イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

クロムクロ:第16話『再会は水に流れて』感想

寂静たる黒部の秋をロボが征くアニメ、今週は嫁のいぬ間にレッツ交流。
最近グイグイキャラを立てつつあるソフィーちゃんが、由希奈がコスプレ撮影会行っている間にヒロインポイントをガツン!と稼ぐ回でした。
『平和な現代』の自由を満喫しているように見えて、色んなモノに縛られる二人の侍がすれ違う展開がなかなか面白い。
姫じゃない奴も負傷して池ポチャしたので、回収したら剣之介周りのヒロインレースが一気に激化する印象でしたね。
まぁセガールも真っ青な容赦無い首コキャ見てると、ムエッタは人間サイドに擦り寄るってことはなさそうだけども。

今回はキャラクターが綺麗に三班に別れる話で、個別の描写を交互に積み重ねつつ、終盤にかけて重なっていく展開となりました。
集団その1は由希奈が所属するコスプレ撮影班でして、クラスメイトと穏やかな日常をぼんやり楽しんでいました。
他のグループがわりかし血なまぐさくシリアスな空気を展開する中、休暇中の彼らは『平和な現代』を思う存分楽しみ、富山の自然を堪能。
研究所で辛気臭いしている連中と、開放的なコスプレ撮影会を楽しむ面々を対比することで、戦士が背負う重荷が強調されてたと思います。

世界規模の侵略をあまりシリアスに受け取らせず、『平和な現代』と『戦場』の間に一線を引いてきたこのアニメですが、文化祭襲撃を契機にそこも崩れつつあるってのは、辞表を出した茉莉那ちゃんを見れば解る所。
しかし一歩間違えれば世界全てが廃墟になりかねない状況なのに、美夏は『廃墟感』にこだわってセッティングを造り、自分に遠いものとしてコスプレ撮影を行います。
彼女にとってはまだ『平和な現代』は壊れていないわけども、ヒドゥとの戦争が生み出した河川敷湖(元きときと空港)の鮮烈で異様なヴィジュアルは、その境界線がもう危ういものだってのをよく教えてくれました。

由希奈はその危うい線の上に立ちつつ、のんきな旧友が謳歌する『平和な現代』を守るために戦ってもいます。
黒服が撮影現場に入り込んで『戦士』としての由希奈を連れ去っていってしまうシーンは、のんきなレジャーに興じつつも彼女がどういう存在なのか、視聴者のみならずクラスメイトにも見せるシーンだったのでしょう。
赤城が『届かねぇなぁ』とか黄昏れてましたが、1クールかけて剣之介と一緒に由希奈がたどり着いた場所には、『戦士』ならぬ彼らには遠い場所なんだろうなぁ。
……まぁ赤城は、そこ乗り越える努力に常時失敗しているわけだけどさ。
『平和な現代』の象徴たるコスプレ撮影会の時は『撮影禁止』を出す側=状況をコントロールできる側だった学生が、『戦場』がヘリで近づいてきた瞬間『撮影禁止』と言われる側=状況にコントロールされる側になってしまうのは、二つの領域の接触を丁寧に描いてきたこのアニメらしい、良い演出だったな。


一方剣之助は、由希奈を『平和な現代』に隔離しておいて、空いたスキマにヒロイン候補二名を放り込む展開でした。
ここ最近ぐっとカメラが寄って可愛さが強調されているソフィーですが、由希奈がいるとどうしても積極的にコンタクトできないため、物理的に距離を開けた感じですね。
その甲斐あってお互いの確信に触れる会話をしっかり果たし、帰国に対し強くNOを決断することになって、一気にキャラが動いた感じがあります。
侍という共通点に温もりを覚え、『不自由』な同士という立場を超えて好意を抱くソフィーちゃんは、すっげー可愛くてグッドナイスでした。
しかし由希奈が強すぎてなぁ……可愛ければ可愛いほど痛ましいという、哀しい状況だナ。

ジャポニズムかぶれのソフィーは剣之介に幻想を抱き続けていて、一方的な共感を抱いていました。
彼女が憧れる武士道は明治以降に形を整えられた一種のプロパガンダであり、そもそも武士階級ではない剣之助には関係のない思想だったりします。
手前勝手な鏡像に淡いあこがれを抱いていたソフィーには目もくれず、これまで剣之介は由希奈とイチャコライチャコライチャコラ、イチャコラしくさり倒して来たわけですが、ようやく由希奈抜きで語り合った今回、初めてソフィー個人を見るようになる。

剣之介は過去と雪姫への慕情に、ソフィーは子どもという立場にそれぞれ縛られ、自由なようでいて自由ではない共通点を持っています。
由希奈も親への愛憎とか、『戦場』への恐怖とかいろいろ抱えていたんですが、時間をかけてそこら辺を解消した結果、迷える剣之助に一番近い立場にいるのはソフィーになっていたりします。
1クール目を通じて人間的な成長を果たした由希奈が出てくると、剣之介が正しい答えにたどり着かなければならない流れも生まれるわけですが、今は剣之介の『不自由』を強調し、彼が感じる痛みや迷いをちゃんと描写しておきたいタイミング。
迷いを持つ同士だからこそ、強い共感(ソフィーにとっては片思い)が生まれるし、完全な問題解決には至らず、剣之介は雪姫を庇ってしまう。
由希奈を撮影現場に切り離したのは、これまであまり接点がなかった二人を近づけるだけではなく、未熟な問題を未熟なまま掘り下げ今後の展開に繋げる意味でも、上手い手だったと思います。

