イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

91Days:第9話『黒ずんだ野望』感想

血の狂乱はディオニュソスの祝福、アポロの理性を振り捨てて踊る子供たちの詩学、一時停止の第9話。
コルテオがファンゴの首を取り、裏切り者として身柄を押さえられたことで、アヴィリオは復讐者の表情がバレる危機に直面する。
脅迫者によってコルテオの身柄が抑えられ、ネロの命を詰むや詰まざるやまで思いつめる中、ヴィンセントは唯一残った息子に血塗られた玉座を禅譲する。
時が無情に流れる中脅迫者の居場所を突き止めたアヴィリオが出会ったのは、古参幹部ガンゾだった。
一話に一人のペースで死人が出ていたこれまでの話に比べるとどっしり腰を落とした展開でしたが、だからこそアヴィリオの焦りと狂気、殺意と執念がじっくり感じ取れ、ヒリつくような緊張感がある話でした。

『家族』だの『兄弟』だのを題目に掲げつつ、メンツと銭金のためなら身内の血でもドバドバ流す。
『ファミリー』と持ち上げられるマフィアのどす黒いハラワタを、存分に描写してきたこのアニメですが、今回はアヴィリオとコルテオの繋がりが再確認されていました。
ネロの側近という仮面を守るためには、涼しい顔で裏切り者を消すのが当然。
しかし復讐者としての本心はネロなどどうでも良く、頼り巻き込んだ兄弟分の命を助けたい。
そんな願いは実は、復讐のために取れるだけ汚い手を使い、多数の『家族』を破滅させてきたアヴィリオにとっては、大それた願いだったりもします。
おまけに仮の主であるネロは耄碌ジジイから玉座を受け取り、ライバル叩き潰して我が世の春を目前にしている。
そんな複雑さを言葉で説明はせず、じっくりとアヴィリオの表情や仕草を追いかけて見せる今回には、静謐で張り詰めた緊張感が漂っていました。

これまでもそうだったんですが、今回特に『目』のアップが多くて、『冷徹で優秀な新幹部』を装いつつ、どれだけの殺意と狂気をアヴィリオが秘めているのか、迫力とともに思い知らせてくれました。
札束で顔面張り倒した兄弟分は拷問を受けても自分を守り、ぶっ殺したくて仕方がない仇どもは主人ッ面で勝ち誇る。
魂がねじ切れそうな矛盾の中で、復讐のために被った仮面からにじみ出る情が『目』に宿っていて、おぞましくも美しかったです。
人間性が枯れ果てているんだけども一滴情が潤んでいる、野獣のような『目』。
それは復讐者アヴィリオの魅力そのものであり、複数のキャラクターが絡みあいカルマの炎に焼きつくされていくこのお話、そのものの引力が込められた『目』だと感じました。

アヴィリオが行動としては冷徹な復讐さを完遂しつつ、その奥に激しい情を込めている、乾き切ることが出来ない男だというのは、これまでもしっかり描写されてきました。
今回彼がかなりウロウロと走り回り、かと思えば歩みを止めて考えなおすのは、口で言って態度で示しコルテオを追い詰めてしまったような『マフィア』になりきれない、まだまだ『子供』の情を残した男だからです。
その情があればこそ、人間性全てをなげうって『マフィア』の世界に飛び込み、コルテオを巻き込んで復讐悲劇を演じ続けているところに、このお話しの皮肉もあるわけですが。

アヴィリオの『情』はコルテオだけではなく、偽りの兄弟分だったネロにも及んでいます。
わざわざ『あの時殺せなかったガキを、今は殺せるよな?』と確認するのは、ネロの変化を確認すると同時に、同じように引き返せない道に身を投じた自分自身に、言い聞かせているような行動でした。
いろいろな事情が噛みあった結果とはいえ、コルテオの命の天秤に乗ったネロの首、アヴィリオ結局は取ってないわけだからね。
今回の告白でネロ自身は家族を殺していないことが明らかになりましたが、その事が復讐の刃を鈍らせるのか、否か。
コルテオだけではなくネロも含めて、偽りの兄弟相手にどれだけ情を通すのかが、アヴィリオの今後を大きく左右しそうです。


今回『目』と同じように重点的に描かれていたのは『時計』で、コルテオの死刑執行時間を表す時計、ヴィンセントの衰えを表す時計、7年前の事件を示す時計と、様々な場所で『時計』が写っていました。
アヴィリオは取り返しがつかない虐殺を取り返すために復讐鬼に堕したし、ネロは自分を認めない父に己を認めさせるために屍を積み重ねたし、ヴィンセントが選んだガラッシアとの協調路線は失敗だったと、自ら認めざるをえない。
過去に縛られつつも時を巻き戻せず、止めることも出来ない浮世の理は、全てのキャラクターを支配しています。
激情の発作でネロの情報を流し、ファンゴをぶっ殺したおかげでアヴィリオは死を目前にしているし、止まらない時間は万人に平等に降り積もり、全てを地獄に引きずり込んでいきます。

