イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

甲鉄城のカバネリ:第12話『甲鉄城』感想

長く続いた和風スチームパンクゾンビアポカリプティックスタイリッシュアクションサバイバルも、ついに最終回!
美馬をぶん殴り、無名ちゃんを正気に戻して生駒も生存、甲鉄城の人生という物語は続くッ! という、思いの外生存者の多いエンディングとなりました。
まぁ無名ちゃんも生駒も生きてて良かった良かった、ホント良かったなぁ。
モチベーションの地ならしを前回済ませておいたおかげで、アクション、アクション、またアクションな畳み掛けで温度もバッチリ上がりました。
いやー、良い最終話だった。

終わってから全体の構図を見返してみると、カバネという『意志や知性、勇気という精神的人間性のない存在』に人間が近づきつつ、あるいは美馬のようにカバネと同質化し、あるいはその誘惑を退けて人間として生き延びるという、ゾンビをテーマにした作品らしいヒューマニックなお話でした。
この世界の倫理は強烈な全体主義と生存主義に支配され、人間は人間らしく生きることが許されていないわけで、いわば世界そのものがカバネに噛まれているわけです。(その姿は最終話冒頭と、第1話でよく強調されている)
そんな世界に飲み込まれず、人間らしい精神性を高く掲げて、甲鉄城という『疾走する社会』を改革していった生駒が、カバネリという『人間とカバネ』の中間的身体を持っているのは、中々良く出来た所です。

カバネの持つ暴力性は黒いワクチンを打った生駒のように、カバネの思想に人間を同調させると同時に、カバネに対抗しうる力になります。
それを善導しうるのは常に人の知恵であり、カバネ化するのを止めた全自動首吊り装置にしても、カバネに対し有効な武力となった噴流弾やカバネリブレードにしても、技師である主人公が象徴する冷静な知恵がカバネの暴力性を抑えこみ、人間として生きるための武器へと変化させたフェティッシュなわけです。
『高速で走る蒸気機関車=城』という魅力的なモチーフにしても、甲鉄城のように主人公たちのホームとして暖かく描かれたり、暴走する狂気として主人公を轢き殺そうとしたり、二面的な描かれ方をしています。
暴力性とそれに怯える臆病さを主人公たちに対比させ、時にその誘惑に接近させることで主人公たちの叡智と勇気、人間らしさを強調していく劇作は、常にこの作品を貫いていました。

そういう目線で見ると、『美馬ぶっ殺す!!』で凝り固まった最終話の生駒は、最後の試練を与えられていたのかもしれません。
あくまで技師であり、人間を侵す無人格な災害『カバネ』と戦ってきた生駒が、赤い血を流す沙梁を『お前は殺しすぎた』と呟きながら殺すのは、なかなかにショッキングなシーンでした。
無軌道な殺意というのは人間ではなくカバネの特徴であり、人間とカバネの中間存在でありながら誰よりも強い心を持っていた生駒を、極限的に追い込むことでもう一度『人か、カバネか』を問い直す状況を作ることが、ここ2話くらいの物語の仕事だったと思います。
そのために無名ちゃんを奪い、逞生を殺し、腕を切り落とし、徹底的に美馬への殺意が高まるシーンを積み重ねてきた来た結果、生駒がカバネの淵に落ちかける今回は、なかなか緊張感がありました。

美馬との決戦で動きが止まるシーンは、普通に黒ワクチンの限界が来たとも取れるし、水面鏡に写った『カバネと同じ自分』に戸惑い、歩みを止めたようにも見えます。
臆病さに目を曇らせ、真実を見ない愚かさと戦ってきた生駒が、美馬憎しの感情に押し流され今までの自分を否定するようなシーンに、しっかり『鏡』を置いてあるのは、非常にこのアニメらしいシーンでした。
あそこで憎しみに任せて美馬を殺せないのは、徹底的に『活かす』存在として描かれていた生駒最後の戦いとしてとても良かったし、オヤジをぶっ殺した後は自分や仲間も『殺す』しかない生駒の虚無とも綺麗な対比になってたしね。


