イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

クロムクロ:第12話『黒部の夏に地獄を見る』感想

ロングアームとの死闘を終え、心にまた一つの区切りがついたクロムクロボーデン軍曹の青春ブートキャンプな第12話。
ロボットに乗らないいわゆる繋ぎ回なんですが、『定番をきっちりやり切る』というこのアニメの強みを最大限に発揮し、見ていて気持ちの良い特訓回となりました。
やっぱこういう話数の使い方は、余裕を感じられて良いなぁ……ともすればダルくなるんだけど、感情の乗った芝居が面白いから、色んな表情を見るだけでワクワクしちゃうのよね。

今回のお話しはトレーニングを通じて由希奈が『戦場』に近づいていくお話ですが、同時にパイロット組の絆を深める話です。
一ヶ月という長めの時間を共有し、同じ場所で寝て同じメシを食うことで距離が縮まっていくという手法は、これまで剣之介と由希奈が同居生活の中で積み上げてきたものと同じ。
『戦場』で必要な関係を作るためには、実は『戦士』として『戦場』で時間を共有するだけではなく、『平和な現代』で『ただの人間』としての素顔を晒し合う経験が必要なのだ、っていう文法は、これまでの幾度も強調されてきたところですね。

敵襲の心配がないトレーニング・デイを共有することで、主役だけではなく各パイロットたちの顔も、良く見えてきました。
特にシェンミィさんのマッサージシーンは、無愛想な彼女が隠している優しさがコミカルでセクシーなサービスに巧く乗っかって、とても印象的。
PAの気合の入った作画で、油断した普通の女子高生ボディが玩弄される様を楽しめたことに、今マジで感謝って感じでした。
由希奈のぶよぶよボディを強調して『特訓しなきゃいけない理由』を絵で教えたり、由希奈を完全には受け入れきれないソフィーの距離感をだしたり、作劇的に良い仕事しまくりなシーンではあるんだけど、すんごく背徳的でエロスだった……素晴らしい。
悪口雑言を撒き散らすボーデンさんと同じで、シェンミィさんも誤解されがちな優しさ持ってて良いわよねあのコンビ……。

赤城は初日で足を挫いてリタイアする無様っぷりでしたが、まだまだ気持ちは折れない模様。
由希奈が『戦場』との付き合いを体で覚えていくのに対し、空回りして置いていかれる赤城を対比させることで、成長を見せるってところですかねぇ。
一人だけ私物のジャージで参加してる時点で、『戦場』サークルに入れてくれない運命が透けて見えるというか……逆に言うと、剣之介や由希奈が色んな服を着るのは、様々な状況に歩み寄っていく姿勢の表れでもあるんだな。
彼が空回りするたびに剣之介が由希奈との距離を縮めていって、差がどんどん拡大していくのが哀れというかなんというか……。
足を挫いたことでパイロットへの正規入学を拒まれた感じもありますが、今後赤城がどういう役割を背負って存在感を出していくのか、だんだん気になってきました。
日常をエンジョイするクラスメイトとは違って、自分なりに張り切る姿には少し好感も生まれたし……どう見ても道化だけど、まぁ頑張れ。


訓練のシーンではセバス・シェンミィの『本職軍人大人組』、剣之介・ソフィの『訓練を受けた青少年組』、赤城・由希奈の『ド素人甘ったれ組』が、非常に明確に分けられていました。
ここら辺の線分けがしっかりしているのは、クロムクロガウス・通常兵器が『勝てる相手・勝てない相手』を明確に演出して、それぞれの見せ場を作っているロボ戦の演出に通ずるものがあります。
このグループ分け、サムライという特別な設定を持っている剣之介をトップに置きたくなるところですが、職業軍人と青少年に明確な線引をして、『勝てない奴には勝てない』というルールを崩さないのは、非常にクロムクロらしいところです。
過去にも突っかけてきた剣之介を、セバスが余裕でいなすシーンがありましたが、責任と時間を積み上げて手に入れた経験は、タイムスリップしたぐらいでは中々突破できない、ということなのでしょう。

ボーデン軍曹のタフなシゴキによって、カエルみたいに無様にピョコピョコしていた由希奈はしっかり体力を付け、剣之介に引っ張りあげられるだけではない力を手に入れていきます。
それはこれまで頭や感情優先で適応していた『戦場』に、身体を近づけていく過程です。
第7話で見つけた『モニター越しの死』と、前回フスナーニに突きつけられた『生身の死』への反応が違ったように、1クール分の話数を使って受け入れた『戦場』はあくまで精神的なものであり、それに体を追いつかせるのが今回のトレーニングなのでしょう。
銃という『殺しの道具』に怯えて目をつぶっていたのが、最終的にはしっかりと使いこなし、なんとか的に当てるところまで行っていたのは、彼女の精神と身体が合致し始めたことを示してもいるわけです。

