イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

orange:第6話感想

青春の深い陰影を不可思議な現象が照らしだすSF青春群像劇、今週は迫り来る陰と新たな光。
『俺はまだまだ、お前たちを青春で殴る』と言わんばかりに乱打される、甘酸っぱさ全開の各種イベント。
そして恋とか戸惑いとかに心疼かせる思春期には重たすぎる、翔が背負った自死の連鎖との戦い。
光と闇が幾重にも折り重なり、決意と諦め、喜びと哀しみが高速で行ったり来たりする人生模様のラストに指した光明は、やはり俺達の須和だった……。

甘さと苦さのある青春力、死の重たさから逃げないジリジリとした話運び、ラスト御廟で一気に引っ張る見事なフック。
相変わらずの完成度と強さを誇る、アニメorangeの折り返し点でした。
転換点が明白なんだけど、対比が対立にならずに要素ごとにブリッジがかかってるのは、本当に素晴らしい。


SFとジュブナイルの二枚看板を巧みに操り、独特の深みを作品に宿してきた今作。
文化祭デートをムーディに成功させ、恋心に道筋がついてきた今回、未来の菜穂が背負ってきた『翔の自死』という重たい現実を現在の菜穂も知ることで、また別の陰影が作品に宿ってくるお話でした。
自分の気持という自力でどうにかなる問題を乗り越えた途端、『死』という一人で抱え込むには重たすぎる問題が顔を出してくる構成は、気が緩まなくてとても良いですね。

とは言うものの、『翔の自死』という重たい問題は、現在と未来を同時に知覚できる視聴者には俯瞰できている問題だったし、青春の輝きが描写される中でも確かな陰として、しっかり描かれてもいました。
あまりにもまばゆい高校生の『生』の裏には、色濃い『死』と後悔がしっかりあって、それは対比というよりは共存に近い距離感で、お互い不可避のものとして描かれてきた。
未来の菜穂が抱く後悔が『死』であり、それを手紙に託して届けた以上、菜穂ものんきに思春期と格闘しているだけでは話が収まらないというのは、これまでも示唆されていたことではあります。

これまで描写されたつまらなくて小さくて、でも凄く切実な高校生の自意識の物語と、『翔の自死』というヘヴィでリアルな問題は、一見相反するように見えます。
しかしのんきに輝く高校生だろうと『死』は『生』のきらめきの中に確実に存在しているし、トラックに轢かれる日というタイムリミットが現在にこそある以上、『死』は現在の菜穂が向かい合わなければいけない重たい課題になります。

最初は手紙に込められた願いにギャップがあった菜穂ですが、一歩ずつ行動を積み重ね、身近な『生』の世界に恋を引き寄せることで、手紙の願いを自分の思いとして実感できるようになってきています。
だからこそ、引っ込み思案な自分から一歩踏み出して、翔の母親の自死という、重たく繊細な問題に踏み込む勇気を出す。
それが今は有効な選択肢たり得なくても、踏み込んだことそれ自体は意味も価値もあることですし、自分一人の力では背負いきれないと思ったら即座に仲間を頼る辺りも、大事なものを見失っていない感じがしてすごく好感が持てました。
ここら辺の小さな成長描写や、手紙に込められた願いを受け止めてくれることへのありがたさは、現在の菜穂を等身大で臆病な高校生女子としてじっくり描くこれまでの筆致が、有効に働いているところだと思います。


ちょっといい雰囲気になっても、少し勇気を出しても、『家族と死』という二重にナイーブな問題は一気に解決するものではなく、今回の菜穂の挑戦はある種の『負け』で終わりました。
一見気楽な高校生の『生』が重たすぎる『死』に負けたように見えますが、このお話において『生』と『死』は対比されるものではなく、同じ世界の中で背中合わせに共存するしかない概念です。

なので、今回の表現は非常に分かりやすく光と影を使う。
プールの中に写り込んだ花火の光は闇の中だからこそ輝くし、何かを隠したまま光の中の須和に相談をする翔には陰が伸びているし、松本ぼんぼんがのんきに流れる夕暮れの青春の後には、暗がりの中で危うい話題に踏み込むシーンが続く。
光は影を内包し、影は光を追いかける入れ替わりは今回のエピソードで幾度も繰り返され、菜穂が『生』の領域から『死』の領域に足を踏み入れたことを、映像で強く主張します。
この明暗のわかり易さは、話の転換点にふさわしい鮮明な演出であるし、このお話がメインテーマとして定めた『生』と『死』をどう扱うつもりなのか、良く伝えてくれますね。
オレンジ色に彩られた楽しげな祭りの暖かさと、翔のトラウマに踏み込むシーンの凛とした静けさの対比……で足を止めるのではなく、そこが実は地続きの場所なのだというメッセージも込めて場面を成立させる美術のリアリティの高さ、本当に良かったです。