ラスボスとして生駒を映す『鏡』を担当していた美馬様は、最後まで対象的な存在でした。
妹を救えなかった人生のやり直しという個人的領域を超えて、全世界的な倫理を取り戻す戦いに挑む生駒のスケール感に対し、己の中の孤独や挫折を全世界的破滅として拡大させ、沢山の人間を巻き込んだ臆病者の美馬。
対比としてはよく分かるんですが、それまで生駒の器のデカさをしっかり描写できていた分、
美馬の小物っぷりに話全体が引っ張られ、終盤停滞した感じは否めません。

しかし、将軍の息子という『大きな』立場にありながらあくまで個人的感情に固執し、弱く臆病な人間としてカバネに引き寄せられる美馬の描き方は、これはこれで徹底していたように思います。
生駒が醜い己の姿に歩みを止めたのとは対比的に、そろーりそろりと背後から近づきバックスタブを狡猾に狙う美馬様の姿は、無様でもありおかしくもあり、彼らしい人間臭さに満ちていました。
カバネさん達みたいなはっちゃけたヒャッハー感がなくて、悪い意味で人間らしい計算高さが徹底されてる辺り、超度胸人間だった生駒とホント対照的なんだな。

生駒がカバネに引き寄せられたように、美馬様も己の『鏡』である生駒に惹きつけられていました。
苦しい敗北にしっかり決着を付けて、それに人生を引っ張られるのではなく、勇気を持って前進していく足場に出来るような存在。
自分のように破滅に世界を巻き込んでいく臆病者ではなく、殺ししか知らない『牙』を十二歳の女の子に戻し、獣のルールに支配された甲鉄城を人間の生きる場所に戻し、後ろ向きな死ではなく前向きな生に向かって、歯を食いしばって足を進めていく存在。
カバネを殺しながら気付けばカバネが腐ったような最悪の人間になっていた美馬様でも、否、だからこそ、自分と正反対の生駒に惹きつけられ、期待を寄せてしまうという心の揺れは、今回よく描写されていたと思います。
ここがしっかり描けないと、白いワクチンで生駒大復活の流れが生まれてくれないからな、大事だよな!!(結局生駒が大事マン)

生駒が誘惑に打ち勝ち『活かす生き方』を手に入れた存在(ラストシーン、殺す武器である蒸気筒が左手から外れているのは良い演出です)であるように、美馬様も人間として生きる道を捨て去り、崩壊する金剛郭に押し潰されて舞台から退場します。
カバネに満ちた世界で人間らしく生きる細い道を勝ち取った主人公たちとはやはり対比的な終わり方で、その小物っぷりと身勝手っぷりは横に置いて、なかなか興味深い『弱さ』だったなぁと思います。
生駒が心身ともに『強い』存在なので、生駒では描ききれない『弱さ』を美馬に担当してもらった、ということなんだろうなぁ。


そういう意味では、美馬が象徴する『殺す弱さ』を振りきり、生駒が代表する『活かす強さ』を最終的に選んだ無名ちゃんは、二人の男の間を行き来するラブコメ的ヒロインだったのかもしれません。
いや、このラブコメヒロイン恋人候補自分の手でぶっ殺してるけどさ……あとわりとワンサイドゲームだった気がするけどさ……。
お話の展開上、もしくは視聴者の共感上、無名は美馬を切り捨て生駒と甲鉄城の側に帰還しなければいけないわけですが、そのシーンに血潮がちゃんと通っていたのは、彼女が好きな視聴者としてはありがたかったです。
美馬の返り血を浴びる展開を話の段取りではなく、無名という一人格が成し得た大事な決断だと受け止められたのは、とても良かった。
それはやっぱり、前半でたっぷりと彼女の魅力と危うさ、『強さ』と『弱さ』を両方描き、それをより良い方向に導ける生駒との出会いを描いてきた貯金が成し得たことなのでしょう。

