イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アイカツスターズ!:第14話『真昼の決闘』感想

少女たちが目指す星の名はアイドル一番星なアニメーション、七夕にお送りするのは香澄姉妹
愛憎油地獄。
クール&スパイシーなツンツン少女、香澄真昼ちゃんが姉へのコンプレックスを曝け出し、自分がどんな女の子なのか教えてくれる回でした。
彼女の抱えるコンプレックスやハングリーさ、目標がハッキリある強さをしっかり描きつつ、ゆめからのアプローチを無駄にせず交流させ、しっかり人間関係のブリッジもかけるという、成田先生らしい手際の良い脚本でした。
追いかけられる側の夜空パイセンも、ただのシスコンではないハングリーな顔を見せてくれて、色んなキャラの魅力が引き出されていたと思います。

第8話以来の登場となった真昼ですが、前回は小春の壁役をやっていた彼女が今回は主役。
"アイカツプレデター"として猛烈な存在感を放つ姉に、強いあこがれとねじれた劣等感を併せ持つ、結構めんどくさい女の子でした。
愛していればこそ近づきたいし、足を止めて迎い入れたりしたらもうそれは憧れのあの人ではない。
多分小さい頃は相当お姉ちゃん子だったんだろうなぁと推測される愛情のねじれは、思春期っぽい尖り方で非常にキュートでした。
マジでなー、こじらせ姉妹百合最高かよって感じではあった。

比べられるのが嫌なら同じ舞台に立たなければいいわけで、わざわざ四ツ星の美組を選んでいるあたりで、真昼の姉スキーっぷりは見え見えです。
好きだからこそ追いつきたいし、同じ場所に並びたいし、手加減もしてほしくない。
彼女のクールでハングリーな態度は全て愛情部下さの裏返しでして、ケーキを食べたとの笑顔はその時急に手に入れたものではなく、彼女本来の美点を取り戻した、といえます。
『姉に追いつかなきゃいけない』という頑なさに支配され、本来の自分を見失っていた真昼が、ゆめの働きかけを受け止めることで原点に立ち戻り、一つの結果を出す。
真昼視点から見た今回の話しは非常にオーソドックスな成長物語の構造をなぞっていて、彼女がただのツンツン少女じゃない、とてもチャーミングな魂をした女の子だと見せる意味でも、非常にいい作りだったと思います。

ゆめからの歩み寄りを受け止めつつも、今回才能を認められ、努力を積み上げてステージに立つのは真昼一人です。
心を許せる仲間と出会い、アイドル道を走るサポートをしてもらっても根本的には一人という描き方は、彼女の美点であるハングリーさを強調する仕事をしっかりしていて、とても良かったです。
ゆめも認める『ハングリーで目標が高い』という真昼らしさを維持したまま、自分の為を思って手を差し伸べてくれたゆめ達を受け入れる過程が、心情を吐露し、ケーキを食べ、最初は拒絶した短冊に『願いではなく目標』を描く姿の中で、巧く描かれていました。
しかしハードなストイックさを表すために『瓦割り』という描写を入れてくるのは、なんともアイカツらしいというか……今後カラテ・アイドルで売ってくのかね、真昼ちゃんは。


スターズのキャリアメイクは非常にゆっくりしていて、アイドルなりたての一年坊主がすぐさまトップアイドル級の仕事を任されることはありません。
『アイドルの天井』であるS4≒夜空と、才能はあっても実績と経験がない真昼の間には歴然とした対応の差があって、晴れ舞台であるステージでも彼女たちは正面からぶつかり合うことはない。
あくまで夜空が真昼を迎い入れ、その才能に期待する構図は、スターズ世界全体のテンポをもう一度確認する、良いものさしになっていた気もします。

その上で、真昼の真っ直ぐな視線に夜空も刺激を受け、追われるものとしての義務を果たすべく、挑戦者の気概に火がついたチャンプとして、彼女もまた走る。
持って生まれた才能だけでも、S4という立場だけでもなく、真昼が今回見せた努力を夜空もしているからこそ、二人の距離はなかなか縮まないし、夜空は美組トップアイドルとしての地位を守ることも出来る。
『アイドルの天井』が感じている、追われる側の不安と恍惚、絶え間ない努力と仲間の支えの描写も、これまでのスターズ世界の文法をしっかり踏まえていて非常に良かったです。

ジャージに着替えるまでは、『妹に甘くて、余裕しゃくしゃくで、ファッションモンスターな憧れのお姉さま』という『これまでの香澄夜空』だったんですが、最後の最後でこれまで見せなかったハングリーな顔を見せてくれたのは、キャラの多面性を描写する意味で非常に良かったですね。
ああいう汗塗れの姿を見せることで、夜空もまた本気でアイドルに取り組む戦士なのだと見せることができるし、ハングリーさという美点が共通していることで、反目しつつ響きあう姉妹の姿も強調できる。
影である真昼をしっかり描写することで、コンパクトな尺で夜空のキャラを掘り下げることにも成功していて、非常に良かったと思います。

