イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ラブライブ! サンシャイン!!:第3話『ファーストステップ』感想

伊豆半島に女の子が集まって歌ったり踊ったりする方のアニメ、今週は初ライブ。
旧作一期3話"ファーストライブ"を強く意識し、伝説を再演することでAqoursの独自性を見せる、かなりテクニカルな話でした。
『完敗からのスタート』だったμ'sの物語に比べ、沼津・内浦という地域性に支えられ、満員札止めという『勝利というファーストステップ』を踏んだAqours
勝利の背中には敗北が、成功の裏には失敗が常に付きまとうものですが、彼女たちの歩みは何処に向かっていくのでしょうね。

今回はAqoursの"ファーストライブ"であると同時に、これまであまり出番のなかったキャラクターが前に出て、強く自己主張をしてくるお話でもありました。
特に二話で一回も出番のなかった鞠莉は八面六臂の大暴れでして、ダイヤお姉ちゃんをいじり倒したり、理事長特権を駆使してAqoursの立場を守ると同時に最初の試練を与えたり、大きな仕事をしていました。
三年はもうちょっとこじらせているかと思ったけど、再開するなりスキンシップに走る鞠莉や、抱きつかれても振り払ったりはしないダイヤを見るだに、少なくともダイマリは仲が良さそうだ。
わざわざ帰国して理事長株を買い、体育館という舞台を整えてAqoursを後押しする辺り、鞠莉はスクールアイドル(もしくは学園生活)に強い思い入れがあるんだろうなぁ。
『喧嘩するほど仲が良い』って感じの二人と、一人だけ私服で体育館の外にいた果南ちゃんとの間に何があるのかは、個別エピソードが回ってきてから語られるところかな。

鞠莉が『体育館を満杯にすること』という具体的な目標を定めたことで、Aqoursの活動は学校外に広がっていき、より困難で手応えのあるレベルに上がっていきます。
歌を作って練習して、衣装を仕上げて広報して。
メンバーの三人が走り回ることで、彼女たちの関係性やキャラクターも掘り下げられ、他のキャラクターと出会うシーンも増える、元気な展開でしたね。
ビラ配りやユニット名決定といったイベントはμ'sも序盤でこなしていたものであり、ここらへんにも強い目配せを感じます。

これまで二話かけて秋葉原由来の特定外来生物に対応していたわけですが、その煽りを貰って見せ場の少なかった曜ちゃんが、今回は非常に目立っていました。
衣装製作からダンスのダメだし、女子モテ力を活かしての広報活動に千歌の操縦と、多彩で隙のない実力を見せ付けて、話を牽引する立場でしたね。
梨子とも打ち解けた感じになっていて、二話までの『友達の友達』という感じの距離感が縮まった描写が多めだったのは、彼女たちには是非仲良くなってほしいと願っていた立場としては、ありがたい限り。

千歌は先代リーダーに比べて凡人というか、物事の本質を直感的に理解し、正解に向けて走りだす能力がやや弱いキャラとして描かれています。
もちろんユニット名の決定とか、円陣の組み方とか、照明が落ちた時の決断とか、主人公として大事な選択は取りこぼさないんだけど、才能に任せて完璧にやり切れるほど優秀でもないということも、しっかり描写されています。
体育館を人が埋めていなくても、落雷で照明が落ちても頑張れるけど、じわじわと迫ってくる現実に涙をこぼし、足を止めてしまう程度には脆い、普通の女の子。

そんな千歌が出来ないこと、気付けないことを補い、モチベーションを燃え上がらせる副官役として、今回の曜ちゃんは非常に優秀でした。
飽きっぽい千歌を『ハンパが嫌い』と肯定的に捉えたり、『じゃあやめる?』と何度も聞いて意欲を高めさせたり、とにかく千歌のことが好きで、彼女が気持ち良く夢にむかって走れるように、全力でさり気なさを演出している所がいじましい。
これまでの描写は千歌の普通さ、至らなさを結構強調して描いているので、それを補う曜ちゃんの完璧さの値段が上がっているわけですが、終盤そこを切り崩してドラマを作ってくるのかねぇ。


そんな曜ちゃんが志満姉と軽トラに乗ってドライブするシーンは、サンシャインのいろんな側面が見えて好きなシーンでした。
まず軽トラという泥臭い乗り物が、沼津・内浦の土着性を土台にするサンシャインを巧く表現していて、凄く良かったですね。
遠慮なしに送ってもらえる高海家との古い付き合いとか、色々足らない末っ子を見守る姉視点の共有とか、これまで見えにくかった曜ちゃんの顔が色々見えてくるシーンでした。

