イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

クロムクロ:第15話『追分の果て』感想

戦争が終わると日常が流れてくる系ロボットアニメ、そろそろ聖域の崩壊が始まった第15話。
ロボット戦闘が一切ないいわゆるタメ回なんですが、学園祭襲撃事件を受けて人間側もエフィドルグ側もいろいろ変わる、変化の回でした。
これまではなんとか隣り合っていた『平和な現代』と『戦場』の敷居が曖昧になり、疎開に行ったりGAUSが単座になったり。
フィドルグの姫騎士たちは脳みそビリビリマッスィーンで奥歯ガタガタ言わされ、急に姉妹設定が生えて生身による成層圏突破を敢行。
変化を見せる回であると同時に、変わらず残るものをしっかり描いているのはこのアニメらしいなぁと思いました。

剣之介が治療で寝込んでいるため、お話のメインになってたのは学校でした。
もともとこのアニメ、『平和な現代』は常に特権化して守られているわけではなく、例えばきときと空港だとか、例えばカルロスの親父さんだとか、普段日常だと思い込んでいた場所が『戦場』に危うく飲み込まれる/飲み込まれかける瞬間を、結構強調して書いていました。
今回疎開した子どもたちも、彼らの認識上は『日常が崩壊した』ってことなんでしょうけども、事実としては『すでに日常は侵食されていたことに、火の粉が迫ってきてようやく気づいた』という対応になっている。
危機に際しては人間えてしてそんなもんだろうなぁとも思うし、『特権的に『戦場』に身をおく主役たち以外には、危機は身近なものではない』という事実も茅原や赤城、学校の描写を通して描き続けてきたわけで、クラスメイトの身勝手な鈍感さは、不思議でリアルな手触りを作品に与えている気がします。

櫛の歯が折れるかのように立山から去っていくクラスメイトですが、カルロスとソフィーという名有りの存在も、疎開≒物語からの退場が迫る立場になりました。
これまでカルロスにド富山弁を喋らしていたのが、スペイン行きへの戸惑いに巧く説得力を与えていて、良い描写でしたね。
カルロスは『日常』だと思い込んでいた『平和な現代』が『戦場』に侵食され、それを剣之助が原因だと騒ぎ立てることで心の平安を取り戻そうとしている身勝手な人間。
なんですが、赤城や茅原(!)がかなり冷静に対応して、『それは逆ギレ』だと指摘している展開は、クラスメイトとしての剣之助、守護者としての剣之助を大事に描いてきたこのアニメらしいなぁと思います。
『この街には守るものがある……』とヒーロぶる赤城の薄っぺらさを切り取りつつも、何度も剣之助に命を救われ、流石にその意味を理解する情があるってことも、ちゃんと描く。
ロボアニメ……というかフィクションのお約束に流されず、作品独自のリアクションを状況にしっかり返せる強みは、繋ぎ回でも健在という感じです。

相変わらず腰が定まらない赤城に対し、美夏はコスプレ大会という『平和な現代』が必ずやってくると信じて行動していました。
それは鈍感であると同時に強靭な反応で、第8話で逃げんだした由希奈をとりあえず受け止めつつ、結構突き放した対応をとった(そしてそれが正解だった)ことを思い出します。
男≒カルロスのの性欲を飲み込んで跳ね返す腰の強さが美夏にはあって、そのタフさは周囲が『戦場』の侵食に浮つく中、結構大事なことかと思います。
このアニメにおいて『戦場』と『平和な現代』は対立するわけではなく、現代に馴染んだ剣之介のように相互に理解と制御が可能なものとして描かれているわけで、受け入れる側の学生が落ち着いていることは、作品の基本的なルールが崩壊していない、良い証明だと感じるのよね。
学生たちの動揺をカルロスに代表させてちゃんと描きつつ、『戦場』に怯えないタフさ(もしくはバカさ)を軸において話を安定させているのは、非常にクロムクロらしい運び方でした。


『戦場』で戦い続けたソフィーは、学生なんだけど同時に戦士でもあって、カルロスと同じレイヤーで動揺はしない。
しかしソフィーは戦士であると同時に学生でもあり、親が帰って来いといえば基本頷くしかない立場にあります。
激しさを増す戦場に対応するように、GAUSも単座型に改造され、先進技術実証機から兵器へと姿を変える。
国連側も状況の変化に飲み込まれつつある状況を、複座だからこその魅力をたっぷり載せてきたGAUSの変化で見せるのは、これまでの蓄積を信じた良い描写だった。

