イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

orange:第5話感想

後悔はあっても不幸ではない未来から希望を載せて手紙が届く話、今回は真夏のトライアングル・スター。
上田先輩を生け贄に捧げたことで翔との距離がどんどん近づく中、長野無双の男前・須和くんの株がビシバシ上がり、男も女も仁義を通す回でした。
トキメキが胸を締め付ける中、唐突に始まったパラレルワールド講座でSF面の解説もしつつ、それを『消せない後悔』という感情に繋げる話運びは、凄くこのアニメらしかったですね。

今週はとにかく素敵ボーイズの素敵っぷりが最高速にアガる展開でして、翔にも須和くんにもオッサンの乙女ハートを締め付けられまくりでした。
翔のナイーブな感じも可愛いし、あまりにも完璧な人間力を誇る須和くんの有り難みもたまらず、『ああ……やっぱ甘くて酸っぱい青春オレンジ、最高やな……』と"とらドラ"後期EDを呟く感じ。
須和くんほんと全ての行動が自然で、自分の痛みにこだわる部分が全然なくて、そら当然モテるわ三人同時告白だわって思った。
空気読めないクソメガネ含めて、周りの連中もいいやつばっかりで、なんか見てて訳もなくありがたくなった。

上田先輩という障壁を乗り越えることで、引っ込み思案な菜穂も勇気を出して踏み込む口実が出来て、翔とのラブもどんどん進行していました。
プレゼントはもらう、図書館デートはする、花火を一緒に見る約束を精一杯の勇気でぶっ放して文化祭を楽しむ。
甘酸っぱい夏の思い出をすごい勢いで回収していく様は、『オラッ! お前らが見たいイベント、一切出し惜しみはしなぇぞ!!』とばかりのサービス精神で、非常に有りがたかった。
学園祭という一大イベントの『色んな奴らがいる楽しさ』を見せるのに、orange特異の『静止画のカットをジャンプでつなぐ演出』は、非常に良い仕事をしていました。

心の距離は近づきつつも、翔はまだまだ致命的な部分を菜穂に隠しているようで、『後悔を取り返したい』と望みを口にしても、それがどのようなものかを告白はしてくれませんでした。
その心の痛みがおそらく自死という結末に繋がっている以上、心の底の底まで見せてくれれば未来改変完了でミッションクリアーなわけで、現段階で踏み込めないのはある意味当然ではある。
ここら辺は今後、さらなる胸きゅんイベントと重苦しい悩みをくぐり抜け、菜穂が成長した後に踏み込む場所なんだろうね。


翔が結構自分を隠す中、須和くんは常時自分の周りに目を配り、さりげない気遣いと優しさで徹底的にケアしまくっていた。
あまりに良い男過ぎて『もー彼でいいだろ、実際未来は須和くんなんだし』と思ってしまったが、これだけいい人描写を積み上げられると『良い人だからこそ、恋人にはちょっと……』とかいうナメた理論が出てくるってことかなぁ。
まぁこのアニメ事件の優先制としてはSF要素のほうが先に立っていて、『翔を殺さない』ことのほうが『恋愛を成就させる』ことより優先されてんのよね。
青春を堪能しつつ、そこに広がってしまった消せないシミとして『翔の死』があり、それを解消することが恋心に素直になることに直結しているというか。

なので、須和くんの人間力に対して菜穂はちゃんとお礼をいう。
この『正しい行動に、正しく報いる』仁義の良さは主人公グループの特徴で、翔もあずさも貴子もみんな須和に『菜穂と翔の恋愛、それでいいの?』と聞きに来るのが良い。
人間の道理をわきまえて、肩の力を抜きつつも非常に正しく生きている感じはこういう具体的な行動から生まれていて、それがこの青年たちを俺が好きな理由に繋がっている。
キャラを好きになることは物語を好きになることだから、やっぱまじめにエピソードを積み上げていく姿勢は好きだし、正しいとも思います。

須和くんは作中凄く持ち上げられるんだけど、彼がやり遂げていることのさり気なさとありがたさを考えるとそれも当然で、『俺も好きになっちゃうよ』という翔の言葉は視聴者の気持ちでもある。
視聴者が良いと感じたものを、作中でもしっかり褒め称えてくれる価値観のシンクロっぷりは、この作品の素直さが産んだいい部分だと思います。
さりげなくて優しくて完璧なだけではなくて、菜穂の感謝に思わず涙を見せてしまう隙の多さとか含めて須和くんマジ完璧素敵ボーイ。