このシーンは渡辺曜の現在を表すと同時に、Aqoursの未来への暗示としても機能しています。
志満が『それで、上手く行きそうなの、ライブは?』と言った瞬間に順調だった歩みが赤信号で止まり、曜が動員への不安を口にして、それを『大丈夫よ、みんな温かいから』と答えた瞬間青信号になって先に進む。
一連の流れはこの跡あるライブの展開と見事に重なっていて、少ない動員数にショックをうけることも、それが地域の人達の善意で埋まっていくことも、この段階で上手くほのめかされています。
こんな感じでエピソード内での暗示のリレーがうまくいくと、作中で起こる出来事が偶然ではなく運命であるような感覚が強くなり、描写される結果を必然として納得させる力がより強まる効果があるわけで、なかなか効果的な二枚取りだなと思います。

軽トラが向かった先には雷雲があって、これはライブを襲うアクシデントの予兆として、シーンとシーンを繋いでいます。
しかしライブの結果が青信号として暗示されている以上、その先にあった雷雲は近い未来だけではなく、エピソードを超えた遠い未来も意味してるのかなぁ、などとも思う。
Aqoursがファーストライブを満員で開始した以上、どん底から成り上がったμ'sの物語と同じ軌跡は辿れないし、このまま順風満帆失敗一切なしで進んでいっても、あまり面白い展開にはならないでしょう。
どっかで激しい揺り戻しが来ると思っているのですが、青信号の先の雲はその暗示なのかなぁとか、余計なことも考えてしまいます。
失敗や困難を乗り越えてこそ、青春の物語は輝くと思うので、暗雲自体は歓迎ですね……上手く描いて欲しいもんです。


体育館ライブはμ'sのファーストライブを遠景として踏まえつつ、その結末は大きく違うものでした。
数少ない観客に停電のアクシデントと、色々ピンチは襲いかかってきますが、Aqoursの努力はしっかり実を結び、体育館は満杯になる。
μ'sの時は釣れない反応だった他人たちはしっかりビラを貰って、雨の中わざわざ集まって、Aqoursへの期待を形で示してくれました。
沼津・内浦のローカル性が、輝く美術だけではなくそこに住む人々のメンタリティとして反映された、土着性の強い結論だったと思います。

廃校という厳しい現実に対し、誰にも期待されないまま滑りだしたμ'sと、家族や地元の人々の熱い声援を、最初から背中に受けて走りだすAqours
厄介μ'sキチとして色々言ってくるダイヤですら、重たい発電機をわざわざ引っ張りだしてステージを再開してくれるわけで、Aqoursは非常にポジティブな船出を果たしたといえます。
寄せられた期待は同時に重荷にもなりかねないわけで、喜んでばかりもいられませんが、愛されないよりは愛されたほうが絶対に良いのは間違いない。

そんな期待に後押しされ成功したステージは、主に高海千歌の可能性と不安要素、両方を浮き彫りにしたと思います。
横一列に手をつなぐのではなくて、お互いの顔が見える位置で励まし合う円陣や、全員が動揺する中で真っ先に歌い出す積極性を持ちつつも、段々と声が小さくなって消えかかってしまう弱さを露呈もする。
準備期間で強調される『飽きっぽさ』『操縦のしやすさ』と同じような、凡人としての強さと弱さが千歌にはあって、思い込んだことを徹底的にやり切る強さや、無条件で人をひきつけ引っ張っていくカリスマや、迷ったとき何をすれば良いのか迷わず解る直感力は、そこまで強くはない。
μ'sにわかである千歌は『伝説に憧れるただの女の子』であり、どんなピンチでも堂々と演じきれる『自分が伝説になる女の子』とは、また違う存在なわけです。(穂乃果もファーストステージで折れかかっていましたけど、花陽と凛ちゃんを見つけた後はまっしぐらだった訳で、そこら辺の心の太さがやっぱ違うなと感じました)


ステージが終わった後ダイヤが出てきて問答するシーンは、もちろんエリーチカの詰問を踏まえてのシーンなのですが、作中のAqoursがなぜスクールアイドルを確認しつつ、メタ的な領域まで視野を広げた面白いシーンだったと思います。
『スクールアイドルの歴史と、地域の善意があってこのステージがあるんだ』というダイヤの指摘は至極もっともで、『音ノ木坂廃校阻止』という公益のために立ち上がった、μ'sに近い視点を持ってくる言葉だと思います。
同時に前作があまりに伝説的すぎてサンシャインを認められないファン層の意見を、ダイヤに仮託して喋らせるメタ的な台詞だったとも感じる。

