イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

あまんちゅ!:第9話『消せない思い出のコト』感想

青春デコボコ道は三歩進んで二歩下がる、久々に黒髪メソメソ女軸のあまんちゅ!九話目です。
半分折り返したあたりで視点が他のキャラクターに移り、少しはカラッとした天気になった伊豆でしたが、てこに視点が戻ってくるなり重いのなんの。
現在進行形の思い出は楽しい、でも過去の記憶も捨てたくない。
そんなナイーブな親友の変化に敏感に気づき、積極的に支えてくれる優しい人たちの気遣いで、乙女の幽き願いがしっかり形になるエピソードでした。
お話の蓄積で結構前向きになったように感じてみたけど、やっぱあの黒髪マジ重いし脆い……素晴らしい……。

このお話において『てこの携帯電話』はあまりポジティブなフェティッシュではなく、過去に縛られ続け現在と未来に目を向けない姿勢の象徴として扱われてきました。
『書を捨てよ町へ出よう』じゃあないですが、下向きに携帯電話を見続けるのではなく、『前を向いて海に入っていくことで、自分を好きになっていこう! 顔を上げて、新しい出会いに飛び込んでいこう!』というのが、演出の基本ラインです。

今回もそれを継承し、てこは基本下向きっぱなわけですが、これまではぴかりに手を引かれないと顔を挙げられなかった所が、自力で顔を上げ現在を見据えるようになっていました。
これはぴかりやダイビングと出会ってからの数ヶ月で、後ろ向きな本性は変わらないながらも、その受け止め方を変えたてこの成長を巧く表していて、面白い見せ方だと思いました。
この変化を強調するべく、ぴかりの祖母が介入せず見守る位置に戻るところも興味深い。
黒髪のメソメソマーメイドである自分は簡単には変えられないけど、ぴかりとバカやったり百合やったり、二宮兄妹と先輩後輩したり、火鳥先生に見守り導いてもらった時間はちゃんとてこの中に蓄積し、変化を生み出しているわけですね。

携帯電話自体の物語的フェティシズムも大きく変化していて、その中のメモリーは大切にするべきてこの個性として重視され、てこ個人では解決法が思いつかない過去と現在に、友人たちが答えを出してくれる形になっています。
現在と同じくらい大切な過去は上書きされて消えていくものではなく、相補いあって生きるすべになる、かけがえの無いものである。
このお話は何かを否定することで対比物を肯定する方法を取らず、とにかく肯定的な味方を作って、否定的に思えるものをそこにぶち込んで現実を改変していくロジックを作ります。
今回フォトフレームという形で示された解決法は、てこの中で決着を見なかった『過去/東京』と『現在(未来)/伊豆』を融合させ、両方を肯定するための思考の『枠(フレーム)』でもあるわけです。
ここら辺の変化や気付き、発見は大概言語化され、ポエジーなモノローグとして出力されるアニメなんで、話のコアが見えやすいですね。

ダイビングを主題にしているせいか、ロハスでナチュラルな事象が肯定される空気が漂っているこのお話ですが、『携帯電話の中の思い出』というデジタルなアイテムを、てこの個性として肯定してくれたのはなんか良かったです。
僕はこのお話の『安易に何かを切り捨てない』姿勢がとても好きなので、どうしても携帯電話というライナスの毛布を手放せないてこの弱さも、優しさとしていつか肯定して欲しいなと願っていました。
それがこういう形で叶うのは、作品が言いたいこと、言うべきことが隅々まで徹底された気持ちよさがあって、なんか清々しいのです。
てこから携帯電話という個性、写真という思い出を取り上げる方向ではなく、それを活かしたまま囚われないで生きていける方法を提案してあげるのは、強くて優しい方法だね。


てこに成長と変化が見られるとはいえ、基本的にはガガンボ級にか弱い精神した面倒くさい黒髪なので、周囲のケアは欠かせません。
ぴかりも二階堂姉妹も東京のトモダチも、みなセンシティブな知性と親友を思いやる優しさ、それを形にする実行力を併せ持った出来た人間であり、『東京産黒髪メソメソ女の肥育は完璧だッ!』っていう感じでした。
一見おバカ天然無神経キャラのようでいて、人間心理に関することにはすげぇ繊細な感性を持っているぴかりのキャラクター性って、面白いしストレスフリーでありがたくもあるわよね。

ぴかりも二階堂姉弟も火鳥先生も、それぞれ物語の主観を担当したことで内面が深く掘り下げられ、主役になってない時でも行動の裏にある気持ちが分かりやすくなったのは、エピソードの蓄積が効いているところだなと思いました。
姉ちゃん先輩が結構乙女なところがあると知っていればこそ、今回てこの異変に鋭く気付き、ぴかり発案の励まし作戦に乗っかる優しさが、知る前よりもじわっと心にしみるわけです。
まぁ個人回貰う前から人の情を知っている気持ちのいい奴らだったけども、それがどこから生まれてきているのかを一人称的エピソードをもらうことでより強化できて、よりいろいろな角度からキャラを理解できるようになったのは、凄くいいですね。

東京のお友達も火星あたりで聞いた声の出来た人たちであり、最後の最後で声が繋がる収め方も含めて、儚い人の縁を綺麗にまとめていたと思います。
『安易に何かを切り捨てない』姿勢はネガティブな事象にも及んでいて、距離が離れれば心も離れていくという寂しい現実を、このお話はちゃんと書く。
書いた上で、それを受け入れてどう過去と付き合っていくかということも、実は全てが消えてなくなってしまうわけではないという希望も、しっかり切り取る。
ここら辺の明暗のバランス感覚は、透明感のあるビジュアルだったり、ポエジーでこっ恥ずかしく、しかし大事なことを真っ直ぐ伝える対話であったり、清潔感と肉感を両立させた女体表現だったりと同じような、この物語の武器だと思います。
思いの外暗いこともやりつつ、最大級の前向きさと夢いっぱいの明るさで今と未来を切り開いていくのは、ニヒリズムに飲み込まれない強い姿勢ですね。


そんなわけで、黒髪メソメソ女のメソメソを自分で振り切ったり、めちゃめちゃ気が利くナイスガイ達に助けてもらったりして、今とあの日に折り合いを付ける話でした。
いい具合に『大木双葉が伊豆で手に入れたもの』の総括にもなっていて、作品が目指すところもクリアに描けていて、思わず『良い最終回だった……』と言いたくなるエピソードでした。
『良い最終回だった……』てのもいい加減定形ですが、作品で言いたいこと、言うべきことをしっかりまとめ上げて表現しきれていると、やりきった感じが出て最終回のように感じる、ってことなんだろうなぁ。

来週はダイビング部のギャル三人が、ダラダラでろでろと買い物したりデートしたり海入ったりするお話です。
一見ゆる~い話を展開しているように見えて、また恥ずかしいセリフで人生の真実をえぐったりするんだろうなぁ……あと女体表現に気合入るんだろうなぁ……。
地味にヘアスタイルや私服のバリエーションが多くて楽しいアニメなので、そこら辺も期待しつつ来週を待ちたいと思います。