『強さ』と『弱さ』の間で行ったり来たりする無名の運動は、なにも美馬という『弱さ』の象徴が出てから展開されているわけではなく、その前から描かれてきた運動です。
『この世界はそういうものだから、仕方がない』と諦めてしまう『弱さ』を無名はずっと持っていて、その諦めを踏破して手を伸ばす生駒の姿がフィルムのど真ん中にドドンと据えられて来たからこそ、このアニメはやっぱり面白かった。
そこがしっかり描けていたからこそ、無名の自由意志を奪ってもう一度『強さ』と『弱さ』の間で迷わせる美馬編の運動がクドく感じてしまったのは、なかなか痛痒いところですが。
でもいまいち絵としての圧力がかける無名ちゃんの心理的闘争を、赤の蝶々と蒼の蝶々で綺麗に見せた絵作りはスゲー良かったな。

ヒロインといえば、頼れる剣士にして最高のトス上げ装置・来栖もいい動きをしていました。
生駒が『弱さ』に引き寄せられる回だからこそ、「人か、カバネか!」という来栖の問いかけは大事な意味を持ってくるし、OP出だしのパワーを考えれば作中で絶対言わなければいけないセリフでもある。
『やっぱ無名ちゃんと仲良くなりすぎたからさ、菖蒲様拾いきれねーわ!!』という生駒のわがままを拾って、菖蒲様のラブコメ相手を担当するあたりも含めて、前回からの来栖の動きは最高のサイドキックでした。


『お前がカバネになったら、俺が殺してやる』という来栖の決意にしても、美馬の暴走を止めた無名の決断にしても、暴力が持つ肯定的な意味合いをちゃんと最終話で描いていたのは、とても良かったと思います。
暴力に満ちた世界はどうしても否定出来ないし、そこを乗り越え、『弱さ』の押し付けに抵抗するためには、どうしても制御された暴力が必要になる。
ゾンビ・アポカリプスという暴力的な世界を舞台にしているからこそ、暴力を飼いならし適切に使いこなすことの意味をラストでもちゃんと映像に焼き付けていたのは、首尾一貫していて素晴らしかったです。

暴力は何も武器からだけ生まれるわけではなく、人間を守るはずの共同体からも生まれます。
暴徒化する人間集団の『弱さ』もこのアニメは何度も描いてきたし、菖蒲様という共同体のトップがしっかりそれを乗りこなす姿も、最終回冒頭にしっかり収められていました。
菖蒲様はゾンビヒロインっぽくワーキャー騒ぐだけかと思ったら、オヤジの死や初めての戦いをしっかり糧にして将器を発揮し、生駒や無名が表現しきれない『強さ』をしっかり担当する、良いキャラだったなぁ……。
来栖にしてもそうなんですが、わりとダメダメなスタートポイントから成長を積み重ねて、『強い』存在に変わる過程が分かりやすいってのは、このアニメの凄く良い所だと思う。
成長のドラマが素直で見やすいんだよね、ヘンテコな裏切りも主役サイドには全然ないし。

生駒という強烈な主人公の物語でありつつ、同時に彼に影響されて変革していく甲鉄城の物語でもあったこのお話し。
最後に甲鉄城全体が生駒を受け止めるシーンで終わりになるのは、非常に象徴的かつ情緒的で、とても良かったです。
無名ちゃんが生駒をいつもの様に雑に扱うところも良かったし、それを『みんな』で受け止めて笑顔になる暖かさも非常にグッドだった。
来栖や無名が制御された暴力の意味を描いたように、『縫い物』という日常的な行動が最後の決め手になることで、暴力から人を守る共同体の『日常の力』が最終話でも描かれたのは、これまで描いてきたものを無駄にしない、良いラストでした。
つる下がってる干し柿とか、うろちょろするガキどもとか、甲鉄城がただの戦闘装置ではなく日常そのものでもあるのだと教える演出、このアニメ巧かったなぁホント。


というわけで、カバネリが終わりました。
カバネに満ちた人倫の荒野の、荒々しい説得力。
そこを知恵で切り裂いていく生駒の頼もしさ。
『強さ』と『弱さ』の狭間で揺れる無名の可憐さ。
世界と主人公とヒロイン、全てがタフで力強い作品でした。

