イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

91Days:第8話『帳の陰』感想

『また杯を取り、感謝をささげて後、こう言って彼らにお与えになった。「みな、この杯から飲みなさい。これは、わたしの契約の血です。罪を赦すために多くの人のために流されるものです。ただ、言っておきます。わたしの父の御国で、あなたがたと新しく飲むその日までは、わたしはもはや、ぶどうの実で造った物を飲むことはありません。」』(マタイ26:27-29)


赤き聖餐は罪を洗い流さない劫罪のノワール、臆病の後に臆病が、死の上に死が積み重なる第8話。
ヴァネッティの内紛はネロ派の勝利で収まり、秩序の使者気取りの連邦捜査官が現れ、怯え、退場していく。
時代の流れを読んだファンゴは哀れなコルテオに得意の暴力をちらつかせ、思わぬ反撃によって滅びる。
家族だったものが壊され、家族のために壊れ、血塗れの舞台から役者がどんどん消えていく。
早過ぎるような、しかし必然でもあるような事態の急変に思い切り引き込まれる、血塗れのエピソードでした。

今回の主役は魔法のお酒の作り手であり、マフィアの世界で生きるにはまとも過ぎたコルテオでした。
酒をあおり、ファンゴという『悪しき父親』の良いようにされる様子は、ロナルドと薬物にすがったフラテにそっくりで、弱い息子と悪い親父の地獄絵図は何回も繰り返されるなぁと感じいったり。
コルテオがファンゴに擦り寄ったのは、兄弟分だったアヴィリオが復讐の悪魔と化し、マフィアの水を平気で飲む存在になってしまったことが主因です。
ここでも『兄弟間の機能不全』が『悪しき父親』に擦り寄る要因になっていて、フラテ-ロナルド/フラテ-ネロとの重ねあわせを感じますね。

実際に命は取らないまでも、無関係の『家族』まで的にかけるアンジェロは、コルテオにとって遠い存在、『苦手』なマフィアそのものになってしまいました。
しかし情があればこそ兄弟に己の存在をアピールしたいし、『手切れ金で頬を張り飛ばす』という不器用極まるやり方だけど、修羅場から遠ざけようともする。
兄弟たちの真心はあまりに不器用にぶつかり合い、コルテオはあれだけ嫌っていたマフィアのやり方(『酒』)を気づけば飲み込み、最終的には血塗れの場所に流れ着く。
『一緒にシカゴに逃げねぇか?』と遠回しに言ってくれるチェロット含めて、あまりにも不器用な青年たちの上手くいかない青春に、ひどく苦い気持ちになりました。

慣れないマフィアの世界でも、『ロウレス・ヘヴン』の魔力が効いている間は存在価値を作れたわけですが、レシピは流出し禁酒法時代は終わる。
情ゆえに巻き込まれて、引き返せない場所まで押し流されて、最終的に選んだのが『殺し』というマフィアの方法論だったのは、マフィア嫌いの青年の末路としてはあまりに残酷すぎるというか、なんというか。
メタ的な味方をすると、『ロウレス・ヘヴン』はアヴィリオがヴァネッティに食い込むためのロジックとして機能していて、『死んだフラテの代わり』という立場を手に入れた以上価値の無いものになった、とも言えるかな。
お話的な仕事が終わってから劇的に退場させるまでの帰還が短いのは、作品の緊張感を維持する上で大事ですね……ほんと緩まず容赦もねぇな、このアニメ。


『酒』の創り手だったはずのコルテオがを己を見失うほどに『酒』を煽るのとは対称的に、デルフィ捜査官はマフィアが差し出した苦くて甘すぎる『コーヒー』を拒絶し、敵のやり方に染まらない強さを見せます。
しかしその正義感は『家族』を狙われた瞬間瓦解し、彼も舞台裏に下がる。
『家族≒ファミリー』をこじらせた結果身内で殺しあったり、身内以外で殺しあったりしている人たちを見ていると、誰も死なずに退場できてよかったね、って感じですが。

