イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

91Days:第7話『あわれな役者』感想

血に込められた愛と憎しみが狂気に変わる禁酒法時代の修羅の巷、今週は女はそれを我慢できない。
息子が父を、弟が兄を、妻が夫を殺す血塗れの世界の中で、復讐鬼がその騎馬を存分に振るうお話でした。
暴力を職業とする『ファミリー』の因果に足を取られ、もはやオニオンスープのように冷めきっちまった『家族』の絆を取り戻そうと願う兄弟の、あまりにもむごい結末。
その状況をつくりだした主人公が行動する理由もまた、喪われた『家族』への反転した憧憬という、地獄めいた血の因果が一気に花ひらく回となりました。
これでロウレスはファンゴとネロの共闘体制として一応固まり、ガラッシアとの全面抗争も辞さない超タカ派でまとまったわけだな。

アウトローであり職業集団である『ファミリー』と、親から生まれ兄弟が家を同じくする『家族』。
同じ言葉を使いつつ、その内容は全く異なっています。
口では『ファミリー』を謳いつつ、メンツや利益や自己防衛や憎悪のために血縁者をぶっ殺し、義理の家族も殺してはばからないマフィアの悪辣さは、これまでも描かれたとおり。
今回ヴァネッティ三兄弟が直面したのは、その間にある矛盾であり、その中にある矛盾でもあります。

その胎内に新しい命を宿せるフィオは、男兄弟がこだわる『ファミリー』のあり方を、一切理解できません。
メンツと威圧力を失えばいつでもドブに沈められ、命を取られかねないヤクザ稼業の職業倫理は、フィオにとってはどうでもいいものです。
そんなフィオにとっては血の繋がりだけが『家族』なのであり、所詮他人である夫を殺して状況を改善することには躊躇いがない。
水杯でつながった『ファミリー』のために『家族』を殺すネロとフラテのカルマだけではなく、『家族』を思えばこそ新しく出来た『家族』すらも殺してしまう女の業が、今回は色濃く描かれていました。
法なき修羅の巷においては、安全地帯などどこにもないわけです。

『男(もしくは侠)』として、空っぽなプライドを守らなければ商売が立ちいかない、クソみたいなヤクザ倫理を理解しているネロとフラテの間にも、乗り越えられない溝があります。
圧倒的なスケールを誇るヴァネッティを前に、飲み込まれることで生存を図るか、牙を突き立てて生き延びるか。
組織としての実体がなくなっても恭順して生き延びるか、犠牲を覚悟で闘争を仕掛けるか。
『進む』か『退く』かの選択肢をつきつけられた時、『退く』ことを選んだ豚が死ぬという構図は、今回キノコ頭をやめて一気にかっこ良くなったファンゴが、父を殺した経緯と強く重なります。

『プライドがなければ、生きている意味が無い』というネロと、『プライドを投げ捨てても、生きてさえすればいい』とするフラテの対立は、個人的な資質に立脚する対立でもあります。
生来のカリスマを持ち、対立してなおヴァネッティに支持者を残すネロと、『日曜日の礼拝に行かなくてもいい』兄を恨みつつマフィアとして認められるために必要な暴力性をどうしても確保できないフラテ。
『愛されるのではなく、認められたい』と願いつつ、血でしか己を証明できないマフィアの世界にあまりにもなじまないフラテの生存戦略として、新しい父であるロナルドに擦り寄り、酒と薬に逃げ、ガラッシアに恭順する生き方があります。
その惨めさと哀しさは、生来王の資質を兼ね備えたネロには絶対に理解できない弱さであり、弱さに同情を見せることすら隙になるマフィアの世界を考えれば、お互い銃を突き付け合うのはある意味宿命だったのかもしれません。
……『フラテは身内だ。どうにか助けたい』という弱さをアヴィリオに見せたのは、『ファミリー』であるアヴィリオなら弱さへの共感を食い物にしないという共感を、ネロが抱いているからだろうなぁ……それ、あまりにも致命的な誤解だぜ。

兄弟はお互い、血縁のぬくもりを大事に思い、空いてしまった溝になんとか橋をかけようとする。
家族の思い出が詰まったオニオンスープをネロは『懐かしい』と味わうし、フラテがここまで追い込まれたのも兄恋しさ、父恋しさ故でしょう。
しかし時間は巻き戻らないし、『ファミリー』の道理を捨てて、フィオが口走る『家族』の真理にすべてを捨ててたどり着くには、あまりにも血が流れ過ぎ、流しすぎた。
マフィアという職業の血塗られたルール、『悪しき父』としてフラテを支配しようとしたロナルドの策謀、そして何より、身近であるがゆえにあまりにもこじれて強烈な感情を込めた『家族』へのコンプレックス。
密室で兄弟双撃する苛烈な結末は、もはやどうしようもない運命の末路であり、複数の思惑が絡み合う浮世の掟でもあるわけです。


そんな因縁のもつれた糸を、己の望む方向に引っ張っているのが、我らが主人公。
誰よりも大事な『家族』をぶっ殺したネロが、よりにもよって『家族マジ大事。俺もホントは殺したくないし、暖かい昔に帰りたい』と抜かしたので、死ぬより辛い地獄に兄弟を叩き落す策略を練ります。
『殺すだけじゃ飽きたらない。俺の背負った地獄を、お前も味わえ』というのは復讐者物語でよく聞くセリフですが、こうも綺麗に実現されると、鮮やかさに感心するやらおなか痛いやら。
家族のフリして判断力を鈍らせ依存度を上げるために薬を処方してたロナルドの卑劣さと、同等以下のゴミってのが凄いよね、主人公なのに。
『弟に合わせてやるよ』とか『そろそろ始末をつけたらどうだ?』とか、『死ね』を気の利いた言い回しで表現するボキャブラリーの豊富さが好きです。

