キャラを維持したまま多面性を出せるからね。


サイドキックたちもいつもの動きであり、妨害装置たちは思う存分圧力をかけてきて、まりんちゃんは誘導役だった。
自分自身の体験として恋をアドバイスするのではなく、『お姉』からの又聞きで二人を導くまりんちゃんは、『世間一般的にはこういうことをしておけば恋』というステレオタイプを、主人公たちに導入する役割でもある。
『恋って胸キュン、素敵で個人的な体験!』と看板では言っておきつつも、社会的規範や『普通』からはみ出すことを恐れる視聴者に『まぁ、これが普通のコースですよ』と『定番』を差し出し、ためらいを消す仕事もしているわけだ。
『思うように振る舞いたいけど、孤立はしたくない』という矛盾した消費者心理にしっかり応える辺り、まりんちゃんマジ仕事できる。

まりんちゃんのガイダンスから始まって、想定外のアクシデントが起こって、それを乗り越えることで掛け替えのない『二人の体験』が生まれるという類型が、このアニメにはある。
ここら辺も欲望充足と物語のバランスを取る手管で、類型的な『定番』を差し出すことで固定したニーズに答えつつ、そこからはみ出すことでキャラクター個別のドラマが組み上がっていくよう、良く考えられている。
何事も形から入るものであり、『まぁ、恋ってこういうもんですよ』という外形を差し出してくれるまりんちゃんは、主人公だけではなく消費者にも『これやっておけば恋』という安心を与えてくれているのだ。
そして形から外れること、『定番』を崩したり無視して自分らしさを出すことで、人格は段々と成熟していく。
そう考えると、な~んのムードもない風呂掃除で絆が深まってる結衣&桧山は、世間一般で言われる『定形』から外れた個人的な経験を、じっくり積み重ねているという意味で既に大人なのだろうな。


そんなわけで、胸キュンラブストーリーもとりあえずのおしまい。
僕はメインターゲットたる12歳。女子ではないので、ヒネた目線で構造解析とかしつつ、そこからはみ出した奇妙な真心などを楽しく味わせてもらいました。
ホントねー、建前の奥に隠された本音をしっかり受け止めて、見てて楽しく気持ち良い体験を消費者に届けるための工夫が、山盛り積まれたアニメだった。
むちゃくちゃ勉強になった。

読者が作品に向かい合うとき、真摯で欲得のない気持ちと、エゴまみれの欲望は矛盾なく両立していると思います。
人生の規範として高潔で人間らしい物語を求めつつ、『現実には出来ないけど、こうだったら良いなぁ』『こういうことがしてぇなぁ』という欲望を滾らせる心持ちは、フィクションを読む/消費する行動には必ずつきまとう。
お話は真っ当で健全でよく出来た物語を組み立てると同時に、代理行為で欲望を充足したいから時間やお金を注ぎ込む消費者心理を満たす、商品としての仕事と無縁ではいられません。

12歳。は花日と結衣という二人の主人公を用意し、それぞれ異なるリアリティレベルで展開する2つの恋物語を追体験させることで、広範なニーズによく答えていました。
『はー、おもっくそファンタジーな胸キュン体験してーなー』という視聴者の欲望をバカにするのではなく、全力かつ徹底的にベタに『胸キュンな恋』を追いかけることで、欲望を満足させる仕掛けを張り巡らせる。
『恋』にまつわる様々なステロタイプや、『普通』を再生産するがゆえにその内側に入るととても安心できる構造を巧みにストーリーに盛り込み、恋に興奮させつつ帰属意識で安心させるのを忘れない。
その計算高さとプロ根性に、(色々歪んだ意見行ってきたので説得力は薄いですけど)僕は敬意を持っているのです。
いやマジ大事だって、見終わって『あー面白かった、良い気持ちになった』って思えるの。

そういう一種ポルノ的な類型をしっかり固めつつも、12歳。という年齢が持つ複雑さ、一個人として少年たちが果たすべき責務についても大真面目に戦ったのは凄く良かったです。
だんだん他人や世界との距離感が変化してきて、体も性成熟を迎え、何がどうなってんのかわけわからないけど、わけわからないなりに子供時代とは違う経験、違う決断を積み重ねていく時代。
胸キュン体験と並列して、もしくは青春の掛け替えのない出来事の一つとして、そういう血の通ったエピソードが挟まるのは、とても良かったです。

上から目線の説教でも、ただ欲望に追随するだけの恋愛ポルノでもなく、楽しさと尊さを両立させた見事なエンターテインメントとして、よく出来たお話だったと思います。
キャラもしっかり立ってたしなぁ……僕は桧山が特に好きだな。
三ヶ月後の再開を楽しみにしつつ、今はおつかれさまとありがとうを。
良いアニメでした。