イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

クロムクロ:第19話『鬼が誘う宴』感想

戦国の世の因縁が宇宙で結実する伝記SF、第19回目の今回は解ける謎と深まる謎、繋がる絆。
宇宙に全裸で拉致られたヒロインはとりあえず置いておいて、ムエッタが剣之介と、ソフィーが鬼のおじさんとそれぞれ仲良くなり、これまで切り離されていた鬼と人間が近づいていくお話でした。
これまでは『戦場』と『平和な現代』という二つの日常に橋がかかってきたわけだけど、今度は『味方』と『敵(と思ってきた存在)』の間に交流が始まり、物語が動いてくるフェイズに来たなぁ。

今回のエピソードは大きく分けて2つのパートで構成されていて、ソフィーが居場所を一旦失ってから新しい役割を背負うまでのお話と、由希奈奪還のために奔走する剣之介がムエッタ≒雪姫と一時的同盟関係を結ぶまでのお話です。
各々の物語を背負った主人公が食堂で交流しつつ、剣之助に今必要な『お前は誰が大事で、何がしたいんだ!』という問いかけをしっかりやる辺り、鬼のおじさんが言うとおりソフィーはとにかくクレバーだ。
過去には『お前の気持ちは忠誠じゃなくて慕情だろ』と言っていたり、由希奈に戦う意味を問うていたり、考えてみるとソフィーは持ち前の知性を活かして良い問いかけをたくさんやってるなぁ。

今回序盤はとにかくソフィーから奪いまくる話で、GAUSパイロットとしての居場所はなくなるし、由希奈奪還作戦は拒絶されるし、想い人が大事にしているのは別の女の子だし、セバスチャンにはお役御免を言い渡さなきゃいけなしで、ふんだり蹴ったりです。
しかしそこでキャラを放置するのではなく、キャラの特性を活かして別の仕事をさせるのがこのアニメでして、色々な事情を知っていそうな鬼のおじさんとの対話窓口という仕事がやってくる。
彼女が選ばれた理由は鬼のおじさんが言っている通りですが、GAUSから遠ざけられた『軍属ではない、ただの子供』という理由が、逆に接触しやすさにつながっているのは、なかなか面白いところです。

鬼のおじさんは交渉相手としては非常に優秀で、自分の異形をしっかり把握して準備を積み重ね、事前に人類と自分の共通の利害を探し当てて、話が一番通じそうな相手を見つけて冷静に場を作る余裕もあります。
いや、『玄関開けたら二分で鬼おじ』は面白すぎたし、その後正座して夕日の中向かい合う絵にはメトロン星人モロボシ・ダンっぽさあったけどさ……起こってる事自体は八方塞がりを打破する大事な場面なのに、そこはかとないペーソスが漂うのは好きなところだ。
『日本語の変遷を誰よりも知っている』という発言からしても、剣之介の記憶から消えている500年間の動きやエフィドルグの狙いなど、視聴者もソフィーも知りたい情報を握っているのは、間違いない感じ。
交渉相手のソフィーもクレバーで冷静なので、話が一気に進みそうな期待感があります。


一方冷静とは程遠い振る舞いで雪姫やムエッタに対応していた剣之介ですが、今回はソフィーと接触することで彼女のクレバーさを手に入れたかのように、ムエッタと適切な関係を作ることが出来ました。
クロムクロに乗って由希奈奪還作戦に飛び込んでいく剣之介と、作戦から遠ざけられたが故に重要な交渉の席についたソフィーは、一見遠い位置にいるようでいてお互い影響を及ぼし合い、事態をより良い方向に引っ張っている。
戦場で支えあったり、お互いの価値観をぶつけあって変化するだけではなく、こういうクッションの聞いた関係性を描けているのは、このアニメの視野の広さをよく表現している部分だと思います。
雪姫との『過去』に縛られてた剣ちゃんが、『俺は由希奈を助けたい』と言葉にして『現在』を肯定したのは、凄く大きな一歩だと思うのよね……この言葉を引っ張ってきたのがソフィーが何度も重ねた問いかけなわけで、恋愛戦は負け戦だけど、やっぱいい仕事してると思う。

