イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

甲鉄城のカバネリ:第11話『燃える命』感想

ブレーキのぶっ壊れた世界ではブレーキのぶっ壊れた生き方をするしかないゾンビ・アポカリプス、今週は男たちの終局、そして。
美馬様は親父をぶっ殺して賢者タイムに入り、無名ちゃんは取り返しの付かないデストロイモードへ、そして生駒は貫筒アームを装備したフルアーマー・カバネリマンへと。
さくさくと状況が転がって、後は主役の命をかけた決戦だけッ! という状態に一話で持ってきました。
いやー、やっぱ主役が動くと話が動くなぁ、つくづく。


後半の展開を牽引しつつ停滞させていた美馬様ですが、彼のオリジンたる父将軍がようやく喋り、ぶっ殺されていました。
恐怖に押し流され他人を信じ切れない臆病者っぷりは息子にそっくりで、『クズって遺伝すんだな、ハハッ!!』ていう印象。
血の繋がりがない生駒&無名兄妹が意思を奪われてもお互いを思いやってるのに対し、本当の親子だろうと性根が腐っていれば殺し殺されするという、中々ろくでもないルールを体で表現していました。

美馬は生駒の対立存在であり、生駒が背負う物語的正論に泥をぶっかけ、踏みにじることで価値を上げる仕事を持っています。
両者とも過去に家族を喪失することで心に傷を受けたわけですが、生駒は誇りを奪われたからこそ『今度こそ、俺が誇れる俺になる!』という決意で奥歯を噛みしめて前に進み、美馬様は『クソオヤジを世界ごと殺す。でも本当は、パパンに優しくして欲しかった……おヒゲでジョリジョリしながら、明雄ボイスで耳から妊娠させて欲しかった……』という、ドロドロした感情に決着を付けないままここまで来た。
美馬は生駒になれたかもしれない過去を持ち、そしてわざわざゴミクズ以下のゾンビテロリストとして生きることを選んだ、『間違えた主人公』なわけです。

恐怖の扱いに関しても二人の男は対照的で、知恵と勇気で甲鉄城の蒙昧を晴らした改革者・生駒に対し、美馬は陰謀と嘘を加速させ、恐怖を伝染させるアジテーターです。
世界を覆うカバネ自体は殺しきれないにしても、その真実をまっすぐ見つめ、共同体や己の精神を変化させていくことで、昨日より少しマシな生き方が出来るということは、生駒と甲鉄城が証明してきました。
美馬は今回、将軍を殺して金剛郭の政治体制を揺るがすだけではなく、その事実を歪めて広げることで混乱を助長し、無秩序なカバネ世界を人類の防衛権に拡大させています。
カバネと同じく無知と恐怖も感染するわけですが、この疫病を自在に扱う美馬は、カバネという病が人の心に及ぼす影響とも戦ってきた生駒とは、正反対な存在なのでしょう。

狩方衆が掲げる『弱肉強食こそ世の習い、カバネ世界こそ真実』という題目を、美馬自身は信じていません。
彼が臆病者の小物でゴミクズ人間で、言行が一切一致していない一番の弱虫だってのは、ホロビとのやり取りや無名への扱いを見ても分かります。
思い切って女の体にカルマを預けるくらいのダメっぷりまで突き抜ければ、支えてくれた女はいたというのに……でも結局、世界道連れにして手に入れたいのは、取り戻せるはずもない父親との思い出だからな、どうにもならん。

将軍をぶっ殺し金剛郭をぶっ壊すという念願を果たしても、美馬様は感情を爆発させるでもなく、虚しい表情をしていました。
帰る方法がない過去をどうにか思い切れば、自分の本当の望みにも素直になれていたんでしょうが、美馬はそういう人間ではなく、だから世界を道連れにして自殺する。
引き起こされている惨劇のスケールに対し、その原因は『自分の心の始末をつけれない』というどうにも小さく弱いものであり、ここら辺も精神お化け人間・生駒との対比なんでしょうね。
それ自体は基本にして王道なんだけど、コントラストつけるのにこだわり過ぎて美馬が矮小化し、それに引っ張られて話が足を止めてる感じは受ける。


そして闇の美馬に対抗する光の主人公……だったはずの生駒は、しばらくのチキンフェイズを乗り越えて、命を燃やす決戦形態に変化していました。
うーむ……『取り返しの付かない場所に踏み出す覚悟ッ! もう帰れない優しい場所ッ!! さらば揺籃の日々ッ!!!! 燃えるわー!!!!!』ってなれればいいんだけど、これまで生駒が積み上げてきたもの、ここで生駒が手放したものがあまりに大きくて、カタルシスがある展開のはずなのに苦い。
そもそもカバネ世界で生きること自体が苦いことなので、生駒がそこに回帰したと見れなくもないけど……この割り切れない感じを狙って出しているなら、なかなか凄いな。

生駒はこれまで、殺しの技術を知らない、造る側の人間でした。
自分自身をカバネリに変え、貫筒を発明し、新型弾頭を甲鉄城にもたらし、社会構造を変革させ、無名ちゃんの乾いた人生に目標を造ってきた。
全てが奪われていくカバネ世界のルールが世界に満ちているからこそ、諦めず、殺さず、みんなを結びつけ技術や知恵を積み上げていく生駒の生き方は、ただ殺す無名ちゃんの生き方よりも強く世界を変えてきたわけです。