アヴィリオが切れ者であると示すためには、具体的な描写が描かせません。
今回の策略はこれまでの描写を的確に活かしたものが多く、例えばネロを現世の地獄にとどめたままフラテを殺すスリの技術とか、身内殺しをフラテに押し付けることで状況を加速させる陰謀だとか、どっかで見たことのある技術の集大成でした。
キャラクターに何が可能で、何を特異としていることを違った状況で繰り返すことは、キャラの中に一貫性を培い説得力を上げていくわけで、過去見せたモチーフを鮮やかにリフレインした今回は、策士アヴィリオの強さを見事に演出していました。
第4話ではコメディタッチに使われていたスリの手妻が、今回は人を殺すための大事なピースとして使われる辺り、エグいなぁ。

今回色濃く描かれた、ヴァネッティ兄弟の『家族』と『ファミリー』をめぐる愛憎は、アヴィリオが復讐者として陰謀を操る理由の陰画です。
『ファミリー』を背負えばこそ『家族』を殺す矛盾、『家族』だからこそ助けたいと願う人間らしさは、当のネロが虐殺した『家族』が持ち、アンジェロから奪ったものである。
だからこそアヴィリオはフラテを殺し、ぽっかり空いた隙間に『これからは、俺がお前の弟だ』と滑り込んで『家族』になろうとする。
フィオを操作する手紙の使い方といい、今回アヴィリオのこれだけ陰謀が巧く行ったのは、『家族』を殺されるものの空疎さ、『家族』を背負うものの複雑さを、まさに当事者としてアンジェロが知り尽くしているからでしょう。

ネロとアヴィリオは『家族』にまつわる様々なものを共有しているのだけれども、取り返しようのない過去によって、その共感はねじれてしまっている。
どれだけ同じ立場になっても『んじゃあ、俺たち手を取り合い、兄弟のように助けあおう』とは、実の兄弟すら殺しあうロウレスの街では、どうやったって訪れない未来なわけです。
しかしこのアニメは、丁寧に丁寧に『ファミリー』の光の側面、縁もゆかりもない連中が血よりも濃い絆を育むさまを見せて、『どうにかこいつら、良い関係にならねぇかなぁ』と叶わぬ願いを思い浮かべさせます。

それはヴァネッティ兄弟の間にある情の描き方にしてもそうで、オニオンスープを巧く使った三者鼎談の場面などは、それが破綻する所引っくるめて非常に鮮烈でした。
暖かさから目を背けず希望のカケラを描いた上で、マフィアという職業、過去の業罪のままならさで淡い期待を叩き潰し、泥まみれに塗る。
その情と無残さの扱いの巧さが、脚本と演出両面で非常に上手く描かれていて、つくづく上手くて強いアニメだなぁと思います。


かくして『家族』を失い王の地位を手に入れたネロですが、同じイニシエーションをくぐり抜けたファンゴとは、『ルームメイト』でしかありません。
元々命の取り合いを厭わない商売仇であり、利害でしか繋がっていない間柄は、ファンゴの好戦的でねじの外れた人柄もあり、いつ破綻してもおかしくありません。
というか、ファンゴの制御不能な怪物性は意識して強調されているので、ただの気まぐれで全面戦争になってもおかしくない。
ここら辺のややこしい関係が、レモンがけピッツァという『不思議な食い物』を『』口はつけるが食べきることはない状況、酒というキーアイテムを飲まない態度でしっかり見せているのは、相変わらずの巧さですね。

ロナルド殺しも『フラテが発狂して殺し、実の兄が始末して忠誠を見せた』という絵に書き換えられたけども、わざわざ妹を愛の無い結婚に差し出して作った交渉窓口が潰れたのは事実。
ガラッシアがロウレスの街を丸ごと飲み込みたい欲望は、小さな町のチンケな殺し合いには一切関係なく存在しているわけで、状況は一切余談を許しません。
状況が片付いたと思ったら、新たな厄介事がどんどん顔を出す矢継ぎ早の姿勢が、ストーリーの熱を途切らせずすすめるコツなんだろうなあ。
状況を安定させないために『殺人者を隠蔽する』手法が多用されているのは、物語の発端であるアンジェロ一家皆殺しでも、このルールを適応してひっくり返すためかなぁ……死人を弄んだ報いがアヴィリオに帰ってくるな、そうなると。


というわけで、義理と人情秤にかけりゃ、重すぎる情が天秤をひっくり返して全てを血塗れにするお話でした。
どうにかならねぇかなぁと願いつつも、どうにもならねぇという理屈と絡み合った情をしっかり見せ、破滅のカタルシスを飲み込むしかない状況を生み出す。
大量の泥の中で輝く少しの光が、より濃厚な地獄を引き連れてくる劇的状況をうまく視聴者に食わせる話で、上手いし面白いし凄いしです。

これでロウレスはネロ=ファンゴ連合のタカ派で一致を見たわけですが、その繋がりは『ルームメイト』程度の危ういものだし、町ごと飲み込もうというガラッシアの巨大な顎は今だ健在。
何よりも、復讐をたぎらせる主人公が『家族』としてネロの懐に滑り込んだ以上、最大の地雷を抱え込んだも同然です。
社会的状況としても、爆発寸前の感情の濃さとしても一切の油断を許さない91Days
13×7という裏切りの数字が行き着く先はどこなのか、非常に楽しむです。