イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

orange:第2話感想

正統派青春少女漫画と時空SFのマリアージュなアニメ、今週は戸惑いと躊躇、そして勇気。
じっくり尺を使って、初恋に怯える高校二年生をじっくり描く回でした……と思ってたら、翔くんのあまりに重たい現在と未来が明らかになり、主人公の今後の大目標がはっきりする、結構節目の回だった。
前半2/3ほどゆったり進めていた分、死の匂いが色濃く出る残り1/3が凄く重たくて、落差の聞いた良い揺さぶりだったな。
長野の青春DAYSがすげーキラキラしているんで、それが失われる未来を回避する菜穂の行動を思わず応援しちゃうのよな。

つーわけで、前半は弁当渡すの渡さないの、好きだの嫌いだのにウジウジと悩む、高校二年生の悩みを丁寧に追いかけていました。
既にそういう季節を終えてしまった身としては、そんな小さなことを世界最大の決断のように悩めるピュアさも、そこに込められた切なる思いもあまりに眩しくて、胸の奥が痛かったです。(たぶんH-FABPの数字が悪い)
だれにでも訪れる小さな、下らない、それでいてとんでもなく真実で大切な決断を、無下に蹴っ飛ばすのではなく、愛おしさを込めて見つめる視点が、今回菜穂のためらいを追いかけるどっしりとした筆には、しっかり宿っていたと思います。
非常に自然に流れていくダイアログや、うまい具合にリアリティを出した高校生イベントが、その小さな勇気を上手くショウアップしていて、菜穂の悩みに気持ち良くシンクロできました。
購買に行きそびれて、目当てのパンが売り切れていた時のがっかり感とかすげー判る描き方だったね。

そういう小さな世界の小さな感覚を大事にしていればこそ、『母親の自殺』や『翔の事故死』という重たい問題が明らかになった時に、衝撃的であると同時にその衝撃を素直に受け止められる、不思議な感覚を覚える。
高校二年生の身の回りにある、誰もが経験するようなつまらないけど、でも当時の自分にとっては身を切るほどに切実だった悩みは、『生きるか/死ぬか』という特大の問題が突きつけられたからといって、いきなりなくなる訳じゃありません。
もちろんそういう身近なスケールの悩みをじっくり描いたからこそ、SF的なガジェットを駆使して公開される『生きるか/死ぬか』という大きな決断が、より鮮明に映るという効果も出ています。
一見矛盾するように見える、高校二年生のつまらない『日常』と、そこに滑り込んできた10年後の手紙という『非日常』、それが連れてきた生き死にの問題は、実はお互い相補いあう関係なわけです。

今回菜穂が見せた戸惑いは、翔に拒絶される痛みを覚悟でお弁当を渡すということだけではなく、10年後の手紙それ自体への戸惑いでもあります。
奇っ怪な予言を信じて日常を変えていくか、それとも今までどおりに高校生活を送るのか。
弁当を前にした逡巡と手紙を前にした躊躇いは、手紙の指示を受ける毎日の中で奇妙に交差していて、結局菜穂は『弁当を渡す』『手紙を信じる』という道を選ぶ。
それはそのまま『母親の死』という秘密を翔が開示し、近いうち起こるだろう悲劇を回避するべく、主人公が決意を確かにするシーンにも繋がっている。
普通の高校生のもとに『10年後の手紙』なんていう不思議なアイテムが出てきたら、それは当然戸惑うわけで、その心理的動きを恋への戸惑いと重ねて描写し、シナリオギミックへのキャラクターの反応を視聴者に受け入れやすく加工する技術は、なかなか確かなものがありました。
手紙に込められた思いを戸惑いつつも受け取り、実際の行動に移す菜穂の主人公力もいい塩梅で、彼女を身近に感じられ、好きになれる展開でした。


もう一つ面白いなぁと思ったのは、10年後の菜穂と現在の菜穂の、奇妙な交流です。
彼女たちは同一人物なんだけど、否定し得ないくらいの差がいろんな場所にある、見ず知らずの他人でもある。
時間と因果を超えて繋がる彼女たちの関係を『一方通行の手紙』という形でまとめてあるのは、やっぱ非常に上手い造りだなぁと思いました。

