イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アイカツスターズ!:第15話『月と太陽』感想

胸の奥に秘めたパッションだけが夢へのパスポート、スターズ15話目は光と影のロンド。
おねえたむすきすき症候群を極限までこじらせた真昼が、張りあいのない姉に苛ついたり、自分の体をいじめつくしたり、小春のアシストをもらったり、おねえたむと抱き合って素直になったり、超王道の姉妹愛憎物語をやり切る展開でした。
こういう濃い感情をぶつけられることで、夢のステージへ向けてひた走るキャラクターたちの行動にも納得がいくわけで、真昼の今後にとって良い話だったと思う。
ええ、もちろんクソみたいにこじらせた姉妹百合の描写が最高だったってのはありますよ当然。(腐れ百合厨寝言旅)

愛ゆえに憎み、憎しみ故に愛が見えなくなる真昼のねじれを、主に夜空と小春の二人がかりで治していくのが今回のお話し。
姉妹愛というポジティブな感情が、逆に真実を見つける眼を塞いでしまう逆転現象というのは、無印では描かれることのなかったスターズ独自の『普通さ』でした。
無印は非常に丁寧に憎悪や嫉妬といったネガティブな感情を排除し、ポジティブな気持ちがそのまま存在し続ける、常に正解を選ぶルールが支配した世界でした。
ネガティブな感情は基本的に存在せず、存在したとしても『自分を鍛える糧』もしくは『どうにかして乗り越えなければいけない障害』として認識され、的確に対処されます。(なので、その基本ルールが唯一崩れた第97話は特別なお話しになる)
人間としてあるべき状態がすぐさまやってくる、善に祝福された世界の物語としてアイカツ!は物語を展開し続け、最後の最後までそのルールを崩すことは(ほぼ)ありませんでした。

ひるがえって今回、真昼は姉への憧れと愛情というポジティブな感情をいつしか見失い、寂しさに支配されて姉を憎む(べきだと思い込んでいる)、ネガティブな状態から物語を始めています。
この状態は真昼一人ではけして解除されず、前回手に入れたはずの『素敵な笑顔』という強みも忘れ去られてしまっている。
ねじれてしまた気持ちを自分では解くことが出来ず、自分の体も心も、大好きな姉も傷つけてしまう真昼の暴走は、無印では描かれなかった『普通の』人間の姿です。

ねじれを解いて素直になれば、幼い時のように『お姉ちゃん大好き!』と言葉にできれば、全てが解決することは真昼も心の奥底で理解しています。
しかし、人間が弱く脆い存在であるかぎり必ずしも真実に向かい合うことは出来ないし、愛していればこそ憎むという、不可思議なねじれも生まれてくる。
そういう理不尽なねじれを物語に組み込み、それがほどけていくことをドラマの中心に据えるという意味で、今回の話しは非常に『普通』の物語であり、人の心の影を色濃く描くことで光を強く見せる対比は、無印にはなかった構図だなと思いました。


もちろん、自分の気持を制御出来ない真昼を描くのは、わだかまりが溶けて姉に素直な気持ちで接することができるようになるための、一種の前振りです。
人間の前向きな可能性を真正面から語り続けるテーマ性は、無印もスターズも変わることはないわけで、好きな人に好きと言えない、不幸な状態で話が終わることはない。
なので、真昼がお姉ちゃん好き過ぎて愛情こじらせた厄介夜空ヲタだってのは、先週から引き続き描写されている部分です。
香澄姉妹がお互いを思いやる気持ちこそ、二人の間のねじれが解除され、物語がカタルシスに導かれる最大の足場なわけで、対立(というか、真昼が一方的に夜空を敵対視しようと頑張っている)しつつ目を背けられない状態を丁寧に描いていたのは、とても良かったです。

真昼の夜空コンプレックスはあまりにかたくなで、自力で解くことは出来ません。
それを解きほぐすには誰かが真昼の内面を理解し、それを伝えて上げる必要があるわけですが、その仕事を担ったのは真昼と同じように夜空が好き過ぎてちょっと頭がおかしいアイドル・七倉小春でした。
これまでもゆめ相手に高いサポート能力や冷静な分析能力、高い共感能力を見せていた小春ですが、今回は『夜空が好き』という共通の感情を足場に、真昼が言葉にできていないねじれを言語化して、自分が一体何に悩んでいて、どうすれば良いのか示唆してあげる仕事をしっかりこなしていました。
こういうシーンをちゃんと描くことで、小春という少女の持つ人間的魅力、孤独なままでは歪んでいってしまう世界のルールと、それ故に高まる仲間のありがたさが浮き彫りになってきます。

真昼を受け止める立場の夜空も、自分の気持を完全に制御できているわけではありません。
『姉』であり『S4』でもあるという強い立場に置かれているものの、彼女もまた悩み傷つき、本当の自分をなかなか見つけられない一人の少女として、今回は描かれていました。
トップランナーを『無敵のアイカツ超人』ではなく、悩みや弱さを抱えてなんとか走っている『人間』として描くのは、前回含めたこれまでの演出哲学に合致した、一貫性のある描写だと思います。
特に夜空は前回までは『余裕綽々の百合捕食者(レスボス・プレデター)』という側面が強くでていたので、ここで迷ったり弱ったりする顔を見せることで、キャラの複雑さを強化できたのは凄く良い。
感情の暴走を(たとえ直接的には描かないにしても)ビンタという『暴力』で描くのも、スターズが無印と大きく変えてきた部分でしょうね。

