イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ふらいんぐうぃっち:第12話『魔女のローブと日々は十人十色』感想

ロックンロールは鳴り止まないッ!!
ヒロサキ・アヴァンギャルド・ウィッチテイルもついに最終回、ローブと祭りとヘンテコ生き物のお話でした。
これまでどおりまったりと日々を歩きつつ、物語の中で出会った人々を再確認したり、新しい挑戦と出会いがあったり、ちょっと達成感のあるスペシャルなイベントを最後に用意したり。
これまでのテンポとペースを忘れず、しっかり満足感の終わりに仕上げてくれた、良い最終回でした。
期待を構えて腰を落としたところに、ドンピシャで想定以上の球が来るってのは、やっぱ最高の気分だな。

最終回ということで、これまでの物語を総括し思い返すような展開が、新しい筆致で描かれていました。
犬養さんや那央が顔を見せるキャラクター的な広がりもそうだし、『布を買いに行く』という日常的風景から始まって、どんぎょという新たなワンダーと交流しする展開も、『魔法』と『日常』が隣り合いつつ対話する、このアニメらしい流れでした。
前回はクジラという『魔法』からパンケーキという『日常』に変化したので、今回は布地という『魔法』からどんぎょという『魔法』に変化する形に変奏したのかねぇ。

全体的なトーンはいつものようにゆったりしてるんですが、今回は真琴が方向音痴に挑戦したり、千夏がローブという魔女の象徴を貰ったり、どんぎょという新しい不思議と出会ったり、『新しい挑戦と出会い』が目立つ回でした。
これは最終話だから味の濃い要素を急に持ってきたというわけではなく、そもそもこの話がひっそりと『新しい挑戦と出会い』について語る物語だからだと思います。
弘前にやってきて、畑作りや新しい友人関係、新しい家族と出会い、その輝きを大地にしながら受け入れてきた真琴。
日常に滑り込んできた魔女を受け入れ、目を輝かせて『魔法』という新しい出会いに飛び込んでいった千夏。
彼女たちを取り巻く人達もまた、今回のように優しく柔らかく『新しい挑戦と出会い』を受け入れてきました。

けして声高に叫びはしないけどこのアニメは確かに成長の話であり、それをまとめるにあたって『新しい挑戦と出会い』を少々目立たせた、というのが、今回の構成なのでしょう。
彼女たちの成長は派手なイベントとしてマーキングされるわけではないし、そこに流れている感情も明確に言語化されうわけではないけれども、そのストイックで精密な表現だけが可能にする、細密なリアリティというのが確かにあるわけで。
『まぁ、だいたいこういう感じだ。こっちに出来うる最高の素材はちゃんと揃えて並べたので、キミたちで感じ取ってくれ!』という創作姿勢は、最後まで健在だった気がしますね。


もう一つ目立って見えたのは、言葉が通じない動物たちとの繋がり。
元々僕は『アニメーション化された動物』というのがとても好きなので、毎回楽しく見させてもらったわけですが、今回はチトさんは細やかな猫ムーブするし、どんぎょは不思議可愛い生命体だったし、大満足でした。
モノ言わぬ禽獣と心が通うシーンは見てて心がほっこりするし、人間以外が持つ活力をアニメに引き込む力もあるので、動物や植物が生き生き描けていたのは、このアニメにとって凄く良かったんだろうなぁ。

空飛ぶクジラにしてもどんぎょにしても、桜井声の春の使者にしても、このアニメは異物に刺激を受けつつ、過剰に驚いて排斥することはありません。
目の前のワンダーをあくまで『日常』の延長として己の中に繰り込み、その驚きを活力に変えて自分の『日常』を小さく確かに変えていく靭やかさが、この作品とキャラクターにはたしかにありました。
どんぎょとの酒盛りは、新しい客人を喜んで向かい入れる作品の姿勢を巧く取りまとめていて、チャーミングでロジカルなシーンだったと思います。
つーかお酒が入ると色が変わって、人懐っこくていたずら好きなどんぎょは可愛かったのう。

あとアレだ、基本淡白なこの作品に油っけを足していた、女体のフェティシズムとエロティシズムが今週も元気であり素晴らしかった……真琴の黒ストとか、お姉ちゃんの重力に負けて垂れ下がる襟ぐりとか。
『魔法』に対するのと同じく、大声で騒ぎ立てないんだけど確かに『こいつぁプレシャスだぜ……』という熱意を感じる上品なセクシーで、俺はこのアニメの女体描写が本当に好きだった。
お姉ちゃんと犬養の隠微なオーラもムンムン出てたしなぁ……ホントあの二人はお酒の勢いでわーっと一線超えちゃってそうな気配がしてて素晴らしい。