10年分の経験と決断、後悔と痛みを現在の菜穂が持たない以上、手紙が語る様々な物事はあくまで『他人事』です。
だから菜穂は最初にして最大の決断を間違え、翔のお母さんは自殺してしまった。
作中で言われているように『手紙が来た程度で、自分の性格は変えられない』わけで、菜穂の決断を助けはしても、手紙は万能の解決装置ではなくあくまで補助具でしかありません。

その上で、手紙には色んな共感も込められている。
『弁当を渡す/渡さない』という下らない悩みは、未来の菜穂にとっては自分自身が経験した切実な痛みであり、同時に夫も子供もいる『大人の自分』にはもう思い出せない、切なくて愛しい過去の思い出でもある。
そこに強い共感があればこそ、下らない青春時代を『下らない』と切り捨てるのではなく、祈りと共感を込めて手を伸ばせばこそ、現在の菜穂は手紙に後押しされてためらいを乗り越えて、弁当を渡したのでしょう。

手紙の予言を信じたことで、菜穂は『母親の自殺』『翔の事故死』という重たい事実を知り、それに対処しようと決断できるようになりました。
信頼が成功を連れて来てくれたのならば、手紙を信じ、そこに書かれている祈りを『他人事』ではなく『自分事』として受け入れる姿勢にも、より真剣味が増してくるでしょう。
10年後の菜穂と現在の菜穂という、自分自身でありながら他人でもある二人の間に不思議なフィードバックが生まれ、物語が先に進んでいく様子が今回のエピソードにはたっぷり込められていました。
時間も因果も飛び越えた不思議なつながりの中に、確かに共感が育まれていく感覚は、やっぱ見ていて心があたたまる訳で、そういう手触りをしっかり感じ取れるのは良いアニメだなと思います。

『母親の自殺』という真実を菜穂が知ったことで、手紙が念を押していた転校初日の選択失敗は、現在の菜穂にとって身を切られる痛みになりました。
自分が手紙を信じて行動していれば、翔は大切なモノを失わなかったかもしれないという『後悔』は、実は10年後の菜穂と全く同種のものであり、ここにも共感が生まれつつあります。
『他人事』が『自分事』になっていくドラマツルギー、様々な断絶に共感の橋がかかっていく快楽ってのは、この物語においてかなり大きな題材なのでしょう。
今後も菜穂は断絶を乗り越えようと勇気をだしたり、大きな裂け目を前にためらったり、それを乗り越えることに失敗したり、色んな決断と行動を果たしていくんでしょうね……行動する主人公はやっぱり良くて、先が楽しみだ。

というかですねぇ、『手紙』という形態が持ってるエモさが、物語の展開と非常に噛み合ってるのが良いですね。
届くことを信じて書かれる『手紙』は直接運命を変えることはなく、10年後の菜穂が体験した後悔も痛みも、そこには宿りません。
実際そうなりかけたように、菜穂が手紙を信じず行動を起こさなければ、手紙に込められた願いが現実を変えることはなく、悲劇は回避できない。
そういう無力さと断絶を理解しつつも、10年前の自分自身と、そこに確かに存在した輝ける時間、失われたモノへの哀悼を込めて手紙を出すという行為がもつ、弱さと健気さ。
『手紙』には10年後の菜穂が感じている無力さと後悔とが、いい具合に詰まっている気がするんですよね……一方通行なのが良い。