弱々しく迷う夜空の気持ちを、S4の仲間であるひめがしっかり導いていたのも、非常に良かったです。
真昼に小春がいてくれたように、夜空にもひめが寄り添って、自分では気付けない本心を言葉にして支えてくれる。
スターズ世界では『普通』の人間の『普通』の弱さを、『アイドルの天井』たるS4すらもっているのだけれども、迷った時には頼れる仲間がいて、けして一人ではないという『普通さ』もちゃんと描く。
友情のかけがえなさは当然無印でも描いてきたわけですが、影の部分に制限をかけずに描写した分、ポジティブな要素の見え方が大きく違ってくるのは、スターズ独特の強みかなと思います。


愛ゆえに憎み、自分の気持と向かい合えなかった真昼は、小春の言葉によって気持ちのねじれを正され、再度姉と向かい合う。
ひめによって本来の自分を取り戻した夜空が真正面から真昼を抱きしめ、非常に真っ直ぐな気持ちを叩きつけることで、真昼の心の壁は取り払われ、隠されていた姉への愛情がブワッと溢れ出します。
ここら辺の気持ちの流れを非常にドラマティックに、直球な演出で描き切っていたのは、本当に良かった。
表情の芝居も感情がこもって素晴らしかったし、エモーション溢れるスローモーションの使い方とか、柱を境界線として機能させて、真昼の心の壁とその突破を分かりやすく象徴していたレイアウトとか、視聴者に何を見せたいのかが非常にクリアな描き方でした。

今回の話は香澄姉妹が余計な心のねじれを手に入れる前の素直な時代、無垢な姉妹関係を取り戻すことで進んでいきます。
お互いのことが好きだという気持ちを、素直に感じ取れていた時代の象徴として、『お絵描き』という頑是ないフェティッシュを有効に使いこなしていたのは、非常に良かったです。
まだ真昼が姉を憎んでいなかった時代の象徴として、拙い『お絵描き』を見せておいて、関係のねじれが解けた瞬間『お絵描きコーデでアイカツ!しようね』という新しい約束が生まれ、素直になった心の象徴として『お絵描き』が真昼の部屋に飾られている。
『お絵描き』を追いかけることで、真昼と夜空の関係がどこから生まれ、どうねじれてどこにたどり着いたのか、非常に分かりやすく理解できるのは、優れた演出だったと思います。

香澄真昼というキャラクターの根本にある『姉へのコンプレックス』は解消されたわけですが、ここで即退場とならないように、『姉へのライバル意識』を残したことも、今後の展開に繋がる妙手でした。
これまではネガティブな意味合いを持っていた『夜空には絶対負けない!』が、愛情を確認したことで非常にポジティブな方向に変わり、S4という『アイドルの天井』を目指すモチベーションが健全に強化されたのは、真昼の今後のアイドル活動にとって、大きなプラスになったと思います。
真昼のライバル意識が消えないことで、夜空も前回見せた『追いかけてくるものがいるから、手を抜けない』という個性を存分に発揮できて、非常に巧妙な終わらせ方でした。
お互いのクエストを解決してカタルシスを作りつつ、大きな目標に向かうモチベーションを純化・浄化しているので、お話の大きな流れである『アイカツを頑張る』にしっかり乗れるってのは、非常に良いね。


というわけで、元仲良し姉妹が感情のもつれを乗り越え、仲良し姉妹に戻るお話でした。
愛情ゆえの憎悪が色濃く描かれ、どうしても素直になれない真昼の迷いに説得力があったので、助言者として小春が出てくる必要性が強く強調され、二人の株が同時に上がる良い展開でした。
夜空も捕食者として被った余裕の仮面を外し、妹を受け止めきれない弱さを見せることで、ゆめとの絆を巧く描写できていて、色んなキャラクターの良いところが出る、素敵なエピソードだったと思います。

つーわけで美組の株は爆上げしたわけだけど、何しろスターズ人数多いので、まだまだやんなきゃいけないことは盛りだくさん。
来週はローラとゆめ、そして歌組なんでひめがメインを張る話っぽいわけですが……舞組のフォローまじ欲しいよー。
今週なまじっか出番があっただけに、ステージも個別エピもお預け状態、一年メインキャラに枚組みが居ないゆずパイセンの不遇が目立つ……。
公式ページを見ると第19話に個別が来るっぽいので、香澄姉妹にブッこんだレベルの仕上がりを強く期待したいですね。
この2つのエピソードで夜空の素顔が見れたように、はやくゆずの魂の地金が見たいわけよ、僕は(アイカツの黄色い女の子に魂引かれたおじさんの寝言でフィニッシュ)