イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

プリパラ:第108話『帰ってきたプリパリ』感想

自由と平等と博愛を胸にする革命的ヴァーチャルアイドルアニメ、今週からは負の遺産リスタート編をお送りします。
色々とややこしい物を抱え込んだままプリパリにぶっ飛ばされた三人組が、神アイドルGPに参戦するべくパラ宿に戻ってきて、一切解決してなかったややこしい問題が怒涛のごとく吹き出した今回。
物語の勢いでナァナァにせず、キャラの歪みに立ち返った語り直しで、プリパラらしい勇気と知恵に満ちた展開だったと思います。

『みんなトモダチ、みんなアイドル』という博愛主義を否定し、エゴの拡大したセレパラで世界を埋め尽くした紫京院ひびき。
のりと勢いで一気に押し込んだ終盤を経て、こじらせた高校生っぷりも少しは素直になったのかと思いましたが、今回むしろよりこじらせた面倒くささを全開にして、チーム結成を破綻させてました。
この展開はかなり勇気のいることでして、それはつまり、らぁらが代表するプリパラの博愛主義はあくまでエゴの押し付けで、ひびきを救済し得なかったと認めているのと同義だからです。

思い返してみれば『私はみんなが好きだから、あなたもみんなが好きでいて』というらぁらのスタンスはひどく幼い理想主義で、人生のままならなさゆえに自閉し人間を止めようとしたひびきの苦悩に寄り添い、理解しようとするスタンスではありませんでした。
一対一で交流するシーンが多かったファルルに比べ、らぁらはあくまでプリパラVSセレパラの権益代表としてひびきに向かい合い、個別の悩みや苦しみに接近した様子は見られなかった。
そういうものを積み上げる前に物語のデッド・リミットが迫り、菱田正和コンテのパワーで強引にGPに決着を付けて終わってしまったのが、僕が認識しているプリパラ二期です。


最終話の『ひびき様はちょっと難しすぎたわね』も含めて、パワーとノリで押し切ることにはギリギリ成功していたとも思うので、まほちゃんもなんとなく友情の尊さを知り、綺麗に漂白されてパラ宿に帰還ということも、今回できたと思います。
しかしプリパラ三期はそれを選ばず、まほちゃんは捻れた認識を抱え込んだ厄介な高校生のままパラ宿に戻ってきて、チーム結成の儀式も神コーデ入手という課題もこなせないまま、ダメダメでお話を終えました。
らぁらの理想の押し付けはひびきを改変しえず、『みんなトモダチ、みんなアイドル』というプリパラの博愛主義を、ひびきは納得しないまま彼女の二度目の物語が始まったわけです。

これは主人公の敗北、積み上げた(もしくは積み上げきれなかった)物語の敗北を認める行為であり、自分たちが描きたかったものではなく、視聴者の実感を優先して物語を展開させる、勇気のある行動だと思います。
『自分たちはこういうつもりで物語を作ってきたが、それが届かなかったのであれば、適切に語り直してキャラクターの物語を完遂し直そう』という運動は、例えばアイカツ! 第79話『Yes! ベストーパートナー』とか、シンデレラガールズ第18話『A little bit of courage shows your way. 』でも見られた、誠実な再話に繋がるものでしょう。

お話の勢いだけで判断するのではなく、それがキャラクターと視聴者に届いたかどうかをしっかり考えたからこそ、一度エンドマークを書いた物語をわざわざ語り直すわけで、このような再話は誠実で理性的なものになる傾向が強いと、僕は思っています。
ひびきが友情を信じ切れない様子をネタ混じりに、しかし徹底的に描いた今回は、『難しすぎた』ひびきの物語にもう一度踏み込み直し、彼女の主張が持っていた一部の理であるとか、『みんなトモダチ、みんなアイドル』というメインテーマへのカウンターであるとかを、しっかりすくい直す期待を強くしてくれました。

お話を引っ張るラスボスとして、人間的なダメさをなかなか発揮できなかった二期に比べると、今回のまほちゃんはドロシー以下のゲロカスっぷりを思う存分見せつけてくれていて、ホントダメダメでした。
一切隠すところなくダメダメであるというのは、同時にダメダメでなくなる未来に至る障害が取り払われているということでもあるので、色々やることが多かった二期のまほちゃんよりも身軽ないまのひびきは、より素直に自分の物語を有る基直せるかなと思いました。
ドロシーが一回やって大失敗だった『ジュルルに利益優先で取り入り、神コーデをもらおう作戦』をノータイムで狙いに行く辺り、まほちゃんの魂のステージはほんと低い、低すぎる。