負け犬であればこそ『俺の誇れる俺になる!!』という生駒の物語には熱い激情が通っていたし、狂気の世界で正気を貫こうと奮戦する姿勢は、思わず手に力を込めて応援したくなった。
『技師』という設定を設定で終わらせず、ただ戦う『強さ』の先にある『活かす強さ』の足場としてしっかり描いていたのも、とにかく良かったです。
生駒はとにかく応援したくなる良い奴なので、世界の厳しさに試されつつ、それがちゃんと報われて世界のほうが変わっていく展開が徹底されていたのは、非常に良かったです。

無名ちゃんは可愛かったね、うん。
第1話で鮮烈なスタイリッシュさを脳裏に焼き付けておいて、段々と十二歳らしい『弱さ』、『強さ』にしがみつかなければ生き残れない世界の残酷さを叩きつけてくるギャップの見せ方は、狙い通りズドンと刺さった。
生駒の物語が熱いので、その熱で心の氷を溶かしていく無名ちゃんのドラマもまた、ストレートでストロングな物語に仕上がっていたと思います。
やっぱ主人公とヒロインが太いお話しは強いなぁ……。

脇を固める甲鉄城の面々も、それぞれ独自の『強さ』を持っており、各々持つ『弱さ』を克服する物語もしっかり描かれていました。
強靭な主役たちに頼り切りになるのではなくて、彼らを別角度から照射しつつ自分の人生も走り切る脇役の魅力があればこそ、お話を好きになれた感じがする。
特に来栖は、登場当初の嫌なやつから最高に美味しいヒロイン兼任トス上げ役に変化しきっていて、お話を引き締めたナイス脇役だった。

カバネに満ちた残酷な世界、蒸気が乱舞する不可思議な情緒もしっかりと描かれていて、作品世界それ自体が非常に魅力的でした。
アクションシーンの圧倒的仕上がりも含めて、作画力がしっかり劇作の盛り上がりに貢献する、良い作り方だったと思います。
異世界が異世界として立ち上がってくることで、生駒たちの苦しみや勇気も本物として受け止められる部分が、多々あったと思う。
あとま、色んな面白ムーブをしてくれるカバネさん達に独特の魅力があったのも、とても良かった。

様々なフェティッシュをうまく使い、物語的なテーマや対比を絵で表現する演出もなかなか良かったです。
そういう無言のメッセージが巧く機能すればこそ、真正面からテーマを台詞で語るシーンが空々しく上滑りせず、視聴者の心に刺さるわけで。
カバネリ力に振り回される生駒に、逞生が眼鏡=理性をかけ直してあげる演出、何度繰り返されても好きだなぁやっぱ……。


勢いのあるハードコア加減で話を加速してくれたカバネさん達に比べると、美馬様はちと落ち着きすぎた感じのあるラスボスでした。
キャラクターの全てを生駒の影にすることで、生駒の生き様を照射するっていう狙いは判るんだけど、何分小物過ぎて彼が映るシーンにのきなみ爽快感が欠けていたのは残念無念。
甲鉄城が疾走することで物語自体にも速度が出、それが爽やかさと楽しさに繋がっていたカバネリですが、美馬に付き合って少しペースをスローダウンしてしまった感じも否めません。

しかし生駒が担当し得なかった『弱さ』を美馬がまとめ上げてくれたのも事実だし、彼を否定することでお話がしっかり収まるところに収まったのも、否定し得ないと思います。
その小物っぷりも含めて、なかなか良いラスボスだったんじゃないかなぁ……ちゃんと生駒と無名ちゃんも生き残ったしな!!!(結局二人が大事マン)
無条件に否定できるカバネに比べ、自分たちが追い求める『人間』でもある美馬は複雑な存在で、足を止めてちゃんと描かないといけないキャラだった、ってことだろうね。

甲鉄城のカバネリ、良いアニメでした。
速度と熱と勢いがたっぷりありながら、細やかな制御を忘れないというまさに蒸気機関車のような、パワフルなお話でした。
オーソドックスで真っ直ぐな主人公の物語を、可憐で悩ましいヒロインの物語を、(まぁ美馬様で軽くヨロヨロしつつも)しっかり走りきり、恥ずかしげなくハッピーエンドに導いたのは非常に良かった。
とても素晴らしいアニメでした、ありがとうございました。