イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

機動戦士ガンダムUC RE:0096:第14話『死闘、二機のユニコーン』感想

『俺達の敵は新型MSでも人間のエゴでもなく、ゴルフ特番だ』って感じのニチアサガンダム、今週は成層圏の死闘。
ミネバとマリーダを取り戻さんとするバナージ&ジンネマン連合軍に、させじと頑張るリディ少尉&アルベルトが完膚なきまでにボッコボコにされる話でした。
ただただ真っ直ぐでいることを許されているバナージの輝きと、人間が必ず持つ弱さに屈した結果人生の下り坂を急降下していくリディの対比があまりに残忍で、まさに分水嶺ッて感じだ。
成層圏を舞台にした浮遊感のある戦いも独特で、見応えがありましたね。

お話の構図を整理しておくと、ブライトさんの独断に後押しされたバナージはオードリーとミネバを奪還するべく、ジンネマンの作戦に乗っかる形で財団(の影響下にある連邦)と衝突。
連邦軍人として、現実に負けてしまった普通の人間として、バナージのライバルとしてこの行動を看過できないリディは孤軍奮闘するものの、ミネバにはフラれ、デルタプラスは破壊されて散々な目に遭う、という感じ。
マリーダをあくまで人間として自分の手元に置こうとしたアルベルト含めて、女へのアプローチで男たちの正当性(もしくは正当性の無さ)を確認するお話になっていますね。


まずは、ヒロインと再合流し主人公たる資格を確認したバナージよりも、情けなさが加速し続けるリディ少尉について。
今回のリディ少尉はつくづくバナージ&ミネバ側の主張の逆を貼り続けることで、バナージが運命に選ばれる正当性を強調し、それを掴めなかった自分が正解から離れていく理由を、体を張って説明していました。
ユニコーンには負けるし、ミネバには選ばれないしで踏んだり蹴ったりなリディ少尉の顛末は、彼自身の資質(の欠如)が引き寄せた自業自得な部分もあり、物語に愛されなかった『主人公になれなかった男』の哀れさを感じさせもし、僕にとってはなかなか複雑な描写でした。

バナージが主人公である理由は『"それでも"と言い続ける』から、つまりUC(≒現実)の世知辛さに押し潰されず、自分と人間の可能性を諦めずに前を向き、物語をポジティブな方向に引っ張れる人物だからです。
その美質を高める意味もあって、リディ少尉は『"それでも"と言い続けられなかった』キャラクターとして設定されており、連邦の腐った平和が生み出す矛盾は見て見ぬふりをして、現実を改革にするのではなく追認する方向に動く。
後ろ向きな弱虫に主役を張られても、物語がどんどん妥協していくだけで面白くないわけで、『"それでも"』と言い続けるバナージが主役なのは、爽快感の意味でもとても正しいでしょう。

『家なんてどうでもいい』と、自分自身が背負った公的歴史を投げ捨ててしまう姿勢を見せたリディが、ザビ家の罪と誇りを背負って生きていく覚悟を決めたミネバに選ばれないのは、当然といえば当然でしょう。
ミネバは厳しい現実の前に膝を屈して、『しょせん、現実なんてそんなものだよ』とつぶやく道を選びたくないからこそ、フル=フロンタルの影響を脱してインダストリアルセブンにやってきた。
『家』に抱く愛憎両方を肯定しようと願うミネバの視点からは、『家』の持つ重さを投げ捨てて連邦軍人という『もう一つの公』に擦り寄ったリディの姿は、惨めで情けないものに映ったのだと思います。

リディはマーセナス家の名前をただ疎ましいものとして扱っていますが、ミネバにとってザビ家は呪いであり罪であると同時に誇りでもあって、『ミネバ=ザビ』を成り立たせる大事な要素として認識されている。(ここら辺の認識が、ジオンに愛着のあるファン層のイメージと重なり合ってるのが巧妙なところですが)
ミネバはザビの名前を捨てたかったわけではなく、完璧な政治的存在である『ミネバ=ザビ』と、傷つき迷う『オードリー=バーン』という二つの自己のバランスを取りたかったわけで、『家なんて捨てちまえ!』というリディの答えは、地球で彼が出した『ザビ家の名前を捨てて、マーセナスの人間になってくれ』という答えと同じく、受け入れられるものではありません。
ミネバの願いを叶えてくれるのは常に『私人としての『オードリー=バーン』を大切にしろ。キミは政治的存在である以前に一人の女の子なんだ』という、バナージのメッセージであり、別れの瞬間まで『ミネバ』と呼び続けるリディではない。
『ミネバ=ザビ』の重たさに押し潰されそうになった時、バナージが大事にしてくれた『オードリー=バーン』に立ち返ることで、正しい行動を選択する勇気を取り戻せるからこそ、彼女は迷いなく空に身を投げたのでしょう。
今回ミネバが見せた『お前に保護されるなら死ぬ』というあんまりな肘鉄は、『ミネバ=ザビ』が求めるものも『オードリー=バーン』が欲しいものも見誤ったリディが、当然迎える結末といえます。