そういうポジティブなサークルから外れたところに、どす黒い情念の女上田パイセンがいるわけですが。
パイセンと取り巻きが嫌なことしてくれないと、自分の気持を素直に出す菜穂の成長も、イケメンインタラプトで割って入る須和くんの見せ場も作れないわけで、悪役としていい仕事をしている。
元々構えない演技のラインが気持ちいい作品なんですが、女のドロッとした部分をうまく乗っけた佐倉綾音さんの先輩はいい具合に生々しくて、そういう意味でも良いキャラだなぁ。
今後どう転がっていくかは分からんが、簡単に素直に綺麗になるのではなくくっそ面倒くささ拗らせていて欲しいキャラですね、上田パイセンは。


ボーイズたちの輝きを存分に描きつつ、今回はSF要素も描いていました。
菜穂はSFのエの字も考えなさそうな普通の女子高生なので、ナード臭ハンパない先生が唐突にタイムリープパラレルワールドの話しないと、設定広げる場所がないからなぁ。
時空の解釈としては複数世界理論を採用したようで、手紙に促されるまま行動すればするほど、手紙に書かれている未来とはズレていくという、復元力の弱い世界です。
シュタゲみたいに、『何億回やり直してもまゆりが死ぬ』という世界設定ではないわけですね。

これは『翔を殺さない』という未来改変への障壁が少ないと同時に、手紙を出した未来と手紙が届いた後の未来が、別物に分かれてしまうということでもある。
菜穂はタイムトラベルについて考えた結果、失われてしまう『未来』にも、手紙を出す程の強い後悔があって、それは『現在』の菜穂がどれだけ頑張っても消すことが出来ない確定した事象なのだと気づいて涙を流す。
世界が分割していく不思議さではなく、そこに取り残されていく後悔の寂しさを考える辺り、やっぱ時空SFとして結構独特な立場にいるアニメだなぁと思った。
話を成り立たせているギミックそれ自体より、そこで浮かび上がる感情とそれへの共感のほうがメインになるのは、凄くこのアニメらしい視座だと思う。

菜穂は後悔を消せない『未来』の自分をある意味『可哀想』だと思ったわけだけど、翔を失った『未来』の彼らも、家族がいて今でも顔を合わせて、それなりに幸せに生きている。
翔が死んだ結末を、たとえ受け入れられなくても受け入れて生き延びるしかない人たちにとって、『現在』の菜穂が見せる哀れみは少し見当違いで高慢なものなのかもしれない。
しかしやっぱり、遠く離れた『自分』の後悔と運命を思って流す涙は意味があるものだし、少しズレているとしてもお互いの真心を受け止めあい、行動しあう二人の菜穂の繋がりには、男の子たちの素敵さとはまた別の良さと有り難みを感じます。

『どれだけ心が近づいたとしても、人間が人間である以上完全に一つになるのは不可能』ってのは翔の態度を見ていても判る、この作品の根本的な認識です。
その断絶を認めたうえで、このお話は断絶を乗り越えようとする努力や、断絶を見守る強さと優しさを無下にはしない。
だからこそ、今回あんなに須和くんの良い奴っぷりをたっぷり描写したんだろうしね。
そういう人間にとってベーシックで大事で、だからこそ見落としがちなことを、大上段からの説教ではなく感じさせてくれるのは、創作物の根本的な強さだなと思う。


というわけで、近づいていくものと離れていくもの、その運動を見守ってくれる人たちのありがたさを描いたエピソードでした。
気負わない青春の描写にたっぷりと真心が詰まっていて、それをしっかり受け取る誠実さも取りこぼさないという、人間の綺麗な部分を叩きつけられるような展開に、オッサンの心も見事に浄化されていく。
ホント気持ちの良い奴らよなぁこの子ら……ひねくれて面倒くさいのも大好きだけど、こういうストレートで綺麗なのも好きよ私。

翔との恋ももどっかしく進展し、ちょいとSF的な考察も進んで、話がどこにでも転がれる土台が出来上がってきました。
今回積み上げたかけがえの無いものは、それが綺麗だからこそ奪われたとき痛みを生み出す源にもなるわけで、なかなか油断はできません。
この真っ直ぐなお話がどういう道を辿って、どこに行き着くのか。
楽しく見守らせて欲しいと思える、良いエピソードでした。