イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

クロムクロ:第21話『牙城の落ちる日』感想

精神支配型エイリアンとの生存戦争、ついに正面衝突なクロムクロ第21話。
由希奈の無事帰還を喜ぶ暇もなく、空から落ちてくる敵の牙城と大量のノーヘッド。
重力バリアへの対抗策がない以上、クロムクロとGAUS三機のみが研究所に残された蟷螂の斧であり、獅子奮迅の戦いも虚しく、要石が眠る研究所はエフィドルグの制圧下に。
ナノマシンを利用した洗脳』という新手は繰り出してくるし、セバスチャンさんは血路を切り開くために死んじゃうし、人類に逃げ場なし! というエピソードでした。
乱戦の中でたっぷり殺陣が見えるのは嬉しいんだけど、血みどろの負け戦なので興奮して良いのやら悪いのやら、って感じだったね。

と言うわけで、全編ほぼ戦いなお話でした。
他の枢石を全部抑えたからか、幹部三人に宇宙鬼ヶ島本隊、加えて大量のノーヘッドと、一切出し惜しみのない物量押しで攻めてきました。
これまでチームワークで単騎駆をどうにか撃退してきた形なわけで、技術で負けて数でも押し込まれると本当に手筋がなく、奮戦むなしく本丸を落とされる形になってしましました。
インチキバリアが圧倒的すぎて、舐めプやめるとほんとアッという間だな。

窮地にこそ人間性というのは出るもので、GAUSチームを筆頭に研究所はよく戦いました。
優秀な自衛官・茂住としてではなく、ソフィー個人の執事として死んでいったセバスチャンにしても、ボロッボロになりながら戦い続けようとしたボーデンさんにしても、イムサ相手に柳葉刀で奮戦したシェンミーさんにしても、皆弱者を守るために戦うサムライの意地を見せ、決死の乱戦を切り抜いていました。
『戦士』は死んだから偉いってわけでも、殺したから凄いってわけでもないのは、これまで何度もこのアニメで語られたテーマです。
どう殺しどう守りどう死ぬか、戦いにどういう意味をもたせるかこそが『戦士』の価値である以上、希望を繋いで死んだ茂住さんは、やっぱ立派な戦士だったと思います。
いや、死に顔写ってねぇから死んでねぇかもしれねぇし、俺あの人好きだからご都合主義でもそのほうがありがたいけどさ……。

戦術的には、数と連携というこちらの得意技を、相手に使いこなされ押し込まれる戦となりました。
本拠という地の利を活かして、トラップで削っていく撤退戦は凄みがあったんだけど、悲壮さを背景にした格好良さだけに、無条件に喜べないのが悲しいね。
多勢を相手取るために戦力を分散せざるを得ず、これまで見せたチームワークが機能しなかったのは、勝つ説得力がそのまま負ける説得力に繋がる、悔しいけれども上手い演出だったなぁ。
空中戦適正がクロムクロしかない以上、ブルーバードの頭を押さえるのに手一杯なのが厳しいね、とにかく。

『戦士』たちが血みどろで道を切り開く中、『平和な現在』に足場を置く人たちは怯えつつ逃げ惑い、『戦場』に適応して命をかけたりもした。
由希奈がそうであるように、守られる側だからといって『戦場』が逃げて通ってくれるわけではないし、新たな『戦士』として『戦場』のルールに適応できないわけではない。
武器を持っているかではなく、他人を守る心意気があるかどうかでこのアニメにおける『サムライ』の資格は決まるわけで、ベスを逃がすべく体を張ったリタも、敵だった命を守ろうと踏みとどまったソフィーも、そんな彼女に手を貸した赤城も、厳しいイニシエーションを前に『戦士』としての気概を見せた回だったといえます。
そんな中、一切動じずカメラを構え続ける茅原は、ある意味ブレなくて頼もしいというか、お前に赤い血は流れていないのかというか、なんというか。


人類サイドが守るために戦う中、エフィドルグ側のモラルの無さというか、圧倒的で空疎な感じは際立っていました。
無人機であるノーヘッドは当然なんだけど、あいも変わらず下劣な思考回路してるミラーサのクズっぷりも、他の二人の余裕の舌舐めずりも、『戦士』たちが決死な表情してればしてるほど嫌悪がつのる。
ゼルの報告でレフィル以外はコピー人間であり、価値観や倫理観も機械で植え付けられた軽い感情であることが解ったので、そこら辺は設定と演出が合致している所なんでしょうけどね。
フィドルグがクソであればあるほど負けた悔しさと反攻への期待は高まるわけで、お話としてみると今回ぐうの音も出ないほど負け尽くしたのはいい感じ……なんだけどね。
やっぱクズに負けるのマジ腹立つわ……ぜってぇ殺スって気になるもんな。

そんなクズ集団にもいられず、かと言って人間でもないムエッタはソフィーの情けで『戦場』を脱し、なんとか生き延びました。
ソフィーとセバスチャンというかつてのバディが、離れた場所にいても、ロボに乗っていてもいなくても、『守る』ために戦ったシンクロは、なんかこー、胸に迫るものがあった。
首コキャの負債が分厚いんで最終的な生存は難しいかもしれんが、ムエッタにはエフィドルグに植え付けられた偽りを乗り越え、かと言って人間になるでもない、彼女独自の道を歩ききって欲しいもんだ。
そうすることで、ソフィーや赤城の気持ちに報いることにもなるだろうし。

同じく敵とされていたゼルも、剣之助を抑えて二度目の共闘体制。
ムエッタとゼルという『敵味方定かならぬ相手』両方が、ソフィーとコンタクトをとる形となりました。
自分らしさを保つためにはまだ『鬼』を憎むしか無い剣之助ですが、過去の矛盾を落ち着いて考え、ソフィーと由希奈が仲立ちとして機能することで、巧く整理できるのかね。
『友だった』という過去形の言い回しからすると、やっぱ由希奈パパンはもう死んでんのかなぁ……。

剣之助とゼルの立ち会いは位置取りの妙味が感じられる良い殺陣だったのですが、これまで『守る』ために戦い続けてきた剣之介がソフィーを突き飛ばす衝撃もあった。
『ただ人を殺す機械になってしまっては、戦う意味がなくなってしまう』というのはボーデンさんの言ですけども、剣之助もあの瞬間、『戦士』であることを捨てエフィドルグに近い存在になりかけたわけだな。
そういう意味では、明白な死を前にしても引き際を見失っていたボーデンさんも、『ただ人を殺す機械』になりかけて、剣之介に強引に引き戻された形なのか。
こうして見ると、いろんなキャラクターが危うい一戦を前にバランスを崩しかけ、差し伸べられた手を取って立て直す回だったのだな。
そういう意味でも、窮地にこそキャラクターの地金、関係性の芯、物語のテーマは出るわけだ。


と言うわけで、落ちる牙城は人間側の本丸、というエピソードでした。
力に優っていても倫理に劣っているゴミクズ人間もどきに思う存分蹂躙され、セバスチャンさんが死んじゃって、正直非常に悔しいです。
バリアさえなんとかできれば、今回敵の武器になった『数』は人類に味方しそうな感じなんだけど……やっぱゼルのUSBがキーアイテムになるんかねぇ。

『戦士』たちが必死に守ってきた『平和な現在』は『戦場』にのしかかられ、心は絵フィドル具色に染め上げられ、大切なもの全てを踏みにじられるこの展開。
科学技術でも物量でも押されている状況で、一体どう逆転の秘策を見出し、『サムライ』の心意気を人の皮を被った鬼に突き立てるのか。
この敗北からの反撃を強く信じたくなる、敗走の終盤戦でした。