共感という身では、翔くんを筆頭に菜穂の周りの子供達もみんなナイス過ぎて。
はにかんだ笑顔がチャーミングな翔くんの爽やかな陰りとか最高に良かったし、普段はグイグイ生きつつ、菜穂と翔がマジな話しそうだという気配を感じ取ると、すぐさま一歩下がれる諏訪くんの人間力もマジスゲェ。
彼らのだらーっとした青春トークを聞いているだけで気分が良くなってくるんだけど、あのダラっと感はアニメではあんまりやんないタイプの芝居で、気を使って出しているものなんだろうなぁと思います。
派手なリアクションがない分出てくる感情が自然で、『あ、こいつら良い奴だな』って感想がじわっと滲んでくるし、それを自然と受け入れられるのは凄くグッド。
創作物における自然さというのは、徹底された配慮と的確な操作で捏造するものなんだろうなぁ……。

翔くんはとても強い子というか、『母親の自殺』というあまりに重たい事実をひた隠しにして、青春を演じられる賢さを持っている子供です。
これが出会いたての長野の友人を信頼しきっていないから生まれてるものなのか、それとも菜穂と同じような躊躇いがあればこそ言えないものなのかは、まだ分かりません……両方かなぁ。
『母親の自殺』と『事故死』の因果関係もまだ見えませんし、一つの秘密を明らかにしつつ、まだまだ隠していることがありそうです。
そこらへんに踏み込んでいく青春どまんなかバトルも、今後の見せ場になるんだろうなぁ。


時空SF要素をどう料理するかも結構気になっている部分でして、例えば『手紙』による運命改変は10年後の未来をなかったコトにするのか。
須和くんとの間に家庭を作った10年後の菜穂は、翔を助けたら存在しない未来かも知れず、となれば『手紙』は菜穂に届かず、そうなれば翔を助ける切っ掛けが生まれない。
タイムパラドックスをどう処理するかによって、『翔を救う』という決断の原因になった『手紙』の扱い、それによって変化する未来の扱いも、大きく変わってくるでしょう。

それはただ単にSFの定番ネタをこねくり回して楽しむだけではなく、お話の背骨にも関わってくるネタな気がします。
SFガジェットの描写を抑えめにしていることからも、この物語が描きたいのは『未来を変える』という結果ではなく、後悔をどう受け止めるのかとか、小さな勇気を出して決断することの意味とか、ひどくオーソドックスで普遍的なテーマだと感じています。
翔が死んでしまっている未来でも、10年分の後悔を抱えて菜穂たちは大人になっていて、家庭を作って、それなりに幸せに生きている。
時空を捻じ曲げて後悔を取り消すことで、10年分積み上げた一つの人生が消えてしまうことは、果たして許されるのか。
失敗も含めて展開される人生は、全て否定されるべきものでしかないのか。

そういう問いまでひっくるめて、時空SF的な問題に踏み込んで描写されていくと、このアニメは更に面白いお話になるんじゃないかなぁと、結構期待しているわけです。
こうして考えると、SF要素と青春要素もやっぱり矛盾するものではなくて、お互いがお互いの魅力を引き出す、大事な足場なんだな。
10年後パートに漂う『どれだけ後悔しても死人は蘇らないけど、生き延びてしまった以上自分の人生を生きるしかなくて、なんとなく人生が充実してしまっていることへの申し訳無さ』の出しかた、俺好きだなぁやっぱ。


と言うわけで、等身大の高校生の悩み、それを受け止め合う関係性、そこから紡ぎだされる新たな真実と、いろんな事が起きた第2話でした。
SFと青春物語、両方の要素がしっかりとかみ合ってお互いを引き立て合い、非常に魅力的に輝いています。
『10年後の自分から手紙が届いて、未来を変えるべく行動する』っていうありえない要素を、誰もが経験する青春を徹底的に丁寧に穏やかに描き続けることで、身近なものとして受け止めさせちゃうムードの作り方が、本当に凄い。

『死』という重たいものが顔を出してきたことで、長野ノンビリ青春絵巻も表情を変えてくると思います。
『手紙』が本当に運命を変えうるのか、因果を支配しているルールがどのようなものなのかも、まだまだ見えません。
こうしてまとめてみると、ミステリとしての情報の出し方も巧妙だな、このアニメ。
楽しめるポイント、胸に迫る魅力がたくさんあるアニメで、見ていてとても面白い。
来週も非常に楽しみです。