イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

バッテリー:第1話『出会いの日』感想

オトメの夏の最終兵器、いま岡山新田から出陣ッ!! ッて感じで、2016夏クールを締めくくるボーイ・ミーツ・ボーイの傑作、今まさにスタートであります。
『伊豆が海で女の子に運命の出会いを与えるなら、俺は山で男の子を邂逅させる……』と岡山先輩が言ったかどうかは知りませんが、野球を通じて出会う中学1年生たちの素顔を、どっしりと描く第1話でした。
柔らかな色彩、ときおり顔を出す感情の陰影、鬱屈混じりの青春のエネルギー。
望月監督の持ち味がフルに出た、雰囲気と緊張感のある出だしだったと思います……そういえば、"プリンセスナイン 如月女子高野球部"やってましたね。

とにかくですねー、キャラクターの性格を強く焼き付けた、芝居の付け方が素晴らしい。
出だしの雪球のやり取りからして、まだ幼い青波の優しさと、中学1年生という難しい年頃の巧の対比がくっきりしていて、『この作品はジュブナイルなのです。少年が運命とであり、己の鏡たる他者と出会い、思春期と素手で格闘しながら何者かになっていく物語なのです』と強く主張していた。
性格を見せるだけではなく、雪球を投げることで『野球』というモチーフを叙情的に盛り込んでいる所が、とっても良い。

他のシーンでも、巧を覆う思春期という檻の息苦しさ、そこに感じるいらだちと不安がよく見えて、非常に良かったです。
『自分一人いれば野球は成り立つ』という不遜と、それを許す才能。
『青波は体が弱いから、野球はダメだ』という言い回しから感じられる、屈折した優しさ。
岡山の穏やかな春の中で、もはや子どもではないけれども、一人で立てるほど大人でもない季節の不安定さと純粋さが、じわっと伝わってきます。
志村貴子デザインも、あんまアニメっぽくない演技の内山くんも、神経の細やかさが絵になっていて非常にグッド。

巧の尖った性格に対し、豪は温厚で包容力のある姿メインで描かれていました。
見知らぬ土地に警戒を募らせる巧を静かに迎い入れ、歓迎の気持ちを素直に言葉にするやりとりは、バッテリーを組むだろう二人の未来に期待が高まる、良い対比でした。
無論ただ優しいだけではなく、母の期待に苛立ったり、本気を出さない巧にぶつかっていったり、完璧ではありえない人間らしさ、子供らしさもしっかり見えました。
帰り道のシーンがちょっと坂道になってて、巧が上手で豪が下手って差がついたレイアウトが、今後を象徴してて怖いのよね……そこまで行くかしら。
肩幅広くて、『あー、体格は才能だよなぁ、特にキャッチャーだと』と頷けるデザイン、畠中くんの実直な演技もまた良し。

この対比的な二人が出会い、距離を感じ、だんだん近づいていく運動が、このエピソードの主軸であり、丁寧に演出されている部分でもあります。
出会った時は目線の合わない位置で推移し、部屋の中では端と端に別れ一線を引いていた関係
が、白球を介してどんどん近づいていく。
このアニメがなぜ『野球』を選んだのかが良く分かる流れで、運命の出会いを果たした少年たちは心を近づけていって、ついには胸ぐらを掴むような関係になる。
身体的な位置関係がそのまま心理的な距離を表現する、分かりやすくて叙情性のある見せ方でした。
まだ試合は始まっていないのに、野球というスポーツ固有の『体の流れ』をしっかり捉えた投球作画が仕上がっているところとか、抑えるべき所をしっかり抑えて素晴らしい。

前々から噂を聞いていて、巧とバッテリーを組む日を心待ちにしていた豪に比べ、巧はあまり他者に期待していません。(もしくは、他者に期待しないポーズを取っている)
このミスマッチが埋まっていくことが、一つのドラマツルギーになるわけですが、ツンツンしつつも根は純粋な野球ボーイだってことは、今回のキャッチボールからも見て取れます。
煽られて『俺のスパイク取って来い!』ってなっちゃうところとか、あれだけ周囲に苛立っていたのに野球始まると一切周り気にしなくなるところとか、ほんとピュア・ベイスボール・ボーイすぎる……。
スポーツにしても芸能にしても、メインにわざわざ選んだ題材に主人公が強い思いを抱いているのは、作品に熱を加える大事な条件だと思います。
野球も好き、実は人間も好きな巧と、人格の強い豪。
いろいろゴタゴタはするけどなんか良いところに収まるだろうと予感できる出会いになってて、非常に良かったです。
……って素直に収まらない所が、あさの先生の原作なんだけどさ。