一見『死』のまえに無力に思えた菜穂の小さな恋心ですが、作中における光が常に影を追いかけるように、けして役に立たないわけではないと思います。
翔の不安定で頑なな心をつなぎとめるためには、ひどくつまらなくて綺麗で、ありふれた青春の光を刻みこむしかないわけで、菜穂の真摯な恋心は翔を『生』の川辺につなぎとめる、最も大きな武器になり得る。
それは今回翔に拒絶されたから無意味になるものではないし、未来の菜穂含めた周囲の人々に支えられつつ、震えながら幾度も叩きつけなければいけない勇気の武器なわけです。

しかしそれにしたって『死』は重たさ過ぎて、意気地なしの菜穂が挑むには手強い相手。
その大きさに立ちすくむ姿も、最初の挑戦が中々結果を出せなかった様子も、逃がすことなくじっくりと捉えてくれる横幅の広さは、このアニメの強みだと思います。
未来シーンの挟み方や情報の出し方、現在シーンで描かれる輝きの中の影が見事なので、菜穂が『死』と向かい合う今回の転換も急に感じず、むしろ『来るべきものが来た』という納得を込めて見れるのは、自分たちが何を描くべきなのかはっきり見据えて、これまでの話を作ってきた証拠だと思います。
弱さと強さ、臆病と勇気、恋と死、未来と現在。
対立しているように見える要素は実は全て背中合わせであり、しかしその間にが確かに越えがたい大きなギャップも存在しているという冷静な目と、その両方を表現する確かな腕があればこそ、色んなモノを描こうとしているこのアニメは成立しているわけですね。


テーマの扱いも見事なのですが、キャラクター個人の輝きを捉えることも怠らないのが、このアニメの良い所。
気配りの達人として菜穂も翔も支え、最高のタイミングで最高のトスを上げてきた須和くんを始めとして、友人連中は今回も輝いていました。
あずちゃんと眼鏡がなんか良い雰囲気で、『眼鏡を外したら、お前が天使に見えるぜー!』の甘酸っぱさったらなかったな、マジ。
『手紙』を仲間たちも受け取っていた事実が判明したことで、菜穂と翔をくっつける手助けが青春の一場面としてだけではなく、命を救う必死の色合いを帯びてきたのも、これまでのエピソードの見え方がひっくり返る見せ方だったね。

『死』の色が濃く出た今回だけど、『生』を映し出す翔と菜穂の恋路も非常にキュンキュンに描かれていて、『とにかくこのアニメの青春力つえーわ』と感心しきり。
アバン出だしの水中描写とか、プールに照り返す花火とか、縁日デートの甘酸っぱさとか、今回は特に個別のシーンの切れ味が良かったなぁ……。
ダイアログの方も殴りつけるような青春力に満ちていて、ドラマチックで殴り殺されるかと思う程だった……やっぱ照れずに恥ずかしいことやり続けられるお話しは、根本的に強いなぁ……。

上田パイセンは相変わらずの根性ドブゲロ最悪女であり、菜穂の未来改変を邪魔する障壁として、いい仕事してきました。
眼鏡にハメられて無人のサッカー部室に赴くシーンとか、悪役として独特の味が出てきていて、このまま顔が良くて性格悪いだけのキャラでも十分美味しい気がする。
こういうテイストをキャラに帯びさせられるのも、細かい描写を積み重ねて、キャラの存在感を出せる演出力故だろうなぁ。
つくづくアニメにおいて、仕草の精度は大事だ……感情と可愛げがそこにこもるからな。


そんなわけで、青春の光と影が入り混じりつつ、お話が別のステージへと進んでいくエピソードでした。
輝きに満ちた青春をしっかり描きつつ、『死』の暗さと重さも色濃く描写しきり、しかしそこを乗り越えていくためにはのんきで当たり前の『生』の力しかないのだと予感させる、見事な転換点でした。
各要素個別の魅力を引き出しつつ、その全てが混ざり合って青春を形成しているまとまりもしっかりあって、よく出来たアニメだと思うホント。

俺達の須和がまさかの、しかし言われてみれば納得の一言を発して次回に引きましたが、こっからどう転がっていくのかね。
秘密を共有した仲間の団結でも、翔の抱えた『死』は強敵に思えるけども、これまでのタメこんだ青春力でどうにか戦えるのか、新たな強敵が出てくるのか。
まだまだ予断を許さない時空改変青春SFの意欲作、次回もまた楽しみですね。