時間の経過は老いとも成長とも言い換えることが出来て、ドンの座を譲ったヴィンセントにとっては耄碌でしかない時間は、ネロにとっては過去の汚点を取り戻すための修行時代でもあった。(まぁここで言う『修行』は、膝まで血の池に浸かって人殺しすることなんだけどさ)
そういう意味では、家族が殺されてから七年間腐りきっていたアンジェロの時間は止まっていて、『四人目』の手紙で動き出したとも言えるのだな。
空白の時間に復讐の殺意を込めていたアヴィリオと、血の実績を積み重ねてきたネロが、(そして不出来な弟のフラテが)ともに父への愛情から『マフィア』という生き方を選択する重ね合わせは、中々に皮肉です。

兄弟分を人質に取られ、今回のアヴィリオはかなり焦った動きをしています。
祝杯に酔ったネロが的確にアヴィリオの殺意を止め、意味深な質問をはぐらかした姿を見ていると、なにか不信の念を抱かれたんじゃなかろうかと勘ぐってしまいますね。
まーこのまま復讐完遂大勝利となるわけがないので、ネロ側からの逆撃は当然あるだろうし、今回のサブタイトルは『黒(イタリア語でNero)ずんだ野望』だしで、あそこで見せた迂闊さが破滅の呼び水になるのは、十分ありそうなんだよな。
そういや、あそこも『表向き同じものを食べ同じものを飲むと見せかけつつ、口にはしない』シーンだったな……相変わらず食事に様々な意味合いを持たせる作品だね、このアニメ。

今回見せた焦りが時の流れにどういう影響を及ぼすにせよ、それは止まることなく流れ続け、おそらくは破滅へと落ち込んでいる。
細かく『劇場』の情報を見せることで、最後の破滅がどういう形で訪れるのか、視聴者に予感させているのは巧いですよね。
OPでも暗示されている『燃え上がる劇場』が復讐最後の舞台になるんでしょうけども、絵として迫力とカタルシスがあるおかげで、どんどんヤバくなる状況に負の期待感が高まる効果が生まれてると感じますね。


そしてついに顔を見せた『四人目』……なのかなぁ? なガンゾの叔父貴。
『アンジェロ』という名前で呼んでいることからも『四人目』の資格は十分にあるんですが、このアニメの急展開に気持ち良く振り回されている身としては、色々疑いたくもなります。
そこら辺の種明かしは来週になるんだろうけど、どす黒いハラワタを見せてなお来週ガンゾが生き延びている絵が、中々想像できないな……ザクっと死にそう。

とは言うものの叔父貴もなかなかの策士で、ネロへの忠義を装ってコルテオの身柄を押さえ、自作自演の脱出劇で混乱を創りだすところなど、なかなかの腕前でした。
『ファンゴ・ファミリーの死体を捏造して、生存者として嘘の証言を積み重ねて状況を操る』ってやり口は、ヴァンノやフラテ相手にアヴィリオ地震が使ってきた手口なんだよな。
このアニメピカレクスな表面の奥に、『因果応報』というストレートな倫理を隠し持ってるアニメなんですが、ついにアヴィリオくんも自分の得意技で痛い目見るタイミングが来たな、と言う印象。
このままだと『家族』であるコルテオもぶっ殺されちゃうしなぁ……『家族』を殺った連中と同じ手口で『因果応報』してるアンジェロがその網の目から逃れられない所が、悲劇性と倫理性に視点を合わせているんだなと感じさせますね。

叔父貴が『四人目』であるにせよないにせよ、気になるのはわざわざアヴィリオの時間を動かした『動機』というやつでして。
まさか手紙の文面通り『良心の呵責に耐えられなくなって』ということはないだろうし、怨恨か実益か権勢欲か、どっちにしてもロクでもないんだろう、クソマフィアだし。
ここでアヴィリオがネロを殺して得するのが誰か考えると、ガラッシアと裏で繋がってて、ネロ死亡後の権力の空白に呼びこむべく火を放った、ってところなのかなぁ。
オルコ=ファンゴという対抗勢力は食い潰せたし、ヴィンセントからの権力移譲は成立したし、確かにネロを殺しさえすれば頭がない空白が訪れはすんだよなぁ……。
そこら辺の答え合わせは、やっぱ来週の目玉になりそうですね。


そーんなわけで、一見ロウレスの権力闘争に落ち着きが見えたかのように思わせて、主人公の内面には血の嵐が吹き荒れる回でした。
アヴィリオが一言も具体的な心情を言わないのに、冷徹さと情、過去と現在の間で引き裂かれた心がしっかり伝わってくるのは、流石の演出力だと思います。
表面的な『俺達のカシラが街のトップだ! この世の春だ!!』というムードと、どんどん地獄に真っ逆さまな主人公の深奥が逆しまなのも、緊張感とサスペンスを維持していてとても良かった。

毎回ヒキが巧いアニメですが、長いこと作中最大のミステリだった『四人目』の顔が見えたか、見えないかという今回の終わり方も、上手いこと焦らす幕引きでした。
来週幕が上がった後に、どんな謎が形になり、また新しいミステリが突きつけられるのか。
それを想像するだけで胸が小躍りして、待ちきれませんね。
炎土地が渦巻く終局まで後数話ですが、更なる盛り上がりに期待しつつ、放送を待ちたいと思います。