未熟さが大事なのはソフィーも同じで、同じように別れに苛立ちつつもしっかり結果を出すセバスチャンに比べ、自分の心を制御できず訓練に失敗する姿を切り取るのは、成長を見せる上で大事です。
うまく気持ちを整理できないモヤモヤが活写されていればこそ、自分と似ている剣之介に気持ちが寄っていく運動が納得できるし、その醜態を突きつけられて『帰国はしません!』と叫ぶ決断にも頷ける。
成長とは変化量なので、『減っている状態・満ちていない状態』をしっかり描かないと、それを補填する運動が全然見えなくなってしまうわけですね。
今回のソフィーは剣之介と『不自由』について語ることで、これまでより踏み込んだ描写が出来ていて、彼女の未熟がどこから来てどう埋まっていくのか、非常に分かりやすくなったと思います。
未熟な状態を見せるだけではなく、一つの決断を果たす凛々しい表情も同時に捉えることで、より彼女のことが好きになれる展開でした。


そんな彼女と心を通わせた剣之介もまた、未熟さが強調される展開でした。
まだまだ振りきれない過去への未練に縛られ、身内をぶっ殺してるムエッタを庇って見逃すという大失態を演じていました。
これまでいろいろ迷いつつも優しく強い『戦士』だった剣之介が、こうも弱った姿を見せるのはちと寂しくもあるのですが、それだけ雪姫への思いが強いってことだし、弱いとこみせないと強くもなれんしな。
ここら辺の軽い失望が、ソフィの感覚や決断と巧くシンクロしているのも、キャラを視聴者がどれだけ好きになっているかよく見切った、上手い塩梅だと思います。

どんな事情があろうと、今回剣之介が行ったのは利敵行為であり、ソフィーだけではなく例の国連査察官も乗り出してきそうな展開です。
ソフィが一つの決断を果たした今回、剣之介はまだ迷いの真っ最中なわけで、彼が周りの助けを借りて成長を見えるのは、次回以降になりそうですね。
腹ぶっ刺されてもまだ信じたいと思える辺り、剣之介の中に巣食った雪姫も厄介な相手ですが、ここら辺は由希奈とソフィーの二人がかりで崩していく感じかなぁ。
今回ソフィーとの絆値はたっぷり稼いだので、後は一緒にメシを食えば、恋人とは行かなくても戦友にはなれそうなのよね。

剣之介を惑わしたムエッタも、ブサポンコツピンク妹工作員たるミラーサにぶっ刺され、水ぽちゃしていました。
前回急に『姉様!』とか言い出した時は洗脳も疑いましたが、普通に功名狙いの演技だったのね……まぁお前らエフィドルグはそういういきものだよ。
生身による大気圏突入を可能とし、銃弾も弾くスペースくのいちスーツを見ても、エフィドルグの技術優位は圧倒的なんだけど、人間が屑だからまともに侵略も出来ないっていう描写は結構徹底されてますな。
人間サイドがチームワークで戦ってるのと、良い対比になってるよねココらへん。

確実な生存フラグである水ぽちゃキメたムエッタですが、だからと言っていきなり味方になるわけじゃないってのは、剣之介への釣れない態度を見ていても分かります。
つーか、人間の頚椎へし折るのにためらいなさすぎだ……『服が血で汚れる』と言い出した時には、不殺ルートかとも一瞬思ったけども。
このアニメにおいて敵たるエフィドルグは、常にコミュニケーション不能な存在≒エイリアンとして描かれていて、なまじ姫の外見をしていればこそ、ムエッタもその基本ラインから出ないってことなのかしらね。
まぁそこら辺は、行方不明になったあとの扱いを見てから判ることだろうし、剣之介の抱えた問題を解決するためには、もう一度対峙しなきゃならんだろうけども。

クソ以下のクソみたいなミラーサのダメっぷりは、ボーデンさんとの対比で見ると個人的に面白くて。
ダメっぽいのは両方同じなんだけど、片や相方ぶっ刺して功名を狙うエゴイストで、片やシェンミイさんに暴力性を制御してもらって成り立つパイロットという、人間とエフィドルグの違いを明確に示す二人だったと思います。
前も言ったけど、口の悪さの奥に優しさを隠して、『戦いは大人の仕事』『戦争機械になるくらいなら、戦士なんてならないほうがいい』と真顔で言えるボーデンさんの職業兵士っぷり、僕はとても好きですよ。
ボーデンさんは、兵士が階級ではなく職業となり、独特の倫理を要求される立場になった『平和な現代』に適応した、もう一人の侍なんだろうなぁ。


と言うわけで、これまでセットで描かれてきた剣之介と由希奈を切り離すことで、これまでできなかった展開を加速させるお話でした。
思えば第7話からの展開も由希奈を家出させ、剣之介と切り離すことで悩みを深め解決する展開だったわけで、キャラを近づける時と話す時の制御が上手いシナリオだなぁと感心します。
これまで強く優しい『戦士』として自分の悩みをあまり全面に押し出さなかった剣之介が、ようやく弱い部分をさらけ出してくれたのも、今後行われるだろう人格的切開が楽しみになるいい前振りだった。

フィドルグは内ゲバで数を減らしてくれましたが、状況が油断できないのは今までどおり。
剣之介の迷いをどのように晴らし、迫り来る敵にどう立ち向かうのか。
来週も非常に楽しみです。