『生体ナノマシンの再活性化』という名目で、剣之介とムエッタが文字通り血を分けあい、他人ではなくなる演出が対話の前に挟まるのは、なかなか面白かったです。
由希奈も最初は剣之介を他人だと思っていたわけですが、クロムクロの後部座席に乗り込み、戦場を一緒に走り血潮をその身に浴びる経験をすることで、剣之介との距離が近くなっていった。
一度は殺すために剣之助の血を浴びたムエッタですが、今回受け入れた血は命をつなぐための血であり、あの時は拒絶していた雪姫呼ばわりも、クロムクロに仕掛けられていたイースターエッグを見て、ある程度受け入れざるをえない状況になる。
このようにして、視聴者が神の視点から気になっていた『雪姫に似た三人の女』『剣之介の記憶』『エフィドルグの生態と狙い』といったミステリをキャラクターに引き寄せ、物語の中で自然と謎を解く体制が整っていったのが、今回のお話だといえます。

宇宙基地への殴りこみ(ムエッタにとっては帰還)という利害だけではなく、雪姫との繋がりと謎、そして血肉をも共有することで、剣之介とムエッタは殺しあう関係からクロムクロをともに操縦する、一応のバディへと変わったわけです。
それは剣之介がムエッタに接近すると同時に、ムエッタが剣之助や雪姫、そして同じ席に座っていた由希奈に接近する運動であり、これまで完全なエイリアンだったエフィドルグが人間に近づいていく運動でもある。
そしてそれは、ソフィーと鬼のおじさんが相互に接近する運動ともシンクロしていて、シリーズ全体の転換点である今回の構成を巧く強調するシンクロニシティが、色んな場所で生まれています。
こういう構図の描き方、やっぱ上手いなぁこのアニメ。


マッドだけどある種の信頼感があるハウゼン博士の検査により、ムエッタ=雪姫でありムエッタ≒由希奈である状況にも、確信が持てました。
DNA情報だけが個人を確定するわけではない人間社会においては、三人の女は結局別の人間なんだけど、未だ明かされていない深い関係が彼女たちを結びつけているのも事実。
これを確認しないことにはムエッタも基地に返ってハイおしまい、とは行かなくなったわけで、上手いことムエッタの立場も揺るがしたなぁと思います。

フィドルグ側もムエッタ=由希奈という勘違いをしているわけだけど、それを正せないのはDNA情報だけを個体識別の要としているからか、はたまた根本的にバカだからか。
回復ポッドを迷わず潰しに行ったミラーサの短絡っぷりには、『女の子のお腹めくっても、Hな方向には絶対行かないだろうな』と思えるハウゼン博士とはまた別の、イヤな信頼感があったね。
すんでのところで逃げおおせた由希奈は、第1話で言ってた宇宙飛行士の夢をある意味叶えたわけだけど、ピンチですがるのが剣之介なところがなんかこー、すげー良かった。
やっぱ信頼感がじっくり蓄積されて、キャラがお互いを、そして視聴者がキャラクターを頼りにできるようになるのは、アニメを見続けていて一番楽しいところの一つだと思う。

信頼感という意味では、ボーデンさんが米国軍人らしい絶対救出主義を唱えていたのも、頼もしくてよかった。
言葉の選択は荒っぽいが、非常に理性的で理想論的な軍人っていう描写は、最初っから変わってないねこの人。
娘可愛さで大暴走し、本来止めるべき独断での奪還作戦敢行をむしろ後押ししてる洋海ママンも、根っこの部分は全く変わっていなくて安心。
ロボアニメの独断専行を権力者が後押しするのって、結構珍しい気がする……クロムクロらしいやな。


というわけで、ヒロイン不在の間に鬼と人の間の距離が縮まり、キャラクターたちが謎に取り組む体制が作られるお話でした。
じっくり人間関係を作り上げていく合間に、色んな謎がばらまかれてた物語なので、それがキャラクターの問題になってきたのは、視聴者としても嬉しい限り。
敵の本拠地で急増コンビがどう立ち回るかも気になるし、今後が益々楽しみになるエピソードでした。