悩めるソフィーは剣之介と出会い、食事をおごることで繋がり、示唆を貰って立ち上がる。
やっぱり『メシ』で繋がる辺りがクロムクロですが、ここで剣之助を助けつつ助けられる動きは、第12話の合宿以来『天才少女パイロット』という仮面を外し、人間味を増してきたソフィーらしい展開でした。
剣ちゃんのこと気にかかっている描写も積んできたし、武士道の先達として憧れを抱いている姿は、それこそ第1話から描いてきたし。

しかし同時に、ソフィーから剣之介への感情がどこかズレている、勝ち目のない戦いだってのもこの話は積み上げてきたわけで。
ガッチンガッチンの実践戦国に、身分が低い足軽として生きていた剣之介の『武士道』と、オリエンタリズムに憧れ『葉隠/新渡戸武士道』を愛読するソフィーとでは、視界に捉えているものは似ているけど異なる。
衣装をかっちり決め、型通りに抜いて振り下ろすソフィーの『居合道』と、平服で無造作に振り上げ振り下ろす、剣之介の『稽古』が異なるように、ソフィーの純情はどうしてもすれ違ってしまうわけです。

なので、剣之介はアイスに悩んでいるのにソフィーはそれに気づかず、人生の示唆を得たように前を向いて、勇気を込めて進みはじめる。
それは確かにコメディーなんだけど、同時にソフィーの勇気自体は意味の有ることだし、たとえズレにズレていたとしても、その勇気を剣之助からもらったことも事実。
そういう感じで、すれ違いの中の交流にも目を配り、ちゃんと愛情を持って描く筆がこのアニメにあるのは、やっぱ良いことだなぁと思いました。

まぁこのアニメ、食いもんが全てを支配する演出文法が基本にあるので、由希奈が『剣之介の欲しいもの』であるとろろ昆布アイスを持っていた時点で、ソフィーは敗北者確定なのだ。
グダグダ言いつつも剣之介の心配ばっかして、肌を見せられても赤面もしない由希奈には、『勝つべくして勝つものの力(power of the man who would be king)』を感じた。(唐突なMANOWAR引用)
相変わらず言葉の使い方が不器用なお母ちゃんとか、悪い噂立てられても笑顔で受け流すところとか、由希奈周りの描写も今回良かったなぁ。

あとドクターのサイコな魅力は、今回切れ味鋭く素晴らしかった。
『あなたを最初に解剖するのは、この私です』ってどういうタイプのツンデレだよ……イヤなベジータだなこの人……。
話の軸には常に二人の主役が座り続けている中で、脇役のフレッシュな描写を積み上げることで存在感が強まっているのは、話の安定性と豊かさを両立させててやっぱ凄いね。
ここら辺は、カルロスの親父さんとか赤城の親父さんとかもそうですね。


んで、オモシロ愉快世界征服組織・エフィドルグ。
"時計じかけのオレンジ"もびっくりな脳味噌直撃お仕置き装置を食らって、トンチキ姫騎士達がリベンジに燃えておりました。
ブッサイクピンクが急に『姉様』とか言い出したんでビビったんだけど、あれは演技なのか洗脳装置の悪影響なのか、命を助けられて気が変わったのか、はたまた元々そういうキャラだったのかさっぱり解らねぇ。

チームワークの無さで負けた二人が、その弱点を補ってふたたびやってくるぞ! と視聴者にわからせるために、生身による大気圏突入というバカな絵面を叩きつけてくるのは、なかなかパワーが有ってグッド。
一見マヌケな絵なんだけど、それはマヌケを可能にする圧倒的科学技術が敵さんにあるってことでして、クソみたいな舐めプされてなければ地球は3日で終わっていたという事実を再確認する。
他の幹部二人も顔を晒して、いよいよ終盤戦って感じですけども、人型流星群に気づいてる鬼のおじさん含め、どう転がしていくか楽しみですね。


と言うわけで、谷間回でも休まない、人間描写のクロムクロロらしいエピソードでした。
変化する状況に戦士も戦士でない人もそれぞれ対応する、自分なりに必死な姿を誠実に切り取っていて、状況の変化がよく分かる話でした。
主人公を一等大事にしつつも、それを取り巻く人々を引き立て役ではなく、人生を背負った一個人として尊重し、笑いを交えつつ描く細やかさってのが、俺がこのアニメ好きなたくさんの理由の一つよ。

姫騎士姉妹が空から落っこちてきて、さてはてどうするのって状況ですが、来週はロボ戦かなぁ。
単座型GAUSのお目見えになるだろうし、ソフィーの決断がどこに落ち着くかも描かれるだろうし、色々楽しみだ。
雪姫への後悔に呪縛されている剣之助を、由希奈のラブが引っ張り上げるかどうかも、そろそろ見えてくるだろうしね。
終盤に差し掛かりつついや面白みを増すクロムクロ、来週もひじょうに楽しみです。