僕が今後の展開でもう一つ期待しているのは、ひびきを中心点にして繋がっている二人の女、ファルルとふわりの語り直しです。
というか期待の力点はふわりにあって、ボーカルドールの孤独に悩むファルルに『ナチュラルに考えて?』という一種の呪いをかけて、一人の女を自分の側に引き寄せることを諦めさせたふわりの歪さを、もう一度洗いなおすチャンスかな、と思っています。
彼女の歪みは狙って出したというか、歪んだ王子様であるふわりの相手役として大自然の素朴な申し子を産みだしたら、シニカルで現代的なプリパラの表現力と良くない噛み合い方をして、変にひねった部分が生まれちゃったんだとは思いますがね。
オールド・スクールなプリンセス性を現代的な視点で語り直したら、ちょっと面白い表現になっちゃったって意味では"アナと雪の女王"に近いんかね。

ふわりの歪みはひびきとの関係を『姫と王子のロマンス』に擬して描いたことと関連していて、男-女の繋がりから欺瞞を抜いて女-女に繋ぎ直した結果、かつてあった恋心の要素も(一応)児童向けに作られたプリパラでは抜かざるを得なくなって、関係性が一度リセットされてしまったことが、長く影を伸ばしている気がします。
ひびきとふわりの関係性を掘り下げるなら、どうしたってひびきの性別詐称と、そこにつきまとう倒錯したレズビアニズムに触れざるをえないんだけど、レオナのようにデリケートかつ自然に語るならともかく、真正面から掘り下げるにはアヴァンギャルドすぎるネタ。
なので、強引に『これは友情』で押し切ったのが、二期のふわひびのまとめ方だと思っています。

ひびきが同性だと分かったら、ふわりの恋心は消えてしまうのか。

それとも一般的に流通する王子-姫の恋愛類型からはみ出ても存在する恋心が、ふわりに宿っているのか。

僕個人としては強く興味を抱く題材ですが、同時になかなか難しい問題でもあるので、語り直すにしても触らないかなぁココらへん……触ってくれると最高なんだけどなぁ。


『ボーカルドールは現実に介入し得ない、孤独な存在』という二期当時の問題は、ファルル不在の間にガァルルがあろまげの力を借り、見事に語り直しました。
ガァルルが成し遂げたボーカルドール革命を利用することで、『ナチュラルに考えて?』というパワーワード一個で物分かりよく納得してしまったファルルとふわりの関係も、もう一歩踏み込んで書き直せるかもなぁと、僕は思っています。
超変則的なレズビアニズムの当事者だったふわりが『自然さ≒普通さ』という暴力的ですらあるタームを武器にして、不自由を抱えたボーカルドールに政治的かつ私的なプレッシャーをかけてくる構図、今思い返すとあまりにねじれすぎてんな……。
ふわりが典型的な『イノセント・ワイルド・プリンセス』以外の内面をあまり持てていないことがここら辺の歪みの根源だと思いますが、今回さらっと神コーデを手に入れていることから考えても、あくまで三期のプリパリ組の軸は問題児まほちゃんであり、ふわりの再構成には時間使わない感じかなぁ……読みきれん。

ファルルに関しては、一期でたっぷり時間を使いらぁらと語り合っているし、機械ゆえの純粋性に憧れたひびきと、ボーカルドールの寂しさを埋めようと彼女を求めたファルルとのロマンスは、結構成功していたとも思っています。
やっぱ整理するべきなのは、掘り下げる尺があまりに足りなかったふわりとの関係性、そしてひびきを頂点として整理されきっていない三角関係だと思うので、触るならこういう部分でしょうか。
ファルルとひびきの関係はお互い性を必要もしないし独占の必要もないんだけど、恋愛の要素を入れ込んじゃったふわりはどうしても性意識と独占に関する整理をし直さないと話が収まらなくて、こっちを整えないとファルルとひびきの関係性も定位しきれないと思うんだよなぁ……。
ひびきとふわりの新しい関係を定位できれば、そこを足場にしてファルルとふわりの距離感も納得行く形で定められると思うので、願わくばそこまで拾い切って展開して欲しいところです。


というわけで、都合の悪さから目を背けず、徹底的にダメダメな高校生・紫京院ひびきを描ききる、勝負のスタートラインでした。
きっちりキャラクターの問題点を整理し、今後乗り越えるべき課題を総ざらいにしたのは、それを解決し得なかったか娘を認める姿勢含めて、相当に立派だと思います。
顔だけ良いクソダメダメ女がどうやって友情を認めるか……のみならず、彼女の母親のように振る舞う二人の女を再定位しうるポテンシャルが、今回のエピソードからは感じ取れたので、思わず高望みしてしまいます。
ほんとどこまで踏み込めるかなぁ……やりきったらマジ凄いことになるし、プリパラはそういうことに成功してきてるアニメだしなぁ……失敗もしてっけどさ正直。

混ざり合わらないトリコロールの今後が気になるところですが、お盆休みにかかるので本筋は回せず、来週はサパンナ出張編です。
まーたキチガイパワーがのさばりそうな予感がビンビンしますが、そういう話でこそとんでもない不意打ちぶっこんでくるのも、プリパラの楽しさ。
三期第3クールの軸として回りそうなトリコロールだけではなく、来週のお話にも期待を高めようと思います。