イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

初恋モンスター:第5話『そうだ、銭湯いこう』感想

残酷なイノセントが思いを裏切る恋のアニメーション、今週は風呂とすれ違い。
いつもの調子でワーギャー騒ぎつつ肌色サービスシーンをやった後、『このアニメはギャグアニメだけど、私の気持ちをおもちゃにすんのマジやめて!』と主役が反逆(トリーズン)してくる展開に。
10歳と16歳の間にある深くて黒い河におもいっきり踏み込み、これまでスルーしてきた価値観の違いが表面化するお話となりました。
『そういう世界だから』で流しきると思いきや、大事なところはちゃんと書くなぁ、このアニメ。

前半は水着銭湯で賑やかに、いつもの感じのコメディ。
相変わらず10歳児どもは元気でバカで無邪気で、仲良く楽しく暮らしていた。
この『いつもの調子』が後半話をほり込んでいく武器に変わるので、ハイテンションでアホ極まるノリが元気に出ていたのは、とても良かったですね。

んで後半は男どもが夏歩をめぐるバトルを展開……と思いきや、そこから離れた場所で夏歩が傷ついていくお話し。
コメディは基本的に無様さを笑い飛ばし差別する創作物なわけで、その残忍さに踏み込んでいく展開は結構好みだ。
『誰にも理解されない』という夏歩の悩みはコメディの中で(少なくともあの瞬間だけは)一人ラブコメいているジャンルの衝突が原因だし、物語を根本的に成り立たせている『10歳児との恋愛』というギャップが理由でもある。
お話のディープなところに切り込む、面白い展開だと思います。


10歳児(と鈴村声の11歳児)共は、性欲も独占欲も人間の黒い部分がなんにもない、無垢で平和で幸せな存在として描かれ続けています。
誰とも仲良くできるし、人生の選択肢は常に正しいことを選び続けるし、人を傷つけることは悪いことだと知ってはいる。
奏の純真無垢な正しさは見ていて気持ちがいいし、例えば『女の子をカードと引き換えにする』行為を拒絶する姿は、キャラクターとして好感が抱けるものです。

しかし今回はそこで足を止めずに、純粋さの裏側にある無理解に踏み込んでいく。
『みんな大好き』であるということは『特別な誰か一人を選んで愛する』という恋愛の根本を否定していて、性欲もある『大人』の夏歩が求める恋愛というのは、例えば『楽しいともだちとのバカ騒ぎ』と『私一人とのデート』なら後者を取るという、差別的で残酷な選択なわけです。
何の気なく言った『俺の彼女になれよ』という台詞の奥には、欲望がドロッドロに渦巻いていて綺麗事ではない恋愛のリアルが存在している。
すでに『大人』である夏歩は自分の綺麗さだけではなく醜さもひっくるめて『特別なあなた』である奏に受け止めて欲しいのに、独占欲がない天使だから『特別なあなた』がわからない奏はその気持ちに応えない。
独占欲や孤独といったネガティブな部分をひっくるめて、『お前は特別だよ』と言ってもらえることを奏に求め、それがすれ違っていくのが公園での問答dス。

経験に伴う複雑で矛盾した内面を持たない10歳の奏には、16歳の夏歩のエゴイスティックで切実な心はわからない。
お母さんは死んじゃったけど友達とうんこちんこで騒げる世界はハッピーで、女の子を泣かすのは悪いことで、悪い子とした奴は殴ったり改心させれば良いという、白黒ハッキリした一面的な世界に生きています。
しかし夏歩の世界はエゴイズムと利他性、『私』と『あなた』が入り混じった灰色の世界なのであり、奏の小学生男子の世界とはそれこそ"コロコロ"と"花とゆめ"くらいジャンルが違う。
この話を優れたコメディとして成りた立たせている『小学生男子の世界』と『恋愛漫画の世界』が正面衝突を起こすのが、今回のBパートだといえます。


無垢さや正しさが人を傷つけることもあるし、『彼氏・彼女』という唯一性が尊重される契約を結んだ以上、奏は正しいだけの『子供』で居続けてはいけない。
一見嫌なことしか言わないドSサディストメガネである多賀さんは、奏が背負っていない人間のネガティブな部分代表として、耳の痛い真理を突きつける仕事をしてくれています。
彼の攻撃的な態度は別として、『お前は夏歩を守らなきゃいけない彼氏なのに、彼女の気持ちやエゴイズムを受け止められていない。俺と同じだ』という指摘には、一定以上の真理が含まれている。
今回の多賀さんはただただ嫌なやつというわけではなく、ポジティブなキャラクターが口に出せない真実を突きつける、いい糾弾役をしっかりやってくれていました。

とは言っても、悪意と攻撃性を人間の形に彫塑したような多賀のように、奏の性格が即座にひねくれるわけがない。
というか、奏の真っ直ぐさや無垢さは基本的には変える必要が無い『善』であって、必要なのは理解できない・実感できない夏歩のネガティブさや、成長度の差が生み出すギャップを受け入れる隙間を、あまりにも真っ白な世界に作ることなのでしょう。
自分はそうは思わないけど、涙をながすほど切実な他人の心の動きを、真剣に受け止められるかどうか。
自分を変える勇気と知恵を持っているか、否かというのは、10歳の少年が一歩大人になるうえでも大事だし、他人としか行えない『恋愛』をネタで終わらせないためにも大事な部分です。