『家』への対応だけではなく、『箱』の真実に押し潰され、現状を維持し続ける方向に擦り寄った対応も、ミネバとは真逆のものです。
『100億からの人々』の命を考え、最善ではなくても次善ではある『腐った連邦政府と財団による、搾取秩序構造の維持』を追認するリディの姿勢は、『敵』である連邦上層部や財団と全く同じものです。
これまでこのアニメは『現実』にある不正義や抑圧、白色テロルの犠牲になる無辜の命をたっぷり描いてきたわけで、ミネバだけではなく視聴者も、どれだけ言葉を飾ってもリディの決断には基本的に同意できない。
クソみたいな現実を悪趣味交えつつたっぷり描いてきたからこそ、それを変えてくれるかもしれないオードリーやバナージが主人公としての期待を背負うわけで、真実を前に立ちすくむリディの態度は、やはり主役には成り得ない、情けないものでしょう。

しかしそれでも、リディはミネバを助けたいと思ったから軍機に違反し、マーサに反逆して銃をつきつけられ、『それでも』手を差し伸べたわけです。
そこには一筋の真心があって、たとえそれが良い結果につながらないとしても、真心は真心なんじゃないかと僕は思います。
どれだけねじれてしまっても、どれだけ情けなくても、リディの恋心はバナージのそれと同じように大切なものであり、そういう気持ちの大切さはバカにせず見守りたいなと感じました。
成功者であるバナージを輝かせるためもあって、リディは徹底的に敗北者として描かれているので、どうしても道化っぽくなっちゃうんだけどね。

『腐った支配でも、皆殺し戦争よりはマシだ』
『一人で現実なんて変えられない』
『あまりに大きな決断を前に、立ちすくむ弱さも人間らしさだ』

リディが繰り返す言い訳は情けないと同時に、強く正しいバナージやオードリーが辿りつけない真実を照らしてもいる気がします。
バナージは『逃げたい』『辛い』と口にはしても、実際にへこたれて視聴者をイライラさせることはない出来た主人公なので、彼一人を描いていては『人間の弱さ』を切り取ることがどうしても出来ない。
正解を選び続ける主人公の影として、リディが貧乏くじを徹底的に引かされ続けている部分は、確かにある気がします。
同時に彼の結末は彼自身の資質、彼自身の決断に確かに繋がっていて、フラれるのも負けるのもキャラクター内部の物語として無理がない流れになってはいるんですけどね。
ミネバが空に身を投げだした時、捨て身で飛び込めない保身とか見てると、『まぁそうだよね』と『それじゃダメだよね』という気持ちが、同時にやってくるね。

リディに与えられているMSはデルタプラスであり、NT-Dという特別な力を秘めたユニコーンではありません。
デルタプラスはあくまでただの暴力装置で、空から落ちてくる女の子を抱きしめる奇跡も起こしてくれないし、洗脳されたマリーダの心に滑り込んで、人間らしさを取り戻させることもできない。
今回ユニコーンが起こした奇跡は、色々つらいことを乗り越えて成長したバナージが自分の行動で引き寄せた結果。
主役の周りにあるものとの対比も含めて、自分的にはバンシィよりもデルタプラスのほうが役者として仕事をしていた印象があります。
『お前らニュータイプは心の底から分かり合って、どうしようもないはずの現実を変えられるかもしれないけど、俺はずっと一人だったし、他人の心なんてわからないんだよ! この機械だって、人を殺すばっかりで分かり合う助けなんてしてくれないんだ!!』というリディ=オールドタイプの悲しみが、今回のデルタプラスからは感じられたなぁ。


そんな負け犬たちの影に照らされる形で、ヒーローとヒロインの決断は今回鮮烈でした。
散々振り回されてきたNT-Dの力を制御し、ロニ相手には失敗した説得をやりきり、マリーダさんの命と魂を救ったバナージ。
第1話から悩み続けた公私の一線に明確な答えを手に入れ、『それでも』という決意を持って『箱』と『ザビ家』に向かい合うことになったオードリー。
彼らの決断もまた、物語的な必然を追いかけているだけではなく、悩み苦しみ迷って間違える、人間の物語の結果としてちゃんとあります。
なので、インダストリアルセブンでの出会いを再演する形で再び出会った二人のロマンスは、ぐっと胸を打つ良いシーンだった。

第1話での出会いから本当に色んなことがあって、殺したり殺されたりする現実をたっぷり体験した子どもたちは、ある程度の成長を見せました。
何も知らず、何の力も持たなかった最初の出会いとシチュエーションを重ねることで、同じことが何度でも繰り返される二人の運命を強調しつつ、彼らが手に入れたものが何なのか、クリアに見える構図が組み立てられています。
それはおそらく『力に流されない意思と決断』であり、パイロットであるバナージはNT-Dという破壊の力を使いこなしてマリーダを救い、政治家であるミネバはザビ家の歴史を背負い前に進む決意を固めた。
二人はそれぞれ、各々の立場に必要な正解にたどり着いているわけで、今回手に入れた『意思と決断』が今後の戦いを切り開く武器になるのは、おそらく間違いないでしょう。
出会って別れた二人の再会は、このアニメがなんのために積み上げられ、どこに向かうのかという問いへの答えを提示するシーンでもあるわけです。

