イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

91DAYS:第1話『殺人の夜』感想

シカゴ製のタイプライターが紡ぎだすのは、いつだって炎と銃弾の詩。
禁酒法時代を舞台にしたマフィオーソヴェンデッタ・テイル、満を持しての第一話でございます。
どす黒い復讐の意志、暴力と抑圧が支配する無法の街、喪われた黄金期の甘い記憶と、新たなる友情の予感。
どっしりと構えた演出と、抑え気味ながらスパイスの効いた語り口がしっかり絡み合い、復讐譚に必要な複雑な苦味を既に予感させる、気持ちの良い出だしとなりました。

まず目につくのは、映画を強く意識しただろう抑え気味の演出。
今のところ美少女も超能力も出てこない、出てくるのは犯罪者と刃物と炎ばっかりな地味な世界観に合わせて、画面に映されるものもしっとりと落ち着いた感じのものばかりです。
きっちり仕上げた美術が禁酒法時代のムードをしっかり盛り上げ、その次代の空気を視聴者に伝えてくる仕事をして、没入感が非常に高いです。
出だしの回想シーンの時代感だけで、グッと掴まれてしまう感じがある。

もちろん酒場でのドンパチや頻発するメガバイオレンスなど、画面の温度が上がるシーンは多々あるわけですが、それも『押さえ目の派手さ』といいますか、リアリティ重点なムードをしっかり守った盛り上がりでして。
スピークイージーでの銃撃戦にもすっかり慣れた様子の常連客が、特に騒ぐことなく避難する様子を見れば、このお話での暴力が血圧上がる見せ場ってわけではないのは、良く伝わる。
地面に足がついた筆致で描かれる暴力はじっとりと重たくて、それに興奮するというより『ああ、ろくでもない』という印象をまず与えます。
この話が行き場のない復讐の物語である以上、多分その第一印象は、製作者が与えたいムードとしっかり一致しているんじゃないかと思います。
どちらにせよ、しっかりと一定のムードを保ち、視聴者を作品にガッチリ引き込む統一感があらゆる場所に張り巡らされているのは、世界が作りこまれている丁寧さを感じさせ非常にグッド。


狙ったムードをしっかり伝えられる手腕は、物語構造をしっかり意識させる作用も生んでいます。
すべての起源になる運命の七年前は、ひどく幼いろうそく遊びから始まって、ママンの優しさがしっかり伝わる暖かなシーンとして描かれる。
家族と親友と過ごす暖かい日々が永遠に続くと信じられる、ありきたりで大切な毎日をしっかり届けることで、それを奪われた主人公のショックと復讐への意志に、視聴者はスムーズに移行できるわけです。
そのシーンがどんなムードであるのか伝える技量があるので、次のシーンとの対比が鮮明になってるといいますか。

これは『暖かな過去』と『冷たい現在』の対比だけではなく、『復讐の意志』と『友情』の対比でも強く感じます。
主人公が決意を込めて潜入したスピークイージーで、彼はそれと知らず仇と出会ってしまうわけですが、そこには敵意はなくて、袖すり合って窮地を乗り越えた一種の開放感みたいなものがある。
この話が英雄譚なら、そこで意気投合して一緒に世界でも救ってしまいそうな良い出会いなんだけど、主人公の望みはあくまで復讐なわけです。

名前を変え素性を隠して出会った男たちに本懐を遂げるためには、偽りの友情を育んで油断させなければいけない。
しかしそこで造られるものが、果たして本当に偽りなのかという疑問が、モグリ酒場でのドタバタした楽しさの裏にはしっかり埋め込まれていました。
というか、復讐譚ならこの矛盾は強調しない手がないし、きっちり拾って足場を作ったなという印象。
『暖かな過去』は主人公が現在を泳ぐ冷たいモチベーションと対比されてんだけど、『新しい友情』は失われてしまった『暖かな過去』と響きあいつつ、これも冷たい現在と対比されてんだな。
いろんな場所に矛盾があればこそ、主人公が物語の中でその存在を深めていくことも可能だと思うので、対比が印象的に演出されているのはとても良いことだと思います。


人として当然の幸せと、復讐者というひとでなしの生き方。
主人公が天国と地獄の間でウロウロする存在であることを示すために、第1話では『炎』が非常に印象的に使われていました。
弟と親友と戯れる、暖かく安全なろうそく遊びの『炎』は、家を奪って焼きつくす突然の『暴力』として襲い掛かってくる。
七年間の荒んだ生活を経て、主人公ははすっぱにタバコをくゆらせ、その『炎』を親友の『家』に投げ捨てるような男になってしまう。
あの無遠慮な仕草はピュアピュアだった少年がやさぐれアヴェンジャーになってしまったことを見せると同時に、自分の『家』を焼いた『炎』に近い存在に変わりつつあることも巧みに表現していて、良いシーンだったなぁ。

『家』を焼いた『炎』に魂もあぶられて、すっかり煤けてしまった主人公ですが、酒場での窮地を脱するための一手も『炎』を使っています。
それは暴力的で手のつけようがない『炎』であると同時に、ろうそく遊びの原理を利用し過去を思い出させピンチを切り抜ける『温もり』でもあります。
全てを焼きつくす虚無的な『炎』も、使いこなせば寒さを凌ぐ『温もり』となりうる暗示、そしてその制御が非常に難しいという予言は、どす黒い復讐を決意した主人公の今後を照らす、非常に優れたフェティッシュだと思うわけです。

仇を殺し尽くしても何も生まない復讐者の顔と、過去の暖かさを忘れられず今もまた新しい関係を作れそうな人間の顔。
両方の顔が主人公にはあって、暴力にもぬくもりにもなり得る『炎』を多面的に描くことで、その複雑な人格を効果的に演出できていたと思います。
ここら辺の変化を、スマートな台詞で補いつつも基本描写でしっかり見せている所が、表現が胸にぐっと迫る足場になっててグッドね。

情と憎悪の板挟みで身動きがとれない主人公の姿は、ファンゴの喉にナイフを突き立てはするものの、喉を切れはしない描写からも見れました。
復讐譚の描き方ってのもいろいろありますが、このお話は全てを捨てて復讐に生きる破滅主義のカタルシスよりも、人間とひとでなしの間でウロウロする主人公の人間性を重点的に描く感じなのかな。
それはそれで、復讐というテーマでしか描きえない感情のうねりだと思うし、現状非常に印象的かつ的確に描写されてもいるので、今後もしっかり捉えて欲しいポイントですね。
まぁ『他人の破滅を見てみたい!』というアモラルな欲望は、世界観と時代背景自体が相当にやけっぱちなので、話が進むうちにイヤでも見られるだろうしな。


というわけで、死人が起き上がって復讐者になるまでのお話でした。
過去シーンの温もりが非常に上手く描けていた結果、復讐というモチベーションにもすんなり共感できるし、悪ぶりつつ徹底できない主人公の危ういモラルも、良く伝わってきた。
状況や背景設定の格好良さに踊らされず、主人公のキャラクターをしっかり掘り下げお話の骨格を見せる、良い出だしだったと思います。

主人公が素性を隠して仇の懐に潜り込み、温もりと殺意の間で揺れる……という基本ライン以外にも、お話の骨子は用意されているようです。
ツダケン声が所属する敵対マフィアとのいざこざだったり、情を利用される形になったコルテオの今後だったり……公式ページを見るだに、ヴァネッティファミリーへの大手からの切り崩しもやるのかな?
『情と憎悪の板挟み』というシンプルなメインに、いろいろ起きそうなサブがどう絡んで着るかも楽しみなところですね。