赤城を置き去りに剣之介と由希奈はイチャコライチャコラ、モテモテ罪で逮捕したくなるくらいにラブラブしており素晴らしかったです。
由希奈が頼れる剣之介にときめくように、剣之介もだんだん由希奈相手に赤面するようになってきて、二人共好きなオッサンとしては徐々に縮まる距離に大・興・奮って感じです。
二人の主人公がバラバラな所から始まり、お互い歩み寄り時には衝突して、段々と関係性の階段を上がっていくドラマを丁寧に追いかけてくれてること、このプロットを丁寧な感情表現を積み重ねることで実体化していることが、僕がクロムクロ好きな一番の理由なんだろうなぁ。
訓練シーンの苦しみ方が真に迫っているので、そこに手を差し伸べてくれる剣之介の有り難みも、皮膚感覚でビシっと判るのが特訓回の良いところですね。

今回の話しで由希奈が剣之介と距離を詰めていくのは、由希奈が『戦場』での体の使い方を学習していくのと、強い関係があります。
剣之介は『戦場』を常とし戦う以外意味を見つけられなかった『戦士』であり、今回体に叩き込んだアレソレは具体的な技術であると同時に、剣之介のメンタリティを構成する『戦場』の疑似体験でもあるわけです。
汗だくになって走り、着衣で溺れかけ、『殺しの道具』の使い方を覚えるごとに、由希奈は『戦場』の存在である剣之介を理解していく。
これが胸キュンイベントと同時にやってくるのですから、そらー二人も仲良くなるわな……赤城ー!! お前マジ勝ち目ミリすらねーぞ!!!!

由希奈が剣之介と『戦場』に歩み寄るように、剣之介もまた由希奈と『平和な現代』に歩み寄っています。
剣之介は過去に惹かれつつも今を必死に生きようとする好青年で、その姿勢は英語や携帯電話といった『平和な現代』の象徴を使いこなす姿からも見て取れます。
この『平和な現代』への歩み寄りも丁寧に描写を積み重ねていて、最初はカレーもテレビも知らなかった剣之介が、今ではGPSを使いこなし、由希奈を導く側になっている。
そういう歩み寄りがあればこそ、基地の面々も彼に親しみを覚えて電気首輪を外し、ムクロブレードも返却するわけです。
その時『その力は、自殺するための力じゃないゾ!』と釘を刺す由希奈と、真心を受け取って誓いを立て直す剣之介が優しくて強くて、僕は大好きです。


朗らかムードで進む訓練地獄ですが、国連の査察官は相変わらず疑念混じりの監視を続けていました。
ここで彼らを強調してるってことは、剣之介のアウトサイダーっぷりは今回全て解決されたわけではなく、もう一度おはなしの主題として取り上げられるタイミングが来るってことなんだろうなぁ。
『人間が本来的に持っている断絶と、そこを乗り越えようとするコミュニケーションへの意志』ってのは凄く太いテーマなので、何度掘り下げてもいいと思います。
同時にそこを強調しすぎて剣之介が受け入れられないのもストレスなわけで、偽モルダー&スカリーとして疑念を外部化したのは、巧妙なテクニックよね。

由希奈が『戦場』に親しむ中、クラスメイトたちは思う存分『平和な現代』を謳歌していました。
疎開を描写して『戦場』が『平和な現代』に忍び寄っている様子は描いてるけど、スケベコスプレを堪能し、GAUS水遁の術を見学に来るくらいには、まだまだ日本は大丈夫な感じね。
とはいえ彼らの平和は、前回命を狙われたのに気付いていないカルロスの親父さんのように危ういものであり、どう転がっていくか予断を許さないところです。
それを守るために、由希奈もブートキャンプ頑張ったんだけどね。

と言うわけで、頭で決めた決断に体を追いつかせつつ、ちょっと距離のあった人たちが仲良くなるエピソードでした。
こういうお話をじっくりやれるクロムクロの話運び、やっぱ好きだなぁ俺。
戦士たちの意外な素顔を堪能しつつ、歩み寄りというテーマも骨太に描写され、非常に満足度が高いお話でした。
来週はドリルの成果を活かす戦闘が開始しそうですけども、一体どうなるんでしょうねぇ。
楽しみです。