イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

プリパラ:第101話『キタ! 神アイドルグランプリ!』感想

区切りの100話が終わると101話目が流れてくる系大河アイドル群像劇、今週は初の神アイドルグランプリ。
とは言うものの、ステージが三回も挟まるんで話を展開させる部分は少なめなんですけどね。
二年分の蓄積があるソラミとドレシを同着で飛び級させ、無理のあるトライアングルを解体、のんちゃんを1アイドルに戻すお話でした。
クール終わりのピークに見えて、実は残り九ヶ月のための土台作りだった気がするなぁ。


プリパラは合計100回、二年間の長い物語を語ってきました。
必然的に主役たちは様々な成長や勝利を積み上げてきており、その立場も物語が始まった時の『全く未知の経験に仲間と挑み、かけがえの無いものを見つけていく新人』から、『実績と経験を積み重ね、明確な価値判断軸と知恵を手に入れたベテラン』へと、姿を変えています。
ジャンルとしてはコメディなので、成長一切無し、もしくはある程度の話数ごとにリセットを掛けてもいいものですが、プリパラはそうはしない。
様々なトモダチとの出会いも、ファルルの死と再生も、ひびきとの衝突も、(まぁ完璧に乗りこなしてるとはいえないけど)無駄にせず、確かにあったものとして尊重し、らぁらたちは成長していきます。

積み重ねた物語が無駄にならないのはとてもありがたいのですが、それは同時に、どんどん積み重なった既知が物語を広げる余裕を奪っていく、悩ましい問題と直結しています。
初めての勝利を描いてしまえば、二度目以降の勝利は『ただ勝つ』という描写では足らず、別の意味を持たさなければいけなくなる。
一度友と衝突しそれを乗り越えてしまえば、同じテーマの物語を展開することはすなわち、そのキャラクターを『過去から学ばないバカ』として描くことになる。
僕らの希望を載せてらぁらたちが快進撃を続けることは、キャラクターと物語が飛び続ける燃料が喪われることと、ほぼ同義語になります。

続けば続くほど摩耗していく物語に対し、作者は様々な手段を講じて、燃料を継ぎ足します。
なんどでも語る価値のあるベーシックなテーマを選んでみたり、語り口を変えてみたり、これまで語られなかったキャラクターの要素を探したり、変化や成長それ自体をテーマにしたりして、語り続ける強度の物語をどうにか探し、物語が終わることを避けようとする。
お話の決着ではなくコンテンツの都合がシリーズ全体の舵を取る女児アニでは、特にその傾向は強いと思います。

ジュルルが三年目で導入されたのも、これまでメイン消費者層に親しい『子供』としてそのアイデンティティを掘り下げられてきたアイドルに、『赤ん坊』という弱くて自分側が歩み寄らなければならない『他者』をぶつけることで、新しい困難と成長を描くためでしょう。
これは二年分のストーリーがあればこその展開でして、らぁらたちはアイドルとしていろんな経験を積んだからこそ『赤ん坊』を背負う余裕と実力が生まれたし、『親』として誰かの面倒を見る立場は、トップアイドルに上り詰めファンの憧れを背負うアイドルととしての立場と、強く呼応しています。
蓄積があって初めて受け止められる要素をしっかり選び、これまで見えなかった魅力をしっかり引き出してきたジュルルは、長く高く飛び、それ故色々ガッタガタなプリパラに必要なキャラクターなのだと、ぼくは思うわけです。


今回、トライアングルが役割を終えました。
多重アカウントと全自動Botというズルすれすれの手段を取る彼女たちは、らぁらたち『姉』に必死で追いつこうとする『妹』であり、トップアイドルが既得権益を占拠している現状に殴り込みをかける挑戦者でもあります。
それはかつてのらぁらたちと同じ立場なんだけど、二年分の重荷を背負うらぁらには担当できない不可逆の立場であり、同時にプリパラの公平性と真剣さを担保するためには、絶対に必要な立ち位置でもあります。

今回のエピソードは、アリバイ証明のごとくシオンとみれぃがバチバチする、ちょっと懐かしい光景から始まりました。
それは『神アイドル』という頂が見えて取り戻されたハングリーさではあるんですが、同時に二年間仲良くトモダチを続けてきた彼女たちには、真実の意味でリアルな課題足り得ないテーマでもあると思います。
彼女たちが本気でキャリアを積み上げる時期は、終わってはいないとしても結構な昔で、階段を上がっていった結果、本当に底辺からのし上がる熱さや勢いは、どうしたって取り戻すのが難しい。
二期後半は積み上げたキャリア自体をセレパラによってぶっ壊し、ここら辺の勢いをもう一度取り返すという手管を使っていましたが、今回は別キャラクターに背負って貰う形で担保させています。

今回ソラミスマイルとドレッシングパフェが同着で勝利し、本戦へのシード権を手に入れたことで、彼女たちは最早神アイドルを巡る闘争に参加しなくて良い立場になりました。
それは主役たちへの贔屓というよりも、『親』であり『母』であり『姉』である、二年分の物語で鍛えられた足腰で『弱者』を背負う側になった彼女たちを、不似合いな戦場から外していく運動のように、僕には見えました。
主役六人の同着勝利はすなわち、追いかけ、追い越し、追い抜いていく必死の物語は、『子』であり『妹』である世代-今回負けたのんちゃん、選ばれなかったガァルマゲドン-が背負うのだ!という、未来に向けた宣言だと僕は受け取ったわけです。


