イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない:第17話『岸辺露伴の冒険』感想

日常に潜む闇にフォーカスしたアーバン・サイキック・ホラー、今週は露伴ちゃんと康一くんの楽しいデート。
怪談要素も織り交ぜつつ、スタンド使い達が戦わなければいけない『悪』をクリアに見せて、露伴ちゃんの当事者性を上げ、鈴美という仕上がったヒロインでモチベを上げてと、今後の展開に繋がる重要な話でした。
こういう手応えのあるエピソードを主役にではなく、敵役だった露伴に回して主人公サイドに寄せるのに使うってのは、なかなか面白い。
やっぱ四部は杜王町という大きな舞台の中で、色んな職業色んな人格の奴らが戦ったり協力したりする群像劇的楽しさが強いのだなぁ。

今回のお話しは『吉良吉影の悪行を見せて、ラスボスまでのラインを引く』『岸辺露伴が案外いいやつなのを見せて、敵から味方にコンバートする』という機能を持っています。
この2つを果たす上で、鈴美のヒロイン力が高いのは凄く大事だと、アニメで色と声ついて動いて強く思いました。
ピンクで彩られたビジュアル自体がすごく可愛いし、なんか歩くたびに腰とお尻が揺れてセクシーだし、気さくな感じで話しやすいし、スパっと好きになれる第一印象を巧く作ってくれてました。

鈴美はただ可愛いだけでも、ただの無力な悲劇のヒロインというわけでもなく、無力な自分なりに誇りを持って『悪』と戦う、『力が及ばないヒーロー』でもあります。
実際、生前は幼い露伴を命をかけて助ける英雄的行動にもでているわけで、彼女は『連続殺人事件を止める』というクエストの依頼人であると同時に、『悪』に立ち向かって敗れた仲間でもあるわけです。
力及ばず殺されてしまうにしても、地縛霊として幽霊小路に縛り付けられているにしても、彼女が自分なりにできることをやりきっていることは、安全圏から『助けて!』というだけの受け身のヒロインとは一線を画していて、キャラクターも視聴者も彼女の願いを前のめりに『助けたい!』と思える、大事な足場になっています。

思い返せばジョジョのヒロイン枠はだいたいそういうキャラであり、自分なりに頑張っていればこそ素直に助けたくなるし、自分では出来ない理由があるからこそ主人公が出張る意味も出てくる。
現世に介入できない『幽霊少女』という立場は、アーバンホラーな感覚を強める味付けとしても極上ですが、やはり『今生きているスタンド使い』こそが事件を解決しなければいけない理由付けとして、非常に優れています。
そう考えると、『可憐な16歳美少女』っていうポジティブなキャラ付けも、それが残忍に奪われることで一気に悲惨さを強調し、『どうにかしなきゃな』というモチベーションを高める機能を果たしているのだな。

鈴美は幽霊という『非日常』の存在なのに爽やかないい人で、ラストで顔を見せた『日常に潜む悪』たる吉良吉影の異常さと対比することで、深い陰影を作っていました。
『日常』を演技しながら最悪の死体劇を楽しむクソ野郎もいれば、そいつにぶっ殺されて異常な世界に送り込まれても、人間的魅力と誇りを失わず生き続けている人もいる。
杜王町の中で起こるこの光と影の対比がやっぱ四部では徹底されており、そういうテーマ生を『加害者』と『被害者』にしっかり割り振ったエピソードがあるのは、お話の転換点が分かりやすくなって非常にグッド。
そういう意味合いでも、鈴美をとびきりキュートに描くのは、大事な仕事なのだ。

鈴美は色んな意味でヒロインとして優れているのですが、キャラクターの公共性に訴えてくるのが一番凄いところだと思います。
『可愛くて可哀想な自分がぶっ殺されたから、仇をとって!』という個人的なエゴで動機を作るのではなく、『クソ殺人鬼が杜王町の誇りを汚しているから、それを取り戻して!』という広い立場から説得しにかかる辺り、誇り高い人だなぁと思う。
同情はする側が勝手に感じればいいことだし、鈴美の可憐さと痛ましさはそれを生み出すのに十分なパワーがあるわけで、自己憐憫から一歩離れた場所で主張をさせるのは、キャラに深さが出る展開です。


なにより『被害者なのに、より広い視点で事件解決を考える高潔さ』を強調して、『あの人は誇り高い人だった。力になりたい』という露伴のリアクションを引き出しているのが、非常にグッド。
あれを見ることで『あ、露伴ちゃん漫画だけあればいいクソサイコじゃなかったんだ。結構普通に義憤とか抱くんだ』と、視聴者からの評価を変えることができるからね。
公益性から入って、和尚の話を聞くことで『この事件は公的な問題であると同時に、実は僕のオリジンに関わる私的な問題だったのだ!』というスクリューが起きているのも、見てて楽しいところでしたね。
露伴ちゃんは自分勝手かつ観察力の高い存在なので、『まぁ尊敬できる存在だし、助けてやってもいいかな』てのを経由しないと、『俺も殺されかけたし、鈴美お姉ちゃんもぶっ殺されかけてるから、これは俺の事件だ』とはならないのよね……めんどくせぇ。