S4として、スターズのファッション番長として輝く夜空の『光』と、それに憧れつつ目を背け、どうしても引き寄せられる真昼の『影』は、明言はされないけれどもエピソードの根本をなす、大事なモチーフです。
曇り空を切り裂く光から登場する出だしから始まって、特訓シーンの陰り、スポットライトとバックステージの闇の対比、夜闇の迫るジョギングコースに灯る街灯と、今回は『光』と『影』を非常に意識的に使っていました。
未だ目立たぬ『影』から夜空を見つめる真昼の視線は、実は『光』の中で輝く夜空がトップを走り続ける最大の理由なのであり、そこら辺の主客の入れ替えを象徴する意味でも、紫色の夕暮れに街灯が灯るカットはすげー良かったな。
複雑な感情を込めてなお暖かい、姉妹の『光』と『闇』の入り混じりは今後も続きそうであり、さらなる物語に期待が高まるところですね。


そんなシスターズ・コンプレックスを横目に見つつ、今回はトス上げに専念していた三バカ一年トリオ。
主役を張らない気楽さからか、オフのゆったりした描写が多めで、こっちも普段見れない魅力が発掘されていた気がする。
なんつーかな、あの三人のゆるーっとした友情加減を見ていると、なんかホッコリすんだよね。

とは言うものの、悩める真昼の助けになろうと歩み寄り、彼女の美点をしっかり言葉にしてあげるゆめの良い奴っぷりは、緩いだけではない堅牢な主人公力に溢れていました。
他人を褒めるのが巧いキャラクターってやっぱ好きになれるし、『ケーキ』という自分の得意分野を使って、一気に距離を縮める動きはグッドナイスだった。
今回のエピソードは真昼が自分のコンプレックスを乗りこなすまでの物語であると同時に、ツンツンガールをゆめが攻略する話でもあるので、『差し出した食物を食べてもらう』描写があることで、心理的間合いがぐっと詰まったのを実感できるわけだなぁ。
ここら辺は、兄妹として既に間合いが存在していない朝日くんが、『どんなマフィンを食べるか』完全に理解してしまっているのと、背中合わせの描写だね。
兄と妹の距離と同じとはいえないけど、近い間合いまで心を接近させることに、ゆめは今回成功したというわけだ。

『七夕の短冊』という、季節感のあるフェティッシュを巧くリフレインさせることで、関係性の変化を描写するのも鋭かった。
最初はお互い名前も知らない、短冊を手にも取らない関係だったのが、姉妹のややこしいあれこれを乗りこなし、衣装公募というイベントを一緒に乗り越えることで、下の名前で呼び合い目標を素直に語り合う間柄になる。
この変化は真昼にとってもゆめにとっても好ましいもので、それを映す鏡として、短冊はいい仕事していたと思います。
第1話の段階ではミーハーな『願い』でしかなかったアイドル活動が、14話の蓄積を経て具体的な『夢』もしくは『目標』になりつつあるという変化を見せる意味でも、短冊はいい仕事してたなぁ。

キャラ数がとにかく多いスターズですが、M4の小悪魔ショタ朝日くんのキャラを、を巧く本筋に絡めて見せる手際も今回良かったです。
もちろんエピソード主役の血縁っていうアドバンテージもあるんだけど、短い出番の中で設定を語らせつつ気さくな人柄も見せ、兄弟の関係も見せという、スムーズな見せ方は非常に良かった。
つーか、こんぐらいの手際で人数捌いていかないと、どういう人物なのかさっぱりわかんないキャラ多すぎだと思う。
その一手目として朝日くんを印象付けれたのは、とても良かったな。


というわけで、シスコンこじこらせまくりのハングリー&スパイシー少女を攻略する回でした。
エピソード主役である真昼も、その対比物である夜空も、主役を支えたゆめ達も、みんな内面をしっかり掘り下げられ、どんな女の子なのか伝わってくるという、みっしりしたエピソードでした。
短冊やケーキといったアイテムを巧く使って詩情も出てたし、自分らしさをより良い方向に導いていく成長物語としての骨格もしっかりしてたし、欲張りでタフなお話しだったなぁ。

この勢いを借りて、次回は引き続き香澄姉妹のエピソード……なんだけど、来週お休みなのよね。
非常にいい勢いで真昼のキャラが掘り下げられつつあるので、ここで一気に描き切って欲しいものです。
あとせっかく美組繋がりなんで、少し小春ちゃんにね、おいしいしーんをね、ええ少しでいいんでね……。