これに対し千歌は、『分かっている』と応える。
『分かったうえで、今しかない瞬間だから、だから輝きたい』という千歌の言葉は、『ラブライブの続編』という立場を踏まえたうえで、『ラブライブ! サンシャイン!!』は一体何を語っていくのか、堂々と言葉にした立派な宣言だと感じられました。
ダイヤが持ち出す『歴史の重さ』を『それでも』で接続することで、過去へのリスペクトも未来への熱い欲望も同時に表現出来てて、良い台詞だなって思う。

伝説になるような凄いことが目の前にあって、それがひどく重たく大事なものだってことは分かっていて、それでも自分の物語をやりたい、輝きたい。
千歌個人がそう思うことは誰にも止められないし、素直にまっすぐその気持を表明した言葉は、ルビィや花丸、善子にちゃんと届いて、新しい衝動を伝播させていくわけです。
なんかいろいろ厄介なことが起きそうなムード漂うサンシャインですが、この初期衝動の強さがしっかり描写されたことで、『ま、なんか起きても大丈夫だろう』と信じる土台が生まれた感じだ。


千歌はスクールアイドルの表現力、輝きと笑顔を観客に届ける力に感動して、Aqoursを始めました。
末っ子らしく、μ'sの物語や地域の善意に後押しされつつも、個人としての努力もたっぷり積み重ねて、ステージをやりきり観客を感動させて、未来のAqoursメンバーに勇気を与えている。
今回ステージを踏むことで、千歌とAqoursは『μ'sだけで終わらない、何処までも広がっていくスクールアイドル』という理想を一つ体現して、『なりたいと思っていた自分』に近づいたわけです。

これは劇中で表現されたキャラクター個人の人生の物語であると同時に、色々と厄介な立場にいるサンシャイン自体の物語でもあると、僕は感じました。
CD初動434枚から初めて、最終的には社会現象にすらなった前作のスタンスが"ファーストライブ"に投影されているように、歴史と声援に後押しされて手に入れた今回の成功は、サンシャインが今どういう状況にいて、誰に支えられ疎まれているのかよく見据えた、メタ的な演出でもあるのだと、僕は思うわけです。
前作が作り上げた伝説の偉大さを認めたうえで、『それでも、自分の輝きを語りたい』と叫んだ千歌の声は、このアニメが『ラブライブの続編』であると同時に、『ラブライブ! サンシャイン!!』という独自の物語なのだと、強く訴えかける言葉でした。

そこには自分たちの物語を語りたいという強い(そして創作である以上当然の)欲求と同じくらい、自分たちを生み出してくれた前作へのリスペクトがあります。
ステージを終えた千歌の言葉に僕は、μ'sの物語に心を動かされ尊敬しているからこそ、その思いを受け継いでいきたいという、千歌とサンシャイン製作者が共有する願いを、お人好しにも感じ取ったわけです。
事実として『ラブライブ!』なくして『ラブライブ! サンシャイン!!』が存在し得ない以上、あまりにも偉大な先達へのリスペクトは大事だし、同時にそれとは違う物語をやりきろうという意欲も欠かせない。
今回のステージは『大ヒット作の世代交代物語』という、非常に厄介な立場から逃げることなく、前向きに立ち向かうための決意表明として、非常に優れていたと感じました。


前作の構造を強く意識した全体的な展開ひっくるめて、いまサンシャインが何処にあって何処に行きたいのか、良く見えるエピソードだったと思います。
メタ的な要素をうまく取り込みつつも、三人で力を合わせてステージを作り上げていく手触り、失敗を目の前にした千歌たちの怯え、それを乗り越えさせる観客たちの声援、ステージが生み出した波紋と、あくまでキャラクターの人生が持つ体温にこだわって、冷静になりすぎずに展開させてくれました。
メンバー三人をメインに据えつつも、このあとメンバーになるだろうキャラクターにどういう影響を及ぼしているのかしっかり捕まえていて、今後に向けて準備を整えているところも、非常に良かったです。

自分たちが今何処にいて、ここから何処に行くのか。
決意表明としてのステージは非常に上手く行きましたが、実際に未来をたぐり寄せるためには具体的なエピソードと感情を積み重ねるしかありません。
来週は一年生トリオの学校来てる方を攻略するみたいですが、どれだけ心に迫る描写を積み上げられるかが、『ラブライブの続編』が『ラブライブ! サンシャイン!!』になりうる大事な足場だと思います。
これまでのエピソードの中でじっくり地ならしもしているので、どんな青春爆弾が炸裂するのか、今から楽しみですね。