『家族』の仇を取るためには、なんの関係もない他人の『家族』を生け贄に捧げても後悔がない。
コルテオを一人称的主人公に据えることで、アヴィリオの引き返しようがない現状が今回はよく見えました。
復讐のための偽りの兄弟ではなくて、本当に自分のことを思って地獄に道連れになってくれた兄弟分は、耐え切れずに人殺しになっちゃったし、すっかりゴミクズ人間が板についてきました。

おそらくアヴィリオ自身のイメージでは、マフィアの方法論はあくまで借り物であり、彼は幼くて無垢な『天使(アンジェロ)』のままなんだろうけども、実を取るために選んだ虚偽は魂を確実に蝕んで、マフィアの外側にいたコルテオはその変貌に耐え切れなくなる。
そこにどんな意図が秘められていようとも、物質的な事象は確実に進行するし、それは意図それ自体をも侵食していくというのは、息子を言いように利用しようとして殺された『悪しき父』達の死体が証明しています。
ファンゴというカウンター・ウェイトが退場したことで、いよいよアヴィリオが本命に王手をかけない理由もなくなってきましたが、きっちり取れるのかなぁ……表層が意図を侵食していくって意味では、ネロとの兄弟関係もアヴィリオを蝕んでんだろうな。

エキセントリックで行動的なキャラクターで話を回してくれたファンゴも、今回で退場。
ツダケン声でべらべら喋るのが印象的なキャラクターが、喋る『喉』を潰され『電話機』で撲殺されるのは、このアニメらしい血塗れの皮肉が効いてて良かったです。
『やらなきゃやられる』というマフィア主義にどっぷり使っていたのに、脅している相手も同じ理屈で動くと想像できなかった辺りも、徹底的に愚か者のお話であるこのアニメらしいよね。
まぁファンゴはサディストでマゾヒストなので、惨たらしくぶっ殺されること含めて獣の生活を楽しんでいたのかもしれないけどさ。

色んな人が退場する中、これまであまり目立たなかったバルベロが鈍く光り出してもいました。
コルテオに無言の圧力をかけ、思わせぶりな表情を見せているのは切れ者の表現なのか、はたまた別の意図があるのか。
まぁぶっちゃけ、今回一気に人数が減ったんで『四人目』担当がバルベロしかいねぇ! ってメタ読みなんですけどね。
オルコとファンゴが死に、ネロとヴィンセントが消えて生まれる暴力の空白地帯に滑り込めば、ロウレスの街はバルベロのもんだもんなァ……怪しすぎる。
これで無罪の忠義者だったらほんとゴメンって感じですが、直接手は汚してなくてもクソマフィアのぶっ殺し主義に加担しているゴミクズ人間なのは間違いないので、あんま謝らなくてもいいや。


そんなわけで、これまで舞台に馴染めないアウトサイダーとして描かれてきたコルテオを主役に据えることで、主役たちが浸かる血の沼の悪臭を教えてくれる回でした。
その悪徳を嫌悪し、怯えつつ、そこから離れることも出来ず己自身が沼に沈んでいく。
本当に性格の悪い(超褒め言葉)展開で、このお話のろくでもなさを最高に痛感できましたね。
クソみたいな悪意の泥にまみれているんだけど、そこかしこに情の輝きがピカピカしてんのがなぁ……ほんと切なくて上手い。

調子こいた連邦捜査官共はまとめて退場し、コルテオの暴走によりファンゴ・ファミリーは頭を潰された状態。
気づけば狂騒の舞台も役者が減ってしまいましたが、アヴィリオの目的はまだまだ果たされていません。
本丸への道ががっぽり空いた状況で、復讐鬼は何を道連れに地獄へひた走るのか。
ズッシリとした痛みを感じつつ、来週も目が離せませんね……悪い酒みたいなアニメだなホント。