しかし今回、生駒は『美馬を殺す』と明言する。
人の役に立ち、いのちを守る道具を造ってきた腕は、カバネとカバネ以下の人間を殺すための武器に変わってしまって、逞生が幾度も付け直してくれた理性の象徴である眼鏡も、闇の中に置き去りにしてしまう。
黒いワクチンで加速したのはカバネ化だけではなく、『造る・繋ぐ・積み上げる』というこれまでの生き方に背を向け、『殺す』という生き方を選択する覚悟でもあるのでしょう。
今回その底を露呈した美馬の虚無、彼が操るカバネ世界の虚無に、生駒が接近した、と言い直すことも出来るね。

美馬の行動が彼の弱さと孤独に根ざしているように、生駒の決断は彼の生き様に直結しています。
美馬を殺すのだって無名を守るのに必要だからだし、チキン状態から立ち上がったのも、心を失った無名がまだ自分を愛してくれていると確信できたからです。
カバネに取り囲まれ死を目前にした状態でも、去りゆく共同体に己を刻むことを考えていた男は、破滅に向かうとしてもそれは『誰かのため』であり、美馬のように『自分のため』だけに世界を心中相手に選びはしない。

その決断を強く尊いものだとは思っても、どうしても支持できないのは、やっぱこれまで描かれた生駒の生き方が魅力的だったからだと思います。
ハードコアで他人を切り捨てるしかないカバネ世界(美馬のアジテーションで理性を失った金剛郭で、その姿が再演されていますけども)において、どうしようもなく失敗した過去に囚われず、それを糧に変えて前に進み、『誰かのため』に歯を食いしばってきた一人の技師の生き方は、やっぱり歴史の教科書に乗るくらい立派です。
その行き先がどうなるかは来週に為ってみないとわからないけど、生駒がそういう立派なものに覚悟を込めて背中を向けたのは、やっぱり僕にはどうにも寂しい。
それだけ大きなものを捧げるからこそ、カバネ世界の厳しさは証明されるし、そこを乗り越えようとする生駒の意志も説得力を持つってことなんだろうけど……やっぱいいやつには生き残って欲しいよ、俺は。


生駒を立ち直らせ、ある意味追い詰めたとも言える来栖ですが、今回の説得は彼の実力に裏打ちされた、とても良いキャラ表現だと思いました。
凄腕の侍として殺しの技術に長けた彼が、無名の一撃の裏側について語るのは適役だし、来栖自身もこれまでのお話しの中で変わったのだというのがよく見えて、グッと来るシーンでした。
『髷』というサムライの象徴、階級のフェティッシュを切っていたのも彼の変化が分かりやすくなるいい演出だった……後の生駒の断髪にも繋がるしね。
『俺が生駒を腐すのは良いが、他人が生駒を腐すのはゼッテー許さねぇ』というストロングなツンデレ漫才もしっかりやってくれて、まぁあれだけのサバイバルを一緒にすれば当然情も湧くよねっていうね、ウン。
しかし『無名に嫌われた……もうダメだ……』ってなった後、『無名は俺を嫌ってない!? まだお兄ちゃんLOVEでお兄ちゃん助けてってこと!? うぉおおお、腰抜けブッコイてる場合じゃねぇ、人間やめて妹HELPだ! 黒いワクチンよこせ!!!』って吹き上がる生駒兄ちゃんのシスコンっぷり、マジスゲェ……そんな生駒がSUKI……。

今回地味に腑に落ちたのは、甲鉄城の使い方でした。
あれだけ盛大に反逆かまして、クソ人間集団である狩方衆がなんで放置してんのかなーと疑問だったんですが、菖蒲様に取り方を演じさせることで、金剛郭に滑りこむ策に必要だったのね。
ここら辺の事情を巧く前回・前々回に分散して描写してくれてれば、『なんか美馬様の策スムーズに生き過ぎじゃね? 周囲のIQが低下する固有結界でも持ってんの?』とかいう、意地の悪い感想も持たずにすんだ気がするけど、主役側が生き残るロジックががないより良いね、全然。


と言うわけで、最終決戦に必要な筋道を整え、主役が帰るか細い橋を燃やして落とす回でした。
これで後は『戦って勝つ』だけで話が終わる状況が生まれたわけで、なかなか良いまとめ方だったと思います。
自分の過去を変革の力に変える生駒と、自分の過去に縛られて世界を道連れにする美馬の対比構造も明確になったしね。

僕はカバネリの社会的な所、人間が技術や知恵を駆使して、恐怖や蒙昧という伝染病になんとか対抗しようとする啓蒙的な所が、とても好きです。
荒野でカバネと戦い続ける中で、その意味は生駒の生き様と一緒に的確に描写され、お題目を叫ぶだけではない物語の魅力を、作品に与えてきました。
今回生駒が見せた覚悟はそれに背中を向ける行為なんですが、その根底にあるものもまた、生駒の優しさと強さです。

人間と獣の間で迷ってきた生駒は、人間で居続けるために己を獣に変える決断をしました。
彼が守りたい女の子は、自分の意志を奪われ怪物と同化しつつあります。
『文明の象徴たる都市が、カバネに飲み込まれ荒野と化す』という第1話のシチュエーションを忠実になぞり、物語の始まりに帰還しつつある最終回。
これまでの旅路を総括するクライマックスには、どんな結末が待っているんでしょうか。
……楽しみだけどさー、やっぱ生駒死んじゃ駄目だよマジよー……安易に『正気取り戻した無名ちゃんと、畑でお米作って二人でモグモグエンド』で良いよマジよーあいつら可愛くて良い奴らだからよーマジよー!!!
……最終話、大変楽しみです。