夏歩はあまりにも10歳児である奏に背中を向けて走り去ってしまったわけですが、彼女もまた自分の灰色の世界を少し緩めて、『彼氏』である奏を受け入れなければいけない立場にあります。
今回彼女がエゴを暴走させたのは、孤独に苦しんでいた所を受け止めてもらえた、居場所を作ってくれたからこそ奏を好きになった気持ちが、10歳児のノリで裏切られたと感じたからだと思います。
しかしその期待はやっぱり身勝手なのであって、灰色の夏歩を受け止めきれない情けなさもまた奏であって、自分が好きになって『特別なあなた』として選んだ人なのだと、気づくべき立場にいる。
今回のスレ違いは年齢差や各々のジャンルの違いだけではなく、『彼氏』『彼女』という他人を受け止める姿勢が仕上がっていない、二人の狭量さが生み出してもいるのでしょう。

これを埋めるためには歩み寄りが必要なわけですが、その原動力となる『好き』という気持ちは二人の間にちゃんとあるので、あんま心配はしていません。
猛烈なネタを高速で叩きつけつつも、理由がうまく言葉に出来なくても、このアニメ『夏歩が奏を、奏が夏歩を好きだ』という一番大事な部分は、ちゃんと背筋を伸ばして描いてきたからね。
むしろ好きだからこそ、その好きの色合いが異なっているからこそ今回すれ違ったわけで、巧く落ち着いて自分の『好き』を確かめ合えば、お互いが少し成長できる良いイベントだと思います。
構造的欠陥はナァナァで受け流している間は表面化しないわけで、そういう意味でも多賀さんの容赦のないツッコミはいい仕事したな。


『大人と子供』『私とあなた』の間のすれ違いを結構丁寧に描いた今回、夏歩が傷ついたのは奏の純粋な(そして残酷な)行動だけではありません。
『10歳と16歳の凸凹恋愛劇』を笑い者にするアパートの面々、その後ろにいる視聴者のコメディな態度にも、彼女は抗議の声をあげていました。
『私の気持ちはシリアスなのに、お前らはギャグとして笑い飛ばす。ヒドい、傷つく、許せない』という夏歩の気持ちがスムーズに流れるように、あくまで『お笑い』として修羅場を見ている千秋を抜け目なく写すのは、上手い演出だなと思った。
『笑ってる場合かよ……』とヤダみを感じた瞬間、『そういうアンタも、人間が傷つくさま見て笑ってるぜ?』という皮肉が刺さるっつーネ。

この話はトンチキでありえない状況をパワーでゴリ押すコメディなわけですが、同時に人間のナイーブな気持ちを扱うラブ・ロマンスでもあります。
真面目なはずなのに素っ頓狂で、狂っているのに真剣だというギャップが楽しいアニメなわけですが、それを保証する『枠』みたいなものは、二つのジャンルが荒れ狂うことで簡単に緩んでしまうものです。
二つのジャンルがぶつかり合う衝撃をいつでも新鮮なものに保ちたければ、『まぁ、この作品世界はこんな感じ』という慣れが視聴者に生まれたあたりで『ほんとにそうか? ネタで流されてるけど、キャラクターは傷ついていないか?』という確認をしっかり行うのは、かなり大事だと思う。
今回夏歩の灰色と奏の白がぶつかり合ったことで、二人の人格だけではなく二人が背負う作品内ジャンルも衝突し、二人の気持ちだけではなくこの作品自体の構造もまた、正しく試される状況になったと思います。

こういうチェックを適切にやることで、作品のオリジナリティであり楽しみでもある『二つのジャンルの同居と衝突』は瑞々しさを取り戻し、お話しは楽しいままでいられる。
キャラクターの切実な問題を扱いつつ、気づけばよりお起きなレンジで作品全体を見据え、足場を調整する結果にもなっているのは、なかなか上手いなぁと思います。
『根っからのバカで、人間らしい感情なんにもないエイリアン』がコメディするより、『俺らと同じ体温を持っているけど、わざわざ楽しくてヒドい状況を生み出してくれるエイリアン』のほうが、ありがたく感じるもんな。
今までスルーしてきた夏歩と奏、笑われる夏歩と笑う人々との間のズレをしっかり捉える今回は、ともすれば派手なネタの奥に隠れてしまいがちなキャラクターの血潮を確認させる、大事なエピソードだったと思います。


そんなわけで、『毎度おなじみバカバカしいお笑い』の中に潜んでいる矛盾を、一気にえぐりだす回でした。
今回夏歩の涙と一緒に噴出したズレは急に生まれたものではなく、笑いの源泉として、さりげない描写としてこれまでも描かれてきたものであり、作品としての一貫性を持つ展開だったと思います。
作品にも慣れてきたこのタイミングで、キャラクターとお話の緩みを整えるエピソードがしっかり来るのは、構成としても凄く良いしね。

シリアスに引いたお話ですが、クソみたいにヒドすぎるトンチキコメディでもあるこのアニメ、このまま真顔で進むとはあんまり思えません。
ともすれば夏歩の真心までおもいっきりぶっ飛ばし、笑いに変えてくるしたたかさもあるわけで、どう転がしてくるかさっぱり読めねぇ。
どういう話が来ても面白そうだと思えるのは、やっぱキャラクターと物語への信頼感がすでに生まれていて、結構このアニメのことを好きになっている証拠なんだろうなぁ。
個人的にはドタバタやりつつも、二人の真心を大事に、小さな成長を見せる感じで落ち着いて欲しいところですが、さてはてどうなりますかね。
来週も楽しみです。