同い年のバッテリーに寄り添い、良い対比役になっていたのが、巧の弟の青波。
まだ小学四年生の彼が持っているものを、中学生になってしまった兄たちは否応なく抜け出しつつあるのだということが、青波を純粋で優しい子としてしっかり描くことで見えてきます。
背丈も伸びて、自意識も強くなって、いつまでも親の庇護下にいたくはないし、自分の世界も出来てきた季節。
その一歩手前の青波を透明感をもって描けていたのは、ただ彼が可愛い天使で最高ってだけではなく、主役たちがどこにいて何が問題なのか間接的に見せる、良い演出でした。
あと豪が青波の頭を優しく撫でるシーン、マジ最高でした……"クロムクロ"の剣之助にしても"プリパラ"のガァルマゲドンにしても、『縁もゆかりもない他人が、子どもに優しくして兄姉同然の立場になっていく流れ』に、どうも俺は弱いらしい。

思春期の子どもを見守る大人世代もしっかり描かれており、主役だけで世界を完結させるのではなく、彼らが身をおく世界そのものを大事に創っていく意思を感じました。
子どもを繊細に見守っているんだけど、その全てを理解してあげるほどには完璧ではない親の不器用な優しさがそこかしこに詰まってて、なんというか緩みがない。
『保護者』という物語的役割を完璧にこなせず、どこかに欠点がある人間味は同時に、子どもたちだけではなく大人も物語の中で前に進める『スキマ』を表しており、これから語られるストーリをどれだけ横幅広く取るか、その貪欲さがかいま見えます。
いい、そういう欲張りっぷり、マジ素晴らしい。

孫を心配してシンカーを封じ、キャッチボールもひっそり見守る井岡おじじの優しさが、思春期に差し掛かった巧にはちょっとウザったい様子とかも、丁寧に描写されていました。
このモヤモヤ感をどれだけ切り取れるかがジュブナイルの勝負どころだとも思うので、基本穏やかな流れの中を止めないように苛立ちをしっかり埋め込む今回の演出、非常に良かった。
巧の内面に寄ったカメラだけではなく、少し引いて大人世代の真心をしっかり捉えるアングルも多数用意されているのが、平等かつ丁寧でいい感じだ。

『すき焼き』と『寿司』というハレの料理を巧く使って、家族どうしが、家族と地方共同体が打ち解けていく過程を描いていたのも、なかなか鋭かったですね。
何度も言ってますが、フィクションにおける食事は絵空事の感覚を視聴者に近づける大事な足場であり、キャラクターと世界がどういう関係なのかを活写できる重要ポイントです。
ちょっと緊張感があるけど拒絶はされない食卓とか、大人たちは盃固めに忙しいけど、子どもは野球に夢中な饗応とか、各キャラクターの態度が立体的に描けている食事でしたね。
あと足が喋るシーンが非常に多くて、『俺は本当に、クッションかけた演出好きだなぁ』と再確認したりもした。


と言うわけで、『このアニメはな、野球で、岡山で、ジュブナイルなんだ。思春期と取っ組み合いしてるガキたちが、ぶつかり合って歩み寄って分かり合う、まぁそういう感じのいい話なんだよ……』とアニメ自体が語りかけてくれる、素晴らしい第一話でした。
焦らずじっくりキャラクター個人を、キャラクターとキャラクターを、キャラクターと世界を描いていく筆のノリ方に満足し、さらに期待が高まっていくという、第1話に望める最大級の仕上がり。
岡山の自然の描写も柔らかく美しくて、青春という季節が流れるのに相応しい、美々しい舞台になってたなぁ。

今回はバッテリー二人の出会いと、その周辺を描くのに忙しかったわけですが、彼らは中学1年生でもあります。
学校という新しい世界、部活仲間という新しい人々とどう出会い、どう向き合い、どう動いていくのか。
今回見せた繊細で確かな筆使いを見るだに、新しい展開でも素晴らしいものを見せてくれると思います。
いやー、良いアニメ化だなぁバッテリー!!