『自分の自由になる唯一のパーツ』で『"それでも"と言い続ける』こと。
『力に流されない意思と決断』という答えは、二人が独自に出したわけではなく、彼らに関わった様々な人達の物語が強く影響しています。
マリーダとバナージの出会いが作中最大のビッグバンだったのは間違いないんですが、それ以外の人達との出会いをないがしろにはせず、主役たちが答えを見つける大事な導きにしていることは、これまでの物語が無駄ではなかった満足感を強めています。
哀しいことも楽しいことも、劇中で描かれたことが有機的に積み上がった結果としての成長が見れるのは、やっぱ最高に楽しい瞬間よね。

今回の再開が感慨深いのは、やっぱ主役たちに色々苦労をさせてきたからで。
殺したくもないのに殺したり、守りたいのに守れなかったり、強いジレンマをキャラクターに体験させ、学習させ、成長させる過程を視聴者と共有できていればこそ、今回たどり着いたバランスの良い『正解』を、素直に受け止められる。
そういう意味では、マーセナスの家に引き取られた後のミネバの描写は、もう少し太っても良いかなぁと思わなくもない。
血沸き肉踊るイカすロボ戦を描くことでファンの期待に答えている以上、ギリッギリの尺で色々回しているのは分かるけどね。


カメラが集まるバナージ側に立ったジンネマン親父が、描写の分厚さでアルベルトを張り倒す展開も、尺の厳しさをモロに被った形だろうか。
いや、ジンネマン親父が『もうテロ屋辞めます! バナージにぶん殴られて、大事なものに気付きました!! マリーダー! 俺だー!! 一緒にガランシェールに帰ろうー!!』ってなる流れはすげー納得行くし待ち望んでいたものなんだけど、アルベルトおじさんがマリーダさん好きな気持がどんなものだったのか、もうちょっと見たかったというか。
マリーダのために『袖付き』に背中を向けたジンネマンと、マーサと財団を捨てきれないけど人間らしい優しさも見せたいアルベルトじゃあ、覚悟の量が違うってのも分かるけどね。
ここら辺は、空に飛んだミネバを追いかけられなかったリディとも繋がるところか。

ガンダム殺す!!』というむき出しの醜さをマリーダさんに叩きつけることで、正気に戻すアシストまでしているわけで、リディ少尉の物語的仕事量はホント大変なことになっとる。
『醜さや弱さを他人の中に見ることで、自分の姿勢を正す』てのが、シャドウが担う大事な物語的意味合いなわけだけど、今回リディ少尉はバナージ・ミネバ・マリーダというメインアクター全ての鏡を担当している、ハード・コアな負け犬でした。
マリーダさんはジンネマン親父が受け止めてくれることで、己のカルマを今回完全に乗り越えた感じがあるけど、そこら辺の憎悪を誰が代理で引き受けるかといえば、無様な敗北者になっちゃったリディしかいないわけで、こっからさらに落ちるのだろうなぁ。
描写の量を比べても、ジンネマンに勝てるわけがなかったアルベルトと合わせて、負け犬同盟として立ち上がったりすんのかねぇ……二人共バナージ大嫌いだし。

マリーダさんは根本的に強く優しい人なので、クソ洗脳装置という物理的なアイテムさえぶっ壊せば説得が完了する状態だったのは、話が早くてよかった。
まぁ彼女を説得するのは第7話以来二度目だし、あの段階で心のねじれは解けているわけで、真っ直ぐなものをわざわざ歪めたマシーンから外せば勝ちってのは、なかなかスムーズな流れだ。
彼女が財団のマシーンから『マリーダ・クルス』に戻りかけていることを、ヘルメットのバイザーを開けて『目』を見せることで表す演出とか、UCらしいわかり易さで好きよ。


と言うわけで、ヒーローとヒロインがふたたび出会い、マリーダさんが戻ってくる帰還のお話でした。
物語が始まった地点に戻ってくるんだけど、それはただリセットしたわけではなく、これまで積み重ねた成長と、それが可能にした決断を込めて帰ってくる『意味のある帰還』だという、なかなか重層的な描き方だったと思います。
『振り出しに戻る、ただし強くてニューゲーム』というお話が、折り返し点になるだろう話数でしっかり入るのは、UCの物語的構造の強さを如実に示していると思います。

主役たちが己の道を見定める中、そのシャドウたるリディ少尉は闇を深くしていました。
宇宙では『袖付き』が待ち構えていますし、まだまだ油断はできないガンダムUC
来週以降が非常に楽しみです。
いやー、それにしてもマリーダさんが正気に戻って良かった良かった……クソ洗脳のバックラッシュとかヒドそうだし、両手を上げて喜べるわけじゃないけど、やっぱ好きな人が死なないのって良いよねやっぱ。