ラストにねぷたという祝祭を持ってくるのも、起伏の薄いこの話らしい盛り上げ方でした。
さーすがにカロリーオーバーになるからか静止画でしたが、なにか盛り上がるイベントをあくまでサラッと描写して、軽やかさと盛り上がりを両立して終わるのは非常に『らしい』しめ方。
魔法的なイベントではなく、現実の青森に存在する非日常、参加可能な『魔法』であるねぷたを持ってくるのも、『魔法』と『日常』が穏やかに共存し、お互い響きあう姿を描いてきたこのアニメとしては、ベストなチョイスだったと思います。
長く付き合った物語と一旦お別れする以上、なんかイベントは欲しいけど大騒ぎするのは『らしく』ないっつー、難しいバランスを綺麗にまとめたなぁ。

 

と言うわけで、ふらいんぐうぃっちもひとまずのお仕舞い。
初見では『魔法要素を入れた"よつばと"』とかナメたこと言ってましたが、撤回します!
"ふらいんぐうぃっち"は完璧に、"ふらいんぐうぃっち"だけが可能なやり方で"ふらいんぐうぃっち"でした!!

振り返ってみると、静謐でストイックなトーンを常時維持しつつ、日常の暖かさや可笑しみを大事に描いてくれた空気の良さがまず出てきます。
いくらでも派手にできそうな『魔法』という異物を、大声で騒ぎ立てるのではなくしなやかに受け入れて、その輝きを『日常』に取り込んでいく姿勢。
キャラクターにも作品全体にも、そういうストイックかつポジティブな姿勢が徹底されていて、非常に気持よく見れました。

アニメにおいて静けさはレイアウトと美術で表現するものだと思うのですが、そこら辺一切ぬかりなく魅力的な世界を描き切ってくれたのは、本当にありがたい。
何しろイベント自体には起伏がないわけで、キャラクターを取り巻く世界に肌触りを宿らせ、緊張感を維持したまま温度を出さないといけない作品なんですが、そういう難しいことをサラッとやってました。
身近で不思議な弘前がちゃんと魅力的に、『ああ、ここに行ってみたいな』と思えるような場所として描けていたのは、本当に良かったと思います。

肩肘張らない作風はキャラクターにも生きていて、ゆったりと弘前の風を楽しみつつ、魔法も含めた日常の輝きをみんなで共有する姿が、とても光っていた。
魔女たちは可愛く優しく魅力的で、それを取り巻く世界も大人も圭くんも、ちゃんと自分らしさを持ちつつ他人を受け入れる余裕を持っていた。
お互いがお互いを尊重する優しさと強さがあれば、とても豊かな世界が実現すんだなぁと視聴者に実感(説教ではなく!)させてたのは、本当に稀有なことだと思いますよ。

基本的にはサラッと流される魔法が、しかししっかり不思議な出来事としての魅力を放っていたのもとても良かった。
ふわりと舞い上がる浮遊の気持ちよさ、結界の中の喫茶店、空をとぶクジラの遺跡、土を泳ぐ魚、喋る猫。
このアニメの不可思議は、優しいキャラクターたちがそうしたように自分から受け入れたくなる魅力に満ちていて、日常と魔法が溶け合うでも譲りあうでもなく、お互いの居場所を行ったり来たりする作風に説得力をもたせていました。
なんていうかな、手で触りたくなるんだよね、このアニメの魔法……実在しないものに手触りを与えるのって、やっぱなかなか凄いことだと思うんだよ、僕は。


エブリデイ・マジックを肩肘張らずに描き切った、ファンタジーアニメの傑作として。
新しい環境に少女たちが馴染み、日常の中の輝きを見つけていく物語として。
人と人、人と魔法が出会い繋がっていく、豊かな人間関係のお話として。

色んな側面を豊かに含みつつ、静謐な日常コメディとしてしっかりまとめられた、非常に優れた作品だと感じました。
巧く出来ているだけではなく、『アイツら楽しそうだな、一緒にいたいな』という気持ちを、自然と視聴者に抱かせる『好きになれる』アニメなのが、何よりも偉いね。
ふらいんぐうぃっち、良いアニメでした、ありがとうございました。