トライアングルの破綻も、相当な無理を重ね、本来の自分ではないスタイルで戦っていたのんちゃんを自然な立場に戻し、より強い力を発揮できる準備をしたように見えます。
『過度な計算や不自然さは、あまり好ましくない』という価値観は、例えばみれぃやひびきのこれまでの物語を見れば分かるように、プリパラの根底を流れるものです。
今あるがままの自分を素直に認め、そこからしっかり積み上げていく自分らしい成長の価値をこれまで語ってきたからこそ、ホログラメーションとAIプログラムの虚像を一度壊し、じゅのんでもぴのんでもかのんでもなく、真中のんそのものを実体化させたのではないか。
姉たちが既に歩き、そこに僕たちも確かに心を寄せた『みんなトモダチ、みんなアイドル』の物語をのんちゃんにも体験させるために、肥大化したエゴを剥ぎとって『私も仲間を探すわッ!』と力強く宣言できる場所に、彼女を解き放ったのではないか。
今回の敗北は、僕にそんなことを考えさせます。

実力と経験の不足、一人でやりきろうとするスタイルの無理、ファン目線での計算の限界。
今回の敗北は同時に、これから勝つ方法を教えてくれる貴重な経験のはずです。
タフな精神を持ち、負けにグツりつつも敗因を分析する知性も、努力を実直に重ねて夢を引き寄せる根性も持ってるのんちゃんの姿は、僕らは既に見ている。
というか、1クール使って描写されたトライアングルそれ自体が、真中のんという新しいアイドルがどんな子であるか見えるための、一種の歪んだ鏡だったとも思えます。

妹大好き人間であり『みんなトモダチ、みんなアイドル』の体現者であるらぁらがどれだけ誘っても、のんちゃんとウサチャはその手を拒絶し、あくまで挑戦者の立場で『姉』たちを追いかけることにこだわります。
それはキャラクターが持つ最後のプライドを大事にした展開であり、同時に彼女たちがこれから展開する物語は、『トモダチ』になってしまえば展開する場所を失う物語だという、シビアな認識に支えられているのです。
ハングリーに上を目指し、プリパラが遊戯であると同時に競技でもある危ういバランスを担保するべく、のんちゃんはまだまだ姉の慈悲を受け取る訳にはいかない。
僕はそんな彼女の誇り高い姿勢と、彼女が背負うだろう物語に尊敬と期待を抱く。
プリパラはまだまだ面白くなると思える、良い負けでした。


とまぁグランプリについて語ってきましたが、個人的な好みとしては全てが終わった後、真中姉妹&ジュルルが夕日の街を帰っていく風景が、一番良かった。
ペーソスあふれる作画も良いんですが、これまであまり掘り下げらなかった『姉』としての真中らぁらの魅力が、のんちゃんのキャラが立つことでぐっと見えてきた感じがあって、すんごい胸にぶっ刺さったんですよね。
お姉さんたちに混じってトップアイドルをやっている時のらぁらは、その純粋さと直感力を活かし、常に『正解』を掴む主人公を担当してきました。
でも今回、のんちゃんの文句を受け流しつつ、後ろで見守りながら帰る彼女はまさに『姉』でして、みれぃやシオンに守られていた『妹』としての彼女を良く知っているだけに、意外だし同時に納得も出来る、不思議な暖かさがありました。

あのシーンが妙にしっくり来るのはつまり、真中家だけではない普遍的な『家』の魅力をこのアニメはずっとしっかり描き、それを視聴者に伝えるのに成功しているからだと思います。
見守り見守れられ、導かれ追いつこうとする『姉』と『妹』の風景。
個人を超えて普遍的でありながら、同時にらぁらとのんの関係でしかありえない見事な表現の中に、新しい『家族』としてジュルルが背負われていることもひっくるめて、あのラストシーンは本当に良かった。
らぁらがのんちゃん好きすぎ人間であることもたっぷり伝わってきたし、賢いのんちゃんがどれだけ姉を想い、だからこそ追いつきたいと願っているのか、そして信頼して心を預けているかも、良く見えた。
これまで脇役を務めていた真中のんが、1クール分の蓄積を活かして本当の自分に羽ばたく回の終わりに、ああ言う描写があるっいうのは、独り立ちをはじめたのんちゃんが実は絶対に一人ではないという優しさを強く感じさせて、控えめに言って最高でしたね。


というわけで、グランプリに対してリアルなモチベーションを持っているのんちゃんを描き切ることで、グランプリ自体の値段を上げていく回でした。
結局キャラクターのドラマと絡み合わせることでしか、物語の中のイベントは存在感を発揮できないわけで、それを負けたのんちゃんにしっかり背負わせたのは素晴らしかったです。
グランプリを戦う事自体にはあんまリターンがない主役組を、ぱぱっと一抜けさせた手際もグッド&ナイスでした。

二年間の長い物語をはしる中で、色んなモノがガタピシ言いはじめ、燃料も少なくなってるプリパラ。
そこに必要な物をしっかり用意し、描写を強め、一話一話楽しませつつ先を見据えた展開をする。
普段パワーの有る狂いっぷりで流されがちな、計算高くクレバーなシリーズ構成の巧みさ、そして上手さで終わらせない熱量をしっかり感じることの出来る、クール終りとなりました。
此処から先どのように物語が伸びていくのか、本当に楽しみですね。