イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

91Days:第4話『敗けて勝って、その後で』感想

復讐するものと復讐されるもの、あれよあれよと不思議な弥次喜多道中になった今回のお話しは、メキシコから来たゴライアス。
成り行きか計算か、ロウレスの街を追い出されたネロの相棒として逃亡の旅を続けるアヴィリオは、クソみたいなクソ田舎でダラダラキャンプしたり、ガキと遊んだり、不死身の殺し屋に殺されかけたり、いい塩梅のロードムービを満喫。
いい具合に友情が熟成されているように見えて、その根っこには復讐の暗い炎があり、そしてそれはけして誤解ではない消せない過去。
『腕相撲に負けて殺し屋に勝って、その後に馬車で旅立つ』という現在の話であると同時に『家族を殺されて、殺した相手を殺し返して、その後でどうする?』という未来を見つめた話でもあるような、穏やかで楽しい逃亡の旅でした。

閉塞感のあるロウレスの街を飛び出し、ネロとアヴィリオはふたり旅に出ています。
ガタピシ塩梅の悪い車、パンケーキに安い酒にパイン缶という旅情に満ちた食い物、だんだん打ち解けていく旅の仲間。
同じ釜の飯を食って、同じ布団で寝て、同じ車で走って、同じ殺し屋を協力して倒すことで、近づいていく復讐者と仇敵の心の間合い。
静かに、しかし確かに叙情性を積み上げることでキャラクターと世界を描写し、視聴者の懐に滑り込んでいくこのアニメのスタイルは舞台を変えても健在で、二人の旅は非常に良い感じに見える。

それを成り立たせているのはけして帰り得ない過去への憧憬と、それが生み出す殺意の重ね合わせの上手でして。
オートキャンプ場でのガキとのふれあいとか、露骨に第1話で失われた家族の風景とかぶせていて、上手い所ムード作るなぁと感心しました。
それまではぶすっと帽子を被って目=心をなかなか見せなかったアヴィリオが、子供に芸を見せネロと同じ行動を取ることで帽子を剥ぎ取られ、素の表情を見せるところとかこの作品らしいスマートさだった。
過去に縛られているのはネロも同じだと、アバンの回想シーンでしっかり見せる構図も巧みだったなぁ。


アヴィリオが完全な復讐鬼になりきれない、甘さ満載の中途半端な『人間』だってのはこれまでも描写されてきました。
ネロに煽られてスリという『一芸』を見せてしまうところも、かつての自分に似た子ども達の幸せな表情を目で追いかけてしまう姿も、仇であるはずのネロの特技を真似してしまうところも、彼の優しい性根を巧く表現している。
しかし同時に彼は復讐者であり、心を開いたネロが語る『初めての仕事』の武勇談を、冷たい表情で聴き捨てるシーンも、今回のお話にはちゃんと含まれています。
天使の表情と悪魔の顔が同居する、いかにも人間らしい人間としてアヴィリオ=アンジェロは常に描かれてきたし、ネロとハードな旅を共有することで心理的距離が詰まっていく今回でも、情に流されつつある優しい青年と、暗い瞳をした復讐鬼は常に同じ場所にいます。

この二面性はネロも同じで、むっつりアヴィリオの旅の仲間として明るく振る舞う気さくな兄貴っ面と、殺し殺されを生業にするギャングの顔を同時に持っている。
腕相撲と酒で享楽的に楽しんでいた次の瞬間には、ゴリアテに顔面をぶん殴られてもタマを取るタフな喧嘩屋の顔を見せる。
相棒がすった財布も命を救われたら返す義理堅さがあり、嫌な仕事と言いつつ他人の家庭をぶっ壊す非情さも持っているし、殺した相手の飼い犬を思いやる気持ちもある。
殺した奴にも人間の側面があり、それを知ってもなお殺さなきゃいけない理由が復讐者にもあるという、幾重にも重なったヒューマニティの重層が、小粋な台詞と演出でストイックに語られる姿は、やはりこのアニメ最大の魅力だと思います。


そんな重たくてシビアーな人生の陰影だけではなく、空の開けた田舎の風景にふさわしい開けた笑いも、今回は生き生きしていました。
繰り返されるアヴィリオの運転下手ネタ、どう見てもダニー・トレホゴリアテ、息のあったコメディアンのようなアヴィリオとネロのベルト漫才。
その裏っ側でバンバン人が死んでいることひっくるめて、笑いも巧く使えることを当然のように示してくれて、表現の横幅の広さに唸ってしまいます。

ゴリアテ周りは静かなオマージュの嵐でありまして、"デスペラード"あり"マチェーテ"あり、"風の谷のナウシカ"ありの『あ、スタッフが自分の好きな映画垂れ流しにしてるやつだこれ! タランティーノの映画でよく見た!!』と言わざるをえない展開。
そういう変化球のオマージュ投げると思ってたら、ゴリアテ相手だからスリングで戦ったり、正統派のメタファーも使いこなすのが上手いよなぁ。
外したナイフをネロが拾って窮地を脱するコンビネーションとか凄い相棒っぽいんだけど、この二人不倶戴天の敵だからなぁ……どっちが未来のイスラエル王たるダヴィデで、どっちが剣に身を投げるサウルなのか……両方死にそうなオーラ出てるな、ウム。

そういえば、焚き火のシーンでサラッとネロが『四人で襲った』と言っていましたが、今のところアヴィリオの仇敵として名前がわかっているのはネロ、ヴァンノ、ヴィンセントの三人。
四人目が過去の精算を兼ねてアヴィリオを操っているのか、はたまた別の人形師がいるのか、お話を引っ張る大きな謎が別の顔を見せてきた感じがあります。
まぁどっちに転んでも、アヴィリオが自暴自棄な復讐の傀儡であるのは間違いがないんですけどね。
ネロとの友情もそうなんだけど、視聴者=神の視点では『あーバカだなぁ……どうにかなんねぇかなぁ』と思わせつつ、キャラクターの視点で愚かな行動を取るのに納得がいくよう描けているのは、非常に見事な話運びだと思います。


そんな感じで、ロードムービーと復讐譚、コメディと殺戮撃の間を行ったり来たりしながら、二人の青年の複雑な内面をじっくり描写する回でした。
二人の旅路はいろいろ厄介だけど楽しそうで、そら心の距離も近づくわって感じなんだけど、同時に取り返しの付かない過去が裂け目となって横たわっている、
相棒であり仇敵でもある彼らの複雑さと、過去と現在の間で揺れ動く友情と復讐の呪いが、愉快な旅路を鬱蒼と覆い隠すような、味わいのあるエピソードでした。

公式ページのキーヴィジュアルが暗示するように、複数の矛盾にアヴィリオとネロは引き裂かれ、殺しあい、愛しあうようになるのでしょう。
そのための足場として、二人が力を合わせ小さな喜びを共有した今回の旅は、大事な足場になると思います。
そこに人間としての真心が乗っかるのか、はたまた悲劇のスパイスとして活用されるのかは、この先を見なければわかりませんがね。
なかなかこちらを油断させてくれない複雑さと叙情性でおもいっきり殴りつけてくれるアニメで、ジワリと面白すぎるぜ、91Days