露伴ちゃんの人間性を掘り下げていくうえで、感動しやすくて情が深い康一くんを相棒にしたのは、やっぱベストなチョイスだったと思います。
小路から帰還した後のリアクションを見ても、例えば仗助が相方だったら鈴美の相手もクールにこなして、ここまでの情の深いエピソードにはならなかったと思うし。
まぁそれ以前に、あの二人が仲良くデートする絵面は思いつかねぇけどさ……即座に殴り合いになりそう。
露伴が自分の事件を手に入れるシーンと、仗助が『それはまだ俺の事件じゃない』と切り捨てるシーンが連続しているのは、当事者性の違いがどう行動に反映されるか如実に分かって、非常に面白い。

とまれ、仗助より『弱い』康一くんが『見るなのタブー』を破ってピンチになることで、彼を助けなきゃいけない状況が生じて、露伴ちゃんの人間性がさらに上がるのも、エピソードの機能に沿った良い描写でした。
”ザ・ハンド”でもそうなんですが、スタンド能力を『自分の欲望を満たすための身勝手な力』から『誰かを助けるための特別な力』に変える瞬間が、第4部では非常に大事でして。
Aパートでは美少女のスリーサイズを暴き立てていた"ヘヴンズ・ドア"が、康一くんの命を助けるシーンを入れることで、露伴もまた『他人を屁とも思わない、漫画モンスター』から『ひねくれ者の最悪人間だけど、他人を助けることもある男』に変わっているわけです。
こういう立場の切り替えを説明で済ますのではなく、ちゃんと描写とドラマを込めてやってくれるのは、物語をより身近に感じることが出来てありがたいですね。


ただベラベラと『この話はこいつらがラスボスで~、お前らは今後こいつと戦うことになるわけです。あとそこのクソ漫画家は案外本筋に近い位置にいます』ってのを説明しても面白く無い訳で、アーバンホラーの恐怖がしっかり出ていたのは、退屈を跳ね除けるいい見せ方でした。
見えない恐怖をしっかり盛り上げる音響、オドロオドロしい色彩と、これまでも切れ味鋭かったホラー演出が今回は特に冴えていて、とても良かったです。
『作り物の怪談話とおもいきや、実は幽霊の実体験』という構造や、鈴美という『話のわかる怪異』で腹筋を緩めておいて幽霊小路という『条理を逸した怪異』と対峙させる展開も、恐怖と驚愕に必要な緩急をしっかり付けていて、(当然だけど)話運び上手いなぁと思いました。
四部は『隠れているものを見つける/隠れているものに襲われる』というホラーの基本的構図が本筋に深く関わっているので、ホラー的な見せ方の切れ味がそのまま仕上がりに直結している感じもあるなぁ。

人間の理屈を超えた恐怖が鋭く演出されると同時に、人間のそばに隠れているからこそ恐ろしい、サイコ・スリラー的演出も冴えてきました。
これまでもチラチラと暗示されてきた『杜王町に潜む闇』が顔と名前を手に入れた、『ついに来たか……ッ!』という感じも強くあって、今後の展開に期待と不安が高まる、素晴らしい登場。
鈴美の可憐さと同じように、吉良のクソサイコっぷりも色と声と動きがつくとより強くなり、『アニメってすげーなー』とバカの顔になってしまうね。
『切り取られた腕とデートする』という『非日常』でも、一切変わった様子がない『日常』こそが一番邪悪で異常ってのが、森川さんの爽やかな演技から感じられて、マジクソサイコだと思いました。


というわけで、物語の決着までの線を鋭く引く重要なエピソードでした。
物語に必要な機能をしっかり果たすと同時に、鈴美というヒロインを可憐に痛ましく描くことで、個人的な感情の熱がお話にちゃんと宿っているのが、やっぱり良い。
この熱を受けることで、露伴ちゃんが『仲間』になる展開も、素直に受け入れられるからね。

当事者性をモリモリ稼いだ露伴ちゃんに対し、スーパークールな仗助はまだまだ他人事といった塩梅。
そこでどう『吉良吉影の事件』を『東方仗助の事件』に重ねていくかってことになるんですが……そうか、ここで"ハーベスト"か……うまい作りだ。(エピソードの並びの意味にアニメでようやく気づく愚鈍顔)
ここまで原作の魅力を120%引き出してきたアニメが、重ちーをどう